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21    第20話 「蒼眼」
これはある日曜日の話。
 
灼熱の日曜日の午後。コンクリートに覆われた窓の一切ない建物で銃声が響く。
 
的が現れた。次の瞬間プラスチックの弾丸がそれを射抜く。
「たいした腕前だ。誰かに習ったんですか?」
ジャケット姿の20歳くらいの男が辻鷹に訪ねた。
辻鷹は、
「習ってませんよ。まぐれです」
そう答えながら次弾を装填し、撃った。
入れ替わったばかりの的は中心を打ち抜かれる。
 
対策組織の訓練所を出ると辻鷹とガブモンは直射日光の中を100メートルほど歩く必要があった。
「暑い・・・・」
「そういうことは言うなよ」
「暑い暑い暑い」
「・・・・・・・・・・・」
「寒い寒い・・・・」
「・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・」
「・・・・・暑い」
ガブモンはため息をつくと、
「そんなで“夏”とかいうのは乗り切れるのか?」
と言った。
「・・・・・・・・・・・・」
「なぁ」
「いいよ、部屋から出ない」
「そういうわけには行かないぞ?」
「あっ・・・そうか。・・・・じゃあ狙撃するから」
黙り込んだガブモンを見ると辻鷹は、
「冗談だよ」
「仁がそう言うと冗談に聞こえないよ」
「ホントに冗談だってのに。一応『氷の・・・・」
それっきり辻鷹は黙りこんだ。
「どうした・・・?」
「氷、アイスでも食べよう」
「・・・・・・・・・・・・」
 
食堂にたどり着いた辻鷹はまっすぐ自動販売機に向かった。
「・・・・・・150円・・・」
「高いな・・・」
辻鷹の右手が右腰のオートタイプの銃に伸びるのを見たガブモンはあわてた。
「何するつもりだ?」
「いや・・、氷を出そうと思ったんだけど、やめたほうがいい、よね。やっぱり」
「自販機壊すんじゃないのか」
「・・・・・・・・」
「わかったよ。で?どうする?」
「・・・財布忘れた」
「・・・・・・・・・・・・・」
 
 
 
「はぁ、暑いなぁ」
「そういうことはなるべく言わないように」
積山とギルは薄汚れた地下道に入っていった。
「はぁ、くさいなぁ」
「そういうことはなるべく言わないように」
 
デビモンを尾行していた。
嶋川、和西に連絡もした。そのうちここに来てくれるだろう。
 
蛍光灯のほとんどが壊れた地下道は10メートル先も怪しい。
その暗闇に白いものが見えた。
積山、ギルもさすがに凍りつく。
 
ほとんど足音を立てずにウィルドエンジェモンが姿を現した。
すかさずギルが火炎弾を打ち出す。が、ウィルドエンジェモンは腰の剣を抜くと同時にそれを打ち消し、間合いを詰める。
あまり広くない地下道は槍や剣を振り回すのには向いてない。小柄で素早い敵のほうが有利だ。
積山はそこまで考えるのに2秒もかからなかった。
飛ぶように後ろに下がった積山の前髪が2,3本宙を舞った。それを見届けると同時に目の前に仮面を付けた天使がいた。
「やば」
思わずつぶやいた積山はがら空きのわき腹に膝蹴りを打ち込んだ。
すべるように飛んで間合いをとったウィルドエンジェモンの後ろからギルが太い尾を叩き込んだ。地面への激突を避けた相手の首に狙いをつけたギルが言った。
「オレのテイマー甘く見たな?」
その瞬間ギルが吹き飛んだ。天井に当たって地面に落ちる。両手両足と首についたリングが輝いていた。
「確かに甘く見ていたようですね。今のうちに倒しておく必要があります」
 
 
「やってみろ」
 
 
ウィルドエンジェモンの後ろから炎撃刃が打ち下ろされる。
半身になってよけたウィルドエンジェモンは嶋川の頭上を越えて離れた位置に立った。アグモンが直後に打ち込んだ火炎弾2発を打ち消すとすっと剣を構えた。
 
嶋川は積山に振り返ると、
「大丈夫そうだな。とりあえず外に出ようぜ」
嶋川は炎撃刃を指差し、「火っていうのは酸素で燃えるんだ。知ってるだろ?」
言うが早いか走り出した。
「しかし案外めんどくさい剣だな、これは」
嶋川は炎撃刃の柄をたたきながら言った。
たしかに酸素を消費する剣は狭い密室ではむいてない。
 
あまり走らずに入り口にたどり着いた。
 
外に出たところで積山たちは追いつかれた。
「・・・・・・さ、て、と、・・・・・」
嶋川は炎撃刃を鞘から抜いた。
「となりの路地が商店街ですからね・・・」
積山も断罪の槍を構えた。
「ようはここで決着をつければいい」
アグモンはそう言うのと同時にウィルドエンジェモンに向け[ベビーバーナー]を放った。
あっさりとよけられたアグモンの攻撃は地下道の入り口天井部分に直撃し、入り口を完全に破壊した。
「ありゃ・・・・、うわっ!」
崩れ落ちた入り口を見たアグモンはため息をついたが、自分にめがけて飛んできたウィルドエンジェモンをとっさにしゃがんでよけた。
「まずい」
積山は頭上から逃げた相手を追った。
嶋川、アグモンも示し合わせそれに続こうとした。しかし背後でものすごい音がして振り返るとネオデビモンがコンクリートの道路を突き破って現れた。そしてそのまま嶋川とアグモンに襲い掛かってきた。
 
 
 

更新日時:
2007/12/30 
22    第21話 「守衛」
積山はウィルドエンジェモンを追っていた。
「・・・・どうしようか・・・・・」
このままいけば商店街に出る。そうなれば面倒なことになる。
角を曲がると商店街からのわき道につながっている。
「まっすぐ進んでくれ・・・・」
ウィルドエンジェモンは角を曲がった。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
なにかつぶやきながら槍を構えて2テンポ遅れて積山も角を曲がった。
「うわっ!」
角を曲がった所にいたのは天羽だった。驚いた表情を見せた彼女に積山は辺りを見回し、聞いた。
「こっちに・・・、!!」
羽音に気づいた積山は上を見上げた。
ネオデビモンが真上から攻撃してきた。
 
 
 
少し前。積山がウィルドエンジェモンを追い始めたとき。
 
嶋川とアグモンはネオデビモンに応戦していた。
「やばっ、い!?」
嶋川はネオデビモンが撃ち込んだ蹴りを間一髪でよけて脇に転がり込んだ時だった。受身を取って顔を上げた嶋川の視界に炎を口から洩らすアグモンが映る。
「ちょ・・・、ちょっと待て!!」
「[ベビーバーナー]!!」
撃ちだされた火炎弾は狙いたがわずネオデビモンに直撃し、火の粉が大量に嶋川に降り注いだ。
「熱っ、!!!熱っ、バカヤロウ!!殺す気か!」
「げっ、わりぃ」
火の粉を払い怒鳴り声を上げた嶋川にアグモンはとりあえず謝った。
 
「?」
「?」
 
嶋川はすこし火のついた上着をはたくと、となりに立ったアグモンと辺りを見回した。
「・・・・・・・・・あ?・・・・・・」
「・・・・・・・・・どこ行った?・・・・・」
 
 
 
そして今、ネオデビモンは2人に襲い掛かった。
「!」
とっさに天羽を抱きかかえできるだけ離れるように倒れる。
「[ブラッドネイル]!!」
 
ギルが角から飛び出し、ネオデビモンに攻撃を撃ち込んだ。すでに投げ上げられた断罪の槍を受けていたネオデビモンはトドメをさされ消滅した。
 
「ありがとうね、ホントに危ないところ・・・」
「・・・・・オイ」
「・・・・・なに」
「おれがどんな思いをしたか分かってるんだろうな」
「?」
「暗い中にほっとかれた上閉じ込められたんだぞ?おまけに天井が崩れるしな」
「・・・・・・・悪かったよ」
積山は気まずい空気を切り替えるように天羽をたたせると服の砂埃を払った。
 
ギルは暗いところが苦手、か。
 
 
足音がして振り返ったギルは嶋川と目が合った。
「お、生きてたか」
「殺すぞ」
「わりぃ」
短く会話を済ませると嶋川は積山の後ろで首をかしげている天羽を見つけてため息をついた。
「またお前かよ。・・・・・まっ、いっか。ところで・・・・・」
嶋川は足元の砂の山を指して、
「“ついさっきまでネオデビモン”、だな?」
積山は頷き、
「今回ばかりは誰かに見られるかと思いましたよ」
と言った。
「そこのお嬢さんはいったい?」
と嶋川は再びため息をついて言った。
「まぁ、今回はいいんじゃないか?おれたちが取り逃がした奴を倒したわけなんだし」
とアグモン。ギルはまだ不機嫌で、
「おれは?とんでもない目にあったんだが」
とまだぼやいていた。
積山は天羽に向き直ると、
「今日のことも秘密ですよ?」
と言った。
「ん、ナイショ」
あまりにも素直な返事だ。
 
しかし信用するしかない。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

更新日時:
2007/06/17 
23    第22話 「風穴」
和西は走っていた。
背負ったバッグの中にはゴマモンと降流杖が入っている。
ついさっき、部活の午後練を行なっていた和西は積山に呼び出された。
 
「ネオデビモンは日曜休まないんだな・・・」
「何言ってんだ?」
おもわず呟いた和西にゴマモンがフゴフゴと反応した。
「なんでもない、てのに。・・・暑・・・」
呻いた和西の目に新幹線が見えた。
「!、近道するか」
「急がば回れ」
「いいんだよ!」
新幹線の線路を支える太いコンクリートの間を和西は柵を乗り越えて中ほどまで進んだ。
 
 
「シネ・・・・・・・」
 
 
「!」
 
 
爆音のような羽音を響かせ巨大な鎌を持つ緑の影が落ちてきた。
昆虫のような姿をした相手は和西に鎌で斬りつけた。
和西の眼と紋様が蒼く輝き、和西は3メートルほど飛び上がって放置されたダンボールの山に落ちた。
「うわっ」
一言だけ言い残し和西はダンボールの中に消えた。舞い上がる埃のなかからゴマモンが飛び出す。
金切り声に近い鳴き声で吼えると緑の昆虫=スナイモンはゴマモンにむけ巨大な鎌を振り下ろした。
ゴマモンは脇に飛んでよけ、スナイモンの巨大な鎌は硬いコンクリートに打ち付けられた。
吼え続け、スナイモンは鎌を引き抜くと横薙ぎにゴマモンを狙った。ゴマモンも思い切り体勢を低くとり、その頭上を鎌が過ぎ去る。
隙をつこうと頭をあげたゴマモンの背中に鎌の背が直撃しゴマモンを吹き飛ばした。
ミシッ、という嫌な音を立ててゴマモンはコンクリートの柱に叩きつけられた。
それと同時に和西がダンボールから脱出した。
「ゴマモン!?」
スナイモンはその声に反応し和西に飛び掛った。かなりの体重なのだろう。コンクリートがすこし割れた。
 
||||||||||||||||||||||||||||||やばい|||||||||||||||||||||||||||||||||||||
 
よだれを撒き散らして歩み寄るスナイモンを見た和西は背筋が凍りついた。
 
|||||||||||||||||||||||||||||死ぬ!||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
 
 
和西の頭の真上にスナイモンの顔が来た瞬間。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・死ぬ・・・・・・・・・・・・・?」
 
 
「死なせない!!」
風を斬る音が2つ連続して響いき、スナイモンの両腕が吹き飛んだ。数メートル先に刺さり、砂になる。甲高い悲鳴をあげてスナイモンが後ずさったのを見計らって谷川が物影から飛び出し和西を脇に押しやった。ホークモンは戻ってきた羽飾りをつかまえると主だった攻撃手段を失ったスナイモンを威嚇していた。
 
「ぼさっとしないで!死なせたりしないんだから!」
谷川は逆手で盾のロッドを引くとそのまままわすようにして構え、引き金を引いた。
 
ホークモンは谷川がロッドを放せばすぐに撃つことができることを把握すると飛び上がり羽飾りを投げつけた。
「[フェザースラッシュ]!!」
投げつけられた羽飾りはスナイモンの羽全てを切り落とし、消滅させた。
「!」
ホークモンが離脱したのを確認した谷川はロッドにそえていた左手を放した。
圧縮された空気が3発連続で撃ち出され、1発目はスナイモンの右前足を吹き飛ばし、2発目は少し上の空間を通過し、3発目はスナイモンの首を吹き飛ばした。
 
そしてスナイモンは消滅した。
 
「・・・・・・・ふぅ」
谷川は後に残った砂に歩み寄り、そばに落ちていた針金で小突いた。
しばらくしてそれを一番盛り上がった所に立てた。
そして振り返り、和西の前にヒザをついて、
「大丈夫ですか〜?」
と和西の目の前で手を振ってみた。
放心状態だった和西は急に我に帰った。
荒い息をし、汗が流れた。さっき走っていたときと比較にならないほどの量が体を流れるのを感じていた。
ゴマモンも意識を取り戻しホークモンと一緒に谷川の脇に立った。
「大丈夫!?なにがあったの?」
「・・・・・怖かった・・・・・・・」
「え、・・・・」
「・・・・・・・死ぬかと思った」
「・・・・・・・・・・・・・」
「終わりなのかと思った」
ゴマモンは和西のヒザの上に前足を乗せて言った。
「終わってない。まだある」
和西はゴマモンを見下ろし、そのまま前かがみになって泣き出した。
谷川はホークモンと顔を見合わせると、和西の背をさすった。
「生きててよかったね。ほんとに、またみんなに会えるんだよ?」
 
 
 
 
結果、和西は最後まで積山の援護に現れなかった。
 
これはある日曜日の話。

更新日時:
2007/06/17 
24    第23話 「連絡」
そして二ノ宮は目を覚ました。
可愛げのまったく無い冷たいイメージの室内には水槽が目立つ。
 
 
昨日、つまり日曜日。
普段なら街へ出かける日だが、その昨日は違った。
 
「スナイモン、交差点上空を通過しました。第二部隊は直ちに急行してください!」
組織の本部はすでにデビモンの件ですでに『蜂の巣』をつついたような騒ぎだったのだが、最近現れなかったほかの種類のデジモンが現れたのだった。
 
 
第二部隊、ファンビーモンを持つテイマーで組まれた対空戦部隊。指揮官は・・・・、
二ノ宮涼美。
 
「スナイモンといえば数年前被害者を出した記録がありますよね」
ようやく信号から開放されたトラックの中で二ノ宮はハンドルを握る隊員に尋ねた。
30代くらいにみえる彼は、
「そうですね・・・。あぁ、あれか。スナイモンといえば確か2人ほど・・・。凶暴な奴だと聞いたことがありますけどねぇ」
あまり自信なさそうに答えた。
二ノ宮はファンビーモンを抱きしめて言った。
「もう誰も死なせる気はありませんから」
 
 
調査課のファンビーモンはスナイモンの後を少しはなれて追う。
しかし凶暴と単細胞とは別物だということを身をもって思い知らされることになる。
ビルの角を悠々と飛び去っていったスナイモンをすぐにファンビーモンが追う。
影からのぞいたファンビーモンの複眼の視界にはスナイモンはいなかった。
 
「[シャドゥ・シックル]!!」
 
こうして組織はスナイモンを見失った。
 
 
 
 
結局組織がスナイモンを見つけたときにはスナイモンは砂になっていた。
中央に立った針金を突いて倒すと二ノ宮は携帯を出して『和西』の番号にかける。
 
・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・
 
「うん、わかりました。はい、・・・・・・・・・・、はい。スナイモンは谷川さんが倒しました」
 
・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・
「はい。もう大丈夫です。・・・・・・。でもゴマモンがケガした、とうるさいから明日学校が終わったら診てあげて欲しいんですけど・・・。・・・・・・・・・・・。ありがとうございます。はい。どうも」
 
和西は電話を切ると部屋に戻った。
「二ノ宮さんだった。スナイモンのことで確認だって」
嶋川は嫌そうな顔をして、
「日曜も仕事か・・・。おれは絶対にそんな仕事には就かない」
と言い、アグモンは笑って言った。
「なんだよそれ。そんなもんか?」
谷川が、どんなこと聞かれたの?、と聞くと和西は、
「いや・・・。二ノ宮さんスナイモンを追いかけてたらしいんだけど見失ったらしくって。それでさっきの所で砂を見つけて、これがスナイモンで倒したのは僕らじゃないか、って思ったらしいよ」
と答えた。それを聞いたギルは冗談交じりに言った。
「別のスナイモンだったらどうするんだ?」
 
 
しばらくその場が静かになった。
 
 
二ノ宮は携帯電話を閉じると振り返った。
瞬間着信音が響く。こういうタイミングの電話にろくなものがあったためしがない。
18年の二ノ宮の人生では間違いなくそれが事実だった。今回の内容は・・・・。
「涼美か?作戦終了早々すまないがすぐ帰ってくれ」
所長からの電話だった。この時点では二ノ宮にとってろくな内容のものではなかった。
二ノ宮は再び携帯電話をしまうとトラックに向かった。
 
 

更新日時:
2007/06/17 
25    第24話 「成果」
そして月曜日。6時丁度に積山の家の電話が鳴った。完璧な敬語を操る男性が、
「二ノ宮所長氏から緊急招集です。大切な用事などがなければ9時ごろにお迎えに行きます。できるだけ参加するように、とのことですがいかがいたしますか?」
積山は少し考えて
「学校はどうしますか?それと他のみんなは?」
と聞いてみた。
「学校には連絡を入れていただきます。すでに嶋川さんと辻鷹さん、和西さんと連絡が取れ、全員参加する、という返事でした。谷川さんは今連絡を取っています」
と一度も噛むことなく回答が帰ってきた。
 
積山は早朝の電話に激怒する嶋川と半分寝た状態で来ることになり、携帯片手に立ち尽くす辻鷹を想像し、声を立てずに笑った。そして、
「わかりました。参加します」と答えた。
 
 
 
 
それから5時間後・・・・。
研究所のミーティングルームでこれまでのデビモンに関する情報をながながと説明しているだけだった。
谷川は人目を気にせず小さいながらも寝息をたて、辻鷹は直立不動で焦点の合ってない目を司会者に向けていた。
「・・・・・・しかし収穫もありました。デビモンの残した砂とネオデビモンの残した砂を回収し、研究所で分析した結果が二ノ宮所長からに報告してもらいます」
所長は咳払いを1つすると、
「え〜、内容は、基本的成分はほぼ同じものでした。しかし質量や密度は2倍以上になっていて、え〜、和西くんや積山くんの証言にもあるようにネオデビモンはデビモン2体の融合体、ということになります。以上です」
 
 
食堂で昼食をとりながら和西たちは話し合ってみた。
「なぁ、なんならギルにアグモンでも食わしてみるか?」
「んな殺生な」
「そうだ。だれがおまえなんかくうか」
「なんか?」
アグモンとギルのやりとりを聞いていた谷川はすっかり目を覚ました顔で、
「ねぇ!仁君もなんかいい案ない!?」
と辻鷹に振った。
「えぇ?毎日牛乳飲むとか・・・・?」
「普通はそれで十分なんですけどね」
「・・・仁 、おれに毎日牛乳のめ、と?」「・・・・」
「・・・・」
進展するわけもなく、また進展した所でなんの意味もない会話は終わり、しばらく無言で定食を食べる。
所長はファンビーモンをはさんで隣に座った二ノ宮に、
「ひさしぶりだな、一緒に飯食べるのは」
といいにくそうに言った。二ノ宮は目をそらすと少し頷いた。
 
 
 
 
数人の研究者と数台の機械、組織隊員がコマンドドラモンをつれてきた。研究員がアタッシュケースから 何か取り出し隊員に渡す。和西たちの反応は、それぞれだ。
所長はコマンドドラモンと機械を接続すると離れるように促した。
 
 
隊員はベルトにつけられたケースからカード状のものを取り出すと研究員に手渡された機械に読み込ませた。
コマンドドラモンはデビモンからネオデビモンへ進化する時のような変化を起こした。
少しずつそれは大きくなっていく。
やがて2メートルほど体をもつデジモン、シールズドラモンに進化した。
驚いた様子の積山たちを振り返ると所長は言った。
「どうだい?君たちの協力もあって進化する方法を見つけてね。デジモンがこちらの世界にやってくる方法も使ったんだが・・。要するに ある程度のデータを手に入れるとレベルアップ、要するに進化するんだよ。ネオデビモンは共食いという方法でデータを獲得したらしいがね。 デジヴァイスに読み込ませたのはさっき言った進化するために獲得 する必要のあるデータ量を凝縮したものだ」
和西は思った。人は見かけによらない。
「しかしねぇ、問題点もあってね。元に戻れない」
いや、どうやら思い違いのようだ。
「・・・・・・・・・・・・・」
ダメじゃないか、とみな思った。積山は実験に参加した隊員とシールズドラモンの顔が引きつるのを見逃さなかった。
 
 
 
 

更新日時:
2007/06/17 
26    第25話 「戦慄」
あの怒涛のような月曜日から1週間後の日曜日。
 
和西はこの一週間パソコンやテレビの画面と向き合った記憶がまったくなかった。
新聞を見ると第1面に大きく、
『また変死体・怪物証言は事実か』
と見出しが出ていた。
ここの所デビモンやネオデビモンが目立つ行動を取りはじめていた。ちなみに昨日の新聞の見出しは、
『ついに6人目の被害者・警察に本部設置』
だった。
和西はこの一週間でゴマモンとともに16体ものデビモンを仕留めていた。しかし辻鷹、積山、嶋川の数には及ばない。
和西は12時を告げる時計の針を一度も
見ることなく布団の中だった。
 
 
 
嶋川はぼんやりとイスに座っていた。
アグモンは柄にも無い自分の状態を避けるようにして屋根のうえの日陰に行ってしまった。
谷川から電話が来て、いきなり誘われた。
いろいろなことを考えているうちに日は暮れる。
「確かに好みなんだけどな」
その視線は窓の外を泳いでいた。いつの間にか月が出ている。そのなかを何か飛んでいる。
景色的にいい眺めだな、と思っていた彼は一気に覚醒した。
月の中を飛ぶ数体の人のような影を見ながら叫んだ。
「アグモン!いくぞ!」
 
あの怒涛のような月曜日から1週間後の日曜日。
 
辻鷹は布に包まれたライフルに組みなおした銃を持ってガブモンとビルの屋上に上がった。
屋上に出た瞬間頭の上をデビモンが飛び過ぎる。辻鷹は銃を向け、3発撃った。
2本の氷の槍が刺さり、デビモンもろとも消滅する。残された砂は数十メートル下に落ちていった。
するどいブレーキ音が響き、
「こらぁ!!!だれだ砂なんか落としたのは!!!!」
怒声が響く。辻鷹とガブモンはそれをフェンスから顔だけ出して見下ろし、顔を見合わせた。
「考えて倒さなきゃ」
もう一体に狙いを定めて引き金を引くタイミングを見計らっていた辻鷹に組織の隊員が追いついてきて話しかけた。
「下で変な男性がいてなかなか来れなかったんですよ」
それを聞いた辻鷹は苦笑いをして、
「ごめんなさい。たぶんその人が下にいたのはぼくのせいだとおもう」
青い眼をデビモンに向け続けたまま謝った。かすかに罵声が聞こえ、エンジンの音が響き、しだいに遠ざかっていく。
隊員は黒塗りのプラスチックライフルを組み立てて構えた。その脇でコマンドドラモンも同じく構える。
「しかし知らない人間はのんきに見えるなぁ」
辻鷹の視界にもカラフルな明かりで彩られた街が見えていた。すぐ真上のデビモンにまったく気づいた様子が無い。
「いえてる」
そう呟くと辻鷹は引き金を引いた。
ビルの屋上を飛んでいたデビモンは一瞬で消滅した。サイレンサーが発砲音を抑える。
 
 
 
少し前、デビモンを追っていた6人とパートナーは自然に集まっていた。二ノ宮が組織の急ピッチで立てた作戦を説明する。
「・・・まず第1部隊が陸から、第2部隊が空からデビモンを追い込む。第3、第4部隊はそれを援護して第5、第6部隊が待機している郊外の非使用所有地に追い込む。第1部隊に和西くん、第3部隊に辻鷹くん、第4部隊に積山くん、第5、第6部隊に谷川ちゃんと嶋川くんにそれぞれ分かれて。
私は第2部隊の責任者だから。以上でお願いね!」
 
 
「・・・というわけです」
積山は目の前に立った嫌な目つきをした中年の男=第4部隊隊長に経緯を説明した。
「なるほど。小娘の仲間か。じゃ、君には待機していてもらおう」
「あ?」
男の口調にギルが逆撫でされたようだ。
「ギル、すこし黙ってて。 ところで待機、とは?」
「平たく言えば帰れ、ということだ。ここは君のような子供が来る所じゃないからな」
「・・・・・・・・・・なるほど、そうしましょうか」
 
手短に話を切り上げトラックを降りた積山にギルがあわてて言った。
「おい、ほんとに帰るつもりか?」
「帰らないよ。これから個人的に『買い物』に行く」
そう言って積山は断罪の槍を出しデビモンを見上げた。
「その途中にデビモンを見つけたな」
ギルはそう言うと後を追って走り出した。積山もそれを追う。
 
 
 
心強い援軍と聞いていた第5隊長と第6隊長は嶋川と、とくに谷川を見てかなり落胆したようだった。しかしすぐに戦術の説明を始める。
「えっと・・・。今回の作戦の大まかな内容は二ノ宮第2隊長から聞いていると思います。我々はここで追い詰められたデビモンを挟み撃ちにします。ネオデビモンの戦闘能力の高さは無視できないので研究所のほうで開発されたこれを使います」
そう言ってジャケットのポケットから握りこぶし大の手榴弾を取り出した。
「この中には特殊ガスが圧入されています。このガスはネオデビモンの体内で細胞を破壊します。結果、うまくいけばネオデビモンはデビモンの状態に分解します」
第5隊長の説明を聞いていた第6隊長は、
「・・・もう少し時間があればガスの密度や成分を変更して細胞を完全に破壊するものができたはずなんですが・・・」
第5隊長は頷くと足元から銀色のトランクを2つ取り出し、
「人員不足なのでお二人にはこの手榴弾の入ったトランクを第1、第2部隊に届けてください。ついさっき完成したばかりで先に出撃した第1、第2部隊には渡せませんでしたから」
 
トラックを降りた谷川・ホークモン、嶋川・アグモンに2人の隊長はそれぞれトランシーバを手渡す。
「番号を押せばそのままその数字の部隊に連絡できます」
「はい。じゃ、行ってきます!」
そう言って走り出した嶋川たちを第5隊長が呼び止めた。
「あの!さっきは大変失礼しました。正直腕の立つかただと聞いていたのに子供じゃないかと思いました」
「それで普通ですよっ!」
「いや・・・。でもそのトランク、よろしくお願いします!」
そう言って二人の男は敬礼をした。嶋川たちが見えなくなるまで敬礼をしていた。
 

更新日時:
2007/06/06 
27    第26話 「資格」
和西は一気に踏み込んだ。眼が蒼く染まり和西の体がトラックの天井から離れる。
ウィルドエンジェモンは振りおろされた降流杖をふわりとよけると剣を抜き和西に斬りかかった。すでに下降を始めた和西はあぶなくそれをよけトラックの天井にカンッという音を立てて着地する。
「まだ銃使えないんですか!!?」
助手席に座った第1隊長は携帯電話を耳からはなし、
「すまない!!まだここでは発砲するわけにはいかない!もうしばらくがんばってくれ!」
と叫び返すのが聞こえた。
無理も無い。和西もこんな所で銃を乱射するのはまずいと思った。すぐとなりの筋は人が多い。
和西は少し前を飛ぶウィルドエンジェモンを睨んだ。
 
その上から数十体のファンビーモンが一斉にウィルドエンジェモンに襲い掛かる。甲高い女性特有の悲鳴をあげて剣を抜いたウィルドエンジェモンにファンビーモンの群れが容赦なく攻撃を続ける。
自分を呼ぶ声が聞こえたので振り返った和西とゴマモンは後方にもう一台のトラックを見つけた。トラックの運転席天井に作られた荷物用ラックに長い髪を結い上げて帽子をかぶった谷川が見える。
「やっ!」
それだけ言うと谷川は空気銃を構え撃った。片腕を押さえて飛ぶウィルドエンジェモンの翼2枚に命中し白い羽毛が舞い散る。悲鳴が上がり相手の飛行スピードと高度が落ちた。
「・・・・・・なんか・・・・・いや、だけど・・・」
谷川は足元に飛んできた羽毛を触るとそれは消し飛んだ。
「今攻撃できるのはあたしだけだから!」
そう言ってロッドを引いた。
 
 
積山は嶋川と出くわした。お互いに相手が単独行動をしているのを知って驚いた。
「・・・・・・というわけでデビモンを手当たりしだいに倒してるんですよ」
「・・・・・・というわけで第1部隊を探しているんだが・・・。この辺りで待ってるように言ってたんだがなぁ・・・・・・・」
6階だてほどの建物が立ち並ぶひとけのまったく無い狭い道路の中ほど、十字路で話していた積山・ギル、嶋川・アグモンはふと上を見上げた。ふらふらと時折落ちながら必死で近くの建物の屋上に引っかかったウィルドエンジェモンが見えた。
「ぼくが行ってきます。嶋川さんはあいつが落ちるか飛ぶかしたときのためここにいてください」
そう言うと積山とギルは非常階段の柵を飛び越えてかけ上がり始めた。
 
嶋川の目から積山が小さく見えてきたときに2台のトラックが滑り込んできた。和西と谷川がそれぞれ降りてきた。ゴマモンとホークモンは辺りを見回している。
「きたか・・・。いま積山とギルが上に行った」
「?」
「この上にウィルドエンジェモンがいる!?」
谷川、ゴマモンは嶋川の言っていることの意味を測りかねたようだが、和西は驚いて屋上を見上げた。白い影が屋上に落ちるのが見えた。
 
 
「覚悟・・・・・してもらいますよ」
すこし呼吸が荒い積山はぐったりとしたウィルドエンジェモンに言った。
剣を拾い上げはゆっくりと立ち上がったウィルドエンジェモンはそれを構える。
「人間の実力・・・・、見くびっていたようですね。特にあなたは無視できません」
ウィルドエンジェモンはあっという間に間合いを詰める。
積山は見事に出遅れ、剣の切っ先をぎりぎりでよけた。頬がさけるのを感じる。
 
嶋川さんなら余裕でよけただろうな
 
そんなことが頭をよぎった瞬間、背中をコンクリートに打ち付けた。積山に馬乗りになったウィルドエンジェモンの体温が伝わる。
泣いているのに気づいた。同時にその眼が白目をむいていることにも。
 
 
意識がない・・・・・?
 
振り下ろされた剣に服がコンクリートに縫い付けられる。またもやだめかと思った瞬間ギルが横から飛び掛かる。
ギルはフェンスにウィルドエンジェモンをたたきつけた。が、膝蹴りをうけ飛ばされる。
ギルは剣に当たって積山を自由にした。
「・・くそう」
「開きにならなくて良かったというところじゃないのかい?」
2人の息は完全に上がっていた。
ウィルドエンジェモンも相当なダメージを受けている。
そのとき、たくさんの靴音が響き数十の銃口が火を噴いた。ウィルドエンジェモンは両手の輪を当て、光らせた。
 
 
階段の途中でネオデビモンの応戦をしていた嶋川、和西、アグモン、ゴマモン。デビモンを追い立てていた谷川、二ノ宮、ホークモン、ファンビーモンは屋上が光るのを見た。爆発が起こり、その隙をついてネオデビモンを倒したアグモンは上を見上げた。

更新日時:
2007/06/17 
28    第27話 「黒炎」
吹き飛ばされコンクリートがめくれた屋上に立っているものは無い。ただ荒い呼吸を繰り返すウィルドエンジェモンが座っているだけだった。組織の人間は全身を防護服で覆われている。今の攻撃でも物陰にいた点もあわせ数名が軽傷を負っただけですんだ。デジモン1体とテイマー1人をのぞいて。
 
 
 
 
積山は爆発が起こる瞬間にギルに押し倒され下敷きになった。感謝している。ギルに。
こういうときなんて言えばいいのか・・・・。
 
 
シヌカトオモッタヨ。
 
 
そうそれ。死ぬかと・・・・死ぬ?
死ぬ・・・か。そういえば第4隊長が見せてくれた資料に被害者名簿があった。
年齢はバラバラで・・・・。それこそもうすぐ死ぬだろうな、みたいなおばぁさんもいれば2歳の子とお母さんもいた・・・。同年代の人もいた気がする。
 
 
 
うっすらと意識を取り戻した積山は辺りを見回した。ギルがウィルドエンジェモンに攻撃を受けていた。かなりのダメージを受けているはずなのにウィルドエンジェモンは強い。
ついにギルはグニャグニャに曲がったフェンスに追い詰められた。
 
 
「!」
 
ギルがやられる・・・・!
 
 
バキン!という音がして金属製の『もと』フェンスが折れた。ぐったりともたれていた2体は落ちていく。
 
 
積山はとっさにとなりに倒れていた隊員のポーチからプログラムカードを抜き取ると記憶を見真似てD-ギャザーに読み込ませる。
 
 
 
たのむ・・・・!
 
 
 
 
頭痛と薄れた意識のなかで積山はいつもの冷静な判断が出来なかった。
 
画面に何かアルファベットが表示される。
E V O L U T I O N
 
 
 
ギルとウィルドエンジェモンが落下する様は嶋川たちにもよく見えていた。ウィルドエンジェモンの翼がゆっくりと広がり、ギルを抱きかかえ地面への激突を避けようとしていた。
ように嶋川の目に映った。そして・・・・。
 
ギルが、進化する。雄たけびを上げ、巨大な影を道路に落とした。
体が分解され再構築される。
地響きをたてて着地した漆黒の竜は背中にしがみついていたウィルドエンジェモンを道路に叩きつけた。
 
 
それを見た和西は隣り合ったビルの壁を蹴って屋上に飛び上がった。着地して辺りを見回した和西は起き上がりはじめた隊員、コマンドドラモンと反対に倒れた積山を確認した。
「積山くん!しっかりして!」
反応が無いのを見た和西は積山を背負うと飛び降りた。
 
谷川はD-ギャザーでデータを調べる。
ギルは成熟期、デスグラウモンに進化した。
 
 
デスグラウモンはウィルドエンジェモンに背を向けた。つまり巨大な尾をウィルドエンジェモンにたたきつけた。
応戦できずウィルドエンジェモンはコンクリートの道路に埋め込まれる。
抜け出し、すぐとなりに落ちた剣を引き抜いたウィルドエンジェモンの目にデスグラウモンが両手を組み、肘から光の剣が出現する様子が映っていた。
デスグラウモンはそのまま両腕を地面に突き立てた。
 
 
通りの一角で爆発が起きた。
 
 
振動で積山は意識を取り戻した。
デスグラウモンの手の甲に積山の紋様がえがかれた。
凄まじい熱量の炎が撃ち出されウィルドエンジェモンを直撃する。
積山は凶悪なまでの強さをみせウィルドエンジェモンを追い詰めるデスグラウモンを見ていた。
デスグラウモンの攻撃の残りや反動は近場のビルを次々と破壊する。
 
ぼくが実行した。
 
積山はギルを止めたいと思った。そのとき、所長の言葉がよみがえった。
『デビモンはデビモンを取り込むことで必要な量のデータを獲得し、進化したそれを応用したのがアレだ』
第4隊長の言葉が響く。それは緊急で完成し、全部隊に支給されたガス手榴弾型の説明だった。
『デビモン2体で融合されたネオデビモンを強制的に分裂させる効果があるそうだ』
積山は和西に声を絞り出して言った。
「手榴弾を・・・、ギル、に・・・・」
暴走をはじめたデスグラウモン。
ウィルドエンジェモンがふらふらと逃げ延びる。しかしだれも後を追わない。というより都市の一部を破壊するデスグラウモンがいて通れない。
しかし積山はそんな事は気にしなかった。大切な友達を取り戻す。
その方法を嶋川が実行するのを最後に積山の意識は途絶えた。

更新日時:
2007/06/06 
29    第28話 「父親」
二ノ宮は休憩室のソファから崩れるようにして床に倒れた。2日間徹夜を続けてのデスグラウモンの事件の処理がやっと終わったのだ。ファンビーモンがあわてて二ノ宮の脇に降り立って顔を覗き込んだ。
「だいじょうぶか涼美!」
「だめ・・・。頭痛い・・・目が回るし・・・・・。おなか減った・・・」
結局二ノ宮の管轄の空戦部隊を中心にガス爆発でトラックを吹き飛ばし、それを運んで事故に見せかける、という視覚的操作と情報的な操作、撹乱の記録と始末書を書き上げたのだった。
「うぅ・・・。体痛い・・・」
「ほら若いんだからしっかりする!」
いつの間にかやってきた所長は呻く二ノ宮を抱き上げるとハグルモンが押してきた台車に乗せると部屋に連れて行きベッドに寝かせた。
「ほら、寝ろ。睡眠不足は美容に悪いぞ。科学的に」
「ん」
所長はポケットからお茶のボトルを出すとサイドテーブルに置いた。
「ほら、・・・・よければ飲んでくれ。じゃおやすみ、な」
「ん、・・・・・おやすみ、 ・・・・・ おとうさん」
ドアのところまで歩いていた所長は一度台車にけつまずいて駆け寄った。
「!いま何て言った!?」
「・・・なんでもない・・よ」
「・・・・・・そう、か・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・、おとうさんはなんでテイマーなの?」
「・・・おとうさん、て呼んでくれるのか」
二ノ宮は体を起こすとサイドテーブルのボトルを開けて一口飲んだ。
「お茶のお礼だよ。今日だけ。」
所長はすこし笑うと、
「そうか・・・。そうか!うん・・・じゃあおやすみ」
そう言って部屋を出て行こうとした。
「ナゼテイマーニナッタカコタエテナイゾ」
ハグルモンが道をふさぎ言った。
「おっ・・・そうだった。涼美。わたしは・・・・・」
そこまで言って所長はすこし考えこう続けた。
「なんでテイマーになっているのかわからん。でもな、今最高にうれしい。テイマーになって申し訳ないと思ったことは何回もある。けどな、いやだったと思ったことは一回も無い。暗い気持ちや嫌な気持ちにはもちろんなったことはあるけど今な、ハグルモンと出会っていろんな人やデジモンと会ってたくさん戦って変なもん作ってうまいもん食って。・・・・・・あと20秒ほどだけ、それでもお前におとうさんと呼んでもらって・・・。最高に幸せだ」
二ノ宮はそれを聞いて5年ぶりに心のそこからにっこりと笑った。
「このまま時間がとまればいい。生まれてはじめてそう思ってる」
「・・・・ごめんね。やっぱり、抵抗があるから。でもかならず。かならずおとうさんのこと普通にお父さんって呼ぶから」
「あと3秒か・・・」
 
 
「おやすみ涼美」
「ん、おやすみ。お父さん」
 
 
 
 
 
時計の針がカチャリと音を立てて12時を指した。
 
 
 
 
 
そしてデスグラウモンの戦いから3日後。まだ夜。
谷川は寮のベットでうなされていた。
 
 
 
谷川は昔の夢を見ていた。自分の両親が生きていたころのあの時の夢。
 
 
『二ノ宮くんに積山くん。意藤さん。それに辻鷹くん。よく来てくれたね』
『谷川、お前がわざわざ呼んだんだ。なにかあったのか?』
『いや、その、ここのところやつらの動きが派手なんですよ。向こうの世界での動きがね』
『なるほど。それでわたしたちは何をすればいい?』
『向こうで直に情報を集めてほしい』
『よし。では私と意藤とで行こう』
『おれや辻鷹が呼ばれたのは?』
『二ノ宮さんと辻鷹さんには早めに有川くんに例の組織を』
『わかった』
『あいよ。了解』
『しかし・・・。みなさん注意して行動してください。すでに黒畑くん、林未さんがやつらの手にかかっています。場合によってはぼくたちを殲滅するかもしれません』
『子供たちも危ない、と?』
『やつらが継承の仕組みを知ってるかはわかりません』
『そうか・・・。しかし根絶やしにされる訳にはいかないぞ?』
『とりあえず子供たちの安全が第一ですね。浩司くんと優美ちゃんはすでに保護して引き取り先も見つかってますが・・・』
『それも確かに大切です。しかし自分のことも考えてください。本当はこんな言い方したくないんですが子供たちが倒れてもぼくたちさえいれば継承をすることも可能です。でもぼくたちが倒れた後子供たちが襲われれば・・・・・』
『・・・・・』
『・・・・・なるほど。いいたいことは分かった。両立させればいいのだろう?』
『そのとおりです。くれぐれも注意しください。ぼくはすこしでもはやく資料を完成させます』
『わかった。それはお前の船体撤去だ』
『いやだ二ノ宮くん“専売特許”でしょ!?』
『つっこむなよ意藤』
私は机の下から出るとその場にいた全員の顔が面白いように驚きを浮かべた。いや、引きつった・・・?
けれども父はすぐに笑顔になって私を抱き上げ、抱きしめて言った。
『ほぉら、計。またこのいたずらっ子が、お父さんの部屋でかくれんぼしちゃだめだろ?』
きれいに肩の位置で切りそろえられた髪を大きな手がなでる。
 
視界がぼやけ始めた。
 
そして2発の銃声。
『修験者。余計なことをしたな?さすがだがな。テイマーや我々をここまで調べ上げてその上次の世代に託そうとするとは・・・。』
黒い影はなにか丸いものを手から落とし、次の瞬間また銃声。なにかが砕ける音がした。
『き・・・・さま・・・・・』
『ふっ、お前たち人間の作るものは面白いな。この引き金とやらを引くだけか』
『はぁ・・・はぁ・・・・ぐッ・・・・』
『もう長くはあるまい』
おとうさん!おとうさん!おとうさん!!!!
『黙れ小娘。して修験者。言い残したいことがあれば聞いてやろう』
『・・・・・なに・・・・・!・・・・・』
『貴様らが最期に無様に何をほざくのか聞いてみたいのだ』
『・・・・・・・・・・・・』
『ないのか?つまらんな。死ね』
 
 
『・・・・・たのむ・・・。娘を・・・。
娘の命を・・・。この子を見逃してくれ・・・・・』
 
 
 
 
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!」
谷川は飛び起きた。汗に濡れた肌にパジャマと長い髪の毛がへばりついている。
「谷川!うるさい!はやくねなさいよ!すこしは周りのこと考えなさいグズ!」
扉の向こうから寮でくらす他の生徒の罵声が聞こえる。
荒い息をくりかえして谷川は両手で顔を覆った。
いまのは・・・・・・・・・!?
谷川は必死に思い出そうとした。しかし父親の手の感触しか頭の中に浮かんでこなかった。
 
「お父さん・・・・・」
 
谷川は布団を頭からかぶって
泣きはじめた。
 
頭のなかで机の下から見た大人の影がいくつか揺らいでいた。
 
 
 
 

更新日時:
2007/06/06 
30    第29話 「口実」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
二ノ宮を見るなり、積山は何も言わなかった。しばらくたって新藤は、
「・・・入院、する?」
と、見るからに血色の悪そうな顔をした二ノ宮に提案した。
 
午前9時48分。二ノ宮は積山の見舞いに来た。起きてすぐに報告書を提出してその足で来たのだが若干足元がふらついていた。
 
「・・・・・ごめんなさい、やっぱりすこし寝かせてください」
「点滴もうってあげるよ」
 
 
 
まず一番最初に・・・・神原と名乗った胸に炎の形の刺繍入りジャケットを着た男がギルを連れて行った。進化の条件と退化の成功例として所長のもとで検査を受けるらしい。積山も本人も快諾した。
 
次に嶋川とアグモン、谷川とホークモンがやってきた。嶋川はスポーツドリンクを5本積山に渡し、全部飲めと命令した。谷川はいつもの元気はなくやがてホークモンたちと帰っていった。
 
その次に二ノ宮と、テイマーの背を押してきたファンビーモンが来た。で、二ノ宮はカーテンの向こうで眠っている。
 
 
3時ごろ、眠ってしまった積山の部屋にノックが響いた。
「積山く〜ん?」
辻鷹がそっと顔を差し入れて中をのぞいた。
「寝てるみたいだな」
ガブモンはドアを開け放つと中に入った。和西、ゴマモンが続き辻鷹が最後にドアを閉める。
「元気、かなぁ」
辻鷹が積山の顔を覗き込み、ゴマモンがあきれたように言った。
「入院してるんだけど」
和西はテレビでニュースを見た。音を消し画面を眺める。
昨日デスグラウモンが吹き飛ばした通りには大きな黒焦げのトラックが数台倒れていた。 「ふーん」
辻鷹は納得した。どうやら組織はトラックの爆発事故ということにしたらしい。 しばらく眺めていると話題が変わってUMA特集になった。デビモンの映像が流される。辻鷹はそこでスイッチを切った。
ドアが開いていた。
まったく気配がなかった。
天羽は驚く和西たちの間をとっとっと、と歩き積山の顔を覗き込んだ。
無言の和西たちを気にせずにしばらくそうしていた彼女は突如部屋を出て行った。サイドボードに封筒が置かれていた。
 
 
 
「っそう!!」
嶋川は力まかせに炎撃刃を叩きつけた。
デビモンはあっけなく消滅する。
「[ベビーバーナー]!!」
アグモンはデビモンを撃ち落すと嶋川のとなりに立った。谷川、ホークモンもやってくる。
なんの気配もない。すこしひらけた場所に出て辺りを見回した。何もいない。
谷川の紋様が光り眼に緑がさす。その眼を閉じ、耳をすます。ロッドを引くと同時に引き金を引いた。
街の騒音や嶋川の心臓の音、アグモンの息、ホークモンの羽がたてる音。風がうなる音が耳にまとわりつき、そしてその中にかすかな翼の音が聞こえた。
「伏せて!」
叫ぶと同時に谷川は真後ろに銃口を向けた。
「なに!?なに!?」
あわてるアグモンを嶋川が蹴り倒す。
「伏せろってんだろうが!」
「うわっ」
谷川はすこし射線をずらすとロッドに添えた手を離す。
空気の弾丸は容赦なく200メートル上空にいたネオデビモンに襲い掛かり撃破した。
 
光に照らされてキラキラと輝く砂を見上げながらホークモンは呟いた。
「彼らは死ぬのを恐れないのか」
嶋川はうなずき、
「おれもたまに思うんだ。死んでもいい。そう思ってる気がする。・・・・生きる気が無いような・・・。戦ってるときに何か違和感がある」
谷川は首をかしげ少し考えてから言った。
「戦う気はすごくあるっていうのかな・・・。ただ戦うだけ、見たいな気がするな。あたしは」
 
アグモンは・・・・。
なにも言わなかった。 話題に入れなかった。
 
 
夕日が顔に当たり、二ノ宮は顔をしかめて目を開けた。
「わるいね。はいこれ」
新藤が(二ノ宮の)携帯電話をさしだして言った。
『有川だ。』
「あっ、はい」
『どうだ調子は。いや、そういえばベットの上だったな。ま、それはいい』
「どうか・・・したんですか・・・?もしかして書類不備とかですか?」
『いや、書類には目を通したよ。よくやってくれた。しかしね・・・。進化プログラムのことなんだが』
「なにかあったんですか?」
『進化できないという結果が9割程度見られた』
「どういうことですか?」
『つまり一筋縄ではいかん、ということだろう』
「はぁ・・・」
『そこでだ。研究所最高責任者二ノ宮所長から命令だ。積山慎と2日ほど行動をともにして秘訣、というか。とにかく進化に関する情報を集めて報告すること。以上』
「はぁ・・・、はい。でも積山くん入院してますけど」
『ではついでだ。君も入院したまえ。新藤に聞いた。入院できるだけの健康状態だそうじゃないか。ではおだいじに』
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
電話は一方的に切られた。ケータイを新藤に返すと二ノ宮は苦笑いをして、
「2日ほどよろしくお願いします」
と言った。
 

更新日時:
2007/06/17 
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