デジタルモンスター
エターナル・ログ・ストーリー

第一章




 44    第44話 「結束」
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2007.12.31 Mon.
救急車のけたたましいサイレンは応急処置室にいた新藤の耳にも聞こえた。
数分前に二ノ宮から連絡があり、彼は大学病院で治療を担当することになった。やがて患者が運ばれたという連絡を受けた彼は術着で部屋に入る。
その瞬間和西たちが到着した。林未と谷川以外は全員そろっている。
「はじまったか・・・」
和西は頭上の使用中と書かれたランプを睨みつけた。
「いつかはこういうときが来ると思ってたがな」
ガブモンが手すりにアゴを乗せて呟いた。続ける。
「おれたちの中からいつ“怪我人”がでてもおかしくはなかった」
全員がだまった時だった。騒々しい靴音が近づき、角から谷川計が姿を現した。
 
手術室の空気は重い。
「さがって!!」
若い医師が両手の電気ショックを押し付けた。
嶋川の体が跳ね上がる。室内の全員の視線が脇の画面に吸い寄せられる。
緑色の直線が表示されていた。
「もう一度・・・。もう一度!準備!」
看護士が動き回り再び機械が作動する。
「さがって!!」
そして同じ事が繰り返される。
新藤はもう一度、と呟いた彼の肩に手を置いた。首を横に振る。
「もうだめだ。彼はがんばった」
それを聞いた瞬間若い医師は新藤の術着をつかんだ。
「あきらめられるか!」
「彼は最期まで戦った。よくやってくれたんだ」
新藤の言葉に彼はついに怒鳴った。
「よくやってくれた!?こいつはずっと戦いたくもないのに戦ったんだぞ!その挙句こんな目にあわされたんだぞ!!」
すぐにその若い医師は引き剥がされた。彼はすぐに体に入っていた力を抜いた。部屋を出る間際に捨て台詞を残して姿を消した。
「親父、こんなガキが戦ってるんだぞ。戦わされている。それでいいのかよ」
と。
 
 
面会が許されたのはその3時間後だった。
 
 
積山はビニールシートをくぐりぬけて部屋の外に出た。
数人が泣き叫ぶ声がビニールごしに震えて聞こえる。
辻鷹が慌ててビニールから這い出てきた。
「どうしたの?」
積山とギルはほぼ同時に振り向いた。積山は、
「別に。もう帰る」
と答えた。再び背を向ける。
しばらく嗚咽だけが流れる。不意に積山が口を開いた。
「・・・僕の一番大切な人がどんどん目の前から消えていく・・・」
辻鷹はなにも言えなかった。変わりに部屋から抜け出した和西が訊いた。
「それで?ぼくたちはこれからどうするのがベストだと思う?」
積山はかるく首を振り、
「まとめ役は、リーダーは君だ」
和西は動じずに、
「そして相談役は君だ」
2人は短い会話を終えた。積山は部屋を覗いた。ベットにしがみついた谷川や壁に顔をついて震えるアグモンが辛うじて見える。
彼は答えた。
「報復。奴らを見つけ嶋川の敵討ちをする。・・・谷川さんやアグモンは黙ってないだろうからね。もちろん全員に参加義務がある」
 
そしてその2時間後。
小さなアパートに5人の人影が訪れた。よく見るとその周辺に6体のデジモンが隠れていた。
チャイムに反応して扉を開けた林未は和西、谷川まで顔を認識すると扉を閉めようとした。
その瞬間積山が靴を挟み、手を差し入れチェーンを外して開け放った。
「話があるんだよ。聞いて欲しいんだけどな」
林未は若干睨みつけた表情で首を横に振った。
「お願いします・・・。力、貸してください・・」
消え入るように呟いた谷川を無言で見下ろすとよく見ていないと分からないくらいの肯定をした。ドアを開けて中に招き入れる。
ほとんど壁が見えない。二ノ宮の部屋と正反対だ。
部屋の上から下までびっしりとタンスやクローゼット、カラーボックスに埋め尽くされ、部屋自体はまったく散らかっていない。
ベランダ脇には小さな仏壇が設置され、2組の写真と花が置いてあった。チリ1つついていない。
無理してあまり広くない部屋に全員が座った。
「力を貸せ、というのは?」
腕組みをした林未が訊き、和西が説明に応じた。
「嶋川は知ってるだろ。今朝、殺された。・・・敵討ちがしたい」
林未はため息をつくと言った。
「君達ですればいいじゃないか」
そして、
「まぁ、少しくらいなら」
と続けた。
しばらく静寂が訪れ、やがて笑いに変わった。
「素直じゃないわね」
二ノ宮が口元を覆って笑いながら言った。
林未は刀を棚から取り上げると軽く笑い、そして真剣な表情を取り戻した。
「で?殺ったのは誰だ?デジモン、だろうね。特徴は?」
「例のデジタル生命体の仲間だと思うよ。特徴としてはぼくと谷川さん、仁、嶋川と同じ姿をしてる」
積山の返答に彼は首をかしげた。
「同じ姿?変装、というのとは違うのか」
「変装というより変身ね。声や容姿までそっくり」
二ノ宮が補足する。和西が慌てて付け足した。
「あとね、重要なんだけどあいつら死なないんだよ」
林未は脇のコテモンと顔を見合わせた。
「死なない?だから嶋川が不覚をとったのか?」
辻鷹は何度か首を振り、
「たぶんそうじゃないと思う。嶋川くんは反射神経が格段に上がる能力をもってるからそう簡単には・・・。他の理由?」
ひとりごとのようなことを言った。
「まぁいい。善は急げだ」
林未はそう言うとすぐに出て行こうとした。
「ちょっと待ってくれないか?」
積山が引きとめ、林未は向かいに座った。
「作戦があるんだ」
 
その頃、
組織の幹部会議室に8つの影があった。
「嶋川浩司が今朝11時28分に息を引き取りましたよ」
水のマーク、秋山が書類をめくりながら報告した。
「は?これからって時になんであいつが死ぬんだ?」
神原が意外そうな顔で唸った。
「なにを言ってるんだ君は。しかし十闘神からこんなに早く脱落者が出るとはな」
雷マーク、式河が思案顔で呟いた。
秋山は口元に微笑みを浮かべてやりとりを聞いていた。そして発言した。
「柳田将一を釈放しませんか?」
その場の全員が黙った。
「将一を釈放する?」
神原が大きく息を吐いた。
「いかん。彼は二ノ宮涼美や神原、お前とは違う」
有川は首を振ると机に手を突いた。
「まったく。先代はなに考えてたんだか。俺はともかく林未や柳田、なにより二ノ宮が可哀想な話だ・・・」
神原は窓の縁にもたれかかって呟いた。
それそれのパートナーは後ろに控えている。とくにメラモンは床が焦げるのでレンガ製の靴を履いていた。
「柳田くんは精神鑑定をしたあと釈放しよう。しかし・・・・、一人死んだか」
顔を上げた有川は一人一人の目を見て言った。
「二ノ宮涼美によるとどうやら彼らはあだ討ちをするそうだ。全面的に協力しろ。彼らのあだ討ちは我々の作戦完了につながる」
3人はそれぞれ返事をし、部屋を出て行った。
 
 
そして・・・・・・、
 
地下討論場よりも更に下。
隔絶されたルートが延び、その先は鋼鉄の扉に続いていた。
それなりに豪華なホテルの一室のような部屋に少年が一人、鉄格子ごしに見えた。
「おっ、看守さん。なんかあったん?」
人畜無害な笑みを浮かべて彼は格子の向こうの男たちを見やった。
パソコンの前からはなれると彼はソファに腰掛けた。
「柳田、出ろ」
短い要請に彼、柳田将一は快く応じた。
「やっとか。外出んのは久々やなぁ」
そして続ける。
「コクワモンにも会えるんやろな」


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