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しょうせつ
ばんがいへんおきば

小説番外編置き場
いろいろな所で書いてきたエターナル・ログ・ストーリーなどの番外編を公開するページです。
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9      No−1「First,Gates」
 
 
おもしろくもなんとも無い世界。それが辻鷹泉の持論だった。高校2年生。中学と内容は同じだけど量が多い。基本的にめんどくさがりやの泉には面白くもなんとも無い。
 
毎日毎日同じことを同じ時間にしてあっという間に時間がたつ。
今日だってきっとそうだ。
 
いや
 
そのはずだ。
 
わたしはいつもとは違う道を歩いた。理由は特に無い。ただなんとなくいつもどおりが嫌だった。
「ふん」
しかめっ面をしてみても変化は無いがわたしの癖だ。視線は前だけど実際の所私はなにも見ていなかった。そしてそれが原因で角から飛び出したものを蹴り飛ばしてしまった。
わたしは驚いた。すぐに覚醒した。ちいさな子供でも蹴り飛ばしてしまったんだろうか。手が震えていたがわたしは恐る恐る視線を前に戻した。
なにか白いものが倒れている。背の高さはたぶんわたしのひざくらい。
「どうしよう・・・」
わたしは駆け寄って抱き上げた。とたんに放り出してしまった。
ドサッと音を立てて落ちたそれは人間ではなかった。腰が抜ける、とはこういうことだったのか。わたしはこのとき妙に感心してしまった。
「うぅ・・・、非道い・・・」
薄く靴跡の残る背中をさすってその白い生き物は立ち上がって振り向いた。
 
「見ィぃぃぃたぁぁぁぁなぁぁぁぁ!」
 
とは言わなかったもののその生き物はアスファルトの上でへたり込んだわたしと目がしっかり合い、その大きさが増した。
「お前か?わたしを蹴っ飛ばしたのは。非道いじゃない?」
そう言うか言わないかの刹那、その白い生き物はハッとして軽い身のこなしでその場をはなれコンクリートブロック製の塀の上から自分が今いた所を睨みつけた。
わたしは、といえばただそこにへたり込むしかなかった。目の前に体長3メートルをかるく超える黒い竜がいた。ざくろのように赤い4つの目がぐるりと動きその4つの紅い眼球に敵意と殺気が映りこむ。
 
今になってわたしは体の震えが止まらなくなりさっきまで過ごしてきた“面白くもなんとも無い世界”のありがたみがいくつかの感情とともにひしひしと胸にこみ上げてきた。
 
「た・・・たすけて・・・」
「別にいいけど!」
塀から飛び降りてきた白い生き物がわたしの腹に飛び降りた。衝撃、いや、それとは違う別のなにかのおかげでわたしの体は普段の機能を取り戻した。
「ほら!とりあえず逃げるよ!」
白い生き物は言うが早いか駆け出していた。わたしも急いで立ち上がり続く。直後になにかが壮絶な音を立てて砕け散る音が聞こえた。それでも気にせず走り続ける。白い生き物に続いてわたし達は路地に逃げ込んだ。カーブミラーで竜の姿が見える。道路に右腕が突き刺さっていた。
「ちょっと?」
白い生き物がわたしの足をこずついて何か差し出した。
「はい。これつけて」
受け取ったそれは白を基調とした・・・ゲームみたいだった。
「ちょ・・何よ!これ」
白い生き物はわたしから視線をそらし、
「いいから付けて!ベルトがあるでしょ?右手首に付けるの」
と命令した。
「わかったわよ。付ければいいのね?」
ベルトを締めると画面が輝きベルトに文字が刻印された。
「ホントはあんたみたいなへなちょこの女の子に渡すはずじゃなかったのに。もう」
ため息をついている。
「なんでもいいから早く何とかしてよ!」
カーブミラーの中の竜は右手を引き抜きわたし達を目で探し始めた。白い生き物はわたしの前を通り抜けて直に様子を覗い始めた。
「いい?わたしが飛び出したら額にその機械を当ててわたしが強くなって戦うように強く念じて!それを望んで!」
「ちょっと!どういうこと?どうなるの!?」
わたしの必死の質問に白い生き物は憮然として言い放った。
「わかんない!でも生き残るにはあなたとわたしが協力するしかないの!分かる?」
わたしはもうあきらめた。死にたくは無い。あんな変な竜に食べられておしまいなんてまっぴらだ。
「わかったわよ!やるわ。なんとかしてよね!」
白い生き物はにっこりと笑うと言った。
「わたしはルナモン、ていうの。あなたは?」
わたしは小さく答えた。よくアニメのキャラみたいな名前だとからかわれる。もちろんただでは置かないけど。
「辻鷹、泉」
「そう。いい名前かもね」
そう言ってルナモンは出て行った。わたしはハッとして路地を出る。ルナモンが立ち向かう後ろ姿がよく見えた。
[ルナモン・・!がんばって・・!死んだりしちゃやだからね・・・!]
わたしは言われたとおり額に機械を押し付けた。ひざまずいていた。放して見るとそれはつなぎ目の部分から澄んだ青い光がもれていた。画面の下にある水色の透明な所から突然光が発射された。
それはルナモンを直撃し、包み込んだ。小さな影が膨らみ、すこしずつ形を成していく。
 
「ルナモン進化・・・!」
 
声が聞こえ、光が拡散するように消えた。
 
「レキスモン」
それはきれいだな、と無意識に感じてしまうものだった。レキスモンは顔を半分こちらに向け、ウィンクした。次の瞬間凄まじいスピードで飛び上がり、体をねじるようにして蹴りこんだ。レキスモンを見失っていた竜の顔面に直撃し、叫び声をあげ凄まじい音を生み出し竜が倒れる。
「[ムーンナイトキック]!」
竜を倒したときに稼いだ高さから一気に急降下し蹴りを食らわす。竜は一瞬胴体が変な角度に曲がり、砂のようになって崩れ落ちた。キラキラ輝くなにかが青空に吸い込まれて見えなくなった。
砂の上に見事な着地を決めたレキスモンは駆け寄ったわたしを見て、
「怪我ない?」
と聞いた。わたしは頷きレキスモンの目を覗き込んだ。
「な、なによ。なにかついてるの?」
レキスモンは目をそらすとわたしの右手の機械を突いた。
「ま、いいか。ねえ泉。あなたこれがなにか分かる?」
レキスモンの問いにわたしは首を横に振った。
「これはね。わたしと泉がパートナーを組んだ証なんだよ。わかる?」
わたしは頷いたが口調が気に入らなかった。
「わかってるわよ。それよりそのしゃべり方やめてよ。バカにされてるみたいでいやなの!」
わたしは疲れていた。動揺もしていたしほんの少しだが本当に口調が気に入らなかった。
レキスモンは一瞬意外そうに目を見開き、そしてさびしげにうつむいてわたしの腕から機械を外した。
とたんにレキスモンは光に包まれルナモンに戻った。光は機械に吸い込まれるようにして消えた。
「ごめんね。変な目にあわせて」
そう言うとルナモンはわたしが止める間もなく塀から屋根、そして姿を消した。
 
あとにはわたしが一人、残されていた。
 
              
 

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