デジタルモンスター
エターナル・ログ・ストーリー

第一章




 46    第46話 「劫火」
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2007.12.31 Mon.
低く、重く、そして切なくも聞こえる銃撃音がビル街に響いた。
ただ、ロッドを引く音、引き金を引く音、風が充填される音が風に乗り、かすかな嗚咽を混じらせて空へと吸い込まれていった。
跡形もなく粉砕されたコンクリートの壁の前に谷川の姿はない。
血の跡すらない自分の偽者の死に場所を谷川は見つめていた。
敵はとった。何故自分がここまで怒り狂っていたのかやっと思い出した。
うつむいた視線の先にはボヤボヤに映った自分の武器があった。
急激にボウガンの反動に耐えていた体が悲鳴をあげ始めた。
そのまま崩れるように倒れた。
そこで谷川の意識は薄らいでいった。
 
「敵討ち、終わったな」
林未が沈んだ口調で呟いた。
巨大な手裏剣を背負うとシュリモンは斜め前に立った彼を見下ろして頷いた。
 
 
その瞬間。
 
 
ビルが真っ二つに割れ、崩壊を始めた。
「なんだ!?こんどはなんだよ!?」
轟音と砂煙を上げ崩れるビルの上で和西はやっと状況を飲み込んだ。
「まずいッ!」
ゴマモンを空中でキャッチすると和西は足元の本・屋上を蹴り、となりのビルに飛び移った。
いそいで全員の様子を確認する。
二ノ宮はワスプモンに抱きかかえられていたし、辻鷹はとっくに避難したガルルモンの上でライフルを構えている。
積山は右腕から伸びた大鎌でギルと空中へ逃れ、林未はシュリモンにしがみついていた。
「!」
しまった・・・!谷川さんは!?和西は目を凝らして砂煙の中を睨んだ。
「アクィラモンが攻撃された!退化したホークモンが・・・・・・」
辻鷹が文字通り目を見開いて声を上げた。若干悲鳴に近い。
もう迷ってる場合じゃない。一瞬ベットに横たわる嶋川の姿が頭をかすめる。
「急げ!!助けるんだ!!!・・・・・」
 
 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 
谷川はうっすらと意識を取り戻した。
ぼんやりと白い世界が見える。
誰かがすすり泣いていた。
「・・・・・・・    ・・・・  ・・    ・・・・・・」
その人はなにか会話をするとその気配が移動するのが分かった。
なにかが顔を覗き込んでいるんだろうか。黒い世界に変わった。
「こ・・・・は?・・・・か、・・・・・がを・・た・・・・。ま・・によく・・・・いに・・・てね。およ・・・・んにな・・・て・・れ・・・・・ら・・・・・・・・・この子も嬉しかったろうにね」
黒い世界はぐしゃぐしゃになり、やがて消えた。
 
 
「!」
完全に意識を取り戻した谷川はベットから跳ね起きた。とたんに痛みに顔をしかめてベットに倒れる。
傷む部分を押さえてみた。額、胸、腹、右の足、左手。それぞれに分厚く包帯が巻かれていた。
「気がついたのか」
となりのベットからホークモンの声が聞こえた。
ゆっくりと首を動かした谷川の目にホークモンの状態がよく見えた。
包帯は少しだが羽が部分的に切断されていた。
「どう・・・したの・・・?」
ホークモンは肩をすくめ、同時に痛みで首をすくめると答えた。
「計が気絶したあと何者かに攻撃を受けました。ビルごとばらばらにされるところだったんですが。ご覧のとおり羽が数枚持ってかれただけですんで、危なかった」
谷川が何か言いかけた時、ドアが遠慮がちに開き、二ノ宮が顔を覗かせた。
ファンビーモンが後に続き、ドアを閉める。
喋ろうとし、言いよどむ二ノ宮の左手に包帯が巻かれていた。
「それ・・・どうしたの?」
二ノ宮は左手を後ろに隠すと説明を始めた。
 
 
それはもう2日も前のことだった。
 
「急げ!!助けるんだ!!!」
和西はビルから飛び降り、瓦礫の山に駆け寄った。
舌打ちをすると林未は刀を抜くと隙間に差し込んで瓦礫をどかし始めた。
積山の右腕から黒い霧が発生し、鎌が4本出現して瓦礫を挟み、持ち上げ、下を確認する。
「だめだ・・・。ここじゃない」
ワスプモン、ガルルモンがコンクリートの塊を立てて掘り進み、歓声をあげた。
「仁!いたぞ!ここ、ここだ!」
谷川とホークモンが折り重なるように倒れていた。
二ノ宮とワスプモンが運び出した様子を見て一旦安堵した積山はゆっくりと倒れ始めた柱に気づいた。
「あぶない!」
二ノ宮、ワスプモンを突き飛ばすと積山は砂埃の中に消えた。
「!」
「危なくつぶれる所だった・・・」
体から砂埃を払い落とすと積山はため息をついた。
「はぁ・・・。いまさらなんですけど、でもビルを一撃で真っ二つなんて」
ギルは内心胸をなでおろしながら不服そうに言った。
「一撃で瓦礫になら進化さえすればおれにもできるぞ」
「・・・・・・・・・・・・・・」
 
 
二ノ宮は左手を見せて、
「突き飛ばされたからこれですんだようなものね」
と独り言を言った。
「えっと・・・。もう2日もたってるんですか?」
谷川が訊いた。
「まぁ、そうだけど。うなされてたんだよ?」
自分の睡眠時間に驚きを隠せない谷川に、ついに二ノ宮は打ち明けた。
「あの・・・起きていきなりなんだけど」
そう前置きすると二ノ宮は伝えた。
「嶋川くんの御遺体、明日正式に火葬することになったから」
 
 
「やっと終わったんか」
柳田は不服を録音したような口調で呟くと背伸びをするように体を伸ばした。
「はー・・・・!」
息を吐くと彼は自動で開いたドアから外に出た。黒光りする体をもったデジモンが駆け寄って話しかけた。
「久しぶりだなぁ。何年ぶりなのかなぁ」
柳田も笑顔になって飛びついた。
「ほんまに久しぶりや。元気そうやな!コクワモン」
コクワモンと呼ばれたそのデジモンは再会の喜びを噛み締めているようだった。
やがてエレベーターのドアが開き、白を基調にした組織の本部に出た。
特に気にする様子もなく柳田とコクワモンはガラスの自動ドアをくぐろうとし、立っていた男に止められた。
「柳田将一とコクワモンだな?」
「ほやけど?だないしたんや」
柳田は好意的としかとれない態度で応じた。
「出て行く許可は下りてるはずやで」
「・・・・・・・・・・・・」
彼の言葉に二の句が継げない男は手を離した。
「また来る」
短く言い残すと柳田は外に出た。
「久しぶりの空だねぇ」
コクワモンは空を見上げて呟いた。
柳田は何度も軽く頷き、門を目指して歩き始めた。
「とりあえず和西っつーヤツのとこ行くで」
やることが山積みやんか。柳田は苦笑すると門を抜けた。
 


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