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31    第30話 「論理」
研究所に和西たちが呼ばれたのは積山と二ノ宮が退院(二ノ宮は事実上リフレッシュ休暇)した3日後のことだった。無駄に広い会議室に座り組織と十闘神の面々は進化の説明を受けた。
論理は・・・・
・デジモンは一定量の情報や物質を吸収すると自身の肉体を変化させる。
・証拠としてはネオデビモンの例が挙げられる。デビモン2体の融合体であるネオデビモンは質量は2倍、構成物質はほぼ同一だった。
・成功例はシールズドラモンが1例、デスグラウモンの例が新たに報告された。
・退化にはネオデビモン分解粒子を調整したものをプログラム化することに成功した。
 
 
「じゃあさっさとみんなに配ってくれてもいいのに」
谷川が場の空気を揺さぶった。
「(なにか理由があるんですよ)」
ホークモンが小声でたしなめる。
「えっ?なにぼそぼそ言ってるの?」
所長は明らかに気分を害した若い研究者数人をなだめると頭をかいて谷川の質問に答える。
「いや・・・。ごもっともな質問だけどね。なぜか進化できた例は2体だけなんだよ」
積山が首をひねって少し考え、発言する。
「どういう・・・ことですか?」
「いや・・・論理的には進化できないなどありえなかった。実際に成功例が2つあるわけだしね。でもそれ以外の実験では進化しなかった。いや、進化できなかった。ほかに何か条件があるのかもしれない」
そこまで説明するととなりに座っていた男が銀色のケースを取り出して開いた。中にはプラスチックのケースが縦に整列しているのがよく見えた。男は説明を始めた。
「これは進化プログラムに退化プログラムをはじめとする改良を加えたものです。進化の詳細な条件は不明ですが実験的に作られたものを今から配布します」
積山は配られたケースを手に取った。観音開きのふたを開けると2センチほどの厚さのプラスチックの板が出てきた。
「中心部をデジヴァイスの石の部分に押し当てていただくとプログラムが発動する仕組みになっています。あっ!やめろ!」
谷川はどきりとした顔で辺りを見回した。プログラムカードが硬い音を響かせて落ちる。ホークモンは全身の羽毛を逆立てていた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「?・・・あれ?え?な・・・、なに?」
「・・・進化、しませんね」
「まただめか・・・・」
組織の人間は黙りこみ、積山は硬直状態のホークモンを一瞥し、所長はため息をついた。
「なになになになになにー!?なんなの?」
谷川はおろおろしていた。
 
 
 
 
2時間後。
 
 
「はぁ〜ぁ・・・・・」
谷川はため息をついて帰路についていた。
「そんなに気を落とさないでくださいよ」
ホークモンは谷川の少し後ろを歩いていた。背中がすこし逆立っている。
すれ違う人は皆ホークモンを振り返ったりしていたが騒ぐものはいない。
谷川はホークモンを抱きかかえるとバスに乗った。ひざの上に乗せて背もたれにもたれかかる。
 
5分ほどバスに揺られていた谷川はふいに立ち上がった。黒い人影が羽ばたいていた。間違いない。
「よし、汚名返上!」
谷川は勢いよく立ち上がり下車ボタンを押した。
バスのステップを飛び降りると谷川は通学バッグとホークモンを即座に下ろしバッグからエアーシールドを取り出すと左手にはめた。ベルトを締めて固定する。カバンを背負いなおすとデビモンを追い始めた。一足先にホークモンが飛ぶ。ホークモンは角に差し掛かるたびに様子を伺う。
2回ほど角を駆け抜け、ホークモンは様子を伺った。地面に降りて翼を広げて谷川を制止する。
「いた?」
「いましたよ」
谷川とホークモンはそっと覗いた。デビモンが一体歩いていた。
「いたね」
「いた・・・・」
「?」
ホークモンが絶句し、谷川は後ろを見上げ凍りついた。
デビモンが2体襲い掛かる瞬間だった。
 
 
 
 
少し前。嶋川はコートとニット帽で変装したアグモンと歩いていた。もう少しで家に着く。嶋川は歩くときにできるだけ人通りの少ない道を選ぶのが癖になっていた。
なにかの気配を感じ嶋川はそっと後ろを窺う。なにもいない。しかし嶋川はアグモンを見下ろした。同時に頷く。
嶋川とアグモンは足を止め、振り返った。
 
「いるんだろ?出てこいよ」
 
嶋川は背負っていたスポーツバックに入っていた炎撃刃を取り出した。
「相手、してやるぜ」
電柱の影、その近くの屋根からなにかが現れた。アグモンはコートを投げ出すと眼を凝らした。
 
すこしおぼつかないようにも見える足取りで一体のデジモンが屋根から、一人の人間が電柱の影から歩いてきた。
嶋川は人間のほうの前に立った。相手は腰のベルトに無造作に差し込まれた刀を鞘ごと抜いて鞘と柄を両手で持った。嶋川は一瞬考え炎撃刃の鞘のベルトを撒きつけて抜けないようにした。
次の瞬間相手は刀を抜くと同時に斬りつけた。嶋川の眼が赤く染まり刀を蹴り飛ばしたがその首に凄まじい打撃が打ち込まれた。相手は抜いたあとの鞘で嶋川の首を横薙ぎに殴っていた。
「グ・・・・」
嶋川は倒れた。
 
 
 
崩れた倉庫から気絶しかけの谷川を助け出すとホークモンはデビモンからテイマーを隠すように翼を広げた。
 
嶋川が倒れたのに気をとられたアグモンは相手=コテモンの竹刀が風を斬る音に反応して頭を引っ込めた。帽子が真っ二つになって落ちる。嶋川は首を押さえて悶絶していた。
 

更新日時:
2007/06/03 
32    第31話 「資格」
谷川はなんどか遠くのほうで自分を呼ぶような声に目を開けた。
「・・・・ホークモン・・・?」
目の前にはホークモンがたまに、しかしうれしそうに触っていた羽飾りが落ちていた。首筋を血が流れている。
「いたたた・・・・」
谷川は立ち上がると壁伝いに角を曲がった。
「[フェザークラッ・・・・」
ホークモンは技を繰り出そうとし、デビモンに蹴り落とされ赤い羽が舞い散った。谷川はホークモンを一瞬見失い、壁に磔にされたのを見た。とっさにロッドを上げ引き金を引いた。
撃ちだされた空気の弾丸がホークモンをコンクリートに縫い付けていたデビモンの右手が消し飛ばしホークモンはドサッ、と地面に落ちた。2体のデビモンが谷川に気づいた。とたんに谷川は震えが止まらなくなった。エアーシールドを構えたままの状態で固まってしまった谷川との間合いが2メートルほどになった瞬間デビモンのカギヅメが谷川の小柄な体を捉える瞬間ホークモンが割って入った。谷川の右手に握られた羽飾りをむしりとり、投げつけた。
「[フェザースラッシュ]!!!!!!」
 
 
 
 
谷川はびしょぬれで寮の自分の部屋に入った。ドアを閉めたとたんに涙が伝う。
ついさっきまでの同級生の罵声が耳に残っていた。座り込んで両手に顔をうずめた谷川の髪になにか暖かいものがに触れた。 
「泣かないでください。似合ってないです」
驚いた谷川の前に赤い羽毛の生き物、いや、鳥がいた。顔を上げた谷川の頬の涙を羽毛に覆われた翼がふき取った。
谷川はまた泣き始めた。
 
「あなたはだれ?鳥さん、に見えないこともないけど」
「鳥さんですがデジモンというものです。名前はホークモンと言います」
泣き止んだ谷川のひざくらいの大きさのホークモンと名乗った鳥はすこし怪我をしていた。
「どうしたの?それ」
「いや、たいしたことは・・・・・。それよりも飾り羽が無いのが気になるくらいです」
そう言うなりホークモンはよろめいた。
「たいしたことあるじゃない・・・!はやく手当てしなきゃ・・・」
「あなたこそびしょぬれですよ。早く着替えないと風邪を引きます」
 
 
普段着に着替えた谷川はホークモンに消毒液をかけてガーゼを当て、包帯を巻いた。
「私は・・・。計に会うために、なぜか、どうしても思い出せないんですがとても遠い所から来ました。途中で襲われましたが・・・。会えてよかった」
それを聞いた谷川は驚いた。
「あたしに会いに来たの?こんな怪我までして・・・・」
「私は計に会うのが使命でした。会って守り抜く。そしてあなたが仲間とともに“成し遂げる”まで命を賭けてサポートをする。そんなことだけが残っていました」
「成し遂げる・・・・。なにを?」
「分かりません・・・。でも・・・・」
「・・・・・・よろしくね。でも命は賭けないで。友達に、なれるよね」
ホークモンはそれっきり黙りこんだ。谷川はなにか思いついて机の上の木箱を持ってきた。
「これ、ほんとはお父さんの形見なんだけど・・・」
谷川は木箱を開けてなかから緑と蒼を基調とした模様の1枚羽の羽飾りを取り出した。
「これ、代わりにどう?」
手に取ったホークモンは驚いた。
「これは・・・。いいんですか?」
「いいよ。だって大事な・・・・・・
 
「友達ですから・・・・」
ボロボロになったホークモンを抱きかかえて谷川は逃げ続ける。
デビモンが近くを飛ぶ音が耳に届く。
「だからってあんな無茶しちゃだめだよ・・・!」
谷川は座り込んだ。ホークモンは谷川の様子を見た。あちこちきり傷があり左の靴が血に染まっている。
「無茶はお互いでしたね」
肩で息を繰り返す谷川とデビモンの間に立つ。
「正直・・・・
「ホークモン・・・・
 
谷川はロッドに手をかけ、引こうとした。力が入らない。谷川は奥歯を噛み締めた。
そのときポケットになにか当たった。出てきたのはプラスチックのケースだった。
 
これしかない。
 
「ホークモン!これ使うよ!」
「いつでもどうぞ!」
 
谷川はケースを開けると中のプログラムプレートを取り出し迷うことなく読み込ませる。
 
「おねがい・・・・!」
「たのむ・・・・!」
 
 
進化が発動した。ホークモンは光につつまれた。データが書き換えられ物質が組み替えられる。やがて光が消え、ホークモンは真紅の巨鳥、アクィラモンに進化した。
 
「やった・・・。やった!」
「[ブラストレーザー]!」
谷川はなかば茫然と、しかし笑顔で喜び、アクィラモンは最後に残った一体のデビモンを焼ききった。砂とデータのチリになったデビモンの前にアクィラモンが着地する。
アクィラモンはテイマーを翼で包み、谷川はその頭に抱きついた。
 
 
空を谷川を乗せたアクィラモンが飛んでいく。
「いったん二ノ宮さんのところに帰りますよ。傷の手当てをしないと」
「うん。そうだね。アクィラモン」
谷川は目の前でゆれる羽飾りを眺めた。
「いつも付けてるんだね」
「一番の宝物ですからね。・・・・・・・これ、大事なものなんでしょう?もらっても良かったんですか?」
「いいんだよ。・・・実はね、ほとんど生まれて初めての親友になれそうだったからあげたんだ」
「なっちゃっいましたか?」
「なっちゃいましたっ」
谷川は目を細めてアクィラモンの背中に抱きついた。
 
 
 
倒れたままの嶋川を一瞥すると相手ははじかれた刀を拾い上げた。元の位置に戻ると右手に持った刀を4,5回振り回して逆手に握った。そのまま突き下ろす。
嶋川は眼を開くと同時に転がり刀の切っ先をさける。
刀は嶋川の右目があった点を貫いていた。
「あぶね・・・。ったく」
相手はうつむいて顔は見えない。が左目だけが髪の間から見えた。その眼が深い緑に染まる。
刀の打ち込まれた部分からツタのような植物が生え、嶋川に襲い掛かる。
「なっ・・!?」
ついに嶋川は炎撃刃のベルトを引き剥がし剣を抜いた。炎が燃え上がる。嶋川はそのまま横に薙いだ。ツタに火がつき燃え移り、さらには燃え尽きた。嶋川はそのまま炎撃刃を振り上げ地面に打ち込んだ。
炎が相手を囲み逃げ道を封じる。嶋川は剣を軸に炎を飛び越えた。
相手は剣を引き抜くと嶋川に斬りかかった。眼が紅がさし振り下ろされた刀を炎撃刃の鞘が覆う。
「いいかげんにしろ!」
嶋川の渾身の右ストレートが相手の鳩尾に見事に決まった。ひとたまりもなく相手は倒れた。途端に何かデジモンのような生命体が嶋川に襲い掛かる。
「なんだよお前放せよ!」
嶋川は素手でも強い。しかし引き剥がせない。
相手は6本の細いわりに凄まじい力の足と数本の触手で嶋川にしがみつく。
 
 
アグモンはバックステップで瞬間の間合いをとると相手=コテモンを見た。わきを締めて構える姿にスキはなさそうだ。しかしないなら作るまで!
アグモンはかなり低い体勢で突進した。案の定コテモンは下段に薙いだ。
斬撃を飛んでよけたアグモンは[ベビーバーナ]を竹刀に撃ちこんだ。吹き飛んだ竹刀を放し攻撃を避けたコテモンにアグモンの頭突きが入った。コテモンは電柱と電柱の間くらいの距離を宙を舞いドサリと落ちた。
「浩司!」
 
「なんだ!いまそれどころじゃ・・・・!」
嶋川は必死に炎撃刃ににじり寄った。背中に回った生命体が口から太い触手を出した。
カチャリと小口を切る音が響き嶋川の背後に迫る。
一撃突きこまれた刀の切っ先が次の瞬間横薙ぎに通過し、真っ二つになった生命体は消滅した。しかし跡形もなく消滅した。
 
カチンと鞘に刀を仕舞うとかつての相手は、
「いやぁ、どうも」
そう言った。嶋川は首を何度か回し、炎撃刃を引き抜く。そのまま正面の男に向けた。
「なにが『いやぁ、どうも』だ」
「・・・・・。悪気があったわけではありませんよ?と、言うよりもおれにどういう気があろうとお構いなしだ」
嶋川は油断なく相手に剣を突きつけ、短く言った。
「何の話だ」
「・・・・おれは、いや、コテモンも操られたみたいだな」
「・・・・は・・?だいたいお前誰だよ」
「操られている最中でもお前が“なにか”くらい分かってる」
「それはよかったな。お前は誰だ」
「おれは林未健助。『木の魔道士』だ。パートナーはコテモン」
「そういう意味じゃない。なんでおれたちを攻撃した?」
「それは・・・なんで、といわれてもこまる。分からないことも無いでしょう?取り付かれかけたわけだからな」
嶋川はとりあえず剣をしまい腕組みをすると片手で背中をさすった。たしかに、こいつの言っていることは正しいのかもしれない。
「わかった。まぁいいや」
林未は表情を崩さず、
「わかってもらえてよかったよ」
しかし直後アグモンが背負ってきたコテモンを見て口元が若干、引きつった。
 
 
 

更新日時:
2007/11/03 
33    第32話 「拒絶」
次の日、谷川は普段と同じように目を覚ました。目の前は・・・赤一色だ。一瞬彼女は混乱したが、一瞬だけだった。
研究所でケガの治療をしてもらってから今まで谷川はアクィラモンから離れることはなかった。結局そのまま寝てしまったのだろう。それでも風邪ひとつ引かなかったのは羽毛のおかげだろうか。大きく伸びをした谷川は2秒後には青ざめていた。
「どうしよう・・・」
心臓が冷えるような感覚が襲い始めた。無断で寮に帰らずに一晩過ぎてしまっていた。
あわててドアを開けて外に出たと同時に誰かにぶつかった。
「きゃ・・・、ごめん・・な・・・・・さい?」
谷川は謝り、同時に唖然とした。盛大な音をたてて倒れた相手は車椅子に拘束され目を白黒させていた。周りに数人の白衣の男女数名、その後ろに私服姿の二ノ宮がファンビーモンを抱いた状態で硬直している。所長が車椅子の下敷きになっている。
そして拘束されているのは林未だった。
谷川は車椅子と手の紋様を見て苦笑いし、林未はやはり手の紋様、そして大きめの羽毛にまみれた谷川を見て苦笑いをした。
 
車椅子と白衣の一団は廊下の向こうに消えていった。かすかに『おたすけ』と聞こえた気がした。
 
 
それから約1時間。林未はそのまま身体検査を受け、やっと開放された。二ノ宮が学校に連絡を入れたのを知った谷川は、林未・コテモン、二ノ宮・ファンビーモンと朝食をとった。
「へぇ、おんなじ学校の人なんだ」
「そうなんだよね。でもね・・・テイマーになって早々変なのにとりつかれるは変な所に連れ込まれるは、大変ですねテイマーって」
林未は幾分血色の悪い顔でそう言い、後ろを通り過ぎていった職員が露骨に嫌な顔をした。
「体調はどう?」
二ノ宮が訊ねた。林未は首筋をさすって
「別にこれといって」
と答える。二ノ宮はしばらくパソコンをいじると、
「いままでとりつかれた例なんてないわね」
つぶやいてコーヒーを流し込んだ。
「どうだったんですか?」
谷川の質問に林未は即答した。
「痛かったよ」
 
 
 
有川はパートナー、ヨウガザモンとともに地下へ続く階段を下りていた。すでにかなり歩いていたので扉が見えた。有川はD-ユニオンを扉のくぼみに当てた。扉は音もなく開き彼を通した。足元にわずかな明かりの灯るだけの通路をしばらく進み、彼は自分の席に着いた。コートのすそを直し両肘をついてあごを乗せた。出席している者全員の目の前の液晶画面が表示された。
有川総司令官は開会を宣言した。
「では、はじめよう。神原君」
「へいへいへい・・・・・」
炎のエンブレムの入った隊服を着崩した姿の神原が立ち上がった。
「研究所!よっろしく」
白衣を着た男数名が画面を操作した。全員の画面が切り替わり、ぼやぼやの写真が映し出された。
「この写真は今月から頻繁に目撃され始めたアンノウン第47号、ネオデビモンです。この写真は都内の一般市民が撮影したものです。修正、拡大します」
画面の写真が拡大され、少しずつ輪郭を取り戻す。画面中央になにか白いものが映っていた。
「なんだねこれは」
スーツを着込んだ中年の男が場の空気を揺るがした。研究所職員はかまわず、
「この修正写真で注目するべきは時間と写真に映っているビル、また影などから割り出した撮影角度、距離を計算した所、大きさは身長2メートルほど。体重はすくなくとも100キロを越えるはず、ということです」
「それがどうしたというんだね!」
無視されいらだった男が机をたたいたが、
「バカだねぇ。よーするにそんなでかいもんが飛べるかってんだよオッサン」
神原が露骨に男をコケにする。
「・・・・えー、コホン。では画面中央にご注目ください。これはおそらく飛行物体と思われます」
何人かが唾を飲み込んだ。神原は、
「それで、撮影者は?」
「都内在住、無職、盛岡誠一32歳です。昨日の午前3時48分、死亡が確認されました。というよりは頭を貫かれて即死だったようです」
そう言うと研究者は画面を操作した。出席者のほとんどが画面に映し出された白い横線を見て息を飲んだ。
「これは被害者の頭部及び壁から発見されました。長さは40センチ。これが被害者の頭部に直撃、そのまま被害者ごと1メートル先のコンクリートの壁に刺さっていました」
室内がざわめきに包まれる。神原は頭をかきむしると、
「でぇ、・・・、対策は!?」
職員は首を振り、
「残念ながら・・・。一般市民はおろか我々でも狙われてこれを打ち込まれたらひとたまりもありません」
となりに座っている職員は、
「この攻撃を受けて生き残れたものは今のところ3人です。谷川計という少女は全攻撃をよけネオデビモンを撃墜。二ノ宮少佐官は全攻撃を受け無傷で帰還。嶋川浩司という少年においては時速300キロにもなるこの攻撃を素手で止めネオデビモンを倒しています。また、倒すにしても辻鷹仁という少年に狙撃してもらうくらいしか・・・・・」
室内は静まり返った。出席していた警察官僚がその場の全員に聞いた。
「それだけ・・・・か?20歳にも満たない子供に頼るしか打つ手が無い、のか?」
その時大柄な白衣の男が立ち上がった。所長だった。
「もちろん子供達だけを戦わせるわけには行きません。本日より全デジモン部隊にこれを装備させます」
そう言って彼はポケットから薄い金属板を取り出した。室内の人間が再びざわめきだした。
「進化プログラムの完成体です。これにより部隊の戦力を何倍にも拡大できます」
有川が唖然として言った。
「完成、してたの?なんでわたしに教えてくれなかったの?なにが欠陥だったんだね?」
「はぁ・・・。いや、プログラムに間違いはありませんでした」
「はぁ・・」
「対照実験を繰り返して・・・その、なんと言うか、思い、とでもいうんでしょうか。とにかくテイマーとパートナーが共に進化を望んだときに進化が成功する、という結論に達しました」
本日かつて無いほど室内が静まり返った。
一瞬だけだったが。
 

更新日時:
2007/06/11 
34    第33話 「方向」
やっと開放された林未は自転車で出かけた。後ろにはコテモンがしがみつき、後部車輪の両側にはコテモンの竹刀と林未の武器、『草薙丸』の入った革の袋が付けてある。彼はバスが苦手だ。だから今日も自転車で組織とやらに出向いたのだ。久しぶりに遠出をしたので林未はあちこちに寄り道をしていた。そのせいで西の空が真っ赤に染まってしまった。
「早く帰ろうよ」
コテモンが林未の顔を覗き込んだ。
「わかってるよ」
そう言って角を曲がった林未は誰かに出くわした。急ブレーキをかけて止まった林未は驚いた。黒装束の二ノ宮が立っていた。
「あなた確か組織のテイマー、二ノ宮さんですね」
「うん、」
「どうしたんですか?」
「お線香あげようと思ったら怒鳴られて追い返されちゃった・・・」
林未は自転車を停めると角から覗いた。
「知ってる人のお葬式なのか?」
「うん・・・、私の部隊の人。今朝話したよね。私が殺したようなものだったから・・・」
そう言うと二ノ宮は歩いていってしまった。
林未とコテモンは再度覗いた。かすかに、享介、とかおとうさんという声が聞こえる。
全員が泣いていた。若い女性と同い年くらいの女の子が霊柩車にしがみついた。
 
林未は唇を噛み締めて塀をこぶしで叩いていた。彼は生まれてから2度目の本気の怒りに染まっていた。
「なぁ、ケンスケ・・・」
コテモンが林未を見上げていた。
林未はふらふらと塀に寄りかかるとそのまま座り込んだ。両手で顔を覆っていた彼はため息をつくと座り込んで泣き出した女の子を見、そしてコテモンを見上げ
「・・・帰ろうか」
立ち上がった。
コテモンを持ち上げ、ふらつきながら自転車に乗せた。
 
 
 
そして林未は胴をつけ面をかぶった。竹刀をつかみ黒い胴の積山と対峙した。
林未は一晩たち積山の家を訪ねた。
 
「どうしても強くなりたい。だから実戦剣術を教えて欲しい」
 
積山は槍状の棒を構えて言った。
「体に触れたらそれが負けです。いいですね?」
林未は軽くひざを曲げ竹刀を構えた。積山も足を引き槍を脇下に構える。
「いざ」
瞬間積山はかなり低い姿勢で踏み込んだ。限界まで間合いを伸ばした槍先を弾くと林未は竹刀で脳天を狙う。積山は槍が弾かれたのを認識すると同時に槍で床を突き後ろに飛びのいた。
空を斬った竹刀を槍で飛ばされた林未の顔面に槍がピタリと止まった。
わずか数十秒。
林未は腰を落としそして座った。
「・・・強い」
積山はタオルで汗をぬぐうと林未の荷物を持ってきた。
「・・・・・・・・」
積山は無言で草薙丸を差し出した。面をはずした林未はそれを受け取る。
「竹刀と比べてみてください。どちらが重いですか?」
唖然とした林未に積山が言った。
「東中の林未と言えば母親ゆずりの腕前で関東制覇までしたと聞きます。しかしテイマーとして戦う時には真剣で戦います」
「・・・普段どおりに戦えない・・・?」
「そういうことですね」
積山は自分の着替えから断罪の槍を取り出すと起動した。居合いで使用した槍といっしょに手渡す。
「ほとんど同じだな」
「でしょう?それと―、」
積山は面を取り上げると言った。
「なるべく使わないほうがいいですね。これは」
 
 
林未は竹刀と木刀と草薙丸の計3本のホルダーを背負って門を抜けた。
「いや―・・・。まいったな。強い」
コテモンはその様子を見ていた。テイマーがあっという間に一本取られたところも。
「急に強くなりたい、ってどういうことだい?」
コテモンの質問に林未は自転車にホルダーを縛り付けながら答える。
「いや、おれもテイマーだ?足引っ張りたくないんだよ!」
目線を合わさない。はじめてあったときもそうだが林未は嘘をつくのが苦手だ。だから目を合わせない。
「・・・そうか。昨日の葬式のことだね」
林未はため息をつくとコテモンに向き直った。
「はい、正解。さっさと帰ろう」
そう言ってコテモンを持ち上げた。やはりふらつきながら自転車に乗せる。
 
 
 
「・・・・さっさと帰るんじゃなかったの?」
林未は昨日立ち寄った本屋にいた。
「いや・・・その・・・。まぁ、やっぱりこれ買っとこうかと思って」
「そういうの優柔不断というんだけどね」
林未は文庫本を手に店を出てきたところだった。
自転車にまたがった林未は空を仰ぎ、振り向いた。
「わかってる。もう帰るよ」
「日が落ちる前にね。あまり時間無いけど?」
コテモンを一瞥すると林未は自転車をこぎ始めた。
駐車場を出た瞬間林未の前輪が人影に接触した。
「・・!!」
林未は急ブレーキをかけた。
「すいません。大丈夫です・・・・か?」
その人影は自転車のカゴをすり抜けた。彼の顔から一瞬血の気が引いた。
「物の怪?」
「何言ってるんだよ。デジモンだ。こっちに来ようとしてる!」
林未は10メートルほど先の影をゆっくりと追いながら訊ねた。
「こっちに来ようとしている・・?あいつが?」
言われて林未はまじまじと影を見た。どうやら他人には見えないらしいそれはいろいろなものをすり抜けて進む。
「こんな風にして出てくるのか・・・・」
 
しばらく影を追い続け、コテモンが言った。
「いい?こっち側に出てきた瞬間を狙うんだ」
林未は頷きながら片手で草薙丸のホルダーをはずした。その目が見開かれる。前方に人がいる。そしてその手前の影が急激に大きくなった。
「いくぞ!」
林未は上着のポケットから進化プログラムを取り出し読み込ませる。彼は背後が光るのを感じた。
「参るッ!」
シュリモンが飛ぶ。
「[草薙]ィ!!」
背の手裏剣を投げ影の首を狙う。影から何かが飛び出し手裏剣を弾いた。
「なにッ!」
シュリモンは手裏剣を受け止めると林未のとなりに降りたった。相手を見失った彼らの後ろに敵、ムシャモンが飛び降りた。
 
林未とシュリモンは振り返りムシャモンを発見した。林未はとりあえず後ずさり座り込んでいる人間を背中に隠すように立ち刀を抜いた。
「[紅葉下ろし]ッ!!」
シュリモンの両手の手裏剣をよけ背中の太刀を抜いたムシャモンが斬りかかる。

更新日時:
2007/10/02 
35    第34話 「侵入」
雨が降り出した。
 
シュリモンに飛び掛ったムシャモンの刀は何も無い空間を横切る。背後に回っていたシュリモンは手裏剣でムシャモンの右手を切り落とした。
地面に落ちる直前に消滅したはずの右手でシュリモンが殴り飛ばされる。
「再生?バカな・・・」
林未は顔を曇らせ刀を鞘に戻した。
体勢を整えたシュリモンはムシャモンの刀を手裏剣ではさんで受け止めた。そのままひねる。
バキンッ、と金属質な音が響き刀が折れた。以前の半分ほどの長さのそれを投げ捨てるとムシャモンは腰から巨大な刀を抜いた。
「死ねェ!」
 
再び気合とともに金属がぶつかり合う音が響く。
林未は振り向いて驚いた。放心状態で座り込んでいたのは昨日の葬式で泣いていた娘だった。
「健助殿!」
シュリモンの声がして林未は再び振り向き驚いた。シュリモンが弾き飛ばした巨大な刀が空を斬りこちらに飛んでくる。
「!」
林未はとっさに後ろにいた人間を突き飛ばした。
「[草薙]ィ!!」
隙をみたシュリモンが飛ばした手裏剣は刀を追っていたムシャモンを真っ二つにしアスファルトの道路に深々と突き刺さった。
「おのれェエェェェ・・・・」
ムシャモンは叫びながら消滅していった。データのチリが雨に反射する。砂は見るうちに溶け始めた。
手裏剣が消滅しコテモンが林未の隣に立った。林未はひざをついたままだった。口を手で覆い後ずさる少女は走っていってしまった。
「は―・・・・・・・・・」
林未がそのまま両手を地面につけたとたんあたりが真っ暗になった。
「は?」
驚いたコテモンはあたりを見回した。どうやら演出の類ではないらしい。ビル街が真っ暗に染まっていた。周りの家から驚いた様子の声も聞こえる。
「停電・・・?」
林未は立ち上がり部分的に明かりのついたビルを眺めて呟いた。
 
 
 
和西は携帯電話を握っていた。
停電に陥った暗い室内を落雷が一瞬照らす。
「・・・どうする?」
ゴマモンが机の上から聞いた。携帯電話から、
『繰り返します。・・・原子力発電所が占拠・・・・第・・・・隊。内部との連絡はとれない』
事務的な口調で繰り返されてる。
 
 
 
 
小さな液晶画面に真っ暗な世界が映し出されていた。
積山とギルは額を寄せ合ってそれを見ていた。テレビ内部のアナウンスは、何者かに発電所がジャックされた、といい続けている。
「お兄ちゃん・・・ギル・・・・」
彩華がギルのしっぽにしがみついていた。
「・・・ちょっと出かけてくる」
「やだ」
「・・・・・ギル、行こう」
「やだ!」
黒いジャンパーを羽織った積山は泣きべそをかきはじめた妹に向き直った。
「二ノ宮、っていうお姉ちゃん知ってるだろう?その人が来て欲しいって言ってるんだ。だから行かなきゃ」
「・・・・やだ」
積山はギルに目配せした。
しかしギルはわけが分からない、という顔をしてそのまま立っている。積山はため息をついて、先に行って、と耳うちした。しがみついている妹を引き剥がすと、
「本当は一緒にここにいてあげるべきだと思う。彩華を一人にして出かけるのはよくないって分かってるよ」
積山はそう言って彩華の頭をなでた。
それでもしがみついているので積山はとうとうそのまま背負って部屋を出た。
階段付近をうろうろしていたギルは顔をしかめた。
「連れて行く気かよ」
「一人にしとくわけにはいかないだろう?」
しゃべりながら玄関でコートを着せフードを被せた彩華の手を引いて外に出ると黒塗りのトラックが一台止まっていた。
 
 
 
原子力発電所はかなりの規模がある。しかし一番の注目点はやはり事故を起こした時の危険性だった。しかしそれは人的な危険性よりも復旧の困難さや責任問題における危険性の高さだ。平たく言えば面倒を起こしたくないという警視庁初めとする諸組織が対策組織の行動を制限している、ということだ。
 
 
「それでこんなところで作戦会議・・・・ですか?」
二ノ宮はケータイでのため息まじりな会話を終えると振り向いた。
狭いトラックの荷台は限界以上の人数が詰め込まれていた。
 
「さて・・・、と」
作戦説明の書類をコートのポケットにねじ込むと二ノ宮は代わりに斬鉄の手斧と呼ばれる専用の武器を出した。
 
「場所が場所だけに爆破による殲滅はできないって」
 
これが少数精鋭で挑む理由。・・・だそうだ。
 
 
林未は細身の刀をベルトに直接さした。頭に巻いていたバンドをはずし、ヘルメットをかぶったる。はずしたバンドを刀に巻きつけて止めた。和西がとなりで使用して意味があるのか怪しい防弾ジャケットを着ながらその様子を眺めていたからだ。
「・・・なに?」
じろじろ見られているのに気づいた林未は和西の顔を覗き込んだ。
「いや、その・・ごめん」
和西はあわててジャケットの前を止めると降流杖を持ってトラックから降りた。林未も後に続く。
 
 
 
開かれた門から20名ほどのテイマーとそのパートナー、計40の影が入っていく。
作戦にそってまずは2手にわかれ、さらに2手に分かれる。
 
 
侵入から10分ほど、和西は折りたたまれた背中の降流杖のグリップを握っていつでも攻撃ようにしていた。その手は汗で湿ってる。ゴマモンも首をいろいろな方向に回して辺りの様子を確かめていた。3人の隊員、コマンドドラモン、そのむこうにひざをつき、肩の位置で刀を構えた林未が見える。コテモンは竹刀を背負っていた。
和西たちは角に差し掛かるたびに様子を見てから進む、という行動を繰り返していた。
 
 
「ひゃっひゃっひゃっ!ようこそ“もうすぐ死体”さんたちィ!」
 
 
気味の悪い声が後ろから響いた。
全員が注視したのは背後の天井に走る太いパイプの上、赤黒い骨を剥き出しにしたデジモンが残忍を録音したような笑い声を上げていた。和西は素早くデータを調べる。
 
スカルサタモン  ウィルス種、堕天使型
 
「・・・完全、体・・?」
 
最初にスカルサタモンに狙われたのはちょうど真下にいた林未とコテモンだった。
「死ねェ!」
スカルサタモンは特異な形状の杖を振りかざし林未の頭を狙う。林未はヘルメットを脱ぎ捨てるとそれが落ちる前に刀を音もなく抜刀した。
「遠慮しとくよ」
「ほざけ![ネイルボーン]!」
刀を構えた林未にスカルサタモンが迫る。
 
スカルサタモンの振り下ろした杖は、いや、正確に言えば振り下ろした杖の先は重い音を立てて転がり落ちた。
驚愕の表情を浮かべたスカルサタモンの背後に影が現れた。
「なめてもらっては・・こまりますなぁ・・。   [草薙]ィ!!」
コテモンが進化したシュリモンが背中の巨大な手裏剣でスカルサタモンの首を薙いだ。
すでに胸部に銃弾の嵐を受けていたスカルサタモンは呻きながら落下し、頭が地面に当たる前には消滅していた。
 
林未とシュリモンはそれぞれ武器をふって砂を落とした。慣れた手つきで刀を鞘に戻した林未はスーッ・・・と息を吐いた。
 
 
 

更新日時:
2007/06/24 
36    第35話 「判断」
どうも雨の日は嫌い。それが辻鷹の意見だ。彼には嫌いなものが数多くあるが・・・、
「慎、どう思う?」
「どう思う?・・・・。ぼくに聞かれてもな」
積山、辻鷹のチームはなんの異常もなしに館内を巡回して帰ってきた。背中に抱きついている妹を引き剥がしジャンパーを脱ぎながら積山はすこし考えて、
「仁の場合今直面している嫌いなものが一番嫌いなものじゃないのかな。例えば今雨が降ってるけど運動するのより嫌じゃないかい?おなじように運動してるときは雨がふるほうがマシ、ていうのかな」
「はぁ・・。なるほどねぇ」
ガブモンが感心顔でうなずき、
「彩華もタマゴ食うときよりも今雷なってるほうが嫌だもんな」
ギルが再びしがみついている彩華を突きながら言った。
「言われてみればそうなんだけどねぇ。そういえば発電所なんかどうするつもりなんだろうね」
辻鷹はテントの窓から発電所を眺めた。真っ暗なシルエットからは物音1つしない。
「確かに・・・。どうするつもりなのかな。破壊目的ではなさそうだし、嫌がらせ?それとも利用・・・」
積山は考え込んでしまった。
「利用ってなにに?」
「例えば・・・、棲みかにする、とかここで事件を起こして注意をそらす、とかですかねぇ」
辻鷹の質問に積山が答えた。
「すいません」
話し込んでいた辻鷹の後ろから声がした。驚いて振り向いた視界に隊員が立っていた。手に通信機を持っている。
「ついさっき第2小隊から連絡がありました」
「はぁ・・・」
辻鷹は積山と顔を見合わせた。
「どういう連絡ですか?」
「敵デジモンと思われます。林未健助がネオデビモンを撃破したとの連絡がありました」
「よしっ!」
ギルが立ち上がる。
「何がよしなんだ」
積山が引きずり倒した。
「それでどうなったんです?」
「はい。第2小隊は原子炉に向かってます」
「よし」
辻鷹が口を挟んだ。積山は一瞬意外そうな顔をした。
「積山くんとギルが援護に行きます」
「・・・・・・・・・・・・」
「よし、了解だ」
辻鷹の言葉に積山は無言、ギルは素早く楽しそうに快諾した。
「分かりました。ぼくと仁とギルとガブモンで行きます」
積山が彩華の頭をなでながら言った。
 
 
「・・・と、ここが原子炉とやらか」
「なにいってんの?ゴマモン」
第2小隊・和西高、ゴマモンは物陰から様子を窺った。渋い顔をしたゴマモンの視線の先には普通に原子炉があった。スカルサタモン又はその他の影は無い。
「静かすぎる。なにか怪しい」
林未が腰のベルトから刀を鞘ごと抜いて持った。
「とりあえずここを占拠できれば良いのですな?」
シュリモンが身を縮めて提案した。
「下手に身をさらして攻撃を受けたらどうするんだ?」
ゴマモンが反論した。
「そう、だね。確かにそうだ。リスクが高すぎる・・・・」
和西は原子炉を眺めながら呟いた。
 
 
「死ねィ!」
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!だから嫌だったのに!!」
スカルサタモンが辻鷹とガブモンを追い回す。
積山とギルは2方から同時に攻撃し確実にスカルサタモンをしとめていった。
「どうやら接近戦しか能が無いみたいだな」
ギルが追い掛け回される辻鷹を横目に言った。
「助けて!!」
悲鳴をあげる辻鷹・ガブモン。
「わりぃ、おれホラー系ダメなんだ」
ガブモンが逃げながら謝った。
その瞬間、
メキ・・・・・・
骨がへし折られる嫌な音がして振り向いた辻鷹の目の前に二ノ宮が立っていた。右足が鈍い光沢を放っている。
「仁!援護よろしく!」
二ノ宮は腰から斬鉄の手斧を抜き放つと、強烈な蹴りを打ち込まれ倒れたスカルサタモンに飛び掛った。
「はっ!!」
打ち下ろした手斧は狙いたがわずスカルサタモンの右手に直撃し杖と一緒に吹き飛んだ。
「痛てぇじゃねぇか!!」
スカルサタモンは左手で二ノ宮の体を殴った。が、
金属化した上に受け流した二ノ宮はびくともしない。
「なにぃ!」
そう叫んだときだった。スカルサタモンの胴体が吹き飛んだ。
「[ベアバスター]、メイチュウ、カク、ハカイヲカクニン。デリートヲカンリョウシタ」
絶対に信じられない、という顔で消滅したスカルサタモンの後ろにいた2メートルほどの大きさの蜂型サイボーグが現れた。
「ふぅ・・・」
二ノ宮は一息つくとコートをはたいた。砂がすこし落ちる。断罪の槍を剣状にしてスカルサタモンの胴を薙いだ積山は瞬時にそれをホルダーにしまい二ノ宮に話しかけた。
「二ノ宮さん、どうも」
二ノ宮は軽く頷き、脇でホバリングを続けるパートナーを撫でて言った。
「うん。慎もおつかれだよね。彩華ちゃんはいいの?」
積山は視線をそらし、
「よくは無いですけど・・・。それでも役に立てば、と思ったんだよ」
と答えた。二ノ宮は縮小版の地図を出して指で示した。
「原子炉で落ち合うことになってるから行きましょう」
ファンビーモンの進化したワスプモンを引き連れた二ノ宮は自分の部隊を率いて階段を下りていった。積山・ギルも続く。
辻鷹・ガブモンはあわてて後に続いた。
 
 
 
 
 

更新日時:
2007/06/26 
37    第36話 「決断」
稼働を停止した機関部は不気味なぐらい静かだった。痺れを切らしたシュリモンが林未に言った。
「健助殿!ここは拙者に任せていただきたい」
林未は和西と顔を見合わせた。和西はゴマモンと顔を見合わせる。
「よし。ゴマモンも進化しよう」
和西は胸ポケットから進化プログラムを取り出しD−ギャザー上部に当てた。石が輝き画面に何か表示される。ゴマモンが輝きシルエットが巨大化する。光が消え和西たちは辺りを見回した。ゴマモンが進化したイッカクモンも身を縮める。
「・・・・・・大丈夫みたいだな・・・」
なにも音がしない。
「そうだね・・。じゃあ、行こうか」
林未は刀を抜き鞘をその場に置いた。組織隊員も頷き先頭の男が片手を上げ、前に振り下ろした。
全員が走り出す。瞬間真上から無数の羽音が響き笑い声が空気を震わせる。
見上げた和西は目を見開いた。
「しまった・・・!」
軽く見ても30体はいるだろうそれは紅い4つの眼を持つ怪物だった。デビドラモン。4体のシールズドラモンは次々と肩のナイフを抜いた。
 
「[ベアバスター]!!」
 
閃光が煌きデビドラモンを襲う。6体のワスプモンが同時に放った必殺の粒子砲が時間を稼ぐ。
「第3小隊援護します!」
二ノ宮を筆頭に6人の隊員がやってきた。
 
「[ブレイズファイア]!!」
「[フォックスファイア]!!」
漆黒と蒼の炎がデビドラモンの群れに直撃し、ベアバスターで消滅しきらなかったデビドラモンが吹き飛んだ。
「和西くん!林未くん!来たよ!」
銃を乱射しながら辻鷹が積山と共にやってきた。
 
「[ブラストレイザー]!!」
「[メガフレイム]!!」
新たに攻撃が加えられデビドラモンがほぼ完全に消滅した。
「見つけた!」
シールズドラモン4体と隊員4名に混ざって谷川・アクィラモン、嶋川・グレイモンが現れた。
「おう骨野朗!勝てると思ってんのか?」
嶋川が炎撃刃でスカルサタモンを指して言った。
「て、てめぇらきたねえぞ!」
「言えたことか」
林未が刀を振り言い放った。シュリモンは驚いた表情で彼を見た。無表情で刀を構える林未は冷たい気を放っていた。
 
その時、スカルサタモンの体が吹き飛んだ。あっという間に蜂の巣にされ消滅する。
ネオデビモンが頭上にいた。
応戦するアクィラモン、ワスプモン部隊はネオデビモンを見失った。瞬間的にグレイモン、デスグラウモンに襲い掛かったネオデビモンの背後に影が現れた。
「グッッ!!!」
それがネオデビモンの遺言になった。爆発、誘爆が火炎の球体を作り上げる。
そしてそれが消えたとき1体の青いデジモンがエンジン音をたてていた。
頭部のコクピットが開き、なんと組織のアーミージャケット姿の所長があらわれた。
「怪我は無いかね?」
妙に威厳のある声で全員にそう言った所長を全員が注視していた。
「ってオッサン!」
嶋川が指差して叫んだ。
「それはわたしだ」
「なんだよそれ!」
所長はシートに腰を下ろすとこぶしで軽く叩くと答えた。
「こいつはプテラノモンだよ。ハグルモンに進化プログラムを使ったんだ」
全員が唖然として見守る中彼はパートナーから降りると見回し、怪我は無いみたいだね、とつぶやいた。そして・・・
「ま、一件落着だな!」
 
 
そう言って大笑いを始めていた所長を二ノ宮は不思議そうな目で見ていた。
トラックは一応作戦を完了し帰路につく。
 
 
積山は妹の手を引いてトラックに乗った。
ギルのしっぽに殴られないように間隔を開けていた彼は滑るように建物に入っていく影を見逃さなかった。
「ギル!仁!ガブモン!」
叫ぶが早いか断罪の槍を抜き後を追う。
開け放たれた自動ドアをくぐり一番太い通路を走り抜けた。
「・・っ!!」
角を曲がった瞬間大きな影に出くわした。
デビモンがなにかわめき右手を繰り出す。
積山は槍でそれを弾きそのまま深々と胸に突き刺しひねって抜いた。
「お前じゃない!」
砂になったデビモンを背に積山は走り続けた。
 
とうとう原子炉まで来た積山にギルたちが追いつく。
その頭上でなにかがひるがえった。
反射的に銃を抜き細かな照準の調整を一瞬で終わらせた辻鷹は打ち込んだ。
氷の小さな弾丸が標的をかすり、一部を剥ぎ取る。
落ちた衝撃で氷が砕け、よく見えた。拾い上げたそれは碧色の厚めの布だった。
 
 
すっかり日差しが差し込む空の下、林未はうちに帰らずにその近くの小高い丘にいた。
木に覆われた丘の上に一本の小さな―それでも林未の背丈よりも高い―桜の木があった。
林未とコテモンはその下に座って景色を眺めた。今は血の跡などまったく無い地面の草を撫でて。
 
 
 
小高い丘の上。その上に一本の桜の木があった。その下に1体のコテモンと1人の林未が座っている。
 
あえてネオデビモンは彼らを見逃した。
そして北を目指す。
 
 
 
 
 
 
 
 

更新日時:
2007/07/04 
38    第37話 「普遍」
和西はスターティングブロックをセッティングする。
今日は陸上部の対抗大会だ。
 
となりには背の高い黒人。たぶん、いや、ここにいるのだから中学生だろう。
そして右隣にはオレンジ色の髪を後ろで結い上げた女子が軽く体を動かしていた。
[二百メートル開始です。選手の方は位置についてください]
アナウンスが入る。
「位置について・・・・。よーい!」
 
空砲が鼓膜を揺さぶる。と同時に和西は一気に先頭に踊り出た。
『いけるな』
そう思った瞬間だった。後ろから風を感じて振り向いた彼を一人追い抜いていった。
 
トップから0,5秒差でゴールに飛び込んだ和西の記録が伝えられる。
息を切らしていた彼にオレンジ髪の少女が話しかけてきた。
「えへへ、今度は勝ちましたよ!」
言われて気がついた。ハードルで最下位だった娘だ。
「あぁ、完璧に負けたよ。すごいや」
和西は笑ってかえした。そして聞いてみた。
「きみ、名前は?」
「わたし?わたしはね、黒畑。黒畑優美!よろしくね」
そういうと黒畑は手を振って戻っていった。
和西はタオルで汗をふき取ると逆の方向に歩いていった。
学校のテントの下に入るとバックの中からゴマモンが水筒を差し出した。
 
 
大きな市民公園の一角。ちょっとした遊園地で人々の歓声が響きわたる。
そしてその端、薄暗い建物の裏に嶋川と谷川がいた。2人の数メートル前にはアグモンとホークモンが2,3ほどの白い砂の山が出来ていた。
「やっぱりつけてやがったか」
嶋川は炎撃刃を鞘に収めそれが入っていたスポーツバックを拾い上げる。
「プライバシーの侵害だね」
谷川は戻ってきたホークモンを抱き上げて言った。
「なにかおかしい」
アグモンが目の前の砂山を睨みつけてつぶやいた。嶋川がとなりにひざをついて砂を手に取る。
「たしかにな。らしくない」
「そうだよね。尾行なんて真似せずにただ殺せばよかった」
谷川が言ったとおりだ。嶋川は手を払って立ち上がった。
その瞬間携帯電話が鳴り響く。ホークモンが通知を覗き込んだ。
「二ノ宮さんから電話ですよ」
「わかってるって」
 
 
「デビモンたちが動き始めたわ。人手が足りないの。援軍に来てくれたらうれしいんだけど・・・。無理しなくていいから」
 
 
「・・・・わかりました。いまからギルとそっちに向かいます」
積山は携帯電話をポケットに戻すとバツの悪そうな顔で振り向いた。
天羽が買ったばかりのハードカバーの本をひざに置いて座っていた。
「ごめんなさい、その・・・」
すこし首をかしげて見上げていた天羽は立ち上がって近づいた。
「行ってらっしゃい・・・―
 
天羽は1歩離れて目を細めて積山を見た。
「本当にごめんなさい。今度また・・・本屋さんに行こう・・」
積山は天羽にお金を渡すと休憩所を出た。右手で額を覆った。
「ごめんなさい・・・」
息をするどく吐くと積山は走り出した。
 
 
天羽はゆっくりと階段を上る。
薄く雲が張り始めた空の下眼下に街を走り抜けていく積山とその近くを追うギルが見える。
 
白い羽毛が舞い散った。
 
 
二ノ宮は全員に連絡を取り終え、ため息をついた。実際には息をつく間もなく神原に呼ばれた。
軍用ジャケット姿の神原は腰にシースナイフの塊を巻いている最中だった。
「お呼びですか?」
「あ?あ、そうだった。呼んだ呼んだ」
神原は乱雑な机から書類を拾い上げて渡した。
「とりあえず今回の作戦書。前線の総司令官はおれ。ま、よろしくな」
頭を下げ、部屋を出ようとした二ノ宮を神原は引き止めた。
「なんですか?」
神原は茶髪をかきむしると後ろを向いて言った。
「まかせろ。おれが総司令官だ。死人は0人だ!・・・約束する」
二ノ宮は微笑んで再び頭を下げた。
「頼りにしてます。今回は危険なミッションですから」
神原は本棚の写真を指で弾いた。黄色い帽子を後ろ向きに被った少年が笑顔で写っている。そして言った。
「神原の名にかけて、だ」
 
 
 
そして・・・
 
神原率いる部隊が、二ノ宮とワスプモンが現れた。
「デビモンとはここでケリをつける」
「セイゼイミヲキケンニサラサナイコトダナ」
 
辻鷹がガルルモンXに乗ってやってきた。
「かたっぱしから撃ち落す。こんな僕でも役に立つと思うよ?」
「前で戦えよ」
 
谷川、嶋川がアクィラモンに乗ってやってきた。グレイモンXが飛び降りる。
「面倒だな・・・ここで終わらせてやる」
「そうだな。後々やるのはもっと面倒だ」
「勝つよ?死なないんだから」
「死にませんよ。私がついている」
 
積山がデスグラウモンに乗って到着した。
「かならず帰る。約束したんだよ」
「へいへい。ま、がんばってくれ」
 
シュリモンが参上した。しがみついていた林未が着地する。
「天気が悪い・・・。さっさとはじめよう」
「左様。先手必勝」
 
そして・・・、最後に和西が現れた。イッカクモンの背から滑り降りると降流杖を抜いた。
「?、やるよ?ぼくだってやるときはやるんだ」
「なんとかなるんじゃないの?それともなんとかするのかな?」
 
 
7組のテイマーが集結した。その先には陥没した発電所が見えた。
すでに何体かデビモンの姿が見られる。
 
 
「作戦説明をするからよく聞いて」
 
前線総指揮官、神原拓斗
援軍として6名の民間人テイマー
内容は陥没した原子力発電所内部の生存者の救出及び敵性デジモンを倒すこと。
狙撃部隊、飛行部隊が援護する。
 
なお生存者が多数確認されているので無差別な爆破及び爆撃はできない。
 
「以上ね。・・・くれぐれも死なないでね。全力でバックアップするから」
コートを脱いだ二ノ宮に林未が机から飛び降りて言った。
「わかってるけどね。テイマーなんだ。覚悟はしてるつもりなんだ」
「そうだね。もう僕たちは普通の人間じゃない。・・・普通の人間の常識は当てはまらないと思う」
和西は静かにいい捨てるとジャケットを羽織ってテントの外に出て行った。
 
雷の重低音が響く。
 
 
 
 
 
 
 

更新日時:
2007/07/14 
39    第38話 「漆黒」
黒い影が数十、ほとんど音を立てずに半壊した発電所に滑り降りていく。
雑音に覆われた音声がトランシーバーから流れ現状を伝える。
「さて、はじめるかな」
辻鷹は目の前に広がる発電所の残骸を眺めながらライフルを操作し圧縮された冷気が装填される。
「なにがはじめるかな、だ。結局後方支援かい?」
ガルルモンが喉の奥で笑った。
「まぁまぁ、ぼくだってまずくなったらすぐ行くよ」
辻鷹はベルトをはずして氷射と自分の腕に巻きつけて固定し、構え、撃った。
 
「はじめたな」
グレイモンが撃ち抜かれ落下するデビモンを見上げて言った。
「僕も戦いたい」
林未は不服を口にすると草薙丸の小口を切った。
「いいぜ、死にそうならな」
「口喧嘩などしている場合ではないですぞ」
嶋川をシュリモンがたしなめる。
「わかった。僕が悪かった」
林未は鞘に刀を戻すと隙間から様子を覗った。
「よし。行こう」
4つの影が隠れていたタンクから静かに姿を現した。
そして、ネオデビモン2体が消滅した。
「[メガバースト]」
「[紅葉卸]」
口から噴煙を上げるグレイモンと戻ってきた手裏剣を振り砂を払うシュリモン。
「悪いけどな。バレバレなんだよ」
嶋川は一言大きな砂の山に呼びかけるとグレイモンの後に続いた。
 
谷川は折りたたみのパイプ椅子に腰掛けていた。後ろで二ノ宮がテキパキと指示を与えていた。それを終えると二ノ宮はとなりに腰掛けた。
「気分でも・・悪いの?」
谷川は首を横に振るとささやくような小声で言った。
「いつもこうなんですか?」
「どういうこと?」
「アクィラモンやワスプモンたちが戦いに行ってるのに私たちはただ待っているだけなんて・・・」
二ノ宮はコートを脱ぐと谷川の肩にかけた。
「だいじょうぶ。待ってるだけじゃないわ」
「その通り」
不意に後ろから声が聞こえた。振り向いた2人の目の前に神原がいた。
「でるぞ。戦況が悪化した」
 
積山は断罪の槍を剣の形にしデビモンを、デスグラウモンは両腕の巨大な爪でネオデビモンを手際よく倒していった。
「だめだ慎、キリが無いぞ!」
「同感!一度引くぞ」
後ずさり、走り出した積山の真上から無数のデビモン、ネオデビモンが迫るのが見えた。
「[RDFE−40アサルト]」
デスグラウモンの耳にその言葉が届いた瞬間凄まじい銃声が響き空が白く染まる。
「お前ら全力で積山慎、デスグラウモンを援護!!二ノ宮、谷川はパートナーと合流!!いそげ!!」
怒鳴り声が響き深い紅のジャケットを着た神原が部隊を率いてやってきた。
「総司令官さんがこんな所になんのようだ?」
デスグラウモンが不愉快そうに聞いた。
「勿論お前らの援護と全戦力投入の殲滅作戦のためだ」
「ということは職員の人たちは全員救出できたんですね」
積山が一応訊いた。神原は当たり前だ、という顔で笑う。
「拓斗!いい加減戦わせろ!」
部分的に蒼い炎に覆われたメラモンが神原のジャケットを掴んだ。
「わかった!行って来い」
神原はジャケットを脱いでメラモンに渡した。
「よーし・・・いい返事だ」
メラモンはジャケットを返すとシールズドラモンを引きつれ姿を消した。
「おまえら何突っ立ってんだ?さっさと行くぞ!」
神原は隊員を引きつれメラモンの後を追う。
積山、デスグラウモンはその後を続いて瓦礫の間を縫うように走り抜ける。
「参ったな。あの神原って野朗」
デスグラウモンが後ろ数人にしか聞こえないようにつぶやく。
「まぁいいじゃない?」
辻鷹がガルルモンの上から後ろ数人にしか聞こえないように言った。
「あ、また突然現れた」
積山がつぶやく。
「突然、と言ってもずっと神原さんの後ろにいたんだけどな」
ガルルモンもまた後ろ数人にしか聞こえないように言った。
「[ブレイズファイア]!」
デスグラウモンが高熱の火炎弾を撃ち出す。頭上のデビモン数体が爆発、そして誘爆し消し炭と化す。
「よし!いいぞ!」
神原が走りながら、前を見たまま叫んだ。
「なにが、いいぞ!だ。あれぐらい当たり前だ」
ギルがぼやく。デスグラウモンに進化しても性格までは変わらないようだ。
 
 
林未は刀を鞘に戻す。
デビモンが切り刻まれ地面に落ちた。その砂の上にシュリモンが着地し、砂塵を巻き上げた。
「・・・・健助殿が戦う必要はない。拙者が戦えばそれでいい。それだけでいい・・・」
すでに他の人とははぐれ、自分達がどこにいるかも分からない状況で林未は空を見上げた。何体かのデビモンが打ち抜かれ、落ちていく。
その向こうに黒く、厚い雲が空を覆っていた。
「シュリモン・・・・・」
不意に林未は腰からバンダナをはずした。
そしてつぶやく。
「もうなにがなんだかさっぱり分からない・・・・・!」
嗚咽が混じり聞き取りにくかったが、彼はそう言った。
 
 
 
 

更新日時:
2007/07/19 
40    第39話 「純白」
ワスプモンの上で二ノ宮が双眼鏡を覗いていた。
メラモンが暴れ周り、出来た消し炭の道を数人の部隊とデスグラウモン、ガルルモンが見える。そしてその先は中央エリアに差し掛かった。
「計ちゃん、あれ、見える?」
アクィラモンの上から谷川は身を乗り出した。何か白いものが見える。
「ウィルドエンジェモン?」
二ノ宮は軽く頷き、
「たぶんね。とりあえずあれを倒しましょう」
そう言ってマイクに向かって後ろに続く部下に指示を始めた。すぐにイヤホンから了解、という言葉が返ってくる。
「行動開始!」
二ノ宮が宣言した瞬間数十体のワスプモンが前に出、散開した。
 
黒い煙が立ち昇る中を一応周囲を警戒しながら神原、積山たちが走り抜ける。部隊はすでに散開命令が下っていた。
「メラモンのヤロー無茶苦茶なマネしやがる」
神原が舌打ちを漏らす。その後を積山、デスグラウモン、辻鷹、ガルルモンがついていく。
やがて廃墟の向こうに紅々と輝くメラモンの後頭部が見えた。神原が怒鳴る。
「おい!いい加減にしろ!」
しかしメラモンがこのときまったく聞いていなかったことがすぐに分かった。
メラモンの向かい10メートルくらいの瓦礫の上にウィルドエンジェモンが膝を抱いて座っていた。
「ほー、お前強そうだな。わかるぜ」
しかしメラモンを少し見ただけで、また元の位置に視線を戻した。メラモンはそうとう神経を逆なでされたようだ。
「お前さえさえ倒しゃ終わりだ![マグマボム]!!」
いきなりの大技。爆風と熱風が波紋のように広がる。その場の全員が目を細め顔を背けた。一人を除いて。
その一人は火炎の塊をあっさりと、しかし猛然とかわし剣を抜いた。
そしてメラモンの背後で剣を逆手に持っている。
ウィルドエンジェモンを見失った瞬間メラモンの目は大きく見開かれた。
そのまま退化し、倒れる。
剣を鞘に戻したウィルドエンジェモンの蒼い瞳が仮面越しに積山たちを睨みつける。
次の瞬間は様々な事が同時に起こった。
まず辻鷹が動いた。銃を抜き、ほとんど狙わずに一発撃った。
その攻撃にひるんだウィルドエンジェモンにデスグラウモン、ガルルモンが襲い掛かる。
ウィルドエンジェモンは片手を上げ、振り下ろした。無数の羽音が鼓膜を揺さぶる。
そして最後にその羽音の主達を粒子ビームが貫く。
ワスプモン、シールズドラモンの部隊が現れ、乱闘に突入する。
積山はただ何も考えずにその中を進んでいった。途中何体かのデビモンをほとんど無意識に倒し、目の前のウィルドエンジェモンに斬りつけた。
逆手に構えた剣の向こう、積山の断罪の槍が金属質な音を発する。
「今日こそ倒す」
積山は感情の無い声で言い、脇腹にけりこんだ。
その瞬間積山の動きが止まる。しかし気の迷いを振り切りデスグラウモンを呼ぶ。
ネオデビモンを粉砕した足でウィルドエンジェモンに対峙する。
「この前の貸しがあったな・・・」
言うが早いか丸太のように太い右腕を振り上げ叩きつける。
羽毛が舞い、相手を見失ったデスグラウモンの首に剣がそえられた。そのままくるりと回転して勢いをつける。
「させるか・・・・・・!」
ある程度の予想を立てた積山は槍を投げ飛ばした。右肘に激痛が走った。
槍は翼を刺し貫きバランスを失ったウィルドエンジェモンは落下した。槍が弾けとび、積山との間に落ちる。
 
積山は2歩で槍に駆け寄り、強烈に踏みつけて空中でつかまえる。
 
その瞬間ウィルドエンジェモンが起き上がりデスグラウモンの追撃をよける。
 
積山は残りを全力疾走し槍を突きたてた。
 
ウィルドエンジェモンは転倒を避けようとし、壁に寄りかかった。その隙を突かれ槍を受ける。
 
ウィルドエンジェモンは力なくよろめき、積山にもたれかかる。2,3度体を震わすとウィルドエンジェモンは、
天羽になった。
積山の表情がゆがむ。
断罪の槍が地面に落ちた。
積山は天羽を抱きしめる。
「・・・」
「・・私は、言わなくてはならない。命を代償に。その前に・・・」
「・・・・・・・どういうこと・・・?・・・そんな・・・・」
「私と、仲良くしてくれて、いろんなところにつれていってくれて、・・・ありがとう」
天羽は再びウィルドエンジェモンに戻り、辺りを見回した。
積山がつぶやく。
「ぼくが・・いなければ・・・君は・・・こんな・・・」
すると胸に黒いヒビの入り始めたウィルドエンジェモンがいった。
「 ・・・闇に飲み込まれないでください・・・今のままの『闇の守護帝』が・・大好きです。・・・・・これから大切なことを言いますね」
ウィルドエンジェモンは細く息を吸い込むといった。
「デジタルワールドからの敵がきます。私たちはその先兵としてここに来た。奴らはデジモンではない。魂を操り肉体を着込むことで・・・!」
そこまで言うとウィルドエンジェモンは体内から貫かれ、砂になった。
その瞬間積山に笑いかけた。
ドサリと音がして、数時間前に積山が買った本が砂の上に落ちた。
 
静まり返ったのは一瞬だけだった。すぐにネオデビモンが倒されていく。
積山は何も言わずに砂の前に座っていた。
黒い霧が積山の右手から発生し、巨大な鎌が伸びた。
まがまがしい装飾の施されたそれは何もない空間に突き立った。
その時だった。
甲高い悲鳴が上がり奇妙な生命体が鎌の切っ先に刺し貫かれていた。
積山は断罪の槍を右手に握り締めその脇に立つ。
 
積山はその生命体を切り裂いた。
 
渾身の力を込めて叩き斬った。悲鳴はすぐに途絶え、あとには煙を上げる液体だけが残った。
 
かつてのかけがえの無い人の前に戻ると積山は手を突いた。
本をひろいあげ抱き締める。 「あぁぁ・・・・・・・」
 
彼は声を震わせて泣いていた。
 
 
そして・・・・
 
 
よく晴れた次の日、積山はビンを持って工場にやってきた。 ビンにウィルドエンジェモンの砂を詰める。
そこから少し取り出して胸元の小さな皮袋に入れた。
その口をギルの炎で熱した鉄で焼いて閉じる。 鎖を通すと首から提げた。
 
ちょうどその時。本部で会議が開かれていた。 積山、ギル以外は全員参加していた。
「ウィルドエンジェモンは正体不明のデジタル生命体、カテゴリー、アンノウンに寄生されたと思われます」
「デビモンについてはデ・リーパーによって破壊される寸前エンジェモンとよばれるデジモンだったと確認されました」
「ウィルドエンジェモンはデジタル生命体による侵攻の事実を伝えれば自分や仲間が即座に殺されることを承知の上で我々に情報を渡した・・・と考えられます」
 
報告を聞くと有川が立ち上がって言った。
「組織は全部隊を投入して生命体もしくはその侵攻の前触れを全力を持って発見する」
そして付け加えた。
 
「彼女たちの思いと犠牲を無駄にすることは許さない。いいな?」
この言葉を最後に会議は終了した。
 
 

更新日時:
2007/08/17 
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