ギガシードラモン撃破の情報はその日のうちに都内のテイマー全員に伝わった。
早い段階でその情報を聞いた二ノ宮と辻鷹は安心と同時に不安を感じた。
「直接対決じゃ勝てない敵、か・・・」
ガブモンが情報を聞いた後の第一声がこれだった。
ムゲンドラモンが起動した。
神原が運転する移動中の車の中で辻鷹はその言葉を思い出していた。
「いまからそんなヤツと戦うんだね」
となりに座っていた彩華が心配そうに訊いた。
「大丈夫?」
辻鷹ははっきりと頷いた。
「たしかに恐怖は感じないかな。でもなぁ、勝てるかどうか・・・。みんなは?」
そんな辻鷹の様子を見て和西は少し前に二ノ宮に聞いた話を思い出した。
「二ノ宮さんは結構慣れてるんだよ。こういう状況。本人は絶望慣れって呼んでた。大丈夫だよ」
それを聞いて助手席に座っていた二ノ宮は怪訝な顔をして振り向いた。
神原は肩をすくめて見せる。
「悪かったよ」
和西と、シートに体を沈めた二ノ宮とを見比べていたテリアモンは辻鷹とは逆のとなりに座る和西の服を引いた。
「なんの話?」
和西は顔を向けると、
「この前留置所でちょっとね」
と答え、正面の二ノ宮に訊いた。
「話してもいいだろう?」
本人は両肩をよせると小さく頷いた。
「・・・いいよ。私にとっては仲間以前に初めての親友だから隠し事なんてね」
了解を得た和西は話し始めた。
二ノ宮の過去の話を。
旧・二ノ宮邸
そう呼んでも差し支えがないほどの大きさの建物が涼美と所長、そして母親の家だった。
二ノ宮涼美が10歳の時までは彼女の生活は極普通のものだった。
ある日。
自分の部屋で一人で遊んでいた彼女はふと、自分の横に置かれたデジヴァイスに気がついた。
顔の高さまで持ち上げて見つめていた涼美はベルトで腕に巻いてみた。
皮膚が焼けるような痛みに一瞬顔をしかめた彼女は手のひらの紋様を不思議そうな目で見て、首をかしげた。
「はじめまして」
窓から差し込む日の光の中にファンビーモンがいた。
「あなた・・・・、なに?」
「デジモン。ファンビーモン。君の友達」
その時、開け放された扉の向こうから廊下をこちらに向かって歩いてくる音が聞こえてきた。
「わかってるな?」
「はい」
誰か分からない声が聞こえ、父親が返事をする。
スーツ姿の男が部屋の前を通り過ぎた。
そして戻ってきた。
部屋の扉が砕けるかと思うほど勢いよく開き、涼美を押しのけ、ファンビーモンを捕まえた。
そして・・・、涼美の右腕に気がついた。
すぐに涼美とファンビーモンを両脇からギッチリガードして車に乗り込んだ。
涼美の目には車に入る直前に見た近所の友達が遊ぶ様子がやけにはっきりと脳裏に焼きついていた。
「私はそれ以来16になるまで外の景色なんか見れなかった」
「どういうことですか?」
「まぁ・・・、平たく言えば監禁されて実験台にされたわね。そのときには組織も出来たてで研究所が半分暴走してたから」
彩華は不思議そうな顔で訊いた。
「でも、なんで二ノ宮さんは実験台にされたの?」
「目的は3つね。1つは人工的にテイマーをつくることへのデータ。もう1つは自然のテイマーそのもののデータ収集。最後に・・・人間強化の実験台」
後部座席に座った2人と3体が同時に声を出した。
「・・・はぁ?」
和西が補足をする。
「有川さんが組織を統一する前、初期の組織は人工的に量産したテイマーを特に強化したテイマーが率いる、というのを目指してたらしい」
二ノ宮がなにか呟いた。
「・・・ヒドイよ?毎日薬を打たれるし、体が自分の言うこときかなかったり・・・」
辻鷹たちはずっと黙って聞いていた。和西がポツリと、
「上の命令でその実験をやっていたのが今の所長なんだ。でもいまはもう仲直りの方向に向かってる」
と言葉を漏らした。
辻鷹は気になった事を神原に訊いていた。
「初期の組織がやろうとしていたことはどうなったんですか?」
「人工テイマー軍はコマンドドラモンとファンビーモンを人工的にリアライズさせる方法に成功してる。それに加えて二ノ宮からサンプリングしたデジヴァイスのデータをもとに擬似D-ユニオンを作る方法も実用に移されてそれでお茶が濁されてるな」
神原はポケットからのど飴を出して口に放り込んだ。
「強化人間の方もデジヴァイスから電気信号を出して対応する人間の体を活性化させる方法で1人だけ完成させてるな」
「その人はいまどうしてるんですか?」
神原はアメを噛み砕くと答えた。
「ん?そいつはなぁ。今とある国のとある場所で車を運転して2人のガキと2人の小娘と4体のデジモンを戦場まで輸送してる。・・・かもな」
「・・・・・・・・・・!」
驚いた表情のまま固まった辻鷹をルームミラーで見て、神原は息を吐いた。
「まぁオレも二ノ宮みたいな目にあったワケよ・・・っと!!」
寸断され、陥没した道路の手前で車が急停車する。車を飛び降りた神原のとなりに、それまで燃焼ガスで空を飛んできたメラモンが着地した。
「っとに危ねー!結構近いな!?」
ひび割れの様子からそう判断した彼のとなりでメラモンが声を出して笑った。
「あぁ、近いな。ざっと200メートルほど向こうだ」
メラモンの視線の先にはビルを上回る体躯で前進を続けるムゲンドラモンの姿があった。
神原は、和西たちに続いて車を降りたクダモンと彩華を引き止めた。
彼女を追い返した神原は一言だけ、
「ルーキーは後ろで見てろ」
と言い含め、懐から紅いプログラムカードを取り出した。
和西、辻鷹も次々とカードを取り出した。
「さて・・・、はじめようか」
メラモン、ゴマモン、ガブモンの体が輝き始める。
「メラモン進化!!!」
「ゴマモン進化!!!」
「ガブモン進化!!!」
「ファンビーモン進化!!!」
「 ブルーメラモン 」
「 シャウジンモン 」
「 ワーガルルモン 」
「 キャノンビーモン 」
ついに完全体に到達した3体の進化の輝きをムゲンドラモンの視覚センサーは見逃さなかった。
巨大な破壊マシーンが4体の完全体と4人のテイマーを見下ろした。
ワーガルルモンが辻鷹に振り向いた。
「勝てるか?」
「勝つだろ」
神原が至極当然といった顔で答えた。
「これからだ。積山くんもギルも天羽さんも必ず帰ってくる。組織も少しずつ再編されてる」
和西は一息にそう言い放つと、最後にこう付け足した。
「駒はもうすぐ出揃う」
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