その後、一行は食堂で昼食をとっていた。
「どれも科学的に根拠がある。が、今の人間の科学力で出来ることではない」
所長はそう結論付けると食事を再開した。
昼食の前・・・
谷川は巨大なコンポが流す近所迷惑なロックをもろともせずに100メートル先で積山がもらした舌打ちを聞き逃さなかった。
嶋川は辻鷹が撃つエアガンの弾をすべて素手でつかまえた。
和西は脚の水分圧力を操作し、驚異的な跳躍力を得るという結果が報告された。
二ノ宮は触れた物質を意図的に特殊な金属に変化させることができた。
辻鷹は眼球に高密度の氷のレンズを形成し、それにより視力が跳ね上がる。
で、
「ぼくだけ何にもなし、ですか・・・」
積山もさまざまな検査をうけ、体力・IQ値をのぞいて平均値だった。
谷川はさっさと食べ終えると、
「でもなんであたし達だけこんなすごい能力持ってるんですか?」
所長に尋ねた。彼は思い出した、というような顔をして料理の皿を脇にやると和西達にD-ギャザーを出すよう促した。全員が右手からはずし、机に置いた。
「今わかっているのは・・・ね」
所長は和西のD-ギャザーを手に取り、裏返した。
「ここに石のような物質がむき出しになっているんだけど・・・」
更に続ける。
「デジヴァイスの内部には特殊な物質があり、それを覆うようにして形成されていてね」
全員がひっくり返した。
確かに透明な石のようなものがあり、和西のは蒼く、嶋川のは紅い。谷川のはエメラルドグリーン、二ノ宮のは銀色だ。積山は黒く、辻鷹のはすんだな青だった。
しばらくそれぞれのD-ギャザーに見入っていた。
「いろいろな証言を統合して考えてみた。私やこの組織を初めとして世界中にテイマーは存在する。しかしデジヴァイスは・・・皆これだ」
所長はポケットからD-ユニオンを取り出した。
裏返したそれは全面を覆われていた。画面の向こう側にうっすらと見える。
「それに比べ・・・君達のデジヴァイスは内部の物質が直接触れるようになっている」
辻鷹はすこし首をひねった後、
「つまりその・・・物質かなにかの力でぼくの視力が上がったりするってことですよね」
所長は、「そういうこと」とだけ答えた。
そして、
「さて!!食後の運動に行くか!」
所長が立ち上がり、和西・辻鷹・二ノ宮は顔をしかめた。
「うわぁ!!これすごいですねっ」
谷川はじめ、積山以外の全員はプロテクタをつけていた。
所長は不敵な笑いを浮かべ、
「すごいでしょ、組織の訓練場だよ。敵に見立てたハリポテを倒してゴールを目指してくれたまえ」
和西達を見送った後、所長は積山とギルに向き直った。
「さてと」
「1つ聞きますよ?」
「ダメ」
「・・・・・」
「冗談だよ」
「・・・他のテイマーというのはなんです?」
「いま確認されているのは組織の上層部と組織の・・」
所長は訓練所を指し、
「戦闘部隊と一部の研究員。国内の民間人のテイマーは確認されているのは君たちだけだが・・・確実に存在する」
「例の白い砂・・・ですか?」
「するどいね。さすがIQ高いだけのことはある」
「あれは何かの間違いでしょう?普通じゃないですよ、あんなの。それより、外国にもテイマーがいるんですか?」
「組織の本部は日本にある。逆に言えば支部がいくつかある、ということになる」
「そこに所属しているひとが?」
「そう。大半がテイマーだ。民間人のテイマーも数人確認されているしね」
「知りませんでした・・・」
所長はモニターに移る二ノ宮を眺めながら言った。
「上層部は表沙汰にすることを拒んでいる。混乱が起こるのはまず間違いがない。結果として・・・」
所長は頭をなでながら言った。
「結果としてね・・・娘にも嫌な思いをさせてしまったよ。父親失格だなまったく・・・」
和西・ゴマモン、嶋川・アグモンは階段を上っていた。あちこちに修復した跡が残っている。
「父さん?」
嶋川の家族、例えば父親とかは?という問いに和西は少し表情を曇らせ、頬を掻いた。
ゴマモンは和西の肩にしがみつきながら
「どうだ?話してやってもいいんじゃないか?」
和西はゴマモンを肩から下ろす。
「・・・、そうだね。父さんは僕が小学校に通ってた頃死んじゃったんだけどね。母さんはイギリスに出張中だしなぁ」
と言った。
それを聞いた嶋川は顔を歪めた。
「しまったなぁ・・。すまん・・。おれは何回人に嫌な話させれば気が済むんだろうな・・・」
アグモンは何も言わず先頭を歩き出した。
「ついこの前谷川に嫌な思いさせたばっかりだしな・・・。鈍感というかなんと言うか」
和西は驚いて聞いた。
「谷川さんどうしたんですか?」
嶋川は歩いたまま答える。
「谷川は両親を撃ち殺されてるんだよ」
現れた敵プレートを真っ二つにした。
日が暮れ始め、和西達は車に戻った。二ノ宮は背負ってきた谷川をシートに座らせた。二ノ宮はシートベルトをかけながら、
「疲れたみたいね」
と言った。
「じゃあまた来なさいよ」
所長は車に乗る和西たちに呼びかける。
「さて、帰るかな」
新藤はエンジンをかけ、車を出した。二ノ宮とファンビーモン・所長とハグルモンが手を振っていた。
和西は谷川が毛布に包まって寝ているのを確認すると積山に自分と谷川の両親のことを知らせた。
「・・・・」
話を聞いて積山は何も言わなかった。しばらく静かにエンジンの音が聞こえる。
「じつは・・・ぼくの母さん、行方不明になってるんです。直前に父さんも行方不明になっているので・・・」
すると辻鷹も、
「ぼくの父さんは病気で5年位前に亡くなったんだよ?」
と言った。積山、和西、嶋川は驚いた。
「父さんが死んだのは・・・5年前だ・・・」
「ぼくの父が行方不明になったのと母が行方不明になったのも・・・5年前です」
「おいおいおい・・・。おれの家族が事故ったのも5年前だぞ?」
積山はいつもの腕組みをした。
「・・・・谷川さんの両親が殺害されたのはまさか・・・」
「・・・5年前、だよ」
「うわぁ!!」
驚いた新藤はハンドルを切りそこね、道の脇に車を急停止させた。
嶋川は愕然とし、
「起きてたのか・・・?」
つぶやいた。谷川はうなずき、
「私の耳、すごくいいんだもんね」
と言った。
車が再発進した。積山は前に向き直る。
「5年前、か」
辻鷹は
「偶然?にしては・・・」
積山もうなずき、
「できすぎてますね」
と言った。
谷川は毛布を投げ出すと、
「涼美さんは?お父さんはいたけど・・・」
とつぶやいた。ホークモンは、
「所長殿はテイマーですね」
と最後部から言った。
和西は身を乗り出し積山にいつもどおり、
「どう思う?」
と聞いた。
積山もいつもどおり和西に振り返り、
「そうですね・・・」
少し考え言った。
「いまはまだ6人でなんとも断言はできませんが・・・5年前に何かあったかもしれない」
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