時計の針が5時を指した。それと同時に和西は起きなかった。ゴマモンと一緒にベットの中で寝息を立てていた。
そして・・・
時計の針が9時を指した。それと同時に和西はテレビを消した。ゴマモンは袋に残ったスルメを全て口に流し込んだ。
「足の長い奴は早く走れていいよなぁ」
ゴマモンはもぐもぐとスルメを噛み下しながら言った。
「・・・十分早いと思うけど・・・」
和西は巨大なトンボを思い浮かべながら言った。
「走ればいい、て物じゃないんだよ。二本足で颯爽と、がいいんだよ」
和西はしばらくゴマモンを見て、
「デビモンからネオデビモンに変わったよね」
と言った。ゴマモンは、
「それだ!何とかならないかな」
と声を上げた。
ゴマモンは何か妄想にふけり始めた。そのとき・・・
電話の音が響いた。反射的にゴマモンをベットの下に押し込んだ。
「ふぎゃ!!」
「なんだ、電話か・・・」
和西はゴマモンを引っ張り出して階段を駆け下りていった。
「和西、早く来い」
短く言われ、次の瞬間切られた。今の声は嶋川だな・・・・
「・・・・・・・・!」
和西は何が起こったかすぐにはわからなかった。しかし、
「しまった・・・忘れてた・・・・」
どうしようか、などといってられなかった。財布とゴマモンと降流杖をスポーツバックに投げ込むと、和西は家を飛び出した。
鍵だけはしっかりかけた。
10分ほどかかって、和西は新藤医院に到着した。積山、嶋川は本人の性格がよく現れた服だったが谷川だけは制服姿だった。
和西は息を切らしながらも口を開いたが、
「ごめんなさい寝過ごしちゃって・・・」
後ろから息を切らし現れた辻鷹に言われてしまった。寝過ごしたわけではないが。
「やっとそろったみたいだね」
新藤が出てきた。鍵をかけ休診の札を下げる。積山は、
「何でどこに行くんです?」
とたずねた。
「とりあえずこれでいく」
そういって新藤はガレージを開けた。大きなワゴン車が現れた。
「免許・・・持ってたんですね」
積山は神妙な顔をして隣でハンドルを操る新藤を見た。2列目に和西、辻鷹、が並ぶ。
「・・・広いね」
しかしガブモンはシートベルトで拘束され、ツノが天井をこする。
3列目は嶋川、谷川とホークモンが座り、
「なんでお前制服なんだ?」
「ええい触るな!これしか着れるのなかったの!!」
やかましい。
そして・・・
「俺達は荷物扱いか?」
アグモン・ガブモン・ギルが正座して最後部に収まっていた。
ギルの言葉をさらっと無視すると積山は新藤に言った。
「ところでどこに行くんです?まさか本当にギプス見に行くわけじゃないでしょう」
新藤は、
「まぁつけばわかる」
そう短く答えた。
走ること1時間。
「つけば分かる・・・・・・」
和西は車が通り過ぎる瞬間、門に掲げられた『国立生物対処学研究所』という文字をみてつぶやいた。
「私の知り合いが所長を務めている研究所でね。きみたちについて検査をしてもらう」
嶋川が窓の外に目をやると白衣を着、研究員5人を従えた壮年の男が駆け寄ってきた。
数人の研究員に誘導されてワゴン車は地下の駐車場でエンジンを止めた。
「どうも!ひさしぶりですねぇ!」
白衣の男と新藤は親しげに話し始めた。ゾロゾロと和西達も車を降りる。
男は顔中に笑みを浮かべ、
「やぁ、よく来たね。私はこの研究所の責任者の二ノ宮だ。さぁて今日の研究対象は君達だ!」
などと言い出した。
辻鷹は椅子に拘束され、両目脇・右手甲を中心にケーブルでつながれていた。
「ななななななななにするんですかかかかか・・・!?」
怯え、あせる辻鷹の正面の床からなにかせり上がった。
積山はモニターからその一部始終を眺めていた。そして背後に立った二ノ宮所長に、
「これが理由ですか?」
と聞いた。所長は笑顔でうなずく。
「どーいうこと?」
谷川が慌てふためく辻鷹をモニターごしに鑑賞しながら聞いた。
「ようするに辻鷹くんの異常に高い視力とかの秘密を調べようということでしょうね」積山は谷川に向き直って言った。
「ご名答!それとあとで君達に会わせたい人もいるしね」
モニターには床から現れた箱と辻鷹が表示されていた。
「なに・・・あれ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
辻鷹は箱をにらみつけた。Cと表示されている。
「・・・・・右」
画面が入れ替わり、違う方向を示した。
「上」
少し小さくなり、また表示された。
「左」・・・・・・・・・・・・・・・・
「検査結果でました!」
操作していた研究員がシートを差し出した。所長は受け取ると読み始め、そして「ほぉ!これはこれは・・・なるほど、氷の狙撃手とは言ったものだ!」
「なるほど、低い」
「目ぇいいなぁアイツ」
「難しいな、わかるの?」
「見えないよー」
谷川にも見えるようにモニターの机にシートが置かれた。
シートには箇条書きになったなにかの数字とレントゲン写真が印刷されていた。よく見ると数字全ての頭に『−』がついていた。新藤はレントゲンを指し、
「ここを見てごらん」
谷川は首をかしげ、
「これ、この透明なのなんですか?」
と聞いた。新藤は顔を上げると短く答えた。
「氷だよ」
和西達は所長・新藤の後をぞろぞろついていった。すれ違う研究員達がパートナーデジモンを興味深そうな目で見送った。
しばらくして角を曲がると一行は何かに出くわした。
「オット、オマエカ」
金属質な声が話しかけた。所長は頭をなでると
「いや、すまない。ほら、お前足音しないだろ?」
所長はそう言ってから脇に退いた。すぐ後ろにデジモンが浮いていた。驚く和西達に所長が紹介した。
「彼はパートナー兼助手のハグルモンだよ」
「もしかしてオッサンが6人目?」
アグモンが聞いたが所長はいやいやいやと手を振り、
「いわゆる普通のテイマーだよ。そしてそういう人間は少ないながらも存在する」
と言ってポケットに手を入れた。
出てきた手にはデジヴァイスが握られていた。谷川はそれを見て首をかしげる。
「あたし達のと形が違うね」
所長は
「それも含めて後で話そうか」
というと、
ハグルモンに耳打ち(?)した。ハグルモンは
「ワカタワカタ」
と言って向こうに行ってしまった。
それからしばらく進み、一番角に突き当たった。金属製のドアがあり所長はノックもせずに勢いよくドアを開けた。
「さぁ!ご対!・・・・・・め・・・・・ん・・・・・」
所長の声は少しずつ小さくなっていた。和西から飛び降り、ゴマモンは足の間をかいくぐって部屋に入った。
「ありゃりゃ・・・」
部屋には大きな水槽・本棚・ベットと机、それとイスが1つだけある殺風景な部屋。イスに女性が一人座っていた。
中身が飛び散った皿がカタカタと音を立ててゴマモンの前まで転がり、止まった。
和西達に続いて
「・・・すまん」
できるだけ体を小さくした所長が入り、最後に新藤がドアを閉めた。
蜂のようなデジモンが料理を拾い集めて捨てた。女性はため息をつくと所長に向き直って尋ねた。
「この人達が昨日の話の?・・・」
女性は皿を拾い上げ、ゴマモンの頭をなでると皿をデジモンに渡して敬礼をした後言った。
「デジタル未確認生命体対策組織第3部隊隊長二ノ宮涼美。彼はパートナーのファンビーモン。そして・・・・」
二ノ宮と名乗った女性は右手を突き出して言った。
「銘は『鋼の千計師』」
辻鷹はファンビーモンを見て声を上げた。
「もしかして前に会ったことあります?」
二ノ宮は肩をすくめると答えた。
「ありますね」
ガブモンは、
「あぁ、なるほど・・・。て何で攻撃した!?」
と二ノ宮をにらみつけた。彼女はうつむくとファンビーモンと顔を見合わせた。
「あのときはごめんなさい。情報不足だったし・・・。第一捕獲が任務だったんだけどね」
しばらく誰も何も言わず、和西はたまりかねて、
「その、二ノ宮さんはなにか変なことができたりするんですか?」
すると二ノ宮は怪訝な顔をした。
「おなじ仲間なんだから好きな風に呼んで欲しいし敬語みたいなしゃべり方もしないでいいわよ」
たじろいた和西をみて所長は、
「まぁまぁ、それよりちょっと来なさいよ」
言うが早いか二ノ宮と辻鷹を引っ張って部屋を出て行ってしまった。
来た道を引き返し和西達を引き連れ所長は研究所の中庭に出た。ちょっとした運動場でトラックにハードルが並んでいた。
まず所長はハードルと和西を交互に指差し、
「がんばりたまえよ!」
と言った。和西は
「・・・・・」
無言だった。ハードルは30センチほどずつ高くなり、
その先は30メートルほどの高さの建物につながっており、干された純白のシーツが舞っていた。和西は首を振りながら後ずさった。
「がんばってねっ!」
谷川が笑顔で手を振る。和西はゴマモンに駆け寄って
「何とか言ってよ!」
しかしゴマモンは
「お前ならできる!」
それしか言わなかった。
和西は積山に駆け寄った。が、彼に
「やりなさい」
冷たい口調で言われ寿命が縮む思いをし、後ずさり、結局すごすごとハードルの前に立った。
走り出した和西は1つ、2つと越えた。3つ目に差し掛かったとき和西の紋様が輝き、続けてハードルをパスし続けた。そして・・・・・
ゴマモンを先頭に駆け寄った人たちを和西はシーツの前に立って見下ろしていた。
降りてきた和西に研究員が駆け寄り、ズボンをめくった。
「・・・・いつの間に・・・」
和西は自分につけられていた機械を見てつぶやいた。
和西が白衣集団に囲まれている間にハグルモンが所長に金属製の箱を手渡した。訓練用と書かれたそれをあけるとゴム製のナイフやプロテクターが整理されて収まっていた。
「これは組織の訓練に使うものでね」
そういいながら所長はプラスチック製の箱からライフルを取り出し辻鷹に手渡した。
そのまま固まってしまった辻鷹の肩をたたくと所長はそのまま彼の背を押した。
辻鷹は立ったまま気絶したような感じで存在していた。所長はすこし哀れに思ったか「大丈夫、エアガンだよ」
それを聞いたとたん辻鷹は解凍され、
「び・・びっくりした」
それを見ていた嶋川は谷川を小突き、
「いつも撃ちまくってるのにな」
とささやいた。
所長は二ノ宮に目配せし、二ノ宮は20メートルほどの間隔をあけて向かい合った。所長はそれを見届けると
「じゃ、仁君、撃って」
と言った。
辻鷹は驚きと怯えの入り混じった表情で振り向き、二ノ宮は
「だいじょうぶ!!撃てっ!!」
などと言い出した。
数分間の説得の末、辻鷹はライフルを構えた。二ノ宮は普通に立っている。
1発目、かなり右にそれた。二ノ宮は1歩進む。2発目、首筋ギリギリを抜けた。また一歩。3発目、上着をかすった。また一歩。4発目、撃とうとした辻鷹は再び振り返り、見回し、積山を見て怯え、構えた。
4発目、弾は二宮の肩に当たり、跳ね返った。辻鷹は続けて腕、胸、足を狙って撃ったが全て跳ね返された。辻鷹と二ノ宮の間はすでに2メートルほどだった。辻鷹は顔を狙う。
引き金を引いた瞬間二ノ宮の手が辻鷹の狙いに被さった。発射された弾は狙い違わず二ノ宮の手のひらに命中し、跳ね返った。その手のひらは銀色に輝いていた。
「現実(マジ)・・・・?」
ライフルを下げた辻鷹は思わずつぶやいた。

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