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しょうせつ
ばんがいへんおきば

小説番外編置き場
いろいろな所で書いてきたエターナル・ログ・ストーリーなどの番外編を公開するページです。
よろしければご意見や感想を雑談掲示板にお願いします。
1      始まり   =   終わり
今、負けた。
全力をかけたのに・・・。
全てを賭けて戦ったのに。
今、負けた。
 
一番近く、そして一番遠い所にいる私のテイマーは・・・・私をとても大切にしてくれた。
 
 
 
卵の中にいるとき、テイマーからのコマンドが何十回も私に送られてきた。
コマンドを送る事により利点が得られる事を知っている賢いテイマーだった。
卵の殻を粉々に砕いて外に出る。
激しい空腹が頭をもたげる。
私は堪らず泣き声を上げた。
すぐに肉の塊データが私の前に差し出された。
無我夢中で、それこそ骨まで惜しんで食べた私はだんだん見えるようになってきた目で画面の向こうを見上げた。
 
幼い(とは言え、当時幼年期だった私からみれば格段に年上でもある)顔がこちらを弾んだ目で見つめていた。
そのときは言葉が分からなかったが、今思い出してみると“うれしい”や“よろしくね”といった言葉だった。
それは今でもよく耳に残っている。
 
テイマーは私を連れていろいろなところへ行った。
“べっと”と呼ばれるところで長い時間を定期的に過ごし、その間、私は眠った。
私は自然に目を覚ますと、ほどなくして向こうの世界が明るくなり始める。
自分の体が思うように動かない。
やっと立ち上がって自分の体を見た私は驚いた。
すでに成長期にまで進化していた。
テイマーはそんな私を見てすごく喜んでいた。
そしてそれから、常に肌身離さず私を持ち歩いた。
テイマーはトレーニングと食事をバランスよくさせてくれ、トイレの世話にも抜かりが無かった。
さらには暇があれば話しかけてくれたのだ。
そんなテイマーだからこそ私はできるかぎり尽くそうと誓った。
 
そんなある日。
テイマーが“じゅぎょう”をしているとき、静かにしていた私になにか、データが送られてきた。
『ここから出ていた戦う気はありませんか?』
「どういうこと?」
『画面に隔たれていては手を触れ合う事も出来ない・・・。違いますか?』
確かに、そうは思う。しかし
「それが?私とテイマーの間にはなんの支障もない」
私は率直に、素直な思いを告げた。
『ええ、そのとおりですね。あなたとあなたのテイマーはとてもいいパートナーです。だからこそ、直接会っていただきたいのです』
テイマーと直接触れ合い、会話を交わすことが出来る。
夢にまで見た、テイマーと触れ合うことのできる生活。
それは私にとって破格の提案だった。
『かつて、デジモンとパートナーを組んだ人間がデジモンと戦い、人間の世界とデジモンの世界を救いました』
その声は続けた。
『私自身、成長期のときにそんなテイマーの一人に救われました。彼はそのとき命を落としてしまいましたが・・・・・』
「・・・・・・・・・・・。私はどうしたらここを出られる?」
私の問いに声は答えた。
『座天使である私の力であなたを外に出してあげましょう。そのかわり・・・、あなたには人間を襲うデジモンを倒していただきたいのです』
私は驚いた。私のようなデジモンがテイマーや人間を襲う・・・?
テイマーのために。
今こそ恩返しの機会ではないか・・?
「頼みます。どうか・・・、お願いします」
『私こそ。“あの時”のテイマーへの恩返しがしたいのです。お願いしますね』
 
 
その日の夜。
私はテイマーと同じ世界、つまり画面の外へと出た。
私を見たテイマーは私をじっと見上げていた。
さすがに・・、かなり驚いた様子だった。
しかし、本当に極初めだけだった。
それから長い間、私たちは力をあわせてデジモンと戦った。
出会ったデジモンのなかには私と同じようにテイマーを持っているものもいた。
彼らと力をあわせることも多々あった。
でも・・・、それだけではないときもあった。
私は常にテイマーの近くにいた。
常に一緒に笑い、泣いた。
 
戦うなかで仲間を失うこともあったが互いに何度か励ましあい、ついに私達は根源である強大なデジモンと戦うことになった。
 
私をはじめとするデジモンたちはもとの画面のなかの世界に戻り、直接その敵と戦う。
もう二度とテイマーの体に触れることは出来なくなる。
しかし、私はまったく迷わなかった。
いつまでもテイマーは私とともにいてくれる。
もともと画面の外に出るなどありえなかったことだ。
もとの生活に戻るだけ。
それは何の迷いにもならなかった。
 
 
私は仲間を引き連れその敵の前に立った。
すでに究極体にまで進化していた。
ここまで育ててくれたテイマーにはなんと言って感謝すればいいのか分からない。
画面の中に戻るとき、私は胸が熱くなってしまいあまり言葉を交わせずに戻ってしまった。
でも私の気持ちは通じていた。
それだけは分かっている。
 
 
そして・・・・
 
 
 
今、負けた。
全力をかけたのに・・・。
全てを賭けて戦ったのに。
今、負けた。
 
一番近く、そして一番遠い所にいる私のテイマーは私をとても大切にしてくれた。
 
 
 
 
私は負けたが・・・。
私の最後の一撃を受けた敵は瀕死だ。
仲間がとどめを刺すため次々と攻撃を繰り出す。
その強敵が消滅したのを見届けたとき、私の体から力が抜けていった。
テイマーが必死にコマンドしてくれているのが分かった。
やがて、コマンドが少しずつ減り、そして止まった。
画面の向こうで涙を流していたテイマーは顔を何度も拭き、静かな笑顔を見せてくれた。
 
 
 
ありがとう。でもさよならは言わないよ。
 
 
 
そして私は消滅した。
 
 
 
 
 
 
卵の殻を粉々に砕く。
空腹で体が裂けてしまいそうだ。
ふと見上げると四角い画面の向こうで誰か・・・、“知らない人間”が見下ろしていた。
私のテイマーになるその人間は口を開いた。
 
 
「また会えたね  
 
 
 
 
 
 
 
 
無名のテイマーひさしぶりに小説書きました。
エタログとまったく関係ない方向ですがぜひ掲示板へ感想などをお願いします。
 
ラストのテイマーのセリフのさいごに、“」”がついてないのはミスではありません。
「また会えたね のあとになにが続くのか。
それは読んだあなたが想像してください。
              
 

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