超高層ビルの間を縫うように緑の影が飛び交った。
あまりのスピードに分身したようにも見える動きでシュリモンが相手を探して飛び回っている。
テイマーとの合流地点にあたるビルの真上で彼は5メートルほど落下し、着地する。
「見当たらないか。ならここからはじめよう」
林未は携帯電話を取り出すと二ノ宮につないだ。
「了解」
二ノ宮はもう1つ、無線機を取り出し、通信を始めた。
「そっちの準備どう?」
「準備完了みたい。さっき連絡があったから」
和西とゴマモンはサングラスをかけてビーチパラソルの下にいた。
その視線は太陽に注がれている。
通信機のスイッチを入れるとゴマモンは自分の階層7つ下にいる二ノ宮に連絡を入れた。
二ノ宮は耳から通信機を放すと後ろに座っていた積山に報告した。
「そうですか。林未君にはその場で待機、いつでも動けるように伝えよう」
積山は無線を取り出し交信を始めた。
「谷川さん、そろそろ始めてください」
「了解・・・、!」
無線を危うく取り落としかけた谷川は空にいた。
もう自分が何メートルのところにいるのかさっぱり分からない。
アクィラモンの足には大きな機械が固定されていた。
日傘のしたで谷川は目の前のアクィラモンにベルトで固定されたスイッチを入れた。
「きたわね」
二ノ宮はキーボードを操作し画面に映し出された都市の映像を拡大した。
黒いめがねをかけた辻鷹が画面を覗き込む。
積山の作戦。
それは、まずシュリモンが待機するエリアを中心にアクィラモンで上空に上がった谷川がリアルタイムで映像を撮影、和西はその作業が敵に悟られないようアクィラモンを太陽の中に誘導、林未は連絡の中継を行い、辻鷹、二ノ宮、積山とそれぞれのパートナーが画像を拡大して目標を探す。
発見しだいシュリモンが追跡をし、和西とゴマモン、谷川とアクィラモンが即、現場に急行する。
全員の能力をフルに活用した作戦だった。
「いた」
辻鷹が目の前の画面を指差して呟いた。
即座に二ノ宮が林未、和西、谷川に連絡を入れた。
「だいじょうぶだよ」
谷川は振り向くとアグモンを抱きしめた。
「信じて。必ず勝つから」
そして彼女は前を向く。
急降下を始めたアクィラモンのすぐ下を和西がゴマモンを抱えて立っていた。
数秒後に自分の真上を通り過ぎる瞬間、数十メートルも飛び上がり、アクィラモンに飛び乗る。
「よっ・・・・し!乗れた。あとどれくらいで着ける!?」
ゴマモンがアクィラモンに訊いた。
「すぐだ。しっかりつかまって!」
そう答えたアクィラモンは滑空するとビル街の1つに降りた。
ガルルモンで移動した辻鷹と二ノ宮はビルの影から様子を覗った。
「いた?」
「いた」
短い会話を終えると二ノ宮はその場から姿を消した。
辻鷹はライフルに組み替えた銃から伸びた紐を腕に巻きつけて固定、構えた。
金属照準器で狙いを定め、連続で8発撃った。
一瞬で氷が3つの影を飲み込み、動きを封じた。
その瞬間二ノ宮が脇から飛び出し氷に両手をかざした。
右手の紋様が光り、氷は金属特有の光沢を放ち始めた。
「しばらく・・・苦しいだろうけど我慢してね」
二ノ宮は金属の山を後にすると上を見上げてシュリモンの位置を確認する。
ライフルを背負うと辻鷹はガルルモンにまたがった。
シュリモンはアクィラモンが空を斜めに滑空するのを横目で確認すると下を覗き続けた。
積山、辻鷹、嶋川が立っていた。
そして彼の体は硬直した。
背後を覗ったシュリモンの視界にナイフを構えた谷川が映る。
「何時の間に・・・。何故此処にいるとすぐに分かった」
谷川の顔は無表情にシュリモンを見下ろしていたが、やがて口を開いた。
「お前は今のうちに倒しておこう。隠密活動に優れているようだな」
その瞬間谷川の胸から黒い刀身が姿を現す。
林未は次の瞬間には背から刀を抜いていた。
すぐに起き上がった谷川は右回し蹴りを繰り出した。が、膝から下は遠心力で飛んでいった。
刀を顔の前で持っていた林未は問いかけた。
「どこを斬れば死ぬ?」
シュリモンが両腕の手裏剣で挟み打ちにした。
すでに再生した右足で片方の手裏剣を蹴り上げた谷川の偽者は次の斬撃を飛び越えた。
詰め寄った彼女は林未の頬を斬りつけた。
しかし即座に叩き斬られる。
眉をひそめた彼女の視線は林未の頬に注がれていた。
「悪いな。切り傷くらいなら3秒で治るんだよ」
林未は悪びれずにそう言うと背を向けた。
シュリモンが飛び上がり、背中に手を回す。
「[草薙]ィ!!」
巨大な手裏剣がコンクリートに埋め込まれる。
限界まで体をひねった状態の積山は手裏剣の下から這い出すと辺りを見回した。
「なるほど」
林未は刀を鞘に戻すと肩をすくめて返事をした。
「読みがいいな。時間かせぎ、ってやつだよ」
谷川の後ろに二ノ宮、ファンビーモン。積山、ギル。
さらに和西、谷川、ゴマモンがアクィラモンに乗って現れた。
辻鷹がガルルモンの上から事も無げに言った。
「わるいけど君の仲間は固めさせてもらった」
アクィラモンから飛び降りた和西は降流杖を構えて解説する。
「斬り刻んでも死なないなら、徹底的に動きを封じればよかった。加えて密閉空間。そう長くはもたない」
偽者の谷川がはじめて笑った。
「ほんとにそうかな・・?確かに、呼吸をする相手には効果が高そうだね」
その瞬間偽者の半身が吹き飛んだ。
瞬時に再生した右目で谷川を見つけたもう一人の谷川は微笑んだ。
「なるほどね。何でわかったの?」
積山が腕組みをしたまま答えた。
「ナイフの跡から推測した身長、靴跡、その他。いろいろ証拠はありましたからね」
「敵討ち。私もアグモンもあなたを倒すまでは絶対に戦いをやめない」
凄んだ谷川の声に数人がたじろいだ。
「敵討ち?バカみたいね。私は殺してもしなない。第一なんで敵を討つの?・・・同じ理由で私があなたたちを倒してもいい。そうは考えない?自分の戦いを正当化してるだけじゃないの?」
もう一人の谷川が無造作に吐き捨てた。
とたんに谷川はうつむいた。髪で表情は見えないが声は荒らげていた。
「あなたが殺した浩司は、そして私は・・・。戦いを肯定していない。正当化もしない・・・。ただ、あなただけは許さない・・・!」
ロッドを引き、銃口を向ける。
「倒しても死なないなら・・・!死ぬまで殺す!!」
ロッドから手は離されていた。
引き金はすでに壊れそうなほどに握られていた。
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