谷川はなんどか遠くのほうで自分を呼ぶような声に目を開けた。
「・・・・ホークモン・・・?」
目の前にはホークモンがたまに、しかしうれしそうに触っていた羽飾りが落ちていた。首筋を血が流れている。
「いたたた・・・・」
谷川は立ち上がると壁伝いに角を曲がった。
「[フェザークラッ・・・・」
ホークモンは技を繰り出そうとし、デビモンに蹴り落とされ赤い羽が舞い散った。谷川はホークモンを一瞬見失い、壁に磔にされたのを見た。とっさにロッドを上げ引き金を引いた。
撃ちだされた空気の弾丸がホークモンをコンクリートに縫い付けていたデビモンの右手が消し飛ばしホークモンはドサッ、と地面に落ちた。2体のデビモンが谷川に気づいた。とたんに谷川は震えが止まらなくなった。エアーシールドを構えたままの状態で固まってしまった谷川との間合いが2メートルほどになった瞬間デビモンのカギヅメが谷川の小柄な体を捉える瞬間ホークモンが割って入った。谷川の右手に握られた羽飾りをむしりとり、投げつけた。
「[フェザースラッシュ]!!!!!!」
谷川はびしょぬれで寮の自分の部屋に入った。ドアを閉めたとたんに涙が伝う。
ついさっきまでの同級生の罵声が耳に残っていた。座り込んで両手に顔をうずめた谷川の髪になにか暖かいものがに触れた。
「泣かないでください。似合ってないです」
驚いた谷川の前に赤い羽毛の生き物、いや、鳥がいた。顔を上げた谷川の頬の涙を羽毛に覆われた翼がふき取った。
谷川はまた泣き始めた。
「あなたはだれ?鳥さん、に見えないこともないけど」
「鳥さんですがデジモンというものです。名前はホークモンと言います」
泣き止んだ谷川のひざくらいの大きさのホークモンと名乗った鳥はすこし怪我をしていた。
「どうしたの?それ」
「いや、たいしたことは・・・・・。それよりも飾り羽が無いのが気になるくらいです」
そう言うなりホークモンはよろめいた。
「たいしたことあるじゃない・・・!はやく手当てしなきゃ・・・」
「あなたこそびしょぬれですよ。早く着替えないと風邪を引きます」
普段着に着替えた谷川はホークモンに消毒液をかけてガーゼを当て、包帯を巻いた。
「私は・・・。計に会うために、なぜか、どうしても思い出せないんですがとても遠い所から来ました。途中で襲われましたが・・・。会えてよかった」
それを聞いた谷川は驚いた。
「あたしに会いに来たの?こんな怪我までして・・・・」
「私は計に会うのが使命でした。会って守り抜く。そしてあなたが仲間とともに“成し遂げる”まで命を賭けてサポートをする。そんなことだけが残っていました」
「成し遂げる・・・・。なにを?」
「分かりません・・・。でも・・・・」
「・・・・・・よろしくね。でも命は賭けないで。友達に、なれるよね」
ホークモンはそれっきり黙りこんだ。谷川はなにか思いついて机の上の木箱を持ってきた。
「これ、ほんとはお父さんの形見なんだけど・・・」
谷川は木箱を開けてなかから緑と蒼を基調とした模様の1枚羽の羽飾りを取り出した。
「これ、代わりにどう?」
手に取ったホークモンは驚いた。
「これは・・・。いいんですか?」
「いいよ。だって大事な・・・・・・
「友達ですから・・・・」
ボロボロになったホークモンを抱きかかえて谷川は逃げ続ける。
デビモンが近くを飛ぶ音が耳に届く。
「だからってあんな無茶しちゃだめだよ・・・!」
谷川は座り込んだ。ホークモンは谷川の様子を見た。あちこちきり傷があり左の靴が血に染まっている。
「無茶はお互いでしたね」
肩で息を繰り返す谷川とデビモンの間に立つ。
「正直・・・・
「ホークモン・・・・
谷川はロッドに手をかけ、引こうとした。力が入らない。谷川は奥歯を噛み締めた。
そのときポケットになにか当たった。出てきたのはプラスチックのケースだった。
これしかない。
「ホークモン!これ使うよ!」
「いつでもどうぞ!」
谷川はケースを開けると中のプログラムプレートを取り出し迷うことなく読み込ませる。
「おねがい・・・・!」
「たのむ・・・・!」
進化が発動した。ホークモンは光につつまれた。データが書き換えられ物質が組み替えられる。やがて光が消え、ホークモンは真紅の巨鳥、アクィラモンに進化した。
「やった・・・。やった!」
「[ブラストレーザー]!」
谷川はなかば茫然と、しかし笑顔で喜び、アクィラモンは最後に残った一体のデビモンを焼ききった。砂とデータのチリになったデビモンの前にアクィラモンが着地する。
アクィラモンはテイマーを翼で包み、谷川はその頭に抱きついた。
空を谷川を乗せたアクィラモンが飛んでいく。
「いったん二ノ宮さんのところに帰りますよ。傷の手当てをしないと」
「うん。そうだね。アクィラモン」
谷川は目の前でゆれる羽飾りを眺めた。
「いつも付けてるんだね」
「一番の宝物ですからね。・・・・・・・これ、大事なものなんでしょう?もらっても良かったんですか?」
「いいんだよ。・・・実はね、ほとんど生まれて初めての親友になれそうだったからあげたんだ」
「なっちゃっいましたか?」
「なっちゃいましたっ」
谷川は目を細めてアクィラモンの背中に抱きついた。
倒れたままの嶋川を一瞥すると相手ははじかれた刀を拾い上げた。元の位置に戻ると右手に持った刀を4,5回振り回して逆手に握った。そのまま突き下ろす。
嶋川は眼を開くと同時に転がり刀の切っ先をさける。
刀は嶋川の右目があった点を貫いていた。
「あぶね・・・。ったく」
相手はうつむいて顔は見えない。が左目だけが髪の間から見えた。その眼が深い緑に染まる。
刀の打ち込まれた部分からツタのような植物が生え、嶋川に襲い掛かる。
「なっ・・!?」
ついに嶋川は炎撃刃のベルトを引き剥がし剣を抜いた。炎が燃え上がる。嶋川はそのまま横に薙いだ。ツタに火がつき燃え移り、さらには燃え尽きた。嶋川はそのまま炎撃刃を振り上げ地面に打ち込んだ。
炎が相手を囲み逃げ道を封じる。嶋川は剣を軸に炎を飛び越えた。
相手は剣を引き抜くと嶋川に斬りかかった。眼が紅がさし振り下ろされた刀を炎撃刃の鞘が覆う。
「いいかげんにしろ!」
嶋川の渾身の右ストレートが相手の鳩尾に見事に決まった。ひとたまりもなく相手は倒れた。途端に何かデジモンのような生命体が嶋川に襲い掛かる。
「なんだよお前放せよ!」
嶋川は素手でも強い。しかし引き剥がせない。
相手は6本の細いわりに凄まじい力の足と数本の触手で嶋川にしがみつく。
アグモンはバックステップで瞬間の間合いをとると相手=コテモンを見た。わきを締めて構える姿にスキはなさそうだ。しかしないなら作るまで!
アグモンはかなり低い体勢で突進した。案の定コテモンは下段に薙いだ。
斬撃を飛んでよけたアグモンは[ベビーバーナ]を竹刀に撃ちこんだ。吹き飛んだ竹刀を放し攻撃を避けたコテモンにアグモンの頭突きが入った。コテモンは電柱と電柱の間くらいの距離を宙を舞いドサリと落ちた。
「浩司!」
「なんだ!いまそれどころじゃ・・・・!」
嶋川は必死に炎撃刃ににじり寄った。背中に回った生命体が口から太い触手を出した。
カチャリと小口を切る音が響き嶋川の背後に迫る。
一撃突きこまれた刀の切っ先が次の瞬間横薙ぎに通過し、真っ二つになった生命体は消滅した。しかし跡形もなく消滅した。
カチンと鞘に刀を仕舞うとかつての相手は、
「いやぁ、どうも」
そう言った。嶋川は首を何度か回し、炎撃刃を引き抜く。そのまま正面の男に向けた。
「なにが『いやぁ、どうも』だ」
「・・・・・。悪気があったわけではありませんよ?と、言うよりもおれにどういう気があろうとお構いなしだ」
嶋川は油断なく相手に剣を突きつけ、短く言った。
「何の話だ」
「・・・・おれは、いや、コテモンも操られたみたいだな」
「・・・・は・・?だいたいお前誰だよ」
「操られている最中でもお前が“なにか”くらい分かってる」
「それはよかったな。お前は誰だ」
「おれは林未健助。『木の魔道士』だ。パートナーはコテモン」
「そういう意味じゃない。なんでおれたちを攻撃した?」
「それは・・・なんで、といわれてもこまる。分からないことも無いでしょう?取り付かれかけたわけだからな」
嶋川はとりあえず剣をしまい腕組みをすると片手で背中をさすった。たしかに、こいつの言っていることは正しいのかもしれない。
「わかった。まぁいいや」
林未は表情を崩さず、
「わかってもらえてよかったよ」
しかし直後アグモンが背負ってきたコテモンを見て口元が若干、引きつった。

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