デジタルモンスター
エターナル・ログ・ストーリー

第一章




 47    第47話 「権力」
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2007.12.31 Mon.
シャツを着る。その上に制服を羽織り、鞄をたすき掛けにして部屋を出る。
階段を下りながらポケットに手を入れ、小さな革袋から伸びる鎖を首にかけ、制服の胸に隠す。
鞄から断罪の槍の入ったホルダーを取り出すとシャツの上にベルトを巻いて固定した。
「行ってきます」
誰もいない家に向かって呟くと積山は門をくぐった。
 
今日は比較的遅く家を出たせいか教室に着くころには始業のベルがあと何分で鳴るか、という時間だった。
そういえばもう一週間は来てないな。やれやれ。
積山は心の中でため息をつくと一番端にある自分の席に向かった。
内部に圧入されたプリントを引きずり出して整理を始めるとすぐに手元が暗いことに反応せざるを得なくなった。
「なにか?」
横目で見上げると学級委員の2人が立っていた。
「ずいぶん久しぶりじゃないか?今まで何してた?一週間も連絡無しなんて」
ずいぶんと高圧的な態度だ。
「天羽さんが行方不明になったの。積山くんが1週間欠席し始めた次の日にね」
積山はプリントの山をあきらめると立ち上がって向き合った。2人がたじろく。
「どういうことです?それとぼくになんの関係が?」
最初に話しかけてきたほうがトゲのある口調で言った。
「タイミングよすぎるんだよ。なにか知ってるんじゃないか!?」
それを聞いて積山は何度か首を振るとため息をついた。
確かに殺したのはぼくだ・・・。
もう一人が決め付けたように言った。
「なんだかいやに仲がいいと思ったら・・・。こんなことになってねぇ」
積山が反論しようとした時だった。
始業のベルが鳴り響き、担任教師が入ってきた。目があってしまった積山は慌ててそらしたがすぐに呼ばれた。
「久しぶりだな。なんだ?なにか言われたか?」
「いえ。なにも」
即答した積山を見遣ると担任は着いて来るように言った。
廊下を無言で歩く途中、遅刻したんだろうか、辻鷹とすれ違った。
肩をすくめて見せた積山に彼はすれ違いざまにこう言った。
「がんばってね」
なにをがんばればいいのか漠然と考え始めた積山は担任教師が校長室、と書かれた扉をノックするのを眺めていた。
 
「・・・ですから、家庭内行事です」
「じゃあ何で連絡がなかったんだ?」
教頭が繰り出す続けざまの質問にどう答えたらいいものか積山の頭はフルに活動していた。
なんにせよ嘘をつく。それも上手く。より現実的な嘘を。
「・・・まぁいい。君の不登校は今に始まった事ではないからな」
教頭はついに聞き出すのをあきらめたらしい。
今日何度目かのため息をついた積山に違う質問が投げかけられた。
「天羽裁の事なんだが。君何か知らないかね?」
よく知っている。しかしこれも答えるわけには行かない。
「さぁ・・・。どうしたんですか?」
「行方不明なんだよ。それももう一週間になる。ご両親に連絡が取れないから不審に思って家を訪ねたんだが・・・」
教頭の探るような視線を無視すると積山は促した。
「なかったよ。空き家だった。どう考えてもおかしい」
「・・・・・・・・」
確かに。天羽=ウィルドエンジェモンはデジモンだ。架空の親や戸籍、転校手続きはどうしたんだろう。
裏で手を引いていた者がいるのか・・・?
「君、付き合ってたそうだね。親しかったそうじゃないか。・・・・この一週間、君はどこで何をしてた?」
なるほど。教頭はどうやら彼女の失踪にぼくが関係していると・・・・・、
当てたらしい。
その瞬間だった。
ノックと同時に扉が開き、学生が一人、乱入した。
「いやぁ、校長室どこにあるんか迷ってしもうた」
関西弁を流暢にしゃべる学生の乱入は会話を完全に中断した。
「柳田、時間よりまだ10分も前だろう」
教頭がたしなめた。
「あっちゃー、ごめんな。外で待ってるわ」
「いや、もういい。手続きは終わってる。積山と一緒に教室に行きなさい」
柳田と呼ばれた学生は積山を眺めると愛想のいい顔をして行こか、と話しかけた。
 
「えらい雰囲気悪かったな。どないしたん?」
柳田はとなりを黙って歩く積山に話しかけた。
「べつに、ちょっと面倒起こしただけだ」
積山が答えた。柳田は苦笑し、何度か頷いた。そして自己紹介する。
「おれな。柳田将一。お前と同じクラスに転校してきたんや。よろしくな」
自己紹介をしようと口を開きかけた積山をさえぎると柳田は続けた。
「お前積山慎やな。噂、聞いた」
窓の外を眺めて笑顔になるとさらに続ける。
「えぇ天気やな。おれ、今日はもう用ないから帰るだけなんや。お前どうや?サボらへんか?・・・なぁ、闇の守護帝さん」
積山は驚いた。
「君はいったい・・・」
柳田はずっとポケットに突っ込んでいた右手を見せた。腕もまくる。
黒い紋様とD-ギャザーを見せて彼は自己紹介を締めくくった。
「雷の豪弓士、例のほら・・・、特別なデジモンテイマー。この辺に詳しくないからなぁ。案内してほしいんや。例えば・・・・、和西くんの家とかな」
積山は口元だけ笑うと言った。
「おもしろいね。案内しようか」
2人はそのまま来た道を戻り、下駄箱へと向かった。
しかしわずか5歩で止まった。
「積山!」
担任がそこで止まっているように、と全身で合図しながらやってきた。
「お前にお客さんが来てるぞ」
積山は一瞬のうちにいろいろな知り合いの顔を脳裏に浮かべた。そして、
「はぁ?」
と無意識に口にしていた。
 
来客用の玄関に神原と二ノ宮が立っていた。
「よぉ」
神原が軽く挨拶する。積山はやっと理解した。
「どうもすいません。先生方」
二ノ宮が丁寧な言葉遣いで礼を言った。
「どちら様でしょうか?」
校長が訊いた。
「失礼しました。私積山慎の従姉妹の二ノ宮涼美です」
頭を下げて名乗った二ノ宮を見て校長はただ、はぁ、とかそうですか、としか言わなかった。
「今日親類の葬式なんですが・・・。急に積山くんにも出ていただこうと思いまして・・・。こうしてお迎えに上がりました」
いつもの口調とは対極の言葉遣いで神原が説明した。
「本当かね?」
教頭が胡散臭そうに2人を見ながら積山に訊いた。
「はい。2人とも親戚です」
積山は即答する。
「そうか」
教頭は引き下がった。
「じゃあ行きましょうね。慎くん」
二ノ宮は微笑むとお辞儀をして玄関を出て行った。
 
 
「なんでオレが積山を“お迎えに上がら”なきゃなんねぇんだよ!」
神原が先ほどまでの態度をかなぐり捨て、助手席で叫んだ。
ハンドルを握る二ノ宮は目を見開いていた。
「あれが中学校かぁ・・・」
後部座席に座った柳田と顔を見合わた積山が話しかけた。
「どうもすいませんでしたね」
二ノ宮は軽く首を横に振り、
「別に。でもまさか嶋川くんのお葬式、忘れてた訳じゃないでしょう?」
積山は頷き、そしてつぶやいた。
「なんとなく、出たくなかったから」
「分からないでもないけどね」
あいずちを打ち、二ノ宮は運転に戻る。代わりに神原の携帯電話が鳴り、彼は通話をはじめ、やがて終えた。
「おい、二ノ宮」
「はい?なんですか?」
二ノ宮はいつにも増してめんどくさそうな顔をして見せた上司に返事を返した。
「例の公園に行け。ドームが割れてなにか出てきたらしい」
 


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