ある日、わたしは神楽の家に行ってみた。
でも留守だった。
最近学校にも来ない。
神楽の家を後にしたわたしは街をあてもなく歩いていく。
和風の雑貨が並ぶ店を通り過ぎかけたとき、わたしの足が止まった。
・・そういえばこのお店、前一緒に来たっけ・・・
着物の布で作られた猫のぬいぐるみを見ているとなんだか胸が熱くなっていた。
あの娘はこういうのがすきなんだよね。
お店を出るとわたしはまたあてもなく街を歩き回った。
ポーチにはぬいぐるみの入った紙袋が収まっている。
会社員が目立つ噴水のある広場。
結局午前中ずっと歩き続けて足が棒のようになってしまった。
電話ボックスにもたれかかるとわたしは何をするでもなくあたりを見回す。
そのときだった。
「お疲れみたいですね」
不意に声をかけられてわたしは驚いた。
2メートルほど離れた街路樹のしたに占い師が店を開いている。
赤いチェックの上着を着た女の子が微笑んでいた。
「なにかをさがしてますね?」
言い当てられたわたしは無意識にポシェットを腰の後ろに回してくちごもった。
「そ、・・・・それは・・・・」
動揺するわたしの様子を見た和葉ちゃんはカードの束を取り出して言った。
「今日『迷える人』に出会うと出たんです」
「タロット占い?」
和葉ちゃんは頷くとカードを広げて言った。
「はい!こう見えて当たるんですよ♪」
3枚コインを取り出し、指で立て続けに弾く。
気持ちいい音が三つ響いて、カードの上にコインが落ちた。
落ちたコインを一枚ずつ眺めるとその女の子はおもむろに左端のカードを手に取る。
「う〜ん。恋愛運、友情運は今日はダメみたいですね・・・」
多分わたしは落胆した表情を浮かべていたんだと思う。
占い師は小さく笑うと、
「金運はいいみたいですね。さて・・、あたしが持ちかけたわけだし・・・・。占いの料金は払わなくていいです!」
と言ってくれた。
おもわず笑みがこぼれたわたしの向かいで女の子はテーブルとイス、道具を大きな鞄にしまい始めた。
「今日は終わり?」
「ん?・・えぇ。今朝の占いではなにかよくないことが起こるとでましたから」
ふと視線をずらしたわたしはそのとき初めて、ディスプレイの人形に気づいた。
あちらこちらつぎはぎだらけだ。
大きな三角帽を目深に被り、木によりかけてあるそれは本物のようだった。
「イタッ!」
突然後ろで声が聞こえ、わたしと占いの女の子は同時に振り向いた。
ルナモンが人の足元を縫うようにして走りよってきた。
「泉、間違いない。デジモンが近くに2体はいる」
こんなところに2体・・・?
「あの・・! ・・・!?」
みんなに逃げるように伝えてください、わたしは女の子にそう伝える気だった。
しかし女の子、荷物、人形は影も形もない。
そのかわり、辛うじて赤いチェックの背中がビルの隙間に入っていくのが見えた。
後を追って入り組んだパイプをまたいだ瞬間、わたしの首筋にピリッとした刺激が走る。
「イタ・・・、なに・・?」
縦長のスペースの中でルナモンとわたしは上や横を見上げて相手を探す。
「エイッ」
小さな声が聞こえ、同時に立てかけられた鉄板が前に倒れた。
逃げ道のない場所でわたしとルナモンの頭に鉄板が迫る。
もうだめかな?、なんてことを考えかけていたわたしの頭上をかなり身軽ななにかが飛び越えた。
さっき木によりかかってピクリとも動かなかった人形が華麗なフットワークで鉄板を蹴り飛ばす。
着地した人形=フレイウィザーモンの目の前に丸いデジモンが飛んできて指を振った。
「じゃましやがって。ま、ず、は、あんたを倒してやるよ」
直後右足を蹴り上げたフレイウィザーモンはじめ、わたし達は全員そのデジモンを見失った。
「サンダーボールモンか・・・」
舌打ちをして体を引いたフレイウィザーモンは周りを見回した。
その直後、立て続けに攻撃を受け、フレイウィザーモンは痺れを切らしたように叫んだ。
「和葉!相手が速すぎる!」
和葉と呼ばれた人間は以外なところにいた。
占い師をしていた女の子が砕けた窓ガラスの隙間から体をすり抜けさせる。
「えっ!?ちょ・・・!」
「ごめんなさい。うかつに正体ばらすわけにはいかなかったの」
和葉は少し笑って見せると思案顔で呟いた。
「どうしようね・・・。相手が速すぎる上に小さいだなんて、どこから攻撃されるかわからないじゃない」
それを聞いたフレイウィザーモンは返事を返した。
「占ってくれ」
それを聞いた和葉ちゃんは苦笑いをした。
「無茶言わないでよね」
正直、わたしもさすがに無理だよね、とがっかりした。
わたしが肩をすくめて見せたのと同時に突然足音が聞こえた。
「二ノ宮さん!」
和葉ちゃんの知り合いらしいその男性は愛想のよさそうな顔で指をさして言った。
「敵はここにいるんだね!?」
「多分」
フレイウィザーモンの返答に彼は頷き、わたし達にこの場から退くように言った。
「プテラノモン!」
真上を見上げると戦闘機と恐竜を足したみたいなデジモンが空中に浮かんでいた。
「オッケー・・・!戦闘機ノ照準器ナメンナヨ!」
スコープがサンダーボールモンを捉えたのだろう。
ミサイルが撃ちだされ、白い砂が散った。
わたし達は唖然とするばかりだった。
あまりにもあっさりとついてしまった決着に違和感すら覚えた。
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