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1    登場人物紹介  (ネタバレありでもある)
チーム・十闘神(ジュットウジン)
 
■和西 高 (カズニシ・コウ)
中学2年生。男  パートナー・・・ゴマモン
この物語の主人公的存在。
1人目
『水の大賢人』
武器は“降流杖”
 
■積山 慎 (セキヤマ・シン)
中学2年生。男  パートナー・・・ブラックギルモンX
高い身体能力、洞察力、状況判断力をもつチームの相談役。
2人目
『闇の守護帝』
武器は“断罪の槍”
 
■辻鷹 仁 (ツジダカ・ジン)
中学2年生。男  パートナー・・・ガブモンX
射撃の腕前は物語のなかでもトップクラス。
4人目
『氷の狙撃手』
武器は2艇拳銃“氷射”
 
■二ノ宮 涼美 (ニノミヤ・スズミ)
18歳。女  パートナー・・・ファンビーモン
対デジタル生命体被害対策組織の一員。
6人目
『鋼の千計師』
武器は“斬鉄の手斧”
 
■嶋川 浩司 (シマカワ・コウジ)
高校1年生。男  パートナー・・・アグモンX
 
3人目
『炎の討伐者』
武器は“炎撃刃”
 
■谷川 計 (タニカワ・ケイ)
中学1年生。女  パートナー・・・ホークモン
過去に秘密がある。
5人目
『風の修験者』
 
■林未 健助 (ハヤミ・ケンスケ)
中学2年生。男  パートナー・・・コテモン
テイマーだった姉の後を引き継いでテイマーになった。
7人目
『木の魔導師』
武器は“草薙丸”
 
■柳田 将一 (ヤナギダ・ショウイチ)
中学2年生。男  パートナー・・・コクワモン
関西弁を話す唯一メガネをかけたテイマー。
8人目
『雷の断罪人』
武器は“雷槍”
 
■黒畑 優美 (クロハタ・ユウミ)
中学2年生。女  パートナー・・・ロップモン
隣町の学校で自分と同じように陸上部に所属する和西と仲がいい。
9人目
『土の剣闘姫』
武器は“龍脈剣”
 
■積山 彩華 (セキヤマ・アヤカ)
積山慎の妹。意藤からデジヴァイスを譲り受け、テイマーになる。
10人目
『光の粛清者』
武器は“閃甲”
 
 
 
組織
 
■有川 
組織最高司令官。男  パートナー・・・ヨウガザモン
 
■所長
本名、二ノ宮 洋一  男  パートナー・・・ハグルモン
二ノ宮涼美の実父。
 
■時家
父親の時 敬一郎(ナンバー 672−2990XCGT)、娘の名月(ナツキ)と母親の3人家族。
 
■神原 拓斗 (カンバラ タクト)
20代にして組織最高幹部の一人。男性。
パートナー・・・メラモン
桁外れの戦闘能力と飽きっぽさを誇る。
愛用のナイフの出どころなど謎の多い人物。
 
■式河 
組織最高幹部
交通事故に巻き込まれる寸前、デジモンに命を救われた過去がある。
 
 
関係者
 
■意藤 歩 (イトウ・アユム)
重病の17歳。男。
デジヴァイスを積山彩華に譲る。
治療のためアメリカへ行った。
 
 
■時 名月 (トキ・ナツキ)
13歳。女。  パートナー・・・ラブラモン
父親が死んだすこし後、デジモンに襲われ、林未とコテモンに救われる。
 
 
■林未 キョウ (ハヤミ・キョウ)
享年15歳。女。 パートナー・・・コテモン
林未健助の弟思いな姉。
本来の『木の魔導士』。死亡した(?)
更新日時:
2007/11/02 
2    第1話  「契約」
だいぶ夕日に染まった住宅地。そのうちの一軒の家の鍵を開け、体操着姿の少年が入っていった。
和西高。
現在中学2年生の彼は陸上部の練習から帰ったばかりだった。
スポーツバックとリュックを2階の自分の部屋に放り込む。
和西はシャワーを浴びに一階に降りていった。
しばらくして、和西は普段着姿で上がってきた。机の前に座るとその上においてあるパソコンのスイッチを入れ、缶ジュースを脇に置いた。タオルで髪の毛を拭いている間にパソコンが起動を完了した。
「さてと、」
和西はマウスを操作し、メールをチェックした。新着メールはなく、和西はネットサーフィンを始めようとメールのプラウザを閉じようとした。
「?」
和西の手が止まった。
デスクトップに新着メールが表示されたかと思うとそれは表示されると同時に展開し、次の瞬間にはデスクトップ全体が01で埋め尽くされ手仕舞った。
和西はやれやれ、とパソコンのスイッチを押した。こういうときは強制終了に限る。
 しかしスイッチは切れなかった。
デスクトップにはウィンドゥが表示され、和西が字を追うのを見ているようなスピードで連続してこう表示された。
『 こんにちは和西高くん。 』
『 生まれた瞬間から始まる君の使命 』
『   君はデジモンテイマー   』
『       加えて       』
『水の大賢人を名乗る資格がある』
和西は混乱し始めた。
「なんだこれ・・・」
デスクトップのウィンドゥには3色の卵が表示され、その下にこう記された。
『選ぶがいい。君のパートナーを』
 
 
彼はそれから数分かけてさまざまな方法を試みた。ついに電源オフをあきらめるとデスクトップに視線を戻した。何かのはずみで動いたのかポインタが青い卵を指していた。和西はクリックした。即座にこう表示される。 
『    Yes    or    Now   』 
和西はYesをクリックしながらつぶやいた。
「いいよ、イエスで」
すると再び画面にバグが表示され、和西の目の前に白っぽい霧が現れた。和西は驚いて声も出なかった。
目の前で渦を巻くようにして霧が回転を始めた。途端に消滅し、なにか白い生き物が落ちた。和西は椅子からずり落ち、「うわっ」という言葉が重なった。何言かぼやくその生き物はセイウチとかアシカに近いイメージの体をしていた。と、和西はそいつと目が合った。
「やぁ、君が和西くん?ふ〜ん、おれはゴマモン。とりあえずよろしくね」
和西はじろじろとゴマモンを観察した。
大きな爪があるが好戦的、というわけではなさそうだ。そろそろと近づいて抱き上げた。見た目より重いのは本物の生き物だからだろう・・・。しげしげと眺めていたゴマモンをひとまず下ろした瞬間和西の脇にまた霧が発生した。硬いものがそれなりの音を響かせて落ちる。
「なんだこれ・・・」
和西は小さいほうを持ち上げた。画面に何か表示された。
[こんにちは和西くん。君はこのD-ギャザーをつけた瞬間『水の大賢人』としてゴマモンと共に戦うことになる]
和西が意味を計りかねているとその下に新たに何か表示された。
[これが君の運命なのだから]
和西はD-ギャザー、ゴマモンを順に見て、それから机の上に置かれた写真立てを見た。
ジャージ姿の男と子供が写っていた。
「ぼくにしか出来ないこと・・・・」
和西は微笑むとD-ギャザーを右腕につけた。画面にはこう表示された。
[ありがとう。『水の大賢人』]
その瞬間和西の右手の甲に蒼い光が走り、そのあとが焼印のように残った。
[君は10人の特別なテイマーの一人]
そしてもう1つ霧が現れなにか皮製のようなホルダーに包まれたものがガチャリと音
を立てて落ちた。
こうしてぼくは何の前触れもなく戦いの日々に押し込まれた。ずいぶん後になってそういえば前触れがあった・・・と思うことがあったのではあったが・・・・・・・・。
その数日後からぼくとゴマモンは残り9人
のデジモンテイマーと出会う。
『闇の守護帝』もその1人だ。彼はぼくが相談役としてもっとも頼りにすることになるテイマーだ。
しかし、それはまた別の話。

更新日時:
2007/07/27 
3    第2話  「非常」
和西はいつもとかわりなくベットに入った。
しかし彼のテイマー2日目は普通の人間が体験する日曜日とまったく違うものだった。
ゴマモンとともに戦うという約束をしたことを和西は後悔していなかった。初日からとんでもない凶暴さの狼と戦うハメになったが、
テイマーになったことは後悔していなかった。
少なくとも今は。
 
 
 
その日の昼間、和西とゴマモンが早朝に買出しに出かけたその帰り道。
 
 
紅い狼が唸りを上げて襲い掛かった。対するゴマモンは両手の鋭い爪で応戦する。
テイマーは、といえば和西は隅のほうで手元をガチャガチャいわせていた。
「なんで動かない!?」
降流杖は恐るべき頑固さで折りたたみ状態から変化しようとしない。まさかこの状態で使用する訳ではないだろう
 
昨日。D-ギャザーの次に現れたこれは、画面の説明によれば、彼専用の武器。『降流杖』と呼ばれる。折りたたまれたそれは開けば薙刀のような形になる。ということだった。しかし。
 
 
「開かない!・・!早くしないとゴマモンが・・・」和西は視線をゴマモンと手元の間で往復させながらD-ギャザーを起動した。「どこかに・・・どこかに何か書いてないか・・・?」
和西はボタンを連打してD-ギャザーのプログラムを片端から開けていった。
和西の手が止まる。自分が影に覆われてることに気がついたのだった。
飛びかかる狼を見上げて和西は思わず叫んだ。
直後ゴマモンが左から狼に体当たりをし、一緒に吹き飛んだ。和西は後ろに倒れる。
 
 
降流杖に刻まれた紋様と和西の右手の甲が当たった。背中を打ちつけた和西のとなりで降流杖がひとりでに開き、薙刀のようなものになった。長さは2メートルくらいだろうか。
 
 
彼がそれに気づいたと同時に狼がゴマモンを振り払い再び飛びかかった。
「うわっ!」
和西はとっさに右手で降流杖を斜め上に薙いだ。先端の刃が狼の右目をかすり、抉り取る。
狼は叫びをあげしばらくのた打ち回った。ゴマモンは自転車の下でとどめを刺そうと躍起になっていた。
狼はおぼつかない足で立ち上がると和西と目が(もちろん左目が)あった。和西は立ち上がり身構える。
狼は怯えた犬のような声をだし、自分より怯えていた和西をのこして手近の屋根によじ昇った。一度失敗したが狼はそのまま屋根伝いにどこかに行ってしまった。
和西はといえばそのままの状態で立っていただけだった。
 
 
和西は地面に胡座をかいて降流杖の刃の付け根に刻印された紋様に右手を当てた。あぶなく手をはさまれかけたが思ったとおり折りたたまれる。
どうやら右手の模様に反応して動くらしい。和西はD-ギャザーのベルトに何か刻まれていることに気がついた。見たこともない文字だ。和西はゴマモンを見下ろしていった。
「分かんないことばっかりだ」
そして・・・・
 
「やっ・・・・やばかった・・・・・・・」
 
和西の脇の下を嫌な汗が何本も流れていった。
ゴマモンは笑うと、
「おれは自転車のほうが怖かったよ」
と言った。

更新日時:
2007/06/17 
4    第3話  「苦楽」
暗い、しかし水平線が白く輝く世界に和西はいた。
昨日ゴマモンと戦うときに使った武器、降流杖を右手に持っている。
手の甲には紋様と呼ばれる刺青のようなものとD-ギャザー。
和西の体はなぜかまったく動かない。
しばらくすると地面が青白く光り、和西の向かいに蒼い人影が10体現れた。
 
和西のとなりに黒い人影が新しく現れ、床から蒼い人影の1体に向かっていった。
黒い人影の背中から頭上にかけて白く輝く人影が抱きついている。
黒い竜のような影が一緒に戦っている。
黒い影は手に持った槍のようなもので影を貫く。
恐竜が爪で引き裂き、4つの影は溶けるように消えた。
 
それからしばらくしてやっと驚きの引き始めた和西にもう1体の影がすべるようににじり寄った。すると和西のすぐ目の前に角のようなものの生えた影が現れ、影を後ろに追いやった。
続いて和西の右隣に人影が現れる。右腰から凄まじいスピードで銃のようなものを抜いて次の瞬間角のある影と蒼い影とともに解けるように消えた。
 
今度は影の目の前に人影と恐竜のような影が現れた。人影は蒼い影の素早い攻撃を軽々とよけると腰から剣を抜いて影の胴を薙いだ。
同時に恐竜影が口から炎を撃ちだし蒼い影に命中さた。そしてまた影が3つ同時に消えた。
 
間髪をいれずに髪の長い影が鳥のような影とともに現れた。蒼い影が1つ静かに床に戻っていった。
人の影と鳥の影は数歩進み出た。人の影が左手につけた盾のような物のレバーを引いたように見える。
和西の足元から蒼い影が現れた。しかしその両腕が吹き飛んだかと思うと本体ごと消えた。どうやって気づいたのか。
盾に銃でも仕込んであるらしい。そして髪の長い影と鳥の影も消えていた。
 
はるか向こうに縦に光が差し、10本の影が伸びた。さらにもう10本。
そして先ほどの4体の人影と4体の生き物の影が光を背景に立った。
1人目は腕組みをして静かにうなずき、二人目は手を上げて挨拶する仕草、3人目は剣の柄に手をかけていた。4人目は両手を振っていた。
 
和西は飛び起きた。体中汗でびっしょりだった。息も荒い。
「・・・今のは・・・?いったい・・・」
肩で息をしながら和西は部屋を見回し、ゴミ箱の中で眠るゴマモンとサイドテーブルの上の降流杖とD-ギャザーを見つけた。
そして気づいた。自分が登校終了時間ぎりぎりに目覚めたことを。
 
和西は走っていた。制服姿だ。バッグには降流杖とゴマモン、リュックには教科書が入っているのでかなりきつい。
学校までまだかかる。しかし
「ギリギリでいけるか・・・?」
和西は陸上部所属。さすがに走りなれていた。
ふと前を見ると〔バォゥウゥゥゥゥゥゥゥウウウン〕とヘリのような轟音を響かせて巨大なトンボが頭上を通り過ぎた。
「え・・・っ!」
和西は振り向いて目で追う。ゴマモンが
「デジモンだよ!おれ先いって追いかける!」
そう言ってバックから抜け出した。
「ちょっ・・・まっ」
た、と言おうとした和西のすぐ脇を同い年くらいの少年が走り抜けていった。
そして屋根の上を黒い竜が続く。すでに見えなくなったがゴマモンのほうを見て和西は、リュックをその場に置くとバックだけを背負い、後を追って走り出した。
街の中心部と郊外の境に山がある。そのふもとの公園でジャンパーと竜に追いついた。ゴマモンは見えない。とりあえず和西は木の陰に隠れた。
ジャンパーは腰から何かを抜き取るとそれは槍のようになった。黒い竜も威嚇の唸りを上げる。
和西には目の前で起こっていることが信じられなかった。しかし唐突にD-ギャザー画面に表示されていた説明を思い出した。
「・・・デジモンテイマー!」
甲高い声を上げて巨大トンボが襲い掛かる。黒い竜が飛び掛るがトンボは気にせず竜をそのままに木に激突した。
巨大トンボはジャンパーの攻撃をかわすと次は和西に襲い掛かった。ジャンパーは槍を構えなおし走り出す。
突如ゴマモンが茂みから現れトンボに体当たりを食らわした。吹き飛ばされたトンボに槍が刺さるのと黒い竜がおきるのが同時だった。
「・・・・ッ!」
ジャンパーはトンボを真上に蹴り上げて槍を抜いた。そして真横に逃げた。
トンボは嫌な音を口から出して2,3秒中を舞う。そこへ黒い竜の放った火炎弾が直撃し、少しはなれたところに墜落した。地面の草とともによく燃える。
ひときわ高く大きな音を出すとトンボの体の中心部からヒビが入り、砕けるようにして白い砂になった。
和西はただ目の前の光景に見入るしかなかった。ジャンパーは槍をしまうと、黒い竜を助け起こした。その後でようやく振り向いた顔を見て和西はそれが誰か思い出した。
「積山慎!?」
小学6年のときに当時の中学1年のグループとケンカをし、自分はほとんど無傷で相手を大怪我させ全滅させたという噂を聞いたことがあった。
つまり、
「やっ・・・やばい?」
和西に向かって歩み寄る積山は無表情だ。積山は和西の前まで来ると、
「大丈夫ですか?怪我とかしませんでしたか?」
と丁寧な口調で話しかけた。和西は思わず首をカクカクふった。
「そうですか、それは良かった。もし違っていたらすいませんがデジモンテイマーですよね」
積山の雰囲気はまったく殺気立っていなかった。
和西は再びうなずいて
「もしかして10人の仲間、とかいう話知ってます?僕は水の大賢人です」
と言った。
積山はほんの少し表情を緩めて答えた。
「はじめまして。ぼくは積山慎。銘は『闇の守護帝』です。これからよろしくお願いします、ということになりますね」
 
和西と積山は表通りを歩いていた。ゴマモンは和西のリュックに押し込まれていた。
「それにしても驚きました。ぼくは昨日テイマーになったばかりなんですが・・・こんなに早く仲間が見つかるなんて」
「僕は2日前テイマーになったばかりなんだけど・・・。そういえばギルは?」
和西は、難しい顔をして
「ギルと呼んでくれればいい」
とぶっきらぼうな自己紹介した積山のパートナー、ブラックギルモンのことを聞いた。
「ギルなら見つからないように屋根伝いについてくるように言っておきました」
積山は淡々と返すと話を始めた。
「いくつかわからないこともありますね」
「そっ、そうだよね、特別な10人のテイマーっていうのも・・・」
和西は発言途中で昨日見た夢のことを思い出した。
「どうかしましたか?」
積山は立ち止まって難しい顔をした和西に向き直った。
 
 
和西に昨日見た夢の話を聞かされた積山は少し考えて
「それではじめに現れた人影は竜をつれた槍使いだったんですね」
と言い、和西はうなずいた。
「・・・その夢が本当だったら1人目はぼくだとして2人目は銃を使うテイマー、ってことかな」
積山はまた歩き始めた。
和西は無意識にその後に続いた。

更新日時:
2007/12/14 
5    第4話  「噴煙」
ギルがモノクロモンに向けて飛び掛った。右手の3本の鉤爪が赤黒く鈍い光を放った。
「[ブラッドネイル]!」モノクロモンはギルの攻撃を避けきれずに3枚に下ろされた。
ゴマモン、和西は共同で1体ずつ倒していった。
―数時間前、
歩き出した積山を見て和西はあわてて後を追い、すぐに追いついた。積山はD-ギャザーの画面を見ていた。
和西は積山の隣に立ったと同時に右手が熱くなったような気がして袖をめくった。
ベルトで取り付けられたD-ギャザーの画面に青いやじるしが表示されていた。積山はD-ギャザーから目を離すと、
「とりあえず矢印の通りに行ってみましょう」そう言って走り出した。
そして町外れの廃工房にたどり着いた和西達は狂ったように破壊を始めるモノクロモン数体を見つけた。
「どうも様子がおかしい。正気を保っているようには見えない」
積山は遠慮なく斬って捨てた。
ギルが答える
「たしかに、むちゃくちゃやってやがる」
そんなことをいいながらブラッドネイルで止めを刺した。
和西はゴマモンと逃走を始めた1体を追った。
「あのまま逃げられたらまずいよな」
「冗談じゃないよゴマモン!」
猛スピードで角を曲がるモノクロモン。少し遅れて角を曲がった和西、次の瞬間リュックの後ろ半分が地面に落ちて燃え出した。
和西はリュックを下ろした。当然のように後ろ半分がなく、その切断面は黒くこげていた。
和西はハッとして顔を上げた。背が高く、がっしりした体格の人間が立っていた。逆光で顔が見えない。そいつは飛ぶように間合いを空けた。
右手に炎の灯る剣を持っていた。彼の後ろにはデジモンが2体いた。1体は3メートルほどの巨体を横たわらせるモノクロモン。
もう1体は黄色い竜だ。両手に紅いベルトを巻き、体には青い模様が入っていた。
その時、和西の右側、先ほど曲がった角が吹き飛んだ。モノクロモンが4体飛び込み、すでに砂になっていた仲間を蹴散らした。
後からギル、積山もやってきた。
「すいません、ギルの炎に驚いたのか・・・」そこまで言うと積山は息を呑んだ。
「嶋川さん・・・・」
積山は目を見開くとゆっくりと後ずさった。
「慎!どうした!?アイツがどうかしたのか?」
ギルが積山に近づいて尋ねた。
ガキィィィィィィン!チィィィィン キン!  
着弾音とほとんど同時に発砲音がした。全員が物陰に隠れた。
「ここここここれっていわゆる銃声?」
和西がドラム缶の裏側から積山に言った。ギルと狭い思いをしていた積山は辺りを見回し、
「たぶん実弾、消音器をつけてる、と思うけど・・・」
突如ライトで照らし出され、和西達は目を細めた。ギルは向かいの倉庫のあちこちから人とデジモンが出てくるのを辛うじて確認した。
「まずいぞ慎、囲まれた・・・!」
ギルがそういったとき積山も自分の後ろのほうから大勢の靴音が響くのに気づいていた。
レーザーサイトの赤い点が和西達の体に灯った。
「このままじゃまずいんじゃ・・・・!」和西がつぶやいたとき、立て続けに銃声が響き渡り、積山たちの周囲を囲った。
「なっ!?」
ギルが驚いて声を上げる。倉庫の壁を中心に、氷の壁が半円を描いて和西達を包み込んだ。銃声が立て続けに聞こえ、氷を穿つ音が聞こえた。
「上!ここのはしごを使って!早く逃げないと、長くはもたないよ!」
積山はその声に即座に反応するとはしごを上った。ギルが続く。
和西はゴマモンを小脇に抱えると積山の後を追った。途中で振り返ると積山が嶋川と呼んだ男と目があった。
「はやくこっちに!ここに居たら本当に危ない!」
嶋川はじっと和西を見ていたが、やがて立ち上がるとパートナーと一緒にはしごに向けて走り出した。
倉庫の作業用通路に上がる積山に、ライフルのようなものを持った人が手を貸した。
「久しぶり、慎君」
「ありがと、助かったよ。ほんとに」
積山はギルを引っ張りあげると立ち上がって言った。
「久しぶり。仁君」
7つの影が夜の街を走り抜ける。そのうち3つは屋根の上を飛び越えて進んでいった。通行人の間を縫うように走り抜けながら彼らは話した。
「ここなら少なくとも撃たれる危険性はないと思います」
積山が先頭を走りながら言った。
「このあとどうする?」
和西が聞いた。
「一番近い人は?」
「和西だよ」
積山の質問にゴマモンが答えた。
「わかった。僕についてきて」
そういうと和西は十字路を曲がり、住宅地に入った。
 
 
和西宅。
2階の和西の部屋に4人と4体がなだれこんだ。積山はカーテンを閉め、少しあけて外をのぞいた。
「本当にもうだめかと思った・・・」
和西が本棚に寄りかかった。本が数冊落ちる。そして積山の知り合いらしい人を見た。
積山の合図でサイドボードの上の卓上ライトの電源だけを入れた彼は和西と目が合い、苦笑いをした。
「笑ってないで自己紹介する」
パートナーらしきデジモンに角で背中をつつかれて彼は、
「いたっ・・・。えっ?あぁ、・・・はじめまして辻鷹仁です」とだけ言った。
パートナーはため息をつくと
「オレはガブモン、仁のパートナー。よろしくな?」
と言って声を立てずに笑った。
『・・・・た・・・・・確保・・・・・つ・・・・・・・・・・・』
積山はハッとして窓の外を見た。さっきの団体だろうか。だれかが和西の家の前を数人で歩いていった。
「まずいですねぇ。今出るとまずい・・・」
和西は積山の後ろに立ってのぞいた。
「・・・ほんとだ。これじゃ帰れない、よね。泊まってきなよ」
和西はため息をつくと1階に下りていった。
積山、辻鷹、嶋川は顔を見合わせた。
「まさかね」
声がそろった。
積山は目を細めると窓の外に視線を戻した。辻鷹は喉の奥で小さく笑うと床にばらまかれた本を拾い出し、嶋川は背を向けてベッドに横になった。
「お待たせ、晩御飯の代わりになりそうなもの持ってきたよ」
和西が両手に食べ物を持って部屋に入った。
声を上げるわけにはいかず、光りもテーブルライトだけなのでそれぞれのテイマーになったときの話をすることになった。
ジャンケンで決めた結果、1番手は和西、2番手は積山という順になった。
和西はつい2日前の話をした。そして・・・
 
積山は窓の外をのぞきながら話し出した。

更新日時:
2007/06/04 
6    第5話  「守護」
12畳ほどの部屋はカーテンがかかり、薄暗かった。窓のすぐ脇に置かれたベッドの上で、積山慎は起き上がった。
時計は5:00を表示している。ベッドから出ると積山はカーテンを引いていった。最後に机の脇の窓を開ける。
積山は着替えると朝食を取りに部屋を出て行った。
朝食を終え、積山は問題集をはじめた。時計は9:28。積山は机の下を覗き込んだ。
コンクリートブロックが置いてあった。3つある穴のうち真ん中の穴に黒っぽいものがすこしこびリ付いていた。
積山はため息をつくと壁にかかっていた黒いジャンパーを羽織り、階段を下りた。
階段を下りると茶色の稽古着に身を包んだ中年の男が積山に声をかけた。
「若先生!朝っぱらからへんな顔せんでくださいよ」
「・・・土井藤さん。今日もお願いします。ぼくは新藤さんとこに行ってきます」
土井藤はため息をつくと積山に言った。
「若先生、1日1回は言わせてもらいますが・・・月金以外も学校いこうとか考えてくれんでしょうか・・・」
積山はゆっくりと首を振ると言った。
「すいません・・・。でも吐き気がするんです。手が血まみれになったような感じになるんです」
積山は少し考えて言った。
「父さんが知ったらどう言うか・・・土井藤さん、分かりますか?」
土井藤は玄関で靴を履く積山に後ろから答えた。
「知りません。知りたくもありません。あいつのそんなこと言う姿・・・見たくもありませんよ」
積山は靴を履き終えると引き戸に手をかけて振り向いた。
「ありがと」
「また道場顔出してください。門下も待っとりますから」
土井藤が言った。積山は静かにうなずくと外に出て戸を閉めた。
「おにいちゃん!おでかけ?」
妹の彩華が洗濯物を干しながら言った。積山はうなずくと
「新藤先生のとこに行ってくる」
と答えた。
門をくぐると積山は路地裏への細い道に入っていった。すぐに少し古い住宅地に出た。
5分ほど歩いて郵便配達のバイクしかすれ違わないほど人通りの少ない道を積山は歩いていった。積山の左目視界ぎりぎりに赤い陰が映った。
飛ぶように後ろに下がった積山の腹を赤い毛がかすめていった。体勢を直した積山の目にかなり大きな狼のような生き物が見えた。右目がえぐれ、血が流れているのが見える。
「な・・・おまえは・・・」
 なんだ、と言おうとした積山は狼をよけ、同時に体勢を崩した。
立ち上がった積山の頬を鉤爪がかする。積山は、その爪と学生服からのびる握りこぶしと重なるのを感じた。
ふらつく積山の腹を狼が後ろ足で強烈に蹴り上げた。
「くっ・・ぁ・・・」
目を閉じた積山。狼の足が消え、学生ズボンの足だけが積山の目に映った。
「ゲホッ・・ゴボッ・・ハァ・・・・・」
大量の血混じりの唾を吐き、積山は倒れ、身を縮めた。自分を見下ろす狼がある上級生と重なった。積山は微笑み、涙が頬を伝った。
狼は口をあけて牙を積山に突き立てようとした。そのとき。
白い霧が発生し、黒い竜が狼を吹き飛ばして一緒にゴミ捨て場に突っ込んだ。
黒い竜と赤い狼は互いに上になったり下になったり転がりまわった。
積山は少しずつ体を起こした。ぼんやりとした意識の中で狼が黒い竜の上になり、右足を高く上げた。
赤い爪が光り、積山の目が見開かれた。彼は無意識に立ち上がり、駆け出した。
しかし数メートル進んだところで積山の目の前に白い霧が現れた。空中で静止するそれから何か手のひらくらいの大きさの物が落ちた。
続いて棒のようなものがするりと落ちた。積山は地面に先が当たる直前にそれをつかみ、・・・槍の形になったそれを握ると狼のわき腹に突き立てた。
悲鳴をあげた狼の下にいた黒い竜は積山を見上げてニヤリと笑うと右手をただ力をこめて前に突き出した。積山からは狼の背中から少しだけはみ出した黒い竜の爪の先が三つ見えた。
叫びと唸りの混ざったような声を出しながら狼の体にひびが入り始めた。黒い竜は狼のしたから這い出すと膝をついて腹部をさする積山の横に立った。
狼は苦しげに唸ると2人の目の前で白い砂になって消えてしまった。
「大丈夫か?」
「まぁね・・・。口切っただけみたいだ」
「それですんだお前はたいしたもんだよ」
積山は黒い竜を見上げて、
「お前は?」
と聞いた。
「ブラックギルモン。・・・て名前なんだがなにぶん長いんでね・・、ギルって呼んでくれればいい」
 
 
積山とギルは肩を貸し合って帰路についた。
「どっ・・・どうしたんですか・・・?!若先生!誰にやられたんですか?」
「ていうかそのへんな顔した恐竜みたいのは!?」
土井藤と彩華の質問攻めに積山とギルは顔を見合わせると、
「彩華、土井藤さん・・・ぼくは、・・・まぁいいか・・・、人間とは何もしてないんだけど・・。とりあえず部屋に来てください。彩華も」
積山はギルの背中を押しながら言った。
「ケガの手当てでもしながら話すから」

更新日時:
2007/06/17 
7    第6話  「遺憾」
 
ギルが窓の外をそっとのぞく。どこからどう見ても特殊部隊にしか見えない服装の人間、4名。ヘルメットで顔は見えない。
積山も窓の外をのぞいてみる。どこからどう見てもデジモンにしか見えない4体が銃を構える。アグモンに近い形をしていた。 辻鷹がどうするの?と聞いた。嶋川が答える。
「そっとズラかろうぜ。別にそっとじゃなくてもいいがな」
「とりあえずそっと逃げましょう。」
「じゃあ1階におりよう。裏口からほかの家に隠れながらにげればいいと思う」
とりあえず和西の案に従ってそーっと裏口から出る。3組ばらばらに逃げたが・・・。
嶋川はすぐに見つかってしまった。
彼はつぶやく。
「なぜ見つかったんだ」 アグモンは
「・・・・・・・」
無言だ。対峙するのは2名のテイマーらしき特殊部隊。1人はヘルメットに銀のラインが入り、パートナーは虫の形をしていた。ハチ型のデジモン。
「くっそ、メンドイ!」
炎撃刃を抜き放つ。剣の内側に炎があがる。
「ほんとに、どうしてこんな早く見つかるんだよ?加勢する」
いつの間にか辻鷹が隣にいる。 嶋川はチラッと辻鷹を見ると言った。
「すまん。正面のやつ、頼むな」 嶋川にそう言われた瞬間辻鷹は右腰の銃を抜き、正面の銀ヘルメットに狙いを定める。撃った。 氷の弾丸は狙い違わずライフル(みたいなもの)を撃抜き、こおりずけにする。 相手はというと辻鷹の狙いが自分だと気づいた瞬間手の銃を投げ捨て回りこむように辻鷹との間合いをつめる。
それをみた辻鷹はもう1丁を抜き、撃てなかった。 虫型のパートナーが腹部から撃ち出した巨大な針が銃を吹き飛ばす。 辻鷹に当たらなかったのはガブモンが体当たりで敵デジモンを吹き飛ばし、照準をそらしたおかげかもしれない。 相手テイマーは腰からなにか取り外すと右手で振った。1,5メートルほどの両刃斧になる。 辻鷹はそれを狙い、少し下に向けて撃った。
 
 
嶋川は突如逃げ出した相手を見て一瞬驚いた。しかしすぐに仲間を呼びに言ったのかもしれないと気づき後ろから追撃する。 しかし両側から銃弾が飛び、足元のコンクリートをはぜる。罠だったか。 そのとき2メートルほどの氷の壁が嶋川とアグモンをレーザーサイトの光から隠す。住宅地に沿ってL字型に。 向こうのほう、L字型の角のあたりに辻鷹がいて、手を振っていた。 嶋川とアグモンが走りより、家の庭を通って逃げてしまった。 コマンドドラモンに氷を溶かすよう支持した銀ヘルメットは斧をたたむため手袋をはずした。 その右手甲には、紋章があった。
 
 
和西が辻鷹が新藤医院という病院に運び込まれたことを知ったのは辻鷹が倒れた半日後だった。なぜなら辻鷹が倒れたその日・・・
デビモンが積山を追いつめる。距離をとって振り向いた積山は体勢を低くとると断罪の槍を真横に振る。
デビモンが真っ二つになった。すこし間隔があき、自分の状態を知ったデビモンは叫びながら消滅する。
断罪の槍の切っ先が小刻みに揺れていた。
炎撃刃を腰に下げた嶋川がかけよって肩に手を置いた。
「どうした?」
積山は槍を短くたたむとその状態で発動させた。細身の剣状になったそれを見て積山はつぶやいた。
「なるべく考えないようにしてただけで、それでもどこかでずっと考えてたんだけど・・・ぼくたちがやっているのってなんだろうね」
積山は剣を一度振ると次のデビモンを追い始めた。嶋川はため息をついて右手の紋様を見ながらつぶやいた。
「お前のほうが頭いいだろ?・・・おれはそんなこと考えられねぇよ」
 
「大変危険な状態です!新藤先生!」
新藤と呼ばれた初老の男はうなずくと全員を外に追い出した。
治療台の上で体を痙攣させる辻鷹とそばのコンピュータを大量のケーブルで接続した。新藤はコードでパソコンと辻鷹のD-ギャザーとをつないだ。キーボードを操作する。デスクトップから白い霧が現れ、辻鷹を包み、D-ギャザーに吸い込まれるように消えた。
新藤医師はしばらく辻鷹を見下ろした。
「やはり血なのかね・・・狙撃者君」
新藤はつぶやくと集中治療室を出て行った。辻鷹は静かに寝息を立てていた。右手の紋章はもと通りになっていた。
嶋川は3体のデビモンを一度に相手にしていた。その様子を上に隠れて見ているものがいた。ただ味方するでも敵に回るでもなく2つの影が見ていた。
嶋川もさすがに勝てないと認め、必死に逃げていた。
その様子を上から見ていたものがいた。
「まずい・・・」
アグモンはどこにいるのか見当もつかなかった。
「うわっなんだ?」
嶋川は後ろに飛びのいて隠れた。
 
 
誰かが言った。
「彼の息子が特殊能力を持っていた、と?」
「間違いない。連絡があった。我々にはなかった力だ」
「なぜ彼にそんな能力が・・・」
「まだあると確定したわけではない。しかし残り9人にも能力があるのだとすれば・・・・」
「即急に『鋼』の娘を調べろ。能力を確認したら身体検査だ。何故能力が開花したのか調べる必要がある。」
竜のような影が言った。
「早めに確認することが得策、か」
そして1人は出て行った。部下を目で見送った男は腕を組んで自分のD−ユニオンを眺めた。 竜のようなデジモンが、
「残り、闇と光の2人の消息を早めに調べなければな」
と言った。
 
 
一人が壁を背にして立っていた。その周りを囲むように6人の男が立っていた。そのうちの一人が言った。
「なぁ、金、貸してくんね?持ってるだけでいいからよ」
「そっそんな・・・」
「おいおいおいおいおいおいその辺にしといてやれょう」
「なぁーーーーーーーー!!!!!!」
「・・・いや、です」
1人が殴られ数人が体を押さえつけた。1人はただ何もせず立っていた。もう一人の立っていた1人はカバンを取ると・・・・
「あるじゃないか・・・毎月持ってこい5千!!わかったか・・・わかったか!!!」
何かつぶやく1人を蹴ると紙幣をポケットに入れ、もう1人に言った。
「なぁ、お前も殴れよ!俺の言うこと聞けねってんのか!?・・・・・・・なぁ、浩司!」
持ち上がる右手とその先にはうずくまる辻鷹が・・・・・・・・・・・
 
 
嶋川は額をアスファルトに叩きつけた。血をぬぐうと炎撃刃を引き抜いて鞘に収めた。
逃げるようにその場を後にした。
嶋川が座っていた場所はコンクリートの倉庫の壁の前、そしてそれを囲むように半円に白い砂の山が出来ていた。
嶋川は忘れようにも忘れられない光景が自分の置かれた状況と重なったことに動揺していた。

更新日時:
2007/06/17 
8    第7話  「戦士」
「どうしたんだよお前・・・・・・・」
嶋川が力なく言った。辻鷹はやれやれといった感じで両手をあげ、「倒れたんだって」と言った。
土曜日の早朝。新藤医院。パートナーを和西の家に軟禁したあと辻鷹の見舞いに来たのだった。
「貧血だって」
「なるほどな」
「・・・・・そこですんなり納得しないでよ」
言い合うと嶋川は安心したらしく、
「今朝積山から電話でお前が倒れたって聞いて・・・・・」
そして表情を変え言った。
「・・・やっぱりな、て思ったんだよ」
 
 
その日、辻鷹はテレビを見ていた。別に特別に見ていたわけではないが彼はブラウン管に見入っていた。映し出されているそれは工場だった。工場の責任者と字幕が表示され男が改修された倉庫を指して何かしゃべる。それはモノクロモンが破壊したものだった。
「思ってたより大事にならないね」
顔を密着させ零距離でガブモンに話しかける。
しかし異変がおきた。無意識にもっとよく見ようとした辻鷹はテレビが拡大され・・・・。
目の前が緑一色になった・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 
 
「というわけなんだけど・・・」
「テレビの見すぎだろ?」
全員がそろったのでその場で会議を始めた。
「この前の変な人たちのことだけど・・・・」「組織、て感じだったな。・・・・・まぁ個人であんなことする奴はいないか」
「えっと・・・本物の銃持ってましたよね。・・・誰なんだろう」
「知りませんよ、そんなこと。きちんと訓練されてましたけど」
「パートナーがいたってことはテイマー?」
「そういえば僕が戦った人、やけに強かった気がする」
「それはお前が特別弱いんだろ」
唖然とする辻鷹。沈黙が流れた。
「・・・まぁ、組織なら実力で部下を指揮するリーダーがいてもおかしくないと思うけどね」
積山がフォローした。
そのとき、新藤が病室に入ってきた。検査台とその上に並ぶ器具類、注射器を見て辻鷹は全身を引きつらせた。
 
仮退院した辻鷹を含め、4人はハンバーガーを食べていた。
「はぁ・・・」
ため息交じりの辻鷹の肩を和西がたたいた。
「元気出しなよ。一応退院したんだから」
血液検査のために血(および生気)を抜かれた辻鷹に新藤が
「水曜日検査をするからきなさいね。慎君も新しい固定器具見に来てほしいんだが」
しかし積山はその後の新藤の言葉の意味を測りかねていた。
「よかったら嶋川君と和西君もきなさい」
自分や辻鷹は分かるが和西たちは何故?
 
「なに?あれ」
誰かが嶋川の後ろで言った。つられて窓の外を見た嶋川は手が止まった。
デビモンが飛んでいった。
「いくか」
嶋川は立ち上がって手をつけていないハンバーガーをポケットに入れた。他の者もならう。
積山は、和西に
「ギルたちを呼んできてください」
積山の落ち着いた口調に和西はコクコクとうなずくと走り出した。
 
嶋川たちは追跡を始めた。しばらく走り、辻鷹がへとへとになった頃に1軒のビルの5階くらいの窓から入っていった。
もう使われていないらしくドアには鍵がかかっていた。嶋川はスポーツバックから炎撃刃をとりだす。
辻鷹はリュックからホルダーに収まった銃を出し、腰にかけた。
ギルたちを連れてかなり早く追いついた和西が腰の後ろから降流杖を取り出したとき、積山の手元でカチンと音がした。
積山がドアを手で開けて中に入った。
「ピッキング?どこでそんなこと覚えたの?」
驚く和西に積山は振り返らずに断罪の槍を抜きながら答えた。
「普段ヒマなんですよね」
和西達はビルを見上げた。黒い影が2つほど中に入っていった。
「・・・いきますか」
できるだけ静かに潜入した。手近な物陰に隠れて辺りをうかがう。
「・・・いない?」
ゴマモンがきょろきょろと周りを見た。
「なんだよ」
嶋川がやはり辺りを警戒しながらつぶやく。
「どう思う?」
例によって和西に聞かれて積山は少し考え、
「3階より上に固まっていると思います。・・・ビルごとと吹き飛ばせば確実かと」
ギルが非常に楽しそうに。
「それは楽だろうな・・・・。冗談だろ?まぁどっかの誰かさん達はやるかもな」
和西はこの前の夜のことを思い出す。
そして合点した。一般市民を容赦なく銃で狙うような奴らだ。それぐらいやりかねない。
「そうなる前に早くやっつけよう」
 
 
 
そしてその数時間後。
辻鷹は目を開けた。体を起こす。立ち上がってホルダーと上着をつかんで扉を開けた。外にはガブモンと新藤医師が立っていた。
辻鷹はガブモンを見て驚き、何か言おうと口を開いた。新藤医師は辻鷹の肩をたたくと1階に下りていった。
「仁、どうする?」
辻鷹は何も言わず階段を上がり屋上にでた。銃を組み合わせ、ロックしてそれはライフルになった。
「ガブモン、支えてて」
しっかりとした口調にガブモンは辻鷹の背に手を置いた。
「・・・・・」
辻鷹は目を凝らした。目まいが起き、吐き気が襲い、脳が疼いた。そのとき右手の紋様が輝き、瞳孔に青色が刺した。
やがて辻鷹の眼は遠くを捉え始めた。そしてついに1つのビルの中に仲間を捉えた。見えたのは・・・・・・・・・・、
 
嶋川はデビモンに炎撃刃を突き刺した。しかしそのデビモンが消滅する前に別のデビモンに跳ね飛ばされた。
ダンボールの山の中に嶋川が大きな音を立てて倒れこんだ。
「だいじょうぶか?」
アグモンが口から吐いた火の玉をデビモンの顔面に直撃させた。
和西は降流状で斬りつけ、デビモンを縦切りにした。さらさらと白い砂がおちる。
床はあと少しで白い砂に完全に覆われるようだ。
「思ったよりも数が多そうです。・・・甘かったか・・・」
積山が断罪の槍で胴を薙ぎながら言った。
和西は首を振ると
「なに言ってるんだ、君の作戦は効果あるじゃないか」
そう言いながら和西は前を見た。
1つしかない、というより他の階段をふさいだせいでデビモンは一体ずつしか下に降りてくることが出来なくなっていた。
そして羽音が消え、デビモンが降りてこなくなった。
 
 
「・・・大丈夫か・・・?」
立ったまま固まってしまった辻鷹を見てガブモンが心配そうに言った。
辻鷹は手だけを動かして準備を始めた。
 
 
積山を先頭についに4階に来た。
「いない・・・」
その階は広々とした部屋1つで何もない。向かい側の階段に向かって歩き出すと・・・・
「ッ・・・・・!」
積山が飛びのき、数秒前まで彼が立っていたところにコンクリートの塊がたくさん降り注いだ。
「しまっ・・・・」
ギルは振り向き階段を見た。デビモンが何体も降りて腕を伸ばして攻撃を始めた。同時に先ほど天井に空いた穴からデビモンが降りてきた。
和西が降流杖で腕をはじきながらつぶやいた。
「しまった・・・・囲まれた・・・・・!」
 
 
辻鷹はその一部始終を見ていた。
「・・・ガブモン」
「!?」
「さっき寝てるときにみんなの夢を見た気がしてね」
辻鷹はライフルのストックを肩につけて構えた。
「それでみんな向こうに行っちゃって・・・・」辻鷹はしゃべりながら目測だけで狙いをつけてデビモンの一体を狙った。
そして引き金を引きながら言った。
「みんなが危ないって気がしたんだよね。」
 
 
ちょうど背を合わせるようにして和西達は追い詰められていた。やがて2体のデビモンが鎖を引いてやって来た。
小さく細い身体をベルトと鎖が包んでいた。差し込まれたように羽が出ていた。白い羽毛に包まれている。
顔は皮製に見えるマスクとベルトに覆われて目だけが見えていた。
「なに・・・あれ」
アグモンがつぶやいた。
「親玉か・・・人、じゃない。デジ質か・・・」
嶋川が炎撃刃の柄に手をかけた。
「どっちかだろ」
嶋川が言った瞬間ガラスが立て続けに砕け散り、片端からデビモンの胸に弾丸が着弾、同時にそれは氷の槍になり胴体を貫いた。
「なっ・・・氷!?辻鷹か?」
嶋川が声を上げながら背後にいたデビモンを叩き切った。積山と和西、ギルは引きずられていった天使を追いかけた。
 
デビモンに鷲掴みにされて飛んでいく。それめがけギルが火炎弾を撃ち出した。
轟音、衝撃が辺りを包み、火の玉はデビモンをかすりもせずに放物線を描いてやがて燃え尽き、消えた。
 
「すまん慎。はずした」
首をコキコキ鳴らしてギルが謝った。
「また次がある、と思うよ?」
話す積山とギルをその場に残し、和西とゴマモンはフェンス越しに下を見下ろした。「おかしいな。ゴマモンは見える?」
和西に聞かれゴマモンも辺りを見回し、「影も形も」
と答えた。和西は、ビル街の向こうを見た。
「やっぱり?・・・どこから撃ったんだろ」
 
 

更新日時:
2007/06/17 
9    第8話  「洗礼」
夕日が辻鷹の胸にかかっていた。脇の机にはライフル、ホルダーが丁寧に置かれていた。新藤医師は診察を済ませるとガブモンと目を合わせた。
 
少し前・・・
辻鷹はライフルを連射し、甲高い発砲音が立て続けに響いた。しばらくして辻鷹はライフルを下ろした。
室内のデビモンが全て消滅したのを確認すると・・・ 
「仁!?おい!しっかりしろ!」
ライフルを取り落とし崩れるように倒れた辻鷹をガブモンがゆする。
「仁!おきろ!しっかり・・・!?」
ガブモンは振り向いた。新藤医師は辻鷹のまぶたになにか機械をあてた。画面に数字が表示される。彼はやはり・・・とつぶやいた。
新藤は辻鷹を抱えるとガブモンにライフルを持たせて建物に駆け込んだ。
 
そして、
「ありがとうございました・・・」
ガブモンが神妙な顔で礼を言った。新藤医師は手を振って言った。
「これが私の仕事だ」
 
 
靴音がたくさん聞こえて和西・積山・嶋川が病室に駆け込んだ。辻鷹がその音で目を覚ました。
「辻鷹、お前また倒れたんだって?積山に礼でも言っとけよ」
ニヤニヤした顔で嶋川が言った。
辻鷹はすっかり体調のよさそうな顔で
「ごめん、ガブモンに聞いたんだけどまた気を失っちゃったみたいで。運んでくれてありがとね慎くん」
と言った。
「まぁ無事でよかったじゃないですか」
 
そしてガブモンと新藤医師に目をやった。
 
「新藤先生」 
積山が静かに、しかし強く切りだした。新藤医師はそれを手でさえぎると全員を手招きした。
 
診察室の白板にレントゲン写真が貼り出され、光で浮き上がっていた。
辻鷹の頭と目の断面図を指して新藤医師は積山の知るいつもの口調で説明を始めた。
「昼ごろ運び込まれたときにレントゲンを撮った結果だ。それでこっちは目の部分だけを拡大したもの」
新藤医師は2枚目をボールペンで示した。
「辻鷹君の眼球部分にきわめて薄い水素の塊を確認した」
新藤医師は次にその下の棒グラフを指し、「これがそのときの目の温度」
辻鷹を見ると新藤医師は言った。
「体温は・・・6度」
嶋川がつぶやく。
「それは・・・どういうことだ・・・・?」
新藤医師はうなずいた。
「先ほど気絶した直後に測った体温のことやガブモンの証言からして辻鷹君の眼球には・・きわめて高密度のレンズの役割を果たす氷が出現する」
しばらく沈黙が流れ、辻鷹自身が尋ねた。
「それ・・・・ありえるんですか?」  
新藤医師は首も動かさなかった。
積山はもう1つ尋ねた。
「先生はガブモンを見ておどろきませんか?」
新藤医師は首を横に振り、
「君達に世界の裏側というものを見せてあげよう。来週の日曜日、朝の9時にここに来なさい」
そう言うと診察室を出て行ってしまった。
 
 
入院続行になった辻鷹と付き添いのガブモンを残して帰路に着いた和西達を見送るとしばらくして日がくれはじめ、ガブモンが電気をつけた。辻鷹は天井を見つめていた。
「ねぇガブモン」
ガブモンは振りむいて、なに、と言った。
「いや、・・・・その・・・・」
辻鷹はうつぶせになりマクラに顔を押し付けた。
ガブモンは察っした。辻鷹も中学2年生なのだ。
「だいじょうぶだと思うよ?」
辻鷹は顔だけ横に向けてガブモンを見た。
「仁の眼に氷が出来るのにもなにか理由があると思う。それに・・・・」
「それに?」
「べつに悪いことみたいな感じはしない。仁とは出会ってそんなにたってない・・・・けど」
ガブモンはベッド脇のイスに座って言った。
「仁のこと信じてるんだ。というか知ってる。いい奴だって。それに仁はその眼を何に使った?」
「・・・みんなを助けるのに使った・・・」
ガブモンはにっこりと笑い、
「それだよ。そういう仁の限りおれがついてやる。だから大丈夫。心配するな」
辻鷹は笑い返し、
「ありがとう。・・・・失明したら頼むね」
そう言った。
忍び笑いが病室にあふれた。
 
 
 
その日、辻鷹とガブモンは一緒にベットで寝た。
 
次の日。ベットは空だった。
辻鷹とガブモンは床に落ちていた。やはり狭かったようだ。

更新日時:
2007/06/17 
10    第9話  「欠如」
その日、和西の家に電話の呼び出し音が響いた。
「よう!和西!この前チャリおきっぱなしにしてたから今日取りに行くからな!」
ブツッ   ツー     ツー      ツー      ツー
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
和西とゴマモンは早朝6時のうるさい電話に茫然と立ち尽くすしかなかった。あの声は間違いない。嶋川だ。
和西は再度ベッドに入るのをためらい、結局断念し、着替えた。
 
嶋川は無言で受話器をつかんだまま止まっていた。息を吐くとポケットから書置きを取り出した。[バァちゃんへ。オレ謝りに行ってくる。許してもらうまで帰らないつもりだから帰りが遅くなるかもしれないけど心配すんな。浩司]
嶋川は書置きをふすまの隙間から祖母の部屋に入れた。
 
 
 
公園、
積山と嶋川、そしてジャングルジムの上にギル、アグモン。あたりに人気はまったくない。
「お話、とは?」
積山が切りだした。嶋川は珍しく暗い表情で話し始めた。
「いや・・・その・・・。先に言っとく。すまん!」
嶋川は土下座をした。積山は驚き、
「どうしたんです?」
そう聞いた。
嶋川は地面に座ってしゃべり始めた。
 
 
 
3年前・・・・
「おい、おまえ仲間にしてやろうか」
窓の外をぼんやり眺めていた嶋川は顔を上げた。その顔めがけてパンチが飛んできた。
嶋川はその手を押さえて腕ごとひねった。悲鳴をあげる男子生徒を尻目に背の高い男子生徒が嶋川の胸倉をつかんだ。
そいつは睨みつける嶋川を見下ろすと、「いいなぁ。それに強い。・・・こいよ」
と言った。
 
「それでオレは・・・あいつの言うとおりに行動するようになった・・・・」
 
嶋川は逃げていく学生を見送った。その後ろで興奮した声で背の高い学生が言った。
「お前ホント強いなぁー。空手部でもあれかよ。へへっ」
 
 
 
「なぁ金貸してくんね?持ってるだけでいいからよ」
「そっそんな・・・」
その頃になるとオレとあいつらは片っ端からかつ上げするようになっていた。そのときの標的は・・・辻鷹だった。
「・・・いや、です」
目の前で辻鷹は殴られ、体をコンクリートに打ちつけずるずると落ちていった。
「お前も殴れよ!俺の言うこと聞けねってんのか!?・・・・・なぁー浩司!」
そしてオレは口から血を流した辻鷹のうつろな目に送られて家に帰った。
 
「そんなことがあったんですか・・・」
積山は車止めに腰掛けた。すると突如嶋川は怒鳴りだした。驚いたアグモンがジャングルジムから落ちた。
「オレが!・・あの時・・殴ってでも断れば・・・そうできていたなら・・・・!辻鷹がひどい目に合わされることもなかった・・・」
積山は無言で聞いていた。
「お前が自分で腕をへし折ることもなかった・・・」
「あの時・・・オレは・・・オレは・・。お前の・・・ひょっとしたら一生までむちゃくちゃにした・・・」
すると積山は立ち上がって言った。
「ぼくの一生は確かに変わりました。でも悪く変わったとは思ってません。いい友達がたくさんできましたからね」
積山はギルを手招きすると言った。
「ぼくはもうなんとも思ってませんよ。たぶん辻鷹くんも。君のことは友達だと思ってますからね」
少し歩くと振り向いて言った。
「いつまでも気にしないことです。いきましょうか。和西くん待ってるだろうからね」
 
 
数分後・・・
玄関の呼び鈴がなり、和西とゴマモンは階段を駆け下りた。
 
 
工場跡地。
「なにもこんなに朝早くに来なくても・・・・」和西はぼやきながらも一番先を歩いて自転車に駆け寄った。
「あったあった。よかったよかった」
 
「上ですね」
積山がつぶやく。
「えっ?」
和西が聞き返す目の前で積山は自分の自転車を強烈に蹴り飛ばし、断罪の槍を剣状にして飛ぶように下がった。
和西が上を見上げるとデビモンが急降下してくるのが見えた。
「うあわっ!!!」
和西は腰から折りたたんだ降流杖を抜いて構えた。嶋川も無言で炎撃刃を引っ張り出した。
デビモンがさらに1体降りた。そして
「ぐぁぁぁぁぁぁああぁぁぁぁぁっぁぁぁぁっぁぁっぁっぁぁっぁっぁぁぁあっぁっぁぁっぁぁぁl!!!!!!!!!!!!!!」
長い悲鳴をあげ、2番目に降りたデビモンがもう1体を溶かすように吸収していた。やがて・・・・
 
 
それは1体の悪魔として空を仰いだ。「わ・・・ガッ・・・・名・・は・・ね・・ォ・・・デビ・・・モ・・・・ン」
同様のデジモン=ネオデビモンがもう1体和西とゴマモンに後ろから攻撃をした。
「し・・・・・・・」
新たにもう1体ネオデビモンが現れアグモンを押さえつけた。
「・・・・ネ・・・・」
一瞬で飛び上がったネオデビモンをそれぞれ和西・ゴマモン、嶋川・アグモンが追った。残った1体と積山・ギルが向かいあった。

更新日時:
2007/06/17 
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