タイガーヴェスパモンはミネルヴァモンに軽く耳打ちするとゴクモンに向かっていく。
ミネルヴァモンはスレイプモンに声をかけ、その背に飛び乗って走り去った。
入れ替わりに和西とシャウジンモンが駆けつける。
ウォーグレイモンは一度振り向くと小さな声で呟いた。
『遅いじゃないか?リーダー』
「待たせたね」
和西はゴクモンの上空で腕組みをして自分を見つめるカオスデュークモンに声をかけた。
「積山くん、どこにも行くなよ。 渡したいものがあるんだから」
和西は積山のコートを持ち上げて見せる。
そしてコートを背負いなおすと究極体プログラムを取り出した。
その場の全員が注視するなか、和西のD-ギャザーが変化する。
「 ゴマモン進化 」
轟音を上げ、和西とゴマモンを水柱が包む。
水柱が爆発し、霧の中から一体の究極体デジモンが姿を現した。
「ネプトゥーンモン」
彼は自分の周囲に波を創り上げ、それに乗る。
右腕に握られた降流杖ともう一本の槍を合わせる。
鋭い音を発した槍ごしにネプトゥーンモンは“獲物”を見据えた。
カオスデュークモンはすべてを察すると槍を真横に構えた。
2体の究極体へと進化した和西高と積山慎がゴクモンへと突進していく。
テイマーになった日から長い時間を経て、2人自身も“進化”していた。
黒畑・ロップモン ミネルヴァモン
柳田・コクワモン ライジンモン
林未・コテモン メルクリモン
二ノ宮・ファンビーモン タイガーヴェスパモン
彩華・クダモン スレイプモン
谷川・ホークモン ヴァルキリモン
嶋川・アグモン ウォーグレイモン
全員が違和感を感じていた。
『自分達は戦いすぎている。戦いに慣れすぎている』
と。
ただ一人でギガドラモンを食い止めるメタルガルルモンは自分の限界が近づいている事を悟った。
「あとどれくらい持つ・・?」
『30分は持たせて見せる!』
後ろを振り向く。
ダークドラモンたちはすでに限界に達していた。
(任せて、って二ノ宮さんには言った。自分の言ったことにくらい責任をもつ)
ガトリング砲を突き出し、ミサイルポッドを展開する。
胸部ハッチ、背部バースト、ビーム砲がそれぞれ敵をロックした。
「これが・・・・!」
『最後の・・・!』
「[ガルルバースト]!!!!」
全身から放たれた全火力の光でメタルガルルモンの体が輝いて見えた。
ギガドラモンは強烈な冷気で凍りつき、ミサイルの爆裂がそれを粉々に砕いた。
変わり果てた通に辻鷹とガブモンが倒れていた。
「生まれて初めてこんなに疲れた・・・」
辻鷹が呟く。コートの前を開くとガブモンの背に寄りかかる。
「いま襲われたらひとたまりもないな」
同じように体力を消耗しきったガブモンが自分の周りを見渡す。
辻鷹は乾いた声で笑った。
「それはまぁ・・・・、ついてない、ってことじゃない?」
そして同時に目を見張った。
「まさかね・・・。僕達は相当ついてる・・・・、いや、がんばったみたいだ」
スレイプモンから飛び降りたミネルヴァモンに抱きかかえられ、辻鷹は安堵した。
壮大に破壊された街を見渡して二ノ宮は携帯電話で組織に連絡をしていた。
「ゴクモンを倒しました。でもエネルギー切れで退化してしまったみたいで・・・・」
『そうか。おつかれさまだったな。ダークドラモンやお前以外のタイガーヴェスパモンはすぐに帰ってきてしまったよ。やはりD-ギャザーのように身体に密着した仕組みのデジヴァイスが効果的みたいだ・・・』
「アンノウンの反応は?」
『リアルワールド上には一切ない。任務完了と言ってもいい状態だ。神原君はかなり悔しがっていたよ。“おれも戦いたかったー!!”ってな』
二ノ宮はそんな神原の様子を想像して笑みがこぼれた。
「お父さん、今度食事にでも行かない?」
『あぁ、楽しみにしているよ』
二ノ宮は携帯電話をしまうと街を見渡した。
平らになったせいか見渡しがいい。
(これから大変になりそうね)
彼女はそう思っていた。
和西はコートを下ろすと積山に差し出した。
「どうも」
短く礼をすると積山はそれを羽織った。
もし和西が手話を理解できたなら、裁が手の動きで
『似合う』
と伝えたのが分かっただろう。
「心配かけてすいません。もう大丈夫です」
初めて出会ったときよりも落ち着いた口調で積山が言った。
「いや、いいよ。これからもよろしく」
和西は頷いて見せた。
ゴマモンとギルはしてやった、というような顔で笑いあった。
辻鷹が黒畑に支えられてやってきた。
「体力ないねー」
ロップモンの言葉に、
「ははは・・・」
ガブモンが苦笑いをする。
「うわぁ、ひどい・・・」
彩華は焼き払われた街を見て絶句した。
「大丈夫や。これくらいすぐにもとに戻るで」
彼女のとなりに腰を下ろした柳田がすっきりと晴れた空を見上げて笑った。
コクワモンはずっと黙っている。
電池がきれかけなんだろう、クダモンはそう推測した。
彩華は一瞬目を見開いた。
「・・・すぐに戻るの?」
柳田はコクワモンを軽く叩きながら言った。
「いや、“必ず”戻る」
「そのとおりかもね」
駆け寄ってきた谷川が彩華にじゃれ付きながら言った。
次の日。
有川は豪華な部屋を用意して10組のテイマーを呼んだ。
早朝の召集に不服を言うものは一人もいなかったし、体調不良を訴えるものもまったくいなかった。
有川はそれぞれのパートナーに円を描いておかれたソファをすすめ、自分はその中心に立った。
「今日は何の話ですか?」
和西の問いに有川は小さく息をすって、口を開いた。
「君達には真っ先に伝えるべき話があった。ずっと黙っていた事を詫びたいと思う」
物音がまったくしない。
復興作業を行なうキャノンビーモンが一機、窓の外を通り過ぎた。
「もともと、テイマーは十人いた。彼らが全てを始めた。君達にある偉大な10人のテイマーの話をしよう」
有川は脇に抱えていたパソコンを開いた。
かつて、『辻鷹泉』が“もしもの時のために”と言って彼に預けたファイルを開く。
そこに表示された文章がプロジェクターによって壁面に映し出された。
それはかなり長いものだった。
< “第一章” END>
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