デジタルモンスター
エターナル・ログ・ストーリー

第一章




 32    第32話 「拒絶」
For:
2007.12.31 Mon.
次の日、谷川は普段と同じように目を覚ました。目の前は・・・赤一色だ。一瞬彼女は混乱したが、一瞬だけだった。
研究所でケガの治療をしてもらってから今まで谷川はアクィラモンから離れることはなかった。結局そのまま寝てしまったのだろう。それでも風邪ひとつ引かなかったのは羽毛のおかげだろうか。大きく伸びをした谷川は2秒後には青ざめていた。
「どうしよう・・・」
心臓が冷えるような感覚が襲い始めた。無断で寮に帰らずに一晩過ぎてしまっていた。
あわててドアを開けて外に出たと同時に誰かにぶつかった。
「きゃ・・・、ごめん・・な・・・・・さい?」
谷川は謝り、同時に唖然とした。盛大な音をたてて倒れた相手は車椅子に拘束され目を白黒させていた。周りに数人の白衣の男女数名、その後ろに私服姿の二ノ宮がファンビーモンを抱いた状態で硬直している。所長が車椅子の下敷きになっている。
そして拘束されているのは林未だった。
谷川は車椅子と手の紋様を見て苦笑いし、林未はやはり手の紋様、そして大きめの羽毛にまみれた谷川を見て苦笑いをした。
 
車椅子と白衣の一団は廊下の向こうに消えていった。かすかに『おたすけ』と聞こえた気がした。
 
 
それから約1時間。林未はそのまま身体検査を受け、やっと開放された。二ノ宮が学校に連絡を入れたのを知った谷川は、林未・コテモン、二ノ宮・ファンビーモンと朝食をとった。
「へぇ、おんなじ学校の人なんだ」
「そうなんだよね。でもね・・・テイマーになって早々変なのにとりつかれるは変な所に連れ込まれるは、大変ですねテイマーって」
林未は幾分血色の悪い顔でそう言い、後ろを通り過ぎていった職員が露骨に嫌な顔をした。
「体調はどう?」
二ノ宮が訊ねた。林未は首筋をさすって
「別にこれといって」
と答える。二ノ宮はしばらくパソコンをいじると、
「いままでとりつかれた例なんてないわね」
つぶやいてコーヒーを流し込んだ。
「どうだったんですか?」
谷川の質問に林未は即答した。
「痛かったよ」
 
 
 
有川はパートナー、ヨウガザモンとともに地下へ続く階段を下りていた。すでにかなり歩いていたので扉が見えた。有川はD-ユニオンを扉のくぼみに当てた。扉は音もなく開き彼を通した。足元にわずかな明かりの灯るだけの通路をしばらく進み、彼は自分の席に着いた。コートのすそを直し両肘をついてあごを乗せた。出席している者全員の目の前の液晶画面が表示された。
有川総司令官は開会を宣言した。
「では、はじめよう。神原君」
「へいへいへい・・・・・」
炎のエンブレムの入った隊服を着崩した姿の神原が立ち上がった。
「研究所!よっろしく」
白衣を着た男数名が画面を操作した。全員の画面が切り替わり、ぼやぼやの写真が映し出された。
「この写真は今月から頻繁に目撃され始めたアンノウン第47号、ネオデビモンです。この写真は都内の一般市民が撮影したものです。修正、拡大します」
画面の写真が拡大され、少しずつ輪郭を取り戻す。画面中央になにか白いものが映っていた。
「なんだねこれは」
スーツを着込んだ中年の男が場の空気を揺るがした。研究所職員はかまわず、
「この修正写真で注目するべきは時間と写真に映っているビル、また影などから割り出した撮影角度、距離を計算した所、大きさは身長2メートルほど。体重はすくなくとも100キロを越えるはず、ということです」
「それがどうしたというんだね!」
無視されいらだった男が机をたたいたが、
「バカだねぇ。よーするにそんなでかいもんが飛べるかってんだよオッサン」
神原が露骨に男をコケにする。
「・・・・えー、コホン。では画面中央にご注目ください。これはおそらく飛行物体と思われます」
何人かが唾を飲み込んだ。神原は、
「それで、撮影者は?」
「都内在住、無職、盛岡誠一32歳です。昨日の午前3時48分、死亡が確認されました。というよりは頭を貫かれて即死だったようです」
そう言うと研究者は画面を操作した。出席者のほとんどが画面に映し出された白い横線を見て息を飲んだ。
「これは被害者の頭部及び壁から発見されました。長さは40センチ。これが被害者の頭部に直撃、そのまま被害者ごと1メートル先のコンクリートの壁に刺さっていました」
室内がざわめきに包まれる。神原は頭をかきむしると、
「でぇ、・・・、対策は!?」
職員は首を振り、
「残念ながら・・・。一般市民はおろか我々でも狙われてこれを打ち込まれたらひとたまりもありません」
となりに座っている職員は、
「この攻撃を受けて生き残れたものは今のところ3人です。谷川計という少女は全攻撃をよけネオデビモンを撃墜。二ノ宮少佐官は全攻撃を受け無傷で帰還。嶋川浩司という少年においては時速300キロにもなるこの攻撃を素手で止めネオデビモンを倒しています。また、倒すにしても辻鷹仁という少年に狙撃してもらうくらいしか・・・・・」
室内は静まり返った。出席していた警察官僚がその場の全員に聞いた。
「それだけ・・・・か?20歳にも満たない子供に頼るしか打つ手が無い、のか?」
その時大柄な白衣の男が立ち上がった。所長だった。
「もちろん子供達だけを戦わせるわけには行きません。本日より全デジモン部隊にこれを装備させます」
そう言って彼はポケットから薄い金属板を取り出した。室内の人間が再びざわめきだした。
「進化プログラムの完成体です。これにより部隊の戦力を何倍にも拡大できます」
有川が唖然として言った。
「完成、してたの?なんでわたしに教えてくれなかったの?なにが欠陥だったんだね?」
「はぁ・・・。いや、プログラムに間違いはありませんでした」
「はぁ・・」
「対照実験を繰り返して・・・その、なんと言うか、思い、とでもいうんでしょうか。とにかくテイマーとパートナーが共に進化を望んだときに進化が成功する、という結論に達しました」
本日かつて無いほど室内が静まり返った。
一瞬だけだったが。


Back Index Next

ホームへ

| ホーム | エターナル・ログ・ストーリー | エターナル・ログ・ストーリー  第二章 | エターナルログストーリー  第三章 | 掲示板 | 登場人物・登場デジモン | 二章 キャラ紹介 | 3章 キャラ紹介 |
| 関連資料室 |