「もう大丈夫なのか?」
ホークモンはバックの中から谷川を見上げた。
彼女はまだ頭の包帯が取れていないが特別に仮退院の許可が降りたのだった。
「うん。いつまでも寝てらんないよ」
「まだ3日・・・」
養生期間が短すぎる。ホークモンはそう思っていた。
「お葬式なんて嘘みたいだよね」
制服姿の谷川はポツリと呟くとうつむいてしまった。
「!!」
振り上げられた鉄板のようなものが車を串刺しにし、強靭な力がそれを投げ飛ばした。
車が破壊された瞬間脱出した4人は地面を転がり、地面への激突の衝撃を受け流す。
一番最初に起き上がった柳田は振り向き、めちゃくちゃになった車とジャングルジムを見て叫んだ。
「なにすんねん!誰の車やと思ってるんや!!」
積山はそれを聞き逃しながら断罪の槍をかまえた。
数メートル先でこちらを覗っているのはまるでロボット、いや、そのものだろうか。
神原はしばらく無言で相手を見ていたが、やがて口を開いた。
「作業員と周辺住民を優先して全員退避させろ。速急にだ!!」
「は、はい!」
二ノ宮は即座に背を向けて作業員の誘導を始めた。
「さぁて、援軍が来るまで俺たちだけでここをあれを押さえる。いくぞ・・・!」
ナイフを抜くと神原は後ろの二人に左右に広がるように手で合図した。
『あれ』は楕円形の胴体から4本の細いコードのような腕が伸び、その先は銀色に輝く鉄板に見える足のようなものに繋がっていた。
胴体から飛び出した円柱がまるで頭のように左右に回転した。
「なんなんやこいつは?」
柳田がポケットからD-ギャザーとほとんど同じくらいの大きさのものを出す。
左の手首にベルトで取り付けると腕ごと掲げた。
「冠婚葬祭や。急いでんねん ― 」
バチッ、と地を叩くような音が響き、左腕と直角に一本の電気の棒が現れた。
左腕の機械を軽く触った柳田はそのまま相手に腕を向けた。
引いた右手と左手の間に電撃の矢が現れた。
それはまるで弓のようだった。
「 ― 悪・・・思うなや」
右手を離すと一瞬で閃光がひらめき、すこし遅れて放電による独特の音が響いた。
柳田が腕を下ろすとほぼ同時に相手が崩れ落ちる。
左手の機械の放電を止めると柳田は覗き込むようにして相手を見、そして言った。
「なんや、あっけないなぁ」
そう言った瞬間地面に大きく開いた亀裂から何かが飛び出してきて言った。
「たしかにこんなんじゃ相手にならなかったみたいね」
もう一人の二ノ宮が笑顔で斬鉄の手斧をかまえた。
「御遺体を火葬いたします」
司会者が静かな口調で伝えた。
谷川は数人の喪服姿の人に混ざって棺について行った。
「お別れでございます」
司会者がそう言うと同時に棺は自動式の台車に乗せられ狭く暗い部屋、火葬場に入れられていった。
谷川は自分の偽者を倒して以来一度も泣いていなかった。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
そして・・・・・・・・・・・・・・、
棺に火が放たれた。
谷川はゆっくりとソファに座った。
ボスン、とホークモンの入ったバックをとなりに置くとやっと泣いた。
「もっと一緒にいたかった・・・・」
ホークモンはただ自分の無力さを感じることしか出来なかった。
嶋川の周りは炎に囲まれる。右腕に付けられたD-ギャザーが輝きはじめた。
「さすが、やるわね」
2人目の二ノ宮が感嘆した。
神原、積山、柳田、そして本物の二ノ宮の息はまったく上がった様子はない。
しかし驚いていた。
神原、積山を中心に追い詰めていくが相手の戦闘能力は異常だった。
いくらなんでも強すぎる。本物の二ノ宮でさえここまでは強くない。
「たかが一人に時間取られてたまるかよ」
神原が再びナイフをかまえた。
柳田、二ノ宮はしきりに後ろを振り返る。
援軍はまだだろうか。
積山は偽二ノ宮のことはあまり危惧していなかった。しかしこの前封じた以外の偽者やさっきの機械のような仲間がまた現れたら・・・・厄介だ。
そこまで考えたときだった。
「・・・!」
彼は体の具合が悪い、としか言いようが無い状態に陥った。
しかし体か?
体の具合が悪いのとはすこし違う。調子が狂った?
具合が悪い、というときの症状に何1つ該当しない異変にたまらず積山は倒れた。
右手から黒く細い波があふれ出し、ひとりでに流れて積山の周りを動き回る。
黒い線で出来たそれは魔法陣に見えなくも無かった。
場の異様さに身動きの取れない神原の目の前でその魔方陣は中心に吸い込まれるようにして消えた。
「な・・・!?」
わけが分からない、という声を出した神原の前で積山は平然と立ち上がって額を押さえた。
「!」
状況を忘れ立ちすくんでいた柳田の首を何かがかすった。
「ちゃんと死んでくれないと困るんだけどな」
ナイフを手の上で振り回して遊びながら林未がいつもと同じ口調で言った。
その後ろからもう一人、鉄の棒を下げた和西が現れた。
「うわっ・・。冗談きついなぁ・・・」
柳田は苦笑しながら後ずさりを始めた。
「関西メガネ!頭下げろ!!」
反射的に振り向いた柳田の横顔すれすれにナイフが飛び、林未の胸に深々と突き刺さった。
林未は無言でそれを引き抜き、しげしげと眺めた。
「いいナイフだな。どこで手に入れた?・・・・いや、どの世界で手に入れた?」
神原は腰の後ろに手を回し、もう一本抜きはなった。
「企業秘密だよ」
悪びれずにそう答えた神原自身も分かっていた。
和西、林未、二ノ宮の偽者。こちらは自分と積山と柳田、二ノ宮。
少々分が悪い。
神原が舌打ちをした瞬間だった。
「援軍到着だ!!」
白い服を着た人間が戦場と化した公園に飛び込んできた。
その少し前、
「火葬が終わりました」
司会者の言葉を聞いて谷川の体がビクリ、と震えた。
呼吸がひとりでに荒くなる。
しん、と静まり返った室内に異常に大きな騒音が響き渡った。
音源が火葬のための小部屋に通じる金属の扉だという事実は伝言ゲームのように部屋の全員に伝播し、悲鳴やざわめきが波紋のように広がった。
すっかり怯えきった司会者が恐る恐る自動ドアの開閉スイッチを押す。
「・・・せ・・!・・・・・しやがれっての!!」
扉が開くにつれ怒鳴り声が漏れ出す。
もう二度と聞けないと思っていた声に谷川の目が見開かれた。
「酸欠で死ぬかと思ったぞ!!なんだよここは!?出せっつてんだよ!!」
死に装束姿の嶋川がドアから飛び出して深呼吸をした。
「くぁ〜、死ぬかと思った・・」
谷川はゆっくりと彼に歩み寄った。
「・・・どうして・・・・?」
額の汗をぬぐうと嶋川は微笑んで見せた。
「悪かったな。勝手に死んじまって」
何か言おうとした谷川を遮ると嶋川は辺りを見回した。
「あいつらがいないな。やばい事になってるだろ?」
谷川も薄々感ずいていた。そして思った。
話は後回しだ。
バックから炎撃刃を出して差し出す。
「いってらっしゃい」
「帰りは早くなるぜ」
嶋川はそのままの格好で部屋を出て行った。
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