エターナル・ログ・ストーリー

第三章
無名のテイマー
 
クラヴィス



 1    Episode...1 [過去=the past]  
更新日時:
2008.02.20 Wed.
背後の引き戸が開く音に反応し和西は振り向いた。
シャツのボタンを留めながら積山が診察室に入る。
和西が様子を訊くと積山は軽く頷いて見せた。
「大丈夫です。お待たせしてすいませんでした」
和西にイスを勧められ、促されるままに座ると積山は新藤に訊いた。
「私の身体はどうなっていましたか?」
新藤は診察台の上を見遣り、ゴマモン、裁がそろって待ちくたびれ、眠っているのを確認した。
「正直に言おう。・・・あまり思わしくない。・・・いつからだね?」
「1ヶ月ほどまえからです」
患者の代わりに代答した和西を老医者は見据え、何度か頭を振る。
「すこし・・・、昔のことだ。私がまだ近くの大学病院に勤めていた頃、私は院長として2人のテイマーを担当していた・・・。結果、私は責任を問われあそこを追い出された」
積山は一度、和西のほうを見、再度新藤に向き直った。
「嶋川和葉さんと・・・、和西良平さんの2人ですか?」
あぁ、彼は深く頷いた。
「嶋川さんは・・、手遅れだった。いまさら何を言っても言い訳にしかならないのだが・・」
“嶋川浩司”と書かれたカルテを取り出し、新藤の視線はその表面をさまよう。
「彼は彼女の息子さんだ・・。一度、きちんと話をしておきたい・・・」
彼は顔をあげ、体ごと2人に向き合った。
「私はね、谷川巧一さんの司法解剖にも立ち会ったんだ。私の目の前で死を見せた2人の子供を見て私がどんな気分になったか・・・」
それまで黙って話を聞いていた和西は口を開いた。
「谷川さんも浩司もちゃんと前を向いて生きてますよ。2人ともお互いに支えあってるんじゃないかな・・・」
新藤の表情は依然硬い。
だが、しばらくの沈黙の後、彼は再度口を開いた。
「和西くん、君のお父さんのことだ」
和西は無意識に目をそらした。
だが積山のほうを見ると彼は静かに、そしてかすかに頷いてみせた。
しぶりながら視線を戻した和西は深呼吸をした。
「君のお父さんは入院を続けていた。どんな薬も治療も効果がなかった。本人も針灸や湯治、祈祷までためした。でも・・・やはりだめだった」
「そう・・・、ですか」
和西は気の抜けた声であいづちを打った。
「お父さんは病院のなかで半生を過ごしたよ。でも結婚もした。君も生まれた。だからこそもう最期が近いと分かると退院を、と言って聞かなかったよ」
新藤はそこまでいうと息を吐いた。
同時に積山がゆっくりと目を閉じる。
「最後の最後に陸上の競技会に出場してね。私もそれを見に行った。『死ぬ気で走ればこうなる』とでも言わんばかりの速さだったよ」
彼話しながら自分の机の引き出しを開け、小箱を1つ取り出した。
無言で差し出されたそれを受け取ると和西はおぼつかない手つきでそれを開く。
金色のメダルが絹に収まっていた。
「お父さんは次の日に・・。それでも最期に君にいいところを見せてやりたい。そう言っていた」
 
 
すこし眠そうな表情の裁を伴い、診察室を出ようとした積山に新藤が声をかけた。
「積山君。君の症状は進行性がない以外は和西くんの症状に近い。あと1度でも蘇生を使えば・・・、おそらくは・・・」
途中で言葉を途切らせた新藤に向き直り、積山は軽く会釈をした。
「ありがとうございました」
医師は一瞬意外そうな顔をし、ややあって言った。
「・・・おだいじに」
積山は普段と変わらない、落ち着いた表情で診療所を後にした。
 
部屋を出た瞬間、不安そうな表情の裁に腕を引かれ、積山はおとなしくそれに従った。
和西が玄関のソファに座って手の上のメダルに目を落としていた。
悟られないようにそっと顔を覗うと力がこもって少し震えている。
積山は立ち上がって言った。
「10分ほど、失礼します。・・・裁は喋れません。なにを見ても・・・、誰にも言えません」
 
積山が手洗い場の扉の向こうへと姿を消した瞬間、メダルに大粒の涙がいくつか、散らばった。
 
 
 
狭く、暗い路地を林未健助が走っていた。
腰に刀、草薙丸はなく、右手に紋様もない。デジヴァイスD-ギャザーもなかった。
近くにパートナーであるコテモンの姿も見えない。
その、彼の前方に、彼よりも背の高い少年が立っていた。
蒼髪の下、額になにかをまきつけており、表情がよく見えない。
突然、彼は林未に猛然と突進した。
軽いフットワークで林未の拳をよけ、右側の小道に蹴り込んだ。
蒼髪の少年が身をひるがえして逆の路地に飛び込んだ瞬間、甲高い金属音が響く。
数秒後、路地が爆発した。
黒煙があがるなか、白いコートを頭から羽織った小柄な人影が様子を覗う。
彼女は頷くと振り向いて逆の路地を見つめた。
「・・・・・・・・ガニメデ」
聞き取りにくい小声を聞き逃さなかったらしい。
ガニメデと呼ばれた蒼髪の少年が姿を現した。
「エウロパ、あれはなんだ?」
エウロパと呼ばれた少女は足元に無造作に転がった球体を差し出した。
「・・・・・」
「人造電脳核・・・、か?見たことない型だな」
砂になってしまったそれを手から払うとエウロパは黙って頷いた。
「帰るか」
「・・・」
ガニメデの提案にエウロパは素早く頷いた。
 


PAST TOP NEXT


| ホーム | エターナル・ログ・ストーリー | エターナル・ログ・ストーリー  第二章 | エターナルログストーリー  第三章 | 掲示板 | 登場人物・登場デジモン | 二章 キャラ紹介 | 3章 キャラ紹介 |
| 関連資料室 |


メールはこちらまで。