エターナル・ログ・ストーリー

第三章
無名のテイマー
 
クラヴィス



 2    Episode...2 [接近=approach]  
更新日時:
2008.06.18 Wed.
嶋川と谷川、辻鷹の三人とアグモン、ホークモン、ガブモンの三体は通された部屋に座って待っていた。
組織の応接室にはほとんど家具が置かれていなかった。
だが、それゆえに整然とした上に重厚な雰囲気が満ちている。
ほどなく扉が開き、有川が正面に腰掛けた。
「すまなかったね。なにしろ復旧がえらくかかっているからな・・」
口上文句もそこそこに有川はソファに深く腰を落とす。
「必ず誰か来ると思っていたよ」
三人は顔を見合わせ、辻鷹がおずおずと口を開いた。
「僕たちの親のこと、全部知ってたんですね。とくに・・・、式河さんや所長さんは」
有川は口こそ開いたものの何一つ言葉が喉から出なかった。
その瞬間辻鷹の表情が変わる。
「僕のお母さんはどうなったんですか!!『記録』にもなかったですよ!?」
「仁!!   ―――落ち着いて・・、頼むから座って」
逆上した『氷の狙撃手』を谷川が抑える。
視線を完全に落とした有川は苦しい一言を言った。
「行方不明、事実上行方不明だ・・。すまない、ここまでしか分からない」
普段の様子からは想像も出来ない力で抵抗していた辻鷹の体からゆっくりと力が抜けた。
ガブモンはその頭を抱え、背中を軽く叩く。
気まずい空気が流れ、頃合いを見計らって嶋川が口を開いた。
「今日あんたに会いに来たのはもう1つ訊きたい事があったからなんだ。・・・谷川巧一のレポート・ディスク、あれを見せて欲しい」
「あれはおそらく、もうない」
「どういう意味ですか・・?」
有川の予想外の返答に谷川は身を乗り出した。
「パソコンごとディスクが潰されていた。その度合いから・・・・犯人はデジモンかテイマー、ということまで分かったんだが・・・」
「ならあの家の鍵はいまどこにある?すぐに手に入るか?」
嶋川が立ち上がった。
「なにを考えている・・?」
有川は愕然として見上げた。
「所長から谷川巧一の人柄を聞いた。所長も言っていたがおそらく・・・“バックアップ”を作っている」
自分を見下ろす嶋川を正面から見据え、有川はソファから立ち上がった。
「それなら我々も探した。しかし・・・見つからなかった。それらしいものは何一つ」
「でもな、とりあえず鍵かしてくれよ。少なくともディスク以上の価値はあると思うんだよ」
嶋川の横顔を見て谷川はなにも言えなかった。
 
 
連れ立って出て行く3組を見送りながら有川はなにも考えられなかった。
少なくない衝撃を受け、有川自身、麻痺してしまったようだ。
おかげで神原がとなりに立っているのに気づくのにすこし時間がかかった。
「おかしいっすね。遠近感ってものがあるのにあいつらが大きく見える」
炭酸飲料を喉に通す神原の背後でメラモンが舌打ちした。
「はっ、ガラにもねーこと言ってんじゃねーよ」
やはり自分にもガラではなかったな、
内心そう呟いた有川は神原に聞こえるくらいの声で呟いた。
「自分よりも歳がはるかに下の子供のあんな姿、どう思うかね」
「別にー・・・、一応俺もその一人なんスけどね。過去形ではありますが」
残りを一気に飲み干し、神原はその缶をぺしゃんこに握りつぶした。
「二ノ宮もそうですが・・・、あいつら全員、きっちりとケリをつけたいんですよ」
神原は太めのボールペン大になった缶をメラモンの体に放り込んだ。
あっという間に熱せられ、溶かされ、吸収されたそれをじっくりと眺めながら神原は続けた。
「・・・そうなるの分かってたから、不十分な時期に事実を聞いたらどうなるか分かっていたから、今まですべてを話さなかった、違いますか?」
有川はなにも答えなかった。
代わりに大きなため息を1つつき、応接室を出て行った。
 
 
街に入る寸前でパートナーと分かれて以来、3人は完全に無言で歩いていた。
これからどうするのかについてはまったく話し合ってなかったが、谷川の足が駅に向かっているのから薄々ながら見当はついていた。
「・・・ねぇ、ついてきて、くれるよね・・・?」
急に振り向き、すがりつくような目で谷川が2人に言った。
「そりゃついていくに決まってるだろ?・・・だけど本当に行くのか?」
やめとけと言わんばかりの顔で嶋川が訊き返す。
辻鷹は2人の間に立って黙ってやりとりを聞いていた。
「だって、今行かないときっと行きたいなんて思わなくなる」
嶋川と辻鷹は互いに顔を見合わせた。
「分かったよ。よし、じゃあ行こうか!」
辻鷹が明るくはない表情の2人の肩を叩いた瞬間だった。
 
ここで話は1話に戻る事になる。
エウロパの使用した爆弾が炸裂した際の振動が3人のいる場所にまで届いた。
 
「うえっ!?」
肩を叩いた瞬間の異変に辻鷹は肩をすくめて他の者と同じように周囲を見回した。
「おい、ぼさっとするな!」
嶋川と谷川はすでに細い煙の方へ向かって駆け出しかけているところだった。
辻鷹も慌ててその後を追う。
小道に入った瞬間、谷川と嶋川は金髪を後ろでまとめた少年とすれ違った。
彼を気にも留めず、2人は煙のほうに走っていく。
それを上から追うデジモン3体に気づき、彼は糸目を少しだけ、見開いた。
「当たり―‐、」
そして自分を見ている辻鷹に振り向く。
何食わぬ顔で脇を通り過ぎようとした金髪を辻鷹の刺すような眼が止めた。
「君、だれ?」
辻鷹の問いに少年は答えない。
「君、デジモンって知ってる?」
「・・・、そうだな・・・・・・。・・・イエス、オフコース・・・!」
威圧的な微笑をうかべ、彼は走り出した。
「っ・・!まて!」
一瞬の遅れがひびき、辻鷹は慌ててあとを追った。
角を勢いよく曲がったとき、彼の目の前に人影が割り込んだ。
「はっ・・・!!」
鋭く、無駄のない一撃が辻鷹の胸に吸い込まれた。
倒れた彼の真上から華奢な体躯の女性が飛び掛る。
「カリスト!その辺にしておけ!」
カリストと呼ばれた少女がバックステップで距離をとったときになり、辻鷹はやっと、彼女を制止したのが金髪の少年であることを認識した。
「手加減してあげただけありがたいと思うんだね!」
ハキハキとした口調は元気なときの谷川に近い。ただ言葉遣いは良く言えば元気、悪く言えば雑だ。
やっとの思いで体を起こしたときには完全に2人を、そして嶋川たちを、さらには煙をも見失っていた。
辻鷹は一瞬思考が停止し、途方にくれ仮死状態に陥った。
しばらくたち、彼が歩き始めた頃、
 
 
谷川と嶋川は煙の根本にたどり着いていた。
そもそも爆弾によるクレーターを見慣れていた2人からすればそれは小さいものだったが、それでも大人がゆうに体を収める事が出来るくらいの大きさだった。
「人間か・・・?デジモンか・・・?」
辺りに気を配りながらアグモンが呟いた。
「さぁ?でもあまり遠くには行ってないと思うけど?」
谷川はビルの上を見上げる。
風がビルの間を縫うように吹き、うなるような音を立てていた。
「じゃ、ひさびさにやってみるかな」
彼女は片手を胸にあて、深呼吸をした。その際、息を吐くのを途中で止める。
一度きつく目を閉じ、再度まぶたが開かれたとき碧色の瞳に変化していた。
とたんに表情が豹変する。
「下がって!逃げて!早く!」
「なっ・・?」
谷川が嶋川たちを押し倒した瞬間、その3メートルほど先の地点が爆発した。
「!ありえねぇ!」
アグモンは目を疑い、唖然とする。
「ジジジジジッ、って音がした。たぶん時限爆弾が炸裂する直前の音・・・、だと思う」
埃をはたいて谷川は再度耳を澄ませた。
「後ろ!!」
谷川が叫んだ瞬間嶋川にガニメデが襲い掛かる。
「ハアァッ!!!」
強烈な踵落しが叩き込まれる刹那、
2人の間にもう一人、新たに人間が戦いに加わった。
林未健助が斜めにかまえた刀で蹴りを受け流し、同時に嶋川を突き放した。
その手が刀に追いつくと同時に峰打ちで斬りあげる。
ガニメデは異様な身軽さでそれをかわし、宙返りで大きな間合いをとった。
額当ての下から睨みつける目が辛うじて見える。
目前の敵を同じく睨みつけながら嶋川が唸るように言った。
「なんだ?あいつは」
アグモンがぽつりと呟く。
「俺達を見てもなんとも思わないらしいな」
一瞬も気を緩めることなく刀を構え続けていた林未もやはりぼそっ、と呟いた。
「あの蹴りは異常だ・・」
その瞬間、ピクリとも動かなかったガニメデが一気に至近距離まで踏み込む。
眼を紅蓮に染めた嶋川が猛烈なスピードで応戦し、攻撃を受け流した。
直後背後に気配を感じ、振り向いた林未の目に意外すぎるものが映った。
エウロパという名の少女が何かを持ち上げ、振り上げるようにして構えている。
大きなコートから突き出した細い腕に握られていたのは・・・
「な・・・!?チェーンマインか・・・?」
そう見えた。
そしてその通りだった。
林未はまず手近にいた谷川を路地に突き飛ばし、ホークモンを押し飛ばした。
アグモンを蹴り飛ばす瞬間、細い腕が振り下ろされた。
 


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