谷川さんの部屋に通されたわたしは驚いた。ルナモンもそうだろう。
無駄に狭い。
ここまでの道筋は広い庭、大きな玄関、長い廊下などとにかく大きかったのだけど・・・。
「ごめん。普通は女性をこういう部屋に通すわけには行かないんですけどね」
「でもなんでこの部屋こんなに狭いの?」
あやまった谷川さんにルナモンが容赦のない質問を投げかけた。
「広い部屋だと落ち着かないんだ」
そう答えて谷川さんはペンモンを抱き上げて自己紹介をした。
「ぼくは谷川巧一。高校2年生です。パートナーは彼」
「ペンモンだよ。よろしくね」
わたしは谷川さんを眺めた。
昨日は正確な所まで分からなかったがわたしよりこぶし2つ分くらい背が低い。
でもこれは言っちゃいけないことだよね。
「泉より背、低いよね」
ルナモンの言葉にわたしは慌て谷川さんの顔が引きつった。
復活した谷川さんを先頭にわたし達は廊下を歩いていく。
谷川さんは振り返って右手につけられた機械に触れて言った。
「この機械はどうやらペンモンやルナモンをピーコックモンやレキスモンに進化させることが出来る。そういう機械だと思うんです。そして多分ポキュパモンも積山の持つ機械の力で進化したものだと」
わたしはあらためて機械を眺めていて、そして谷川さんにぶつかってしまった。
謝ったが谷川さんはさほど気にせずに笑い返すと扉を開け、庭に出た。
そのまま真ん中まで歩いていき胸の高さで機械を押さえた。どうやら進化させようとしているらしい。
「 ペンモン進化 」
突然ペンモンが輝き、光の向こうから声が聞こえた。
金属がぶつかる音が響き、強い風と共に光が吹き飛ばされた。
「ピーコックモン」
谷川さんは右手の機械を2、3度なで、やがてピーコックモンを軽く叩いて言った。
「いまさらなんですけど信じられませんよね」
確かに。
あまりにも“非日常”続きで感覚が変になってるのかもしれない。
ピーコックモンへの進化を別段驚きもしなかったのだから。
わたしは思い切って質問をしてみることにした。
「どういう仕組みなんですか?・・・進化、ってなんですか?」
谷川さんは難しい顔をし、やがて首を横に振った。
「わかりません。さっぱり。ピーコックモンは分かります?」
ピーコックモンは首をひねった。
金属がこすれてその音が響く。
「見当もつかない。しかし進化にはテイマーの意思が必要だとおれたちは知っている」
「つまり物理的なことは分からないけどぼくたちの思いが進化に必要、ということか・・・」
思案顔で顔を見合わせる谷川さんたちをわたしとルナモンが黙って見つめる。
・・・わたしにはすこし分かりにくいんだけど・・・。
林未神楽。彼女は校庭の一角にあるの芝生の上でのんびりと座っていた。
「いい天気だなぁ・・・」
「いい天気ね」
長い髪を解いた神楽のとなりに花のような姿のデジモンが座っていた。
空には雲ひとつ無い。
ふいに神楽が口を開いた。
「ねぇ・・・、フローラモン」
「わかってるって」
次の瞬間フローラモンは予想通りのファスコモンの体当たりを軽くよけ宙返りをして神楽のとなりに着地する。
「・・・・・やるねぇ」
ファスコモンが口元を笑わせてフローラモンを見た。
「いきなりなんて非道くない?」
フローラモンはズタズタに引き裂かれた1枚の花飾りを投げ捨てた。
「悪かったよ」
神楽が初めから睨んでいたところから積山が現れた。
「だれ・・?」
「積山雄介。君と同じ立場の者だよ」
フローラモンが神楽と積山、ファスコモンの間に入り込む。
「同じ立場?・・・剣道部にいましたっけ・・・・」
「・・・・・・・・。まぁ、いい。仲間になる気はあるか?」
神楽はまったく動かない。張り詰めた空気が覆いつくす。
「守る事が出来る立場なんだ。君たちの力を貸して欲しい」
強い風が吹き神楽の髪が踊る。
彼女はフローラモンとそっと顔を見合わせた。
その顔は“慎重に”と言っている。
「詳しい話を聞かせてください」
積山・ファスコモンに続いて神楽・フローラモンが歩いていく。
これが彼女達の人生を永遠に変えてしまった瞬間だった。
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