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11    第10話 「鬼頭」
和西は細い道をネオデビモンを追いながら走り抜けた。ゴマモンが和西の少し前を疾走する。
やがてネオデビモンは管理塔の最上部に飛び上がると機械的に首をひねって和西とゴマモンを見下ろした。
「どうする?」
「のぼるまで!」
ゴマモンが聞き、和西は即答した。
しかし彼が1段目に脚をかけたとき殺気(のようなもの)を感じて上を見るとネオデビモンが襲い掛かってくるのが見えた。よけた和西は階段を踏み外した。
「うわっ!!」
転がり落ちた。視線を戻すとネオデビモンの右手が金属製の階段を串刺しにしていた。
「っそ!」
和西は降流杖を振ったがネオデビモンか軽々ととめるとはじき飛ばした。ネオデビモンは手刀で和西を狙う。
「おわっ!」
辛うじてよける。
ゴマモンが応戦しようと飛び掛ったがよけられ、上空に逃げられた。
「くそぉ・・・・。このままじゃやられる・・・。どうすれば・・・・」   
 
 
数分間の時が流れた。和西とゴマモンはネオデビモンの攻撃をよけることが精一杯だったが、限界が近づいていた。
回転しながら上昇していくネオデビモン。それを仰向けで見上げる和西の息は荒い。耳の脇を血が流れ、それを新たな水滴が流した。
雨が降り出した。
「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・うっ・・・・」
呻く和西はゆっくりと体を起こし、目線をあげた。ネオデビモンが容赦なく襲い掛かるのが見えた。
 
 
「アアアアァァァァァァァァァ・・・・・・・・・・!!!!!!」
 
 
細い作業道を走り抜ける嶋川は立ち止まり顔を上げた。鉛色の空は大量の水を降らせている。
「・・・・・まさか・・・・」
嶋川の顔が引きつる。
「あのバカ野朗。・・・・やられたなんていいやがったら・・・・・・」
歯を食いしばる嶋川の両頬を新しく水が流れた。
そのときドゥム!という音が響き5メートルほど先のあたりのコンクリートが砕けた。
「お前がバカだ!よけろ!!」
アグモンが嶋川を蹴り飛ばし物陰に押し込んだ。
「なんだ?ネオデビモン?」
そのとき嶋川の頭上を金網の通路を走りぬける音がした。
「和西とゴマモンの次はオレ達だと!!」
嶋川はわめき、炎撃刃を抜くと真上に振った。雨粒を蒸発させながら金網は真っ二つになった。
「おそいおそい!そんなんじゃダメでしょっ!!」
よく通る声が嶋川の後ろでした。
 
 
腰まである長い髪を後ろで1本に束ねていた。きれいに整った顔立ちは少し子供っぽい表情をしていた。
そして・・・左手に盾のようなものを持っていた。隣には赤い羽の鳥のようなデジモンが立っていた。が、何事かたしなめているようだった。
少女はパートナーの足につかまり、嶋川とアグモンのとなりに降り立った。
「あ〜ぁ、服びしょびしょだよ・・」
まったく気にしてなさそうな声色で言った。
「・・・・・どういうつもりだ・・・・」
「?」
「なんで俺達を攻撃した・・・!?」
「・・・びっくりするかな、って思って・・・」
嶋川は自分と比較にならないほど小柄な体の胸倉をつかみ壁にたたきつけた。「・・・ふざけるな・・・!少しぐらい空気読めよ・・・!」
目をつぶり震える体から手を離した。
座り込んで泣き出した少女を見下ろし、嶋川は顔色を変えた。
「・・・!ごっ、ごめんなさい・・・気が動転して・・・大丈夫ですか?」
積山の気持ちが分かった気がした。
「・・あたしこそごめんなさい・・・。あんなこと、冗談にならないって・・ちょっと考えれば分かったことなのにね」
作り笑いで顔を上げると少女は名乗った。
「あたしは」
体を落ち着かせて言った。
「あたしは谷川、谷川計。パートナーはホークモン。銘は・・『風の修験者』・・・」
 
 
その頃和西はうつぶせに倒れていた。服はところどころ破れ、血溜まりが出来ていた。そのすぐ横でネオデビモンがボロ布のようになったゴマモンを無造作に放り捨てた。
和西の目には右手・降流杖・まったく動かないゴマモンの順に見えていた。ごろりと仰向けになると管理塔の上にネオデビモンが上がるのが見えた。
 
 
 
「・・                死   ぬ   の   か   ?            ・・」
 
 
 
頭の中で声が響いた。ハードルを次々パスし、ゴールへ向かう人。和西、ゴマモンはゆっくりと体を起こした。
「・・・・ゴマモン・・・・」
「・・・・なんだい?・・」
「あそこまで一気にいけたら何とかなるかな・・・・」
「なにそれ・・・無理だろ・・」
弱々しく笑うと和西が聞いた。
「どっちが?」
ゴマモンが即答した。
「あそこまで一気に行くことに決まってるだろ?」
 
和西とゴマモンは立ち上がった。 
「じゃあ何とかしようか・・・。どっちにせよ・・・・・・」
和西とゴマモンは同時に言った。
 
「死んでたまるか」
 
すると和西の紋様に青い光が走り、輝いた。和西は1歩踏み出した。しかし前よりもむしろ上に進んだ。
着地した和西がつぶやいた。
「・・・!まさか・・・・」
ゴマモンと顔を合わせる。2人ともうなずいた。和西は右手に降流杖、左手にゴマモンをつかむ。
ネオデビモンを見上げた。大きく長く声を張り上げ和西は強く地面を蹴った。声を上げ続けながら和西は15メートルほどの管理塔を飛んだ。
ネオデビモンが応戦する。しかし遅い。
「[マーチィングスラッシュ]!!」
和西はネオデビモンの顔面に降流杖の刃を当てる。それはそのまま反対側に抜けた。
ゴマモンがすれ違いざまに左胸を切り裂いた。2人は勢いあまり狭い屋上の端まで吹き飛んだ。同時に和西は武器を放していたことに気づいた。
ネオデビモンはよろよろと振り向くと、
「・・・ひ・・・ベッ!!・・・ボ・・・たドッ・・・む・・・ガッっつつ」
なにか吐き出すように言うと青い光りのヒビが胸の1点から始まった。
「あ・・・・リッ・・・がと・・・・う・・・」
ネオデビモンは爆発して砂になる瞬間そう言ったが爆音で和西とゴマモンには聞こえなかった。
ガキンッと大きな音を立てて降流杖がささった。そのかなり向こうで落ちる寸前の位置に投げ出されたままの状態で2人が転がっていた。
「・・・いい眺めだね・・・・」
「・・・同感・・・」
和西は小さく笑うとゴマモンと右手を当て合った。
「バンザイ。」
そして2人は雨に打たれながら気絶した。2人から流れた血がほんの少し広がった。
 
 

更新日時:
2007/06/17 
12    第11話 「暗翼」
嶋川とアグモン、谷川とホークモンは雨の中を倉庫に近づいていった。少し前まで谷川がしゃくりあげる音が聞こえていたが今は布を引くような雨の音だけだ。
「・・・いた・・。」
アグモンはトラックの陰から倉庫に入っていくネオデビモンを見た。嶋川はうなずくと谷川とホークモンに振り返った。
嶋川は自分の着ていた皮のジャンパーを脱ぐと振って水滴を落とし谷川の頭から被せた。頭2つ分下の目を覗き込んで嶋川は言った。
「ここで待っててくれ・・・。必ず帰るから。危なくなったり怖くなったら逃げていいから・・。このジャンパーもやるから・・・。な?」
すると谷川は2回首を振った。
「あたしは待たないし逃げたりもしないよっ」
嶋川をしっかりと見上げた。ジャンパーを脱いで嶋川に羽織らせた。
「・・・わかった。たのむ。ホークモンも・・・力、かしてくれ。」
 
4人は倉庫に入った。辺りを見回すが姿も気配もない。用心深くダンボールの散乱する倉庫をパートナーデジモンを先頭に進んでいった。
谷川、嶋川が同時に気づいた。谷川はかすかな物音、嶋川は谷川の背中に走る白く太い線。2人の紋様が輝いた。
谷川は凄まじい騒音に囚われた。そしてその音に羽音とそれがやむのと同時に起きた風を切る音を聴いた。
嶋川は世界が急にゆっくりと進んだ。全てがコマ送りのように進み、白い線は白い先のとがった棒になった。槍・・!?
嶋川はその後を一瞬で想像し、必死で手を動かした。しかし嶋川の体はいつもどおりすぐ動きやすやすとそれをつかまえた。
 
甲高い金属音を立てて白い槍が落ちた。嶋川と耳を押さえて座り込んだ谷川以外。つまりアグモンとホークモンが驚いて目を向けた。いや、それは槍を放った本人もかもしれない。
外の光を背景にネオデビモンが肩を落とした独特の立ち方で立っていた。ネオデビモンは羽を広げ、飛翔した。胸から先ほどの白い槍を打ち出した。
その延長線上に谷川が座り込んでおり、嶋川が抱きかかえるようにしてその射線からそらした。ネオデビモンは再び入り口の前で立った。槍を撃ち出す。
嶋川は立ち上がると凄まじい動きでそれを捉え、地面に落とした。数歩進む。ネオデビモンは連射した。そのたびに嶋川もそれを止めた。
ネオデビモンのすぐ目の前に立った嶋川は、至近距離で放たれた槍を抜刀した炎撃刃で弾き飛ばした。炎が激しく灯った。
「なぁお前・・・」
嶋川はにらみつけた。
「オレはオレの仲間を傷つけようとする奴は絶対にゆるさねぇ。あいつを何度を攻撃したような・・」
嶋川はネオデビモンを蹴り飛ばした。
「よーするに・・・」
嶋川は炎撃刃を構えた。
「お前みたいのなんだよ!!」
そしてネオデビモンの顔面に突き刺しながら叫んだ。
「やんのか!!!!!オラァ!!!!!」
ネオデビモンは黒煙をあげて燃え上がり、白い砂になった。
 
嶋川は炎撃刃を鞘に戻すとアグモン、谷川、ホークモンに歩み寄った。
「お前ら大丈夫か?」
全員が頷いた。谷川はヒザをついた嶋川に抱きついて泣き出した。
「・・さっきはごめんなさい・・・怖かった・・・」
嶋川は驚いて尻餅をついた。
谷川は微笑んで、
「・・・ありがとう・・」
そう言った。嶋川は即座に背を向けた。目が合ったアグモンが
「・・・どうした?」
とつぶやいた。
 
 
嶋川は外に出た。くしゃみを連発した谷川を見て嶋川は炎撃刃を地面に突き立てて倉庫の外にアグモンを引っ張って出た。
しばらくして服を乾かした谷川がホークモンを連れてやってきた。嶋川は革ジャンを被せると爆音に顔を上げた。
工場内で一番背の高い細長い建物の屋上で小さな煙が上がった。
「俺の仲間・・・か。行くぞ」
嶋川はやみ始めた雨の中を走り出した。
アグモン、谷川、ホークモンが続いた。
 
 
ネオデビモン戦。第1戦勝者『水の大賢人』第2戦勝者『炎の討伐者』『風の修験者』
 
 
積山とギルは山のように詰まれたドラム缶の裏にいた。
「さて、どうしようか」
積山は腕組みをして考え始めた。敵は2体。1体はネオデビモン、もう1体はこの前グルグル巻きになっていた天使。
ネオデビモンの態度からして天使はギルより少なくとも2つランクが上だろう。ネオデビモンはデビモンより1つ上ぐらいか・・・。
ギルが言った。
「慎・・。俺達・・・忘れられてたのかもな」
積山はそれを無視して言った。
「とりあえず逃げよう。和西くんか嶋川くんに合流しよう。このままでは分が悪い」
辺りを窺っていた積山とギルに影がさした。天使が腰の剣を抜いた。
 
 
 
凄まじい音がして嶋川たちは振り向いた。倉庫の隙間から崩れるドラム缶と隙間から逃げる積山・ギルが見えた。その上空にはネオデビモンの影があった。
「なにやってるんだあいつらは!」
アグモンが言うが早いか走り出す。
「[スピッドファイア]!」
爆音と共に炎の塊が3発放物線を描いてネオデビモンをかすめた。
 
 
ネオデビモンは自分に迫り来る火炎弾をすべてよけるとアグモンに向けて急降下した。
ように見えた。   
 つまり急降下の途中で消えていた。
「なっ!?出て来い!」
叫んだアグモンが背を向けていた倉庫の壁がぶち抜かれネオデビモンはアグモンを前に吹き飛ばした。
そのままネオデビモンは急上昇した。また見失った。ガスンッガスンッと凄まじい音がして白い槍が数本降り注いだ。
「やべっ!!」
嶋川は谷川とホークモンの首根をつかむと屋根の下に引きずりこんだ。
「こちらから見えないほど高い所から飛び道具で攻撃・・・ですかね」
いつの間にか腕組みをして横に立っていた積山を見て嶋川たちは飛び上がるほど驚いた。
「お前いつの間に・・・」
「ついさっきです。それよりどうします?あれに太刀打ちできそうなのは辻鷹くんぐらいですけどね」
ところで、と続け積山は谷川を見て言った。
「あなたは誰ですか?」
嶋川は答えた。
「盾を持ち鳥をつれたテイマーってやつだ。・・・和西の言うとおりのな」
 
 

更新日時:
2007/06/17 
13    第12話 「試練」
積山は何度かうなずくと言った。
「まさかここまで本当になるなんてね」
その頭のすぐ脇を槍が通り過ぎ、髪の毛が数本宙に舞った。
「今のは近かったぞ・・・!」
ギルが積山を倉庫の屋根の下に押し込みながら言った。
「どうやら目はあまりよくないらしいが・・・」
嶋川は顔だけ出して空を見やった。さっきまで雨を降らせていた黒い雲が空を覆っていた。平たく言えばネオデビモンの姿は見えない、ということだ。
「うっ・・・・・・・」
谷川が座り込んでいた。ホークモンが背中を支えていた。
「うっ・・・ぁ・・」
両手で耳を押さえている谷川は何かぼそぼそつぶやいていた。
「そろそろ何か考えないと・・・・」
と積山。再び腕組みをして辺りを思案顔で見回した。しかしここは開けた場所の中心だった。
「お前の考えてること当ててやろうか・・・。いい的、だろ」
ギルの言葉に積山は苦笑し、
「一字一句」
そう答えた。
そのとき、ずっと耳をふさいでいた谷川が倒れた。眼を見た積山が驚いてそばに座り、もう1度覗き込んだ。
瞳孔が透き通ったエメラルドグリーンに染まっていた。同時に谷川がうるさい、とつぶやいていたことも
 
 
「どうした!?なにが聞こえる?」 
ホークモンが谷川を上から覗き込んで言った。
谷川はしばらく耳をふさいで横になっていたがハッと眼を開けるとよろめきながら立ち上がった。
 
 
彼女の耳はさまざまな音の中にかすかに羽音を捉えていた。全てをその音に傾ける。羽音は少しずつはっきりしてきた。
谷川は屋根の外に出ながら盾内蔵のボウガンのロッドを引いた。空気が圧縮され、装てんされた。
「!」
猛烈な勢いで空気を裂く音が聞こえた。「ホークモン!!真上!」
「![フェザースラッシュ]!!!」
ホークモンが頭の羽を投げ、真上から谷川に降り注ぐ白い槍をはじき返した。
金属質の音を響かせ槍が落ちると同時に回すようにして真上に盾を上げた。前部分が開き銃口が姿を現した。羽音以外の音が消える。
音の聞こえた正確な方角が分かった。盾の内部の引き金を引く。ロッドから手を離した。
重い音が3つ続き、
 
 
上空のネオデビモンは凄まじいスピードで自分に飛んできた攻撃を見た。初弾、次弾が唸りをあげてはるか遠くを通り過ぎていった。
視線を前に戻したネオデビモンの顔面に次弾に続いて打ち込まれた3発目の空気の銃弾が命中した。
「ガッ・・・!」
 
 
「・・・!落とした!・・・」
ギルの視線の先には谷川に向かって落ちていくネオデビモンがいた。
谷川は盾を取り落としたかと思うと倒れた。ホークモンが谷川の上に飛んで見上げた。
ネオデビモンは右手を突き出して落ちてくる。
「計を道連れにするつもりなのか・・」
つぶやきながらホークモンは頭の羽飾りを取り外し、構えた。
 
「そうはさせない。計は私のテイマー。私が守る」
 
ネオデビモンは縦に裂かれ消滅した。
 
 
「はぁ・・・疲れた・・・。いやー、下手な鉄砲数撃ちゃ当たるってやつだよねっ」
谷川は腰を上げて盾を拾い上げた。
嶋川とアグモンが同時に言った。
「いや、マジで助かった」
 
 
 
和西たちを探しに来たギルが雨で流れかかった血痕を見つけた。積山は管理塔を見上げて言った。
「なるほど、あそこですね」
足の先がはみ出してぶら下がっていた。
 
 
和西とゴマモンに光りが当たった。雨がやみ始めた。
ゴマモンは目を覚ました。ギルに摘み上げられていた。爪につつかれ続けた背中が痛かった。
次に見えたのはひざを突いた積山と支えられた和西だった。
「やぁゴマモン」
和西が言った。ゴマモンもニヤッと笑って、
「勝ったね」
と言った。
2人は喉の奥で笑うと抱き合って叫んだ。
「やったー!!!勝った・・・って落ちる!落ちるっての!!」
積山とギルがそれぞれの体をつかんで真ん中まで引きずった。
 
「危なかった」
「・・・・・・・」
その場にいた全員の緊張がとけ、体の力が抜けた。
 
 

更新日時:
2007/06/17 
14    第13話 「凍結」
治療の痛みにわめく声がうっすらと聞こえる病室には辻鷹とガブモン、積山と ギルがいた。
「へぇ・・・・いろいろあったんだね」
辻鷹がロッカーから上着を引っ張り出しながら言った。
ガブモンがそれを手伝う。
とにかく、と言って積山はギルから辻鷹の銃を受け取り、
「ま、退院おめでとう」
持ち主に返した。
ドアが開き、和西達が入ってきた。
「・・・よくそれだけですみましたね」
積山は和西の額に巻かれた包帯をみて言った。
「いや・・・まぁね」
和西はしぶい顔をして答え、後から忍び笑いをもらす嶋川たちが入ってきた。
 
「それで全員絶対参加の会議っていうのは?」
アグモンが聞いた。和西は
「まぁいろいろ」
と切り出し、続けた。
「いまさらって感じもするけどまずは新しい仲間の谷川計さんとホークモンね」
「ん、よろしくっ」
「よろしくお願いします」
「これでとりあえず5人。あと5人どっかにいるはずなんだけど・・・」
「その内出てくるんじゃねぇの?」
嶋川の発言に、
「・・それらしい人物がいたら全員に知らせてください。右手の甲に紋様のある人を・・・」
積山が被せるように言った。
「積山さん・・・。“それらしい人物がいたら”なんでしょ?」
谷川が顔を覆い隠すような仕草をし、笑った。
 
ホークモンが何かに気づいた。
「計、あれを!」
その指す先には2,3体のデビモンが滑空する姿があった。
嶋川とギルが窓際に立って見上げる。
「ここの所やけに多いな」
「被害者も結構出てるらしいよ。確かにあんなのあいてにフツーの人間太刀打ちできないよな」
 
「3体、だってっ。どうするんです!?」
谷川は試すような目で積山に促した。
積山は親指で指して
「当然、追いかけましょう」
即答だった。
 
 
「ゼェゼェゼェ・・・。ごめっ・・ごめん、ちょっと・・・・」
辻鷹が国道脇のガードレールにもたれかかって言った。微妙にさわやかな微笑みを浮かべている。
「辻鷹君!がんばれ!」
半分明らかにからかい口調で谷川がはやし立てた。和西がそれを制して辻鷹に近寄って言った。
「まぁ出来るだけ早く来てよ」
ガブモンは辻鷹を背負うと首を振って
「そうするよ・・」
と言った。
 
 
嶋川は木の陰から様子を伺い言った。
「あれ・・・だな」
嶋川は林に入っていくデビモンを覗き見ていた。
谷川は積山を押しのけてとなりにしゃがむと言った。
「あれ・・・だな」
嶋川を見上げて口元だけ笑うと右手の盾のロッドを引いた。
「どう思う?」
和西が聞き、
「相手の配置がまったく分かりません。二手に分かれて林の端から少しずつ近づきましょう」
と積山が腕組みをして答えた。
和西は全員に知らせると降流杖を腰の後ろから抜いた。
 
和西・ゴマモン、積山・ギルは右側から林の中を進んでいった。
「にしてもなんで2手なんだ?全員で一気に攻撃したほうがいい気がするんだけどな」
ゴマモンを一瞥すると積山は
「ぼくも最初はそう考えたんですけど相手がどこにいるか分からないから囲まれるとまずいでしょ?」
と答えた。
「!」
「!」
「!」
「[ブラッドネイル]!!」
説明し終えた積山の脇の大木、その枝の上にネオデビモンがいた。ギルはいち早く右手を振りかざしたがその瞬間蹴り飛ばされた。
積山は断罪の槍を抜いたが間に合わずネオデビモンに連撃を受けた。
しかし和西は信じられないような光景を目にした。
積山は軽い動きでネオデビモンの攻撃をすべて受け流すと断罪の槍を剣に変形させネオデビモンの腕を切り落とした。
断罪の槍を槍の形にし、隣に立った積山を見て和西は
「す・・・すごいね・・」
思わずつぶやいた。
「それほどでもありませんよ」
積山はこともなげにうけ答える。
 
 
嶋川・アグモン、谷川・ホークモンは非常に見通しの良い竹やぶを進んでいった。すぐに最初にのぞいていた辺り、つまり中心地点に来てしまった。
「どうする?」
アグモンがアゴをかきながら言った。はずれと分かりきった最後のくじのように4人にはよく分かった。
ここから先にデビモンがいる。
 
 
 
そのころ・・・・
「ほら仁!!がんばれって!!」
「そそそそそそそっ・・そんなこと言ったって・・・ちょっと休憩・・」
辻鷹とガブモンはやっと和西達のいる河川林のある川の橋の上にやってきた。
「そうだ!!」
辻鷹は突如ひざをたたいた。そこにはホルダーが下がっていて銃が収まっていた。
「なんだよ」
ガブモンが首をひねるのを見ずもせずに辻鷹は2丁の銃を組み合わせてライフルにした。
「ここから狙い撃ちにするんだよ。それならあそこまでいかないですむでしょ?」
辻鷹は欄干の隙間から銃口を出して狙った。目が蒼く染まり、ガブモンはため息をついて
「分かったよ」
あきらめたように言った。
 
 
「っの!!!」
和西はキッと見上げてネオデビモンを見る目が青く染まった。
和西は凄まじい動きで跳躍し降流杖でネオデビモンを叩き落した。
「おわっとぉ・・・」
和西は枝に辛うじてぶら下がり、スッと着地した。
「[マーチィングフィッシーズ]!」
ゴマモンが地面に激突したネオデビモンに追撃をした。
半身の砕けたネオデビモンに積山とギルがトドメを指した。
 
 

更新日時:
2007/06/17 
15    第14話 「闘神」
積山は新手のネオデビモンの連続攻撃を回避しつつジリジリと交代していった。4体ものネオデビモンが上空から襲い掛かってきたのだ。
「マズい・・・・っ」心臓を狙った右腕を断罪の槍で切り落とした瞬間積山の背中にどう考えても生き物が当たった。
「ッ!!!」積山は剣をひるがえして背後の敵に切りかかろうとし、やめた。
「ひっ・・・・お・・・お・・・おゆ・・・・ごめめめめめごなさひぃいいいい」
「・・・谷川さんでしたか・・・」
「よそ見するな!!!」
ネオデビモンの左腕が積山に襲い掛かる瞬間嶋川とアグモン、ホークモンが同時に襲い掛かった。
「!!」
積山も断罪の槍を胴体に打ち込み、ネオデビモンは消滅した。
「まずい!新手だ!」
ゴマモンが叫び、ネオデビモンが空から降り立った。
 
 
「ホントまずい・・・・」
彼らは次第に追い詰められていった。ネオデビモンは軟着陸をしてそのままの状態で立っていただけだがさすがにそのまま立っている訳には行かなかった。
 
少しずつテイマーたちは追い詰められていった。
「うかつでしたね・・・」
積山が断罪の槍を構えなおす。
凄まじい音が響き和西の目の前のネオデビモンが撃ち抜かれた。
「!!」
文字通り凍りついた1体をのぞき全員が驚いた。
「さすが!」
和西を皮切りに全員がネオデビモンを避けるように四散した。対するネオデビモンの数は8体。
 
 
アグモンといつの間にか離れた嶋川はネオデビモンの攻撃から逃げるのが精一杯だった。
背後に気配を感じ、振り向いた嶋川はもう1体のネオデビモンが長い腕を振りかざすのを目に捉えた。
そしてその瞬間何かにつまずいてそのまま後ろ向きに倒れた。
「おわっ!?」
取り落とした炎撃刃を握りなおすと嶋川はつまずいたものを見下ろした。そして驚いた。
「ど、!?どうした!?」
泥だらけになってぐったりとした谷川を見つけた。
「くそっ・・やられたのか・・・!」
ネオデビモンの存在を思い出した嶋川はハッとして顔を上げた。
2体のネオデビモンが2人を見下ろしていた。そして同時に言った。
「・・・・シネ・・・・・」
ネオデビモンの攻撃をかわし、はじいたが爪が背をえぐった。
「ギャァァァァァァァァァァ・・・・!!!!!」
「・・・シ・・・ナセハ・・・・・・・シ・・・・・・・ナイ・・・・・!」
嶋川と谷川に新たに影がかぶさった。全身が黒い水に様なものに覆われ、細長い腕のようなものがところどころ生えていた。
その触手がすべて鎌になり、ネオデビモンを刺し貫いた。ネオデビモンは全身を切り刻まれ消滅した。
「シヌナ」
それだけを言い残し黒い影は立ち去った。
 
嶋川は谷川を抱きかかえるようにして気を失った。
 
 
 
 
「うっ・・・・これは・・・・・」
あちこちから血を流し積山は林をふらふらと歩いていた。額から流れた血が右目を中心に顔を割っていた。
右手の紋様が黒い水で覆われている。
積山はがっくりとひざを突き右手を見た。D−ギャザーは黒く光るヒビに覆われていた。
やがて積山は倒れ死んだように気絶した。
 
 
和西は林の中を駆け抜けた。
「和西!まずい・・・不利だ。辻鷹に見つけてもらおう」
ゴマモンが和西の背にしがみつきながら言った。
その頭上を飛んでいった影があった。
 
 
「あれは・・・!?」
辻鷹はライフルをすばやく分解しながら眼を発動した。
「まずい・・・!ネオデビモンだ!」
辻鷹はオートタイプの銃を右手に構え撃った。ネオデビモンは羽を凍らされ橋にしがみついた。
衝撃であまり大きくない橋が少し壊れた。「仁!下がれ!」
ガブモンが口から炎を吐いた。
ネオデビモンが脚力だけでよけ、辻鷹に飛び掛った。辻鷹は道路を転がり右手の銃を1発撃った。
辻鷹得意の氷の壁が出現した。辻鷹はそれを見届けるとガブモンに駆け寄ろうとして振り向いた。するとそこにネオデビモンが立っていた。
「シネ」
ネオデビモンが腕を繰り出す。
「死なせるか!!」
ガブモンが割って入り2人は欄干にたたきつけられた。
 
 
林を駆け抜けていた和西とゴマモンは血まみれで倒れた積山と覆いかぶさるようになったギルを見つけた。
「エサ」
ネオデビモンが2体現れた。
「エサ?」
和西とゴマモンは身構えながら同時に聞いた。
ネオデビモンは積山を指し、
「エサ」
と感情のまったくない声で言い、和西を指して
「オビキヨセル」
和西はそれ以上聞かなかった。
「っ殺ッ・・・・!!!」
和西とゴマモンはネオデビモンに襲い掛かった。同時に脇の茂みから1体ずつ、2体のネオデビモンが飛び出した。
「シネ」
和西とゴマモンは集中攻撃を受けた。
 
 
横たわる和西たちを見下ろすネオデビモンは上を見上げた。ウィルドエンジェモンが降りてきた。
「林の中のテイマーとパートナーをここに集めなさい」
ネオデビモンは平伏すと行ってしまった。
しばらくしてネオデビモンが嶋川たちを抱えて帰ってきた。ウィルドエンジェモンは積山を抱きかかえると額を当てた。
「では・・・にが・・・・・・・・コロセ」
ウィルドエンジェモンは途中で何か言いかけ、1言命令すると羽を広げ飛び去った。ネオデビモンは命令を実行しようとにじり寄った。
 
 
 
「悪いけど殺されるわけにはいかないよ」
 
 
 
辻鷹は左手でもう1丁抜くと至近距離でネオデビモンの顔面を打ち抜いた。同時に、
「[リトルホーン]!!」
ガブモンが頭部のツノをネオデビモンの胸につきたてた。ネオデビモンは後ろに吹き飛び、消滅した。
「いてててて・・・・そうだ、みんなは大丈夫かな・・・」
辻鷹は眼で林のほうを見た。
「どうだ?」
「木が邪魔でよく見えない・・・。」
 
 
 
和西は太陽を背にして飛び上がった。次の瞬間和西を見失った1体は両腕を切り離されていた。
攻撃を飛んでさけ、和西は積山の隣に立った。
「やるもんですね。?・・・傷の治りが早い・・・」
積山は額をさすりながら立ち上がった。
「さてどうする?」
立ち上がった全員が言った。
 
 

更新日時:
2007/06/17 
16    第15話 「死闘」
「こんな形で囲まれると思いませんでした」
積山が断罪の槍を抜きながら言った。続ける。
「1体ずつ攻撃して林の外にだして辻鷹くんに狙撃してもらいましょう。半分は援護です」
「了解だ」
嶋川はすぐに納得して炎撃刃を抜いた。
 
積山・ギルが右から、和西・ゴマモンが左から同時に攻撃した。腕と翼を切り離す。他のネオデビモンは空気の銃弾と炎に阻まれた。
辻鷹はライフル脇のグリップを操作して威力を底上げした。
「ガブモン、しっかり押えててよ」
照準器だけで林の外に吹き飛ばされたネオデビモンの頭部に狙いをつけた。
「あいたたたたた・・・」
凄まじい音と衝撃が辻鷹・ガブモンにかかる。冷気の塊がまっすぐ飛んで行きネオデビモンの頭に命中。
周りの水分を氷結させできた氷の槍がネオデビモンを貫いた。
「?」
ゴマモンはネオデビモンが消滅する寸前何か後ろに影があることに気がついた。
しかし追い込まれたもう1体の相手をするうちに忘れてしまった。 その一体も頭部を撃ち抜かれる。
 
 
 
数分後・・・
辻鷹のケータイが鳴った。
「えっ!?どこ?どこ?」
辻鷹は体中のポケットを探り、ようやく見つけるとボタンを押した。
「もしもし?あっ嶋川くん?」
「よっ、大丈夫か?全部片付いたからお前も早く来い」
一方的に通話が断ち切られた。辻鷹はやれやれとケータイをしまう。
ライフルを分解しながらガブモンに言った。「ありがとね」
「こっちこそ」
辻鷹は銃をホルダーに戻すとガブモンと川に下りていった。
 
 
林の中ではテイマー4人とパートナーが適当な所にいた。
「あぶねー、マジで死ぬかと思った」
嶋川が首をコキコキと動かしながら言った。谷川もひざをさすって
「今さら足が震えてきたよ・・・」。
積山はD-ギャザーをいじっていた。
「・・・ヒビがない・・」
「見間違いじゃねえの?」
ギルがとなりから覗き込んだ。
「・・・・ケガ、直るの早いな・・・・」
積山はあぁそうだった、という顔をして額をさすった。肩をすくめて、
「すっごく痛いんだけどね」
谷川はホークモンから枝と泥をはずしていたが急に大声を出した。「あぁぁーー!!!」
すると土手を降りてきた辻鷹は驚いて足を踏み外した。
谷川は服の泥をはたく、
「大事な服なのに・・・」
アグモンは再び寝そべって
「なんだ・・・服ぐらいで大声出すなよ・・・」
とつぶやいた。
「うるさいなー、これしかないんだもんっ」
谷川はホークモンを放して上着を脱いだ。
 
 
和西は芝生の上に寝転がっていた。ため息をつく。
「今回ばかりは疲れましたねぇ」
積山が木にもたれかかって言った。和西は苦笑して「まぁね」と答えた。
しばらく黙って和西は
「もう5人そろったね」
そう言った。積山はそうですね、とつぶやいた後、
「君がいつかに見た夢の順番に。ってすごいじゃない?」
ゴマモンがは
「やばいぐらいピッタリ言い当てたねぇ」
ギルも半分興味なさげに
「でまかせかと思ったんだけどな」
と言った。
 
「後5人もいるんだ、・・・想像つかないよね」
谷川がとなりで寝そべった嶋川に言った。「しらね」
一言だけ言うと嶋川は起き上がった。
「なぁ和西、お前何かいい名前とかおもいつかないか?」
和西は頭だけ起こして怪訝な顔を見せた。
辻鷹とガブモンがやってきて、
「ようするにチーム名みたいなの?」
と尋ねた。
「チーム名ねぇ・・・」
ゴマモンはあたりを転がり始めた。そうだねぇとつぶやくながら和西は少し考えると、
「十闘神、とかは?僕とゴマモンで『水の大賢人』、みたいに銘を持ったテイマーが十人、みたいな」
しばらく川の水が流れる音だけが聞こえた。
「ま、今、ふと思いついたんだけどね」
和西は照れくさそうに、首筋をかいた。
辻鷹はその場に腰を下ろし、
「ぼくは・・・いいと思うんだけど」
そして谷川も
「うん!賛成っ。なんかカッコイイしね!」
と笑顔で言った。
「お前どうなんだ?」
アグモンが嶋川の背中をつついた。谷川は無理やり嶋川の視界に倒れこむと
「文句ある〜?」
声に出さずに笑いながら言った。
嶋川は上を向いて、
「ねぇ」
とだけ言った。積山はギルと目を合わせた。
「ない?」
「ない」
2人は同時に言い、積山は見回してから、
「異議なしですね」
と和西に伝えた。
「ホントに思い付きだったんだけどね」
苦笑しながら和西は立ち上がった。
 
 
和西達と別れた嶋川、アグモン・谷川、ホークモンは歩道、屋根の上をそれぞれ歩いていた。
「あ〜んもう、草だらけだよぉ」
長い髪の毛を解いてくしを通しながら歩く谷川に嶋川はとりあえず聞いてみた。
「お前、林の中で何か黒いものに助けられなかったか・・・?」
谷川は真剣な表情をし何も言わずくしを通し続けた。
しばらくしてくしをしまうと谷川は口にくわえていたヒモを手にとってうなずいた。
「やっぱりそうか・・・」
嶋川もつられて真剣な表情で腕組みをした。
ネオデビモンの首だけを体から無数に生えた鎌で的確に狩る黒い影の姿がうっすらと脳裏に焼きついていた。
「なんか・・うまくいえないけど、冷たい感じが・・・した」
嶋川はうつむいて立ち止まった谷川を追い抜いてしまった。
 
 
「どう思う?」
アグモン、ホークモンも自然に足が止まる。
「どう思うも何も・・・雰囲気的にはあまりいい感じじゃなかったがな」
ホークモンは首をひねると谷川、嶋川を見下ろした。
「計は・・・どう思ってるんでしょう」
アグモンは首をかくと同じく下を覗いた。
「あいつも・・・な」
 
 
谷川は振り向くと言った。
「悪い感じはしなかった・・・。優しい感じがした。・・・気のせい?」
嶋川は
「しらね。・・・同感だけどな」
とだけ言うと角を曲がってしまった。
「ふぅ〜ん、わりといい人なんだね」
谷川は結んでもらった髪をうれしそうな顔で撫でると嶋川とは逆の道を歩き出した。
 
 

更新日時:
2007/06/17 
17    第16話 「検査」
時計の針が5時を指した。それと同時に和西は起きなかった。ゴマモンと一緒にベットの中で寝息を立てていた。
そして・・・
 
時計の針が9時を指した。それと同時に和西はテレビを消した。ゴマモンは袋に残ったスルメを全て口に流し込んだ。
「足の長い奴は早く走れていいよなぁ」
ゴマモンはもぐもぐとスルメを噛み下しながら言った。
「・・・十分早いと思うけど・・・」
和西は巨大なトンボを思い浮かべながら言った。
「走ればいい、て物じゃないんだよ。二本足で颯爽と、がいいんだよ」
和西はしばらくゴマモンを見て、
「デビモンからネオデビモンに変わったよね」
と言った。ゴマモンは、
「それだ!何とかならないかな」
と声を上げた。
ゴマモンは何か妄想にふけり始めた。そのとき・・・
電話の音が響いた。反射的にゴマモンをベットの下に押し込んだ。
「ふぎゃ!!」
「なんだ、電話か・・・」
和西はゴマモンを引っ張り出して階段を駆け下りていった。
 
 
「和西、早く来い」
短く言われ、次の瞬間切られた。今の声は嶋川だな・・・・
「・・・・・・・・!」
和西は何が起こったかすぐにはわからなかった。しかし、
「しまった・・・忘れてた・・・・」
どうしようか、などといってられなかった。財布とゴマモンと降流杖をスポーツバックに投げ込むと、和西は家を飛び出した。
鍵だけはしっかりかけた。
 
 
10分ほどかかって、和西は新藤医院に到着した。積山、嶋川は本人の性格がよく現れた服だったが谷川だけは制服姿だった。
和西は息を切らしながらも口を開いたが、
「ごめんなさい寝過ごしちゃって・・・」
後ろから息を切らし現れた辻鷹に言われてしまった。寝過ごしたわけではないが。
「やっとそろったみたいだね」
新藤が出てきた。鍵をかけ休診の札を下げる。積山は、
「何でどこに行くんです?」
とたずねた。
「とりあえずこれでいく」
そういって新藤はガレージを開けた。大きなワゴン車が現れた。
 
 
「免許・・・持ってたんですね」
積山は神妙な顔をして隣でハンドルを操る新藤を見た。2列目に和西、辻鷹、が並ぶ。
「・・・広いね」
しかしガブモンはシートベルトで拘束され、ツノが天井をこする。
3列目は嶋川、谷川とホークモンが座り、
「なんでお前制服なんだ?」
「ええい触るな!これしか着れるのなかったの!!」
やかましい。
そして・・・
「俺達は荷物扱いか?」
アグモン・ガブモン・ギルが正座して最後部に収まっていた。
ギルの言葉をさらっと無視すると積山は新藤に言った。
「ところでどこに行くんです?まさか本当にギプス見に行くわけじゃないでしょう」
新藤は、
「まぁつけばわかる」
そう短く答えた。
 
 
 
走ること1時間。
「つけば分かる・・・・・・」
和西は車が通り過ぎる瞬間、門に掲げられた『国立生物対処学研究所』という文字をみてつぶやいた。
「私の知り合いが所長を務めている研究所でね。きみたちについて検査をしてもらう」
嶋川が窓の外に目をやると白衣を着、研究員5人を従えた壮年の男が駆け寄ってきた。
 
数人の研究員に誘導されてワゴン車は地下の駐車場でエンジンを止めた。
「どうも!ひさしぶりですねぇ!」
白衣の男と新藤は親しげに話し始めた。ゾロゾロと和西達も車を降りる。
男は顔中に笑みを浮かべ、
「やぁ、よく来たね。私はこの研究所の責任者の二ノ宮だ。さぁて今日の研究対象は君達だ!」
などと言い出した。
 
 
 
辻鷹は椅子に拘束され、両目脇・右手甲を中心にケーブルでつながれていた。
「ななななななななにするんですかかかかか・・・!?」
怯え、あせる辻鷹の正面の床からなにかせり上がった。
 
積山はモニターからその一部始終を眺めていた。そして背後に立った二ノ宮所長に、
「これが理由ですか?」
と聞いた。所長は笑顔でうなずく。
「どーいうこと?」
谷川が慌てふためく辻鷹をモニターごしに鑑賞しながら聞いた。
「ようするに辻鷹くんの異常に高い視力とかの秘密を調べようということでしょうね」積山は谷川に向き直って言った。
「ご名答!それとあとで君達に会わせたい人もいるしね」 
モニターには床から現れた箱と辻鷹が表示されていた。
「なに・・・あれ」
 
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
辻鷹は箱をにらみつけた。Cと表示されている。
「・・・・・右」
画面が入れ替わり、違う方向を示した。
「上」
少し小さくなり、また表示された。
「左」・・・・・・・・・・・・・・・・
 
 
 
「検査結果でました!」
操作していた研究員がシートを差し出した。所長は受け取ると読み始め、そして「ほぉ!これはこれは・・・なるほど、氷の狙撃手とは言ったものだ!」
「なるほど、低い」
「目ぇいいなぁアイツ」
「難しいな、わかるの?」
「見えないよー」
谷川にも見えるようにモニターの机にシートが置かれた。
シートには箇条書きになったなにかの数字とレントゲン写真が印刷されていた。よく見ると数字全ての頭に『−』がついていた。新藤はレントゲンを指し、
「ここを見てごらん」
谷川は首をかしげ、
「これ、この透明なのなんですか?」
と聞いた。新藤は顔を上げると短く答えた。
「氷だよ」
 
 
和西達は所長・新藤の後をぞろぞろついていった。すれ違う研究員達がパートナーデジモンを興味深そうな目で見送った。
しばらくして角を曲がると一行は何かに出くわした。
「オット、オマエカ」
金属質な声が話しかけた。所長は頭をなでると
「いや、すまない。ほら、お前足音しないだろ?」
所長はそう言ってから脇に退いた。すぐ後ろにデジモンが浮いていた。驚く和西達に所長が紹介した。
「彼はパートナー兼助手のハグルモンだよ」
「もしかしてオッサンが6人目?」
アグモンが聞いたが所長はいやいやいやと手を振り、
「いわゆる普通のテイマーだよ。そしてそういう人間は少ないながらも存在する」
と言ってポケットに手を入れた。
出てきた手にはデジヴァイスが握られていた。谷川はそれを見て首をかしげる。
「あたし達のと形が違うね」
所長は
「それも含めて後で話そうか」
というと、
ハグルモンに耳打ち(?)した。ハグルモンは
「ワカタワカタ」
と言って向こうに行ってしまった。
 
 
それからしばらく進み、一番角に突き当たった。金属製のドアがあり所長はノックもせずに勢いよくドアを開けた。
「さぁ!ご対!・・・・・・め・・・・・ん・・・・・」
所長の声は少しずつ小さくなっていた。和西から飛び降り、ゴマモンは足の間をかいくぐって部屋に入った。
「ありゃりゃ・・・」
部屋には大きな水槽・本棚・ベットと机、それとイスが1つだけある殺風景な部屋。イスに女性が一人座っていた。
中身が飛び散った皿がカタカタと音を立ててゴマモンの前まで転がり、止まった。
 
和西達に続いて
「・・・すまん」
できるだけ体を小さくした所長が入り、最後に新藤がドアを閉めた。
蜂のようなデジモンが料理を拾い集めて捨てた。女性はため息をつくと所長に向き直って尋ねた。
「この人達が昨日の話の?・・・」
女性は皿を拾い上げ、ゴマモンの頭をなでると皿をデジモンに渡して敬礼をした後言った。
「デジタル未確認生命体対策組織第3部隊隊長二ノ宮涼美。彼はパートナーのファンビーモン。そして・・・・」
二ノ宮と名乗った女性は右手を突き出して言った。
「銘は『鋼の千計師』」
辻鷹はファンビーモンを見て声を上げた。
「もしかして前に会ったことあります?」
二ノ宮は肩をすくめると答えた。
「ありますね」
ガブモンは、
「あぁ、なるほど・・・。て何で攻撃した!?」
と二ノ宮をにらみつけた。彼女はうつむくとファンビーモンと顔を見合わせた。
「あのときはごめんなさい。情報不足だったし・・・。第一捕獲が任務だったんだけどね」
しばらく誰も何も言わず、和西はたまりかねて、
「その、二ノ宮さんはなにか変なことができたりするんですか?」
すると二ノ宮は怪訝な顔をした。
「おなじ仲間なんだから好きな風に呼んで欲しいし敬語みたいなしゃべり方もしないでいいわよ」
たじろいた和西をみて所長は、
「まぁまぁ、それよりちょっと来なさいよ」
言うが早いか二ノ宮と辻鷹を引っ張って部屋を出て行ってしまった。
 
来た道を引き返し和西達を引き連れ所長は研究所の中庭に出た。ちょっとした運動場でトラックにハードルが並んでいた。
まず所長はハードルと和西を交互に指差し、
「がんばりたまえよ!」
と言った。和西は
「・・・・・」
無言だった。ハードルは30センチほどずつ高くなり、
その先は30メートルほどの高さの建物につながっており、干された純白のシーツが舞っていた。和西は首を振りながら後ずさった。
「がんばってねっ!」
谷川が笑顔で手を振る。和西はゴマモンに駆け寄って
「何とか言ってよ!」
しかしゴマモンは
「お前ならできる!」
それしか言わなかった。
和西は積山に駆け寄った。が、彼に
「やりなさい」
冷たい口調で言われ寿命が縮む思いをし、後ずさり、結局すごすごとハードルの前に立った。
走り出した和西は1つ、2つと越えた。3つ目に差し掛かったとき和西の紋様が輝き、続けてハードルをパスし続けた。そして・・・・・
ゴマモンを先頭に駆け寄った人たちを和西はシーツの前に立って見下ろしていた。
 
 
降りてきた和西に研究員が駆け寄り、ズボンをめくった。
「・・・・いつの間に・・・」
和西は自分につけられていた機械を見てつぶやいた。
 
 
 
和西が白衣集団に囲まれている間にハグルモンが所長に金属製の箱を手渡した。訓練用と書かれたそれをあけるとゴム製のナイフやプロテクターが整理されて収まっていた。
「これは組織の訓練に使うものでね」
そういいながら所長はプラスチック製の箱からライフルを取り出し辻鷹に手渡した。
そのまま固まってしまった辻鷹の肩をたたくと所長はそのまま彼の背を押した。
 
 
辻鷹は立ったまま気絶したような感じで存在していた。所長はすこし哀れに思ったか「大丈夫、エアガンだよ」
それを聞いたとたん辻鷹は解凍され、
「び・・びっくりした」
それを見ていた嶋川は谷川を小突き、
「いつも撃ちまくってるのにな」
とささやいた。
所長は二ノ宮に目配せし、二ノ宮は20メートルほどの間隔をあけて向かい合った。所長はそれを見届けると
「じゃ、仁君、撃って」
と言った。
辻鷹は驚きと怯えの入り混じった表情で振り向き、二ノ宮は
「だいじょうぶ!!撃てっ!!」
などと言い出した。
数分間の説得の末、辻鷹はライフルを構えた。二ノ宮は普通に立っている。
1発目、かなり右にそれた。二ノ宮は1歩進む。2発目、首筋ギリギリを抜けた。また一歩。3発目、上着をかすった。また一歩。4発目、撃とうとした辻鷹は再び振り返り、見回し、積山を見て怯え、構えた。
4発目、弾は二宮の肩に当たり、跳ね返った。辻鷹は続けて腕、胸、足を狙って撃ったが全て跳ね返された。辻鷹と二ノ宮の間はすでに2メートルほどだった。辻鷹は顔を狙う。
引き金を引いた瞬間二ノ宮の手が辻鷹の狙いに被さった。発射された弾は狙い違わず二ノ宮の手のひらに命中し、跳ね返った。その手のひらは銀色に輝いていた。
「現実(マジ)・・・・?」
ライフルを下げた辻鷹は思わずつぶやいた。

更新日時:
2007/08/03 
18    第17話 「機関」
 
 
 
その後一行は食堂で昼食をとっていた。「どれも科学的に根拠がある。が、今の人間の科学力で出来ることではない」
所長はそう結論付けると食事を再開した。
 
昼食の前・・・
 
谷川は巨大なコンポが流す近所迷惑なロックをもろともせずに100メートル先で積山がもらした舌打ちを聞き逃さなかった。
 
嶋川は辻鷹が撃つエアガンの弾をすべて素手でつかまえた。
 
和西は脚の水分圧力を操作し、驚異的な跳躍力を得るという結果が報告された。
 
二ノ宮は触れた物質を意図的に特殊な金属に変化させることができた。
 
辻鷹は眼球に高密度の氷のレンズを形成し、それにより視力が跳ね上がる。
 
 
で、
 
「ぼくだけ何にもなし、ですか・・・」
積山もさまざまな検査をうけ、体力・IQ値をのぞいて平均値だった。
谷川はさっさと食べ終えると、
「でもなんであたし達だけこんなすごい能力持ってるんですか?」
所長に尋ねた。彼は思い出した、というような顔をして料理の皿を脇にやると和西達にD-ギャザーを出すよう促した。全員が右手からはずし、机に置いた。
「今わかっているのは・・・ね」
所長は和西のD-ギャザーを手に取り、裏返した。
「ここに石のような物質がむき出しになっているんだけど・・・」
更に続ける。
「デジヴァイスの内部には特殊な物質があり、それを覆うようにして形成されていてね」
全員がひっくり返した。
確かに透明な石のようなものがあり、和西のは蒼く、嶋川のは紅い。谷川のはエメラルドグリーン、二ノ宮のは銀色だ。積山は黒く、辻鷹のはすんだな青だった。
 
 
 
しばらくそれぞれのD-ギャザーに見入っていた。
「いろいろな証言を統合して考えてみた。私やこの組織を初めとして世界中にテイマーは存在する。しかしデジヴァイスは・・・皆これだ」
所長はポケットからD-ユニオンを取り出した。
裏返したそれは全面を覆われていた。画面の向こう側にうっすらと見える。
「それに比べ・・・君達のデジヴァイスは内部の物質が直接触れるようになっている」
辻鷹はすこし首をひねった後、
「つまりその・・・物質かなにかの力でぼくの視力が上がったりするってことですよね」
所長は、「そういうこと」とだけ答えた。
 
そして、
「さて!!食後の運動に行くか!」
所長が立ち上がり、和西・辻鷹・二ノ宮は顔をしかめた。
 
 
 
「うわぁ!!これすごいですねっ」
谷川はじめ、積山以外の全員はプロテクタをつけていた。
所長は不敵な笑いを浮かべ、
「すごいでしょ、組織の訓練場だよ。敵に見立てたハリポテを倒してゴールを目指してくれたまえ」
 
 
和西達を見送った後、所長は積山とギルに向き直った。
「さてと」
「1つ聞きますよ?」
「ダメ」
「・・・・・」
「冗談だよ」
「・・・他のテイマーというのはなんです?」
「いま確認されているのは組織の上層部と組織の・・」
所長は訓練所を指し、
「戦闘部隊と一部の研究員。国内の民間人のテイマーは確認されているのは君たちだけだが・・・確実に存在する」
「例の白い砂・・・ですか?」
「するどいね。さすがIQ高いだけのことはある」
「あれは何かの間違いでしょう?普通じゃないですよ、あんなの。それより、外国にもテイマーがいるんですか?」
「組織の本部は日本にある。逆に言えば支部がいくつかある、ということになる」
「そこに所属しているひとが?」
「そう。大半がテイマーだ。民間人のテイマーも数人確認されているしね」
「知りませんでした・・・」
所長はモニターに移る二ノ宮を眺めながら言った。
「上層部は表沙汰にすることを拒んでいる。混乱が起こるのはまず間違いがない。結果として・・・」
所長は頭をなでながら言った。
「結果としてね・・・娘にも嫌な思いをさせてしまったよ。父親失格だなまったく・・・」
 
 
 
和西・ゴマモン、嶋川・アグモンは階段を上っていた。あちこちに修復した跡が残っている。
「父さん?」
 
嶋川の家族、例えば父親とかは?という問いに和西は少し表情を曇らせ、頬を掻いた。
ゴマモンは和西の肩にしがみつきながら
「どうだ?話してやってもいいんじゃないか?」
和西はゴマモンを肩から下ろす。
「・・・、そうだね。父さんは僕が小学校に通ってた頃死んじゃったんだけどね。母さんはイギリスに出張中だしなぁ」
と言った。
それを聞いた嶋川は顔を歪めた。
「しまったなぁ・・。すまん・・。おれは何回人に嫌な話させれば気が済むんだろうな・・・」
アグモンは何も言わず先頭を歩き出した。
「ついこの前谷川に嫌な思いさせたばっかりだしな・・・。鈍感というかなんと言うか」
和西は驚いて聞いた。
「谷川さんどうしたんですか?」
嶋川は歩いたまま答える。
「谷川は両親を撃ち殺されてるんだよ」
現れた敵プレートを真っ二つにした。
 
 
 
 
日が暮れ始め、和西達は車に戻った。二ノ宮は背負ってきた谷川をシートに座らせた。二ノ宮はシートベルトをかけながら、
「疲れたみたいね」
と言った。
「じゃあまた来なさいよ」
所長は車に乗る和西たちに呼びかける。
「さて、帰るかな」
新藤はエンジンをかけ、車を出した。二ノ宮とファンビーモン・所長とハグルモンが手を振っていた。
 
 
 
和西は谷川が毛布に包まって寝ているのを確認すると積山に自分と谷川の両親のことを知らせた。
「・・・・」
話を聞いて積山は何も言わなかった。しばらく静かにエンジンの音が聞こえる。
「じつは・・・ぼくの母さん、行方不明になってるんです。直前に父さんも行方不明になっているので・・・」
すると辻鷹も、
「ぼくの父さんは病気で5年位前に亡くなったんだよ?」
と言った。積山、和西、嶋川は驚いた。
「父さんが死んだのは・・・5年前だ・・・」
「ぼくの父が行方不明になったのと母が行方不明になったのも・・・5年前です」
「おいおいおい・・・。おれの家族が事故ったのも5年前だぞ?」
積山はいつもの腕組みをした。
「・・・・谷川さんの両親が殺害されたのはまさか・・・」
「・・・5年前、だよ」
「うわぁ!!」
驚いた新藤はハンドルを切りそこね、道の脇に車を急停止させた。
嶋川は愕然とし、
「起きてたのか・・・?」
つぶやいた。谷川はうなずき、
「私の耳、すごくいいんだもんね」
と言った。
車が再発進した。積山は前に向き直る。
「5年前、か」
辻鷹は
「偶然?にしては・・・」
積山もうなずき、
「できすぎてますね」
と言った。
谷川は毛布を投げ出すと、
「涼美さんは?お父さんはいたけど・・・」
とつぶやいた。ホークモンは、
「所長殿はテイマーですね」
と最後部から言った。
和西は身を乗り出し積山にいつもどおり、「どう思う?」
と聞いた。積山もいつもどおり和西に振り返り、
「そうですね・・・」
少し考え言った。
「いまはまだ6人でなんとも断言はできませんが・・・5年前に何かあったかもしれない」
 
 

更新日時:
2007/06/17 
19    第18話 「友人」
 
 
月曜日。積山慎は聖賢中学校の校門の柱に寄りかかっていた。しばらくして門が開かれる。
「おはようございます」
積山は門を開けた先生に挨拶すると校舎に入った。
積山はいつもどおりの速さで校内を進み、教室の一番端に置かれた自分の机に座った。机が1つ多い。
「転校生ってやつだな」
ベランダにギルが降りてきた。
「みたいだね」
積山は中をのぞいた。ペンが1本だけ入っていた。
積山のとなりに誰か立っていた。
ギルはとっさに隠れた。積山はそっと見上げる。積山よりすこし背の低い少女だった。
「・・・おはようございます」
とりあえず挨拶。
最近の戦いでギルはもちろん積山も気配に敏感になっていたが気づけなかった。しかし、
積山はまずいなと心の中でつぶやいた。
「見ましたか?」
相手は首をかしげる。そして、うなずいた。積山は手で顔を覆うとため息をついた。
「ギル」
ベランダに戻るとギルは積山に謝った。
「えっと・・・天羽さん?」
名札を確認して積山はどう話そうか必死に考えた。
「ないしょ?」
ギルの顔を覗き込んでいた天羽は積山に聞いた。
積山はただうなずくしかなかった。
「誰にも言わないでくださいよ」
天羽は今度は積山の顔を覗き込み始めた。
 
 
 
 
「と、言うわけ、です・・・」
和西の部屋で正座した積山・ギル・天羽を囲むようにして現時点での十闘神全員が座っていた。
天羽に見られるのを煙たがるように後ずさると、アグモンは、
「お前ともあろうものが一番にバレるとはな」
と言った。積山はギルに、
「たえろ」
とささやいた。
ファンビーモンは
「おまえどういう状況かわかっているのか?私たちの存在が世の中に知れるのがどういうことか分かるか?」
二ノ宮はファンビーモンを押しのけた。
「わかったから・・・。まぁ、ばれちゃったのはしょうがないよ、ね?」
 
 
 
 
結局、そのあと積山は天羽にこのことは絶対に秘密だ。と何度も釘をさした。
日がくれはじめ、1人歩いていく天羽を見送りながらガブモンは、
「だいじょうぶかなぁ」
積山は
「自信ない」
と即答した。
「だから彼女には悪いけど・・・」
二ノ宮は手で合図をした。二ノ宮の軍用車からコマンドドラモンをつれた隊員が降りてきた。
「彼女を追跡・監視してください」
隊員は敬礼をし、さっそく追跡を始めた。
「さすがに野放し、というわけには行かないわね」
そう言うと二ノ宮は車に乗り帰っていった。
 
 
 
 
その夜。
携帯電話が刺し貫かれる。
ネオデビモンは機械の電子音のような音を出した。同じような音が会話をするように続き、ネオデビモンは飛び去った。
 
 
「はやく!お願い。急いでください!」
二ノ宮はハンドルを握る隊員をせかす。はるか上空をファンビーモンが飛んでいく。
追跡をしていた隊員が消息を絶った。
消息が途絶えたときの隊員の位置はビル街の裏側だった。あたりを捜査員が調べる。声が上がり、砕けた発信機付き携帯電話が転がっていた。あたりには暴れた後がある。
「血がない・・・」
二ノ宮は辺りを見回した。血の跡はどこにもなかった。
「!・・まだ生きてるかもしれない。ファンビーモン部隊は上空から探して!」
二ノ宮は携帯電話でさらに援軍を要請した。
 
 
 
 
数時間後。
「で、あの人どうなったんですか?」
和西は自宅で二ノ宮の電話を聞いていた。
「結局総動員したけど見つからなくて・・・」
二ノ宮は少し間隔を置いて続けた。サイレンのおかげで和西の部屋と対照的にうるさい。二ノ宮は助手席のシートに座って消え入りそうな声でしゃべっていた。表情は髪で見えない。
「みんなに知らせるかどうかはあなたの判断でお願いね・・・。積山くんと谷川さんはとくに・・・」
「分かってますよ。たしかにこの話をあの二人にするわけにはいかないですね」
和西はすぐに応えてくれた。
二ノ宮はため息をつくと、
「こんなこと初めてだったから・・・。携帯電話の破損状況やその場に落ちていた薬莢、向かいの壁に銃痕がないのも考えて・・・ネオデビモンに襲われたと見ていいと思うの。とりあえず積山くん天羽さんと仲がよさそうだったし上も彼に任せるようにって言ってきたから・・・」
和西は
「そこだけうまく積山くんに伝えときますよ」
それだけ言った。
「・・・私・・・。こんなこと初めてで・・・、私が自分で追跡してたら・・・。天羽さんを信用していたら・・・、こんなことには・・・・・・」
最後のほうは言葉になっていなかった。
なんどか礼を言われ、電話を切る。
二ノ宮は携帯電話をしまうと両腕に顔をうずめた。さすがに動揺していた。
 
 
 
 
 
二ノ宮の部下が消息を絶った次の日。つまりは火曜日。積山は4時に起きた。「・・・・・・・あれ?」
あまりに早い朝食をとり、30分ほどぼんやりとしていた。まさかあんなに簡単にばれるとは思わなかった。天羽、恐るべし。
積山は家を出ると学校に向かった。近づくにつれ心臓が高鳴り、吐き気が襲った。が、無視した。
校門の前に誰か立っていた。天羽だった。積山は辺りを目で見回す。昨日の組織の隊員がその辺にいるはずだった。
 
 
 
和西はベットのなかで目をあけ、考えるでもなく見るでもなく上を向いていた。結局一睡もできなかった。ゴマモンに布団をかけ、和西はやっと認めた。
「自分の知っている人が・・・ね」
考えようとしてはやめ、を繰り返し続けていたが、あの隊員は今どうなっているんだろう。もしかしたら生き延びたかもしれないし二ノ宮さんが必死で探してるから見つかったかもしれないし。
しかし楽観できる状況でないのは分かっていた。
連れ去られたか、・・・・殺されたか。
一晩中認めるのをためらい、考え続けた何度目かの答えだった。
和西はベットに倒れこんだ。頭痛がし、そのまま眠った。
 
 
 
その同じ時。
工場の一角に数台の軍用車が無造作に止められていた。その脇に二ノ宮が力なく座っていた。手を伸ばし、壊れたヘルメットからはがれた名札を拾い上げた。
「隊長。命令を」
部下数人が直立不動で二ノ宮を囲んだ。二ノ宮は震える手で名札を渡し、
「照合を・・・」
とか細い声でつぶやいた。部下は受け取り、ため息をついた。
「672−2990XCGT。間違いなく時隊員のものです」
しかし二ノ宮は何も言わなかった。すすり泣く声だけしか聞こえない。
 
 
 
 
「そういうわけでボクはギルと離れ離れになりたくない。見かけはあれだけど大切な友達だから。だから誰にも言わないでほしい。・・・お願いします」
積山ははっきりと言った。天羽にギルとあったときのことを話していたのだった。
天羽は微笑むと、
「トモダチ思いだね。私もトモダチになりたい。それに誰にも言わないよ」
そう言って笑った。
「慎はいい人」
 
その様子をギルは近くの家の屋根から見ていた。積山が自分のことをああ言ってくれたことは照れくさかった。
内心とてもうれしかった。
 
 
 
二ノ宮は何故か暗い会議室の真ん中で状況を正面に座る上官の男に説明していた。
「・・・以上が・・現在の状況です」
会議に召集された上層部の人間からざわめきが生まれた。ついに自分達の中から犠牲者が出たのだ。
「今回のデジタル生命体による殺人は・・・私の責任です」
「二ノ宮第2隊長。貴女は報告書を提出すればそれでいい」
「・・・・・」
「報告書を出せば責任は我々に移る」
「・・・・。では提出しません」
「なに・・?そうか・・・。除隊経由で葬ることになるが?」
「私が指名しなければ私の部下が消息を絶つことはありませんでした。私の責任です。それに・・・・」
「それに・・・なんだね?」
「除隊なら望む所です。・・・・と、言いたいところですが・・。今消されるわけには行きません。報告書は・・・明日までに提出します」
涙目で上官を睨みつけた。
二ノ宮が敬礼をして部屋を出て行った直後、高官たちが雑談を始めた。
「やれやれ。これだから彼女の相手は疲れますね」
「まったくだ。若すぎたのだよあの小娘は」
一番奥に無言で座る4人はそれぞれ口を開いた。
「彼女には無理強いをしてきたのだ。これくらいはいいじゃないか?」
胸に雷のマークのある口ひげを生やした男が静かに言った。
「そ−そー。それにめったなこと言って総司令官の耳にでも入ったらどうするんですかねぇ〜?」
炎マークの若い男がペンを回して遊びながら言った。
「それにこれから二ノ宮さんにはがんばっていただかないと。もう6人目なのですから」
眼鏡をかけた30代後半ほどの男が書類の束をめくりながら言った。水滴のマークがある。
最後に所長が口を開いた。
「あれでも私の娘なのだから、あまりとやかく言わないでいただきますよ」

更新日時:
2007/06/17 
20    第19話 「痕跡」
日が流れ、ある日曜日。
和西は積山・ギル、嶋川・アグモンを家に呼んだ。
 
「きてくれてありがとね」
和西はジュースをテーブルに置くと積山たちの前に座った。
「?谷川と二ノ宮は?」
「ホークモンとファンビーモンは呼ばないのか?」
嶋川、アグモンがそれぞれ和西に聞いた。
「二ノ宮さんは連絡が取れなかったし谷川さんはあまりこういうときに呼ぶのはやめようと思ったんだ」
和西の返事を聞いて積山は合点した。
「つまり・・・今日の話題はえげつない話、というわけですね?」
「いや・・・、さっき和西と話してたんだけどえげつない、とかそういうわけでもない、というかなんというか」
ゴマモンはもごもごとしゃべった。
和西は突然「あっ」と声を上げた。
「辻鷹くん忘れてた」
 
 
 
嶋川・アグモンが自転車で向かったのはネオデビモンと戦った河川林だった。
そして辻鷹とガブモンが待っていた。
「・・・・ごめんといってたぞ」
和西があやまっていたことを嶋川が伝えた。
「ううん。慣れてるから・・・」
薄い反応で辻鷹が返した。
 
 
「調べてみれば何かわかるかもしれない」
 
 
全員を前にした和西はこう言っていた。
嶋川・アグモンは大きな木が何本も立った場所にくぼみがあった。
「そういえばここに谷川が倒れていて・・・」
嶋川は木によじ登った。
刃物のようなものの跡が残っていた。
「何かいたんだな」
アグモンはそう言うと傷の残った木をたどり始めた。
 
 
和西たちはデビモンがネオデビモンに進化した工場にいた。
積山はネオデビモンが空から攻撃してきた痕を見て、
「これは・・・すごい、としか言いようがないですね」
とつぶやいた。ギルもとなりから覗き込む。
コンクリートの地面に2センチほどの穴があり、それを中心に亀裂が入っていった。
和西は積山をこづついて質問した。
「でも・・・、どうして形が変わったんだろ」
積山は首をひねり、
「ぼくに聞かれても分かりませんよ?ただ・・、デビモンからネオデビモンに変化するのには1体のデビモンがもう1体を吸収して変化した、ということぐらいしか」
と言い、肩をすくめた。
 
 
 
和西は、またみんなを集める、ということ自体を避けていた。現にD-ギャザーにデジモンのデータを解析する機能があることが分かったときも1人1人に電話をかけたのだ。
実際に集まってみるとなにか、心に空いていた穴が埋まっていく気分になれた。
 
 
 
 
研究所の一室、自分の部屋で二ノ宮は寝ていた。徹夜で報告書(A4×15枚もの大作)を仕上げ、若干18歳の体力は限界だった。ファンビーモンは報告書を提出した後ベッドに倒れこんだテイマーを見て考え事をしていた。
 
この組織では戦闘部隊はファンビーモンかコマンドドラモンを゛支給″される。
 
では自分は・・・?
 
自分は・・・二ノ宮が赤ん坊のころを知っている。二ノ宮は生まれた瞬間から対策組織という名の軍隊にいた訳ではない。
では自分は本当のパートナーなのか・・・?
たしかに二ノ宮はD-ユニオンの所持者だった。
そしてある日、D-ユニオンの形が変化した。変化したそれを腕にはめた彼女の手の甲に紋様が現れるのもこの目で見た。
そして二ノ宮は父親にそれを見せた。一緒にいた当時の幹部にも・・・。
結果その場で二ノ宮は拘束され研究対象にされた。母親は自ら娘を研究対象とする父親に失望し、出て行ったらしい。
数年にも及ぶ研究は擬似デジヴァイスの製造を可能にし、同時に二ノ宮の家族を引き裂いた。そして二ノ宮は自分の意思で、15歳の時に最年少で対策組織に入った。
自分は全て見てきた。そしてなにもしてやれなかった気がする。
ファンビーモンは二ノ宮の長めの髪をなおし、毛布をかけた。
「毛布をかけてあげることぐらいしかできないんじゃ、ダメだ・・・。しっかりしないと・・・」
 
 
 
 
ゴマモンは和西と例の鉄塔に登って街を見ていた。
「ホントいい眺めだねぇ。スルメでももってくればよかったなぁ」
「うん、そうだね」
並んで座っていた。ふいにゴマモンが、
「ゴメンな」
と言った。
「は?なにが?」
和西は思わず聞き返した。
「いや、ここで戦ったときさ、デビモンがネオデビモンに変わったろ?比較にならないぐらい強かった。こう見えてもおれもデジモンだからな。強くなれる気がするんだけど・・・。ただな、はじめて会ったときにおれ約束したよな?痛い目にあわせないって」
和西は直射日光にさらされてぼんやりとしていたが、
「うん、そうだったね。でもいいんじゃないの?たまには」
と言った。ゴマモンはそれを聞くと、
「そうか?・・・そうかもな。たまにはいいか。じゃなきゃテイマーなんかやってられないかもな!・・・でもかならず強くなってやるからな」
そう言って目を細めて笑った。
 
 

更新日時:
2007/06/17 
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