「どうしたんだよお前・・・・・・・」
嶋川が力なく言った。辻鷹はやれやれといった感じで両手をあげ、「倒れたんだって」と言った。
土曜日の早朝。新藤医院。パートナーを和西の家に軟禁したあと辻鷹の見舞いに来たのだった。
「貧血だって」
「なるほどな」
「・・・・・そこですんなり納得しないでよ」
言い合うと嶋川は安心したらしく、
「今朝積山から電話でお前が倒れたって聞いて・・・・・」
そして表情を変え言った。
「・・・やっぱりな、て思ったんだよ」
その日、辻鷹はテレビを見ていた。別に特別に見ていたわけではないが彼はブラウン管に見入っていた。映し出されているそれは工場だった。工場の責任者と字幕が表示され男が改修された倉庫を指して何かしゃべる。それはモノクロモンが破壊したものだった。
「思ってたより大事にならないね」
顔を密着させ零距離でガブモンに話しかける。
しかし異変がおきた。無意識にもっとよく見ようとした辻鷹はテレビが拡大され・・・・。
目の前が緑一色になった・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「というわけなんだけど・・・」
「テレビの見すぎだろ?」
全員がそろったのでその場で会議を始めた。
「この前の変な人たちのことだけど・・・・」「組織、て感じだったな。・・・・・まぁ個人であんなことする奴はいないか」
「えっと・・・本物の銃持ってましたよね。・・・誰なんだろう」
「知りませんよ、そんなこと。きちんと訓練されてましたけど」
「パートナーがいたってことはテイマー?」
「そういえば僕が戦った人、やけに強かった気がする」
「それはお前が特別弱いんだろ」
唖然とする辻鷹。沈黙が流れた。
「・・・まぁ、組織なら実力で部下を指揮するリーダーがいてもおかしくないと思うけどね」
積山がフォローした。
そのとき、新藤が病室に入ってきた。検査台とその上に並ぶ器具類、注射器を見て辻鷹は全身を引きつらせた。
仮退院した辻鷹を含め、4人はハンバーガーを食べていた。
「はぁ・・・」
ため息交じりの辻鷹の肩を和西がたたいた。
「元気出しなよ。一応退院したんだから」
血液検査のために血(および生気)を抜かれた辻鷹に新藤が
「水曜日検査をするからきなさいね。慎君も新しい固定器具見に来てほしいんだが」
しかし積山はその後の新藤の言葉の意味を測りかねていた。
「よかったら嶋川君と和西君もきなさい」
自分や辻鷹は分かるが和西たちは何故?
「なに?あれ」
誰かが嶋川の後ろで言った。つられて窓の外を見た嶋川は手が止まった。
デビモンが飛んでいった。
「いくか」
嶋川は立ち上がって手をつけていないハンバーガーをポケットに入れた。他の者もならう。
積山は、和西に
「ギルたちを呼んできてください」
積山の落ち着いた口調に和西はコクコクとうなずくと走り出した。
嶋川たちは追跡を始めた。しばらく走り、辻鷹がへとへとになった頃に1軒のビルの5階くらいの窓から入っていった。
もう使われていないらしくドアには鍵がかかっていた。嶋川はスポーツバックから炎撃刃をとりだす。
辻鷹はリュックからホルダーに収まった銃を出し、腰にかけた。
ギルたちを連れてかなり早く追いついた和西が腰の後ろから降流杖を取り出したとき、積山の手元でカチンと音がした。
積山がドアを手で開けて中に入った。
「ピッキング?どこでそんなこと覚えたの?」
驚く和西に積山は振り返らずに断罪の槍を抜きながら答えた。
「普段ヒマなんですよね」
和西達はビルを見上げた。黒い影が2つほど中に入っていった。
「・・・いきますか」
できるだけ静かに潜入した。手近な物陰に隠れて辺りをうかがう。
「・・・いない?」
ゴマモンがきょろきょろと周りを見た。
「なんだよ」
嶋川がやはり辺りを警戒しながらつぶやく。
「どう思う?」
例によって和西に聞かれて積山は少し考え、
「3階より上に固まっていると思います。・・・ビルごとと吹き飛ばせば確実かと」
ギルが非常に楽しそうに。
「それは楽だろうな・・・・。冗談だろ?まぁどっかの誰かさん達はやるかもな」
和西はこの前の夜のことを思い出す。
そして合点した。一般市民を容赦なく銃で狙うような奴らだ。それぐらいやりかねない。
「そうなる前に早くやっつけよう」
そしてその数時間後。
辻鷹は目を開けた。体を起こす。立ち上がってホルダーと上着をつかんで扉を開けた。外にはガブモンと新藤医師が立っていた。
辻鷹はガブモンを見て驚き、何か言おうと口を開いた。新藤医師は辻鷹の肩をたたくと1階に下りていった。
「仁、どうする?」
辻鷹は何も言わず階段を上がり屋上にでた。銃を組み合わせ、ロックしてそれはライフルになった。
「ガブモン、支えてて」
しっかりとした口調にガブモンは辻鷹の背に手を置いた。
「・・・・・」
辻鷹は目を凝らした。目まいが起き、吐き気が襲い、脳が疼いた。そのとき右手の紋様が輝き、瞳孔に青色が刺した。
やがて辻鷹の眼は遠くを捉え始めた。そしてついに1つのビルの中に仲間を捉えた。見えたのは・・・・・・・・・・、
嶋川はデビモンに炎撃刃を突き刺した。しかしそのデビモンが消滅する前に別のデビモンに跳ね飛ばされた。
ダンボールの山の中に嶋川が大きな音を立てて倒れこんだ。
「だいじょうぶか?」
アグモンが口から吐いた火の玉をデビモンの顔面に直撃させた。
和西は降流状で斬りつけ、デビモンを縦切りにした。さらさらと白い砂がおちる。
床はあと少しで白い砂に完全に覆われるようだ。
「思ったよりも数が多そうです。・・・甘かったか・・・」
積山が断罪の槍で胴を薙ぎながら言った。
和西は首を振ると
「なに言ってるんだ、君の作戦は効果あるじゃないか」
そう言いながら和西は前を見た。
1つしかない、というより他の階段をふさいだせいでデビモンは一体ずつしか下に降りてくることが出来なくなっていた。
そして羽音が消え、デビモンが降りてこなくなった。
「・・・大丈夫か・・・?」
立ったまま固まってしまった辻鷹を見てガブモンが心配そうに言った。
辻鷹は手だけを動かして準備を始めた。
積山を先頭についに4階に来た。
「いない・・・」
その階は広々とした部屋1つで何もない。向かい側の階段に向かって歩き出すと・・・・
「ッ・・・・・!」
積山が飛びのき、数秒前まで彼が立っていたところにコンクリートの塊がたくさん降り注いだ。
「しまっ・・・・」
ギルは振り向き階段を見た。デビモンが何体も降りて腕を伸ばして攻撃を始めた。同時に先ほど天井に空いた穴からデビモンが降りてきた。
和西が降流杖で腕をはじきながらつぶやいた。
「しまった・・・・囲まれた・・・・・!」
辻鷹はその一部始終を見ていた。
「・・・ガブモン」
「!?」
「さっき寝てるときにみんなの夢を見た気がしてね」
辻鷹はライフルのストックを肩につけて構えた。
「それでみんな向こうに行っちゃって・・・・」辻鷹はしゃべりながら目測だけで狙いをつけてデビモンの一体を狙った。
そして引き金を引きながら言った。
「みんなが危ないって気がしたんだよね。」
ちょうど背を合わせるようにして和西達は追い詰められていた。やがて2体のデビモンが鎖を引いてやって来た。
小さく細い身体をベルトと鎖が包んでいた。差し込まれたように羽が出ていた。白い羽毛に包まれている。
顔は皮製に見えるマスクとベルトに覆われて目だけが見えていた。
「なに・・・あれ」
アグモンがつぶやいた。
「親玉か・・・人、じゃない。デジ質か・・・」
嶋川が炎撃刃の柄に手をかけた。
「どっちかだろ」
嶋川が言った瞬間ガラスが立て続けに砕け散り、片端からデビモンの胸に弾丸が着弾、同時にそれは氷の槍になり胴体を貫いた。
「なっ・・・氷!?辻鷹か?」
嶋川が声を上げながら背後にいたデビモンを叩き切った。積山と和西、ギルは引きずられていった天使を追いかけた。
デビモンに鷲掴みにされて飛んでいく。それめがけギルが火炎弾を撃ち出した。
轟音、衝撃が辺りを包み、火の玉はデビモンをかすりもせずに放物線を描いてやがて燃え尽き、消えた。
「すまん慎。はずした」
首をコキコキ鳴らしてギルが謝った。
「また次がある、と思うよ?」
話す積山とギルをその場に残し、和西とゴマモンはフェンス越しに下を見下ろした。「おかしいな。ゴマモンは見える?」
和西に聞かれゴマモンも辺りを見回し、「影も形も」
と答えた。和西は、ビル街の向こうを見た。
「やっぱり?・・・どこから撃ったんだろ」

|