「クロスモン、確認しました」
次々とはじき出される調査結果を聞き流していた式河はこの情報を聞いて立ち上がった。
組織最高幹部の一人である彼の命令は、
「キャノンビーモン部隊を迎撃に向かわせろ。二ノ宮を使う」
という内容だった。
自分の命令が遂行されつつあることを確認した式河は司令室を出てすぐに神原と顔をあわせることになった。
両手にそれぞれ書類とナイフの束と雑誌を抱える彼の姿を見て式河は眉を寄せた。
「・・・ずいぶん荷物が多いな。何か持とうか?」
式河は、書類を、と言いたいのをこらえた。
荷物をその場に下ろすと神原は普段と変わりない口調で口を開いた。
「そういえばウワサが流れてるんスよね。最近の組織の情報流出やら進化プログラムカードの横流しやら・・・」
神原は普段と変わらない口調のまま笑顔になった。
「式河さん、なんか知りませんかネ」
式河は腕を組んだ。
「それについては私も知りたいな。進化プログラムがテイマーに渡れば戦力の向上にもなるが・・・・。万が一アンノウンに渡って奴らに進化でもされるのは・・・・、面倒だ」
神原は雑誌を拾い上げるとそれを差し出す。
「そのとおりですよね。まぁオレは組織に裏切者でもいるんじゃないかとおもってたんスけど。 ・・・・・・今月のドラえもんの特集、面白いですよ」
雑誌を受け取りながら式河は言った。
「忘れたか?普通なら即死するはずだった交通事故で私を救ってくれたのがデジモンだということを」
書類を持ち上げながら神原が応えた。
「覚えてますよ。だからってあんたが裏切者じゃないって証拠にはなんねぇぜ?」
式河は雑誌を小脇に抱え、神原に背を向けて歩き出した。
「君こそ他人のあら探しなどガラではないだろう。・・・君こそなにを考えている・・?」
神原はなにも答えなかった。
次々と中庭から飛び立っていくキャノンビーモンの部隊を尻目に、積山・ギル・裁の3人はビルの間を縫うように走り抜けた。
苦しそうに息をする裁を気遣って、ギルが止まった。
座る所を見つけた積山がそこに座らせる。
「やっぱりずっと人間体のままってのはキツイんじゃないか?」
彼女の背中をさすりながらギルが言った。
「どうやら無理強いされてたときはそのキツサすらなかったようだ」
そう言った瞬間、自分への視線を感じて積山は振り向いた。
そして目を疑った。
「有川、・・・さん?」
組織の最高司令官がたった一人で立っていた。
彼は口元を微笑ませ、
「やってくれたね。彼女のために用意させたもの・・・・、さしずめ黒い髪留めあたりか。ピッキングで脱出するとはな」
有川は積山に小さなリュックを手渡した。
「彼女はしゃべれないそうだね」
積山は一度、裁を見下ろし、再度有川を見て頷いた。
「代償、か。君も物理的に寿命が縮まったそうじゃないか」
渡されたリュックを開くと中には、断罪の槍やD-ギャザーをはじめ、
「これは・・・、プログラムカードですか?」
銀色に赤と黒のラインが目立つ。見たことの無いものだ。
「今朝完成したばかりの“究極体進化プログラム”だ。原理はいままでと同じだが、1つだけ仕様が変わっている。ほかのカードと使い分けるといい」
積山はリュックを裁に渡すと断罪の槍を取り出した。
「私達を連れ戻しますか?・・・そもそも何故あなたがここにいるんです?」
有川は笑顔を見せ、言った。
「君達が脱走したと聞いて“散歩”に出かけたのさ。丸腰で歩き回らせるのも酷だと思ったし。・・・いや、いらぬ心配だったか」
進化プログラムを見せて積山が訊いた。
「このプログラムは二ノ宮さんたちには渡したんですか?」
「渡し損ねたよ。どうも気の早い娘だからな」
ただ雑談を続ける2人を見比べ、ギルは油断なく辺りに気を配った。
そして、裁=ウィルドエンジェモンを見ていて気づいた。
(そういえば・・・、こいつは完全体だったな。・・・・・・頼りにしていいんだろうかな)
ギルがそんなことを考えている目の前で裁はリュックを開けた。
水筒を見つけ、中の水をカップにすこし出す。
一応に匂いを確かめ、飲む。
おいしい、という顔でギルに水筒を差し出した。
水筒を受け取ったとき、積山が帰ってきた。
「有川さん今本部に帰ったよ。・・・本当に何しに来たんだ?普通・・・、ありえないな」
裁がリュックから出した本を受け取り、その題名を見て苦笑した。
『親子で学ぶ・手話入門』
「わざわざこんなものを・・・」
「そろそろね」
キャノンビーモンに取り付けられたカメラの映像を見ながら二ノ宮は頭につけたモバイルマイクで各隊員に指示した。
「なるべく散らばってください」
雲を抜け、青空しか見えない。
『涼美、敵の姿が見えない』
キャノンビーモンからの通信を聞いて二ノ宮は索敵班に敵の現在位置を訊いた。
「レーダーに反応がありません」
「反応が無いって・・・」
二ノ宮はため息をつき、キャノンビーモンにそれを伝えた。
「了解」
キャノンビーモンがそう答え、仲間に移動する、という内容の合図を通信しようとしたときだった。
「高速移動物体接近・・・!隊長!」
レーダー係の女性が悲鳴をあげ、直後彼女のキャノンビーモンが撃墜されたことが現場のキャノンビーモンから伝えられる。
声を上げて泣き出した彼女を気にかけつつ、二ノ宮はとっさに判断した。
(索敵仕様のキャノンビーモンは部隊のはるか上空からサーチする。つまり敵は大気圏ぎりぎりの位置から奇襲をかけた・・・!)
煙をあげ墜落を始めた索敵仕様キャノンビーモンを数体に救援に向かわせ、二ノ宮のキャノンビーモンは二ノ宮とまったく同じ判断をしていた。
「敵は上空!砲撃開始!!」
その瞬間キャノンビーモンのとなりでミサイルポットを展開した一体が叩き落される。
「な・・・・・・?」
ついさっきまで味方がいた空間に黄金の機械鳥がいた。
「オソイ」
クロスモンが瞬間移動をし、3体が新たに落とされる。
前線本部の誰もが絶望という言葉を脳裏に浮かべたときだった。
『神原部隊、現場に到着。二ノ宮部隊を救援・及びクロスモンを撃破する』
二ノ宮は顔を上げた。自分のキャノンビーモンはまだ飛んでいた。
そして数体、細身の見たことも無いデジモンが飛んでいた。
「これがあのデジモンの資料だ」
所長が薄いプラスチックのファイルを差し出した。
二ノ宮はそれを受け取り、開いた。
『究極体進化プログラムテスト対象、コマンドドラモン
進化後デジモンの名称・・・ダークドラモン』
ダークドラモンはキャノンビーモンのまわりを3体ずつで囲み、クロスモンの攻撃をガードした。
「[ダークロアー]!!」
右腕の生体エネルギー砲を構え、一体が撃ちはなった。
黄金の影が一瞬止まり、それをやすやすとよける。
しかし甲高い音が響き、クロスモンの動きが止まった。
その瞬間。
『やってくれ』
各ダークドラモンの通信機から神原の声が聞こえる。
「[ダークロアー]!!!」
全ダークドラモンが攻撃を繰り出す。
すべてがコンマ数秒にもみたない。
撃ち抜かれたクロスモンが消滅する。
白い砂が風にばら撒かれ、雲に吸い込まれた。
|