何度もガラスを叩く音に起こされるなんてまったく予想できなかった。
気味が悪く、カーテンを開けるまでにだいぶかかる。
それでもルナモンが意を決してそれを開いた。
「・・・・え?・・・」
フレイウィザーモンがガラスにもたれかかっていた。
和葉がマントに包まれているのがよく見ると分かる。
わたしたちが急いで2人を引き入れたのは言うまでもない・・・・
テレビニュースは連日“道路の焼失”を報じていた。
介抱が一段落し、一階に水を捨てに降りたついで。
テレビをつけたわたしはしばらく考え込み、ややあって自分のベッドがあるあたりを見上げた。
「まさか・・・・」
谷川さんの携帯にかけるとだいぶかかって相手が電話に出た。
『はい?どうしました?』
「えっとですね・・・・・・・・」
わたしは自分のベッドで静かに寝息を立てる嶋川を見下ろした。
谷川さん実際に現場を見てから家に来ることになっている。
額の汗をぬぐうと嶋川は目を開いた。
「あ・・・・・ !?ここは!?デスメラモン!!」
急に体を起こしてあたりを見回した彼女をなんとか落ち着かせるとフレイウィザーモンをつれてくるようルナモンに言った。
まっすぐ天井を見上げた嶋川はこう呟いた。
「・・・ありがとう。助けてくれたんですね」
彼女はとっさに自分をかばったフレイウィザーモンの後ろ姿を思い出していた。
扉が開き、谷川,ペンモン,ルナモン、そしてフレイウィザーモンが室内に入ってきたのが気配で分かる。
(フレイウィザーモンと別れるのは・・・いやだね)
これまでデジモンと人間は共存するのは理に反している、そう考えていた。
でも今はすこし違う。
「・・・・たまには自分勝手にしたいね」
「え?」
嶋川がなにか呟いたが、辻鷹は聞き逃していた。
和葉は枕の脇に置かれた自分のポーチからカードケースを取り出すと、それを開き、一枚抜き取った。
第17番カード、 星。
希望、憧れ,そして幻滅、悲哀を示すカード。
カードを横に引いたせいで正位置か逆位置か分からない・・・。
希望か、悲哀か。
「泉さん、谷川さん、わたしたちを仲間にしてくれませんか?」
ポキュパモンのナイフがガワッパモンの首を狙う。
金属が空を裂き、ポキュパモンの呼吸がしだいに荒くなる。
「相性っての、わかるかー?」
ガワッパモンが続けざまの斬撃をすべてかわしながら言った。
口調は軽く、明らかに挑発している。
ポキュパモンの渾身のフックが受け止められた。
「熱くなんなヨ。冷静にいかないとやられるぞ」
訓練を終えた積山とファスコモンは黙っていた。
「あいつには勝てない・・か」
疲れたような口調でつぶやいた積山にファスコモンが言った。
「あんまり気にするなよ。・・・たまには肩の力抜いてみろ」
お前はなんでも真剣に考えすぎる。
ファスコモンは最後にそう付け足した。
「よぉ。さっき嶋川から連絡があったぞ」
和西とカメモンが近づいてきて話しかける。
「フレイウィザーモンが進化したらしい。つまり・・・・、ガワッパモンやポキュパモンよりも1つ上の段階にだ。もう1つは・・・」
和西は若干、積山の顔色をうかがい、続けた。
「 ―なんか、例の辻鷹とかいう女と一緒に行動したいらしい。それ自体は別に問題じゃないんだが・・・、ひょっとしたらもう一人仲間がいるのかもしれない」
積山は視線だけを和西に合わせた。
「新しいテイマー、ということか」
「可能性は、大じゃない?」
ファスコモンが口を挟む。
「そういうことだ。 ―!」
合意したカメモンの表情が変わる。
「デジモンだな」
ファスコモンが積山の肩によじ登った。
「なんで分かるんだよ」
「勘だ。だけどな、デジモンってのは大体同じような感覚がして分かる」
そう説明するファスコモンの瞳がすこしづつ危険に輝いていった。
「おい、今日はやめとこうぜ」
ファスコモンをかるく叩くと積山は踵を返した。
対照的にカメモンを追って出て行った和西を見もせずに、積山は考えていた。
強くなりたいところだ。
建物を出ると門の前に車が待っていた。
「兄貴、和西がいま血相変えて出て行ったんですが・・・」
土井藤が車から出てきてそう言った。
土井藤は年上だが・・、弟分、と表現できる関係にあった。
車に乗り込むと積山はサイドミラーの中にいる自分を見つめた。
「なぁ、どうやったら強くなれると思う?」
「はぁ、前師匠がおっしゃってましたが・・・、“訓練してもそれには限界がある。場数が大事だ”でした」
「場数か・・・」
一瞬和西の後を追おうか、と考えたが遅すぎだ。
すでに大学から声がかかるほどの脚を持っている奴のことだ。
追いつくのは無理だろう。
「今日はもう帰るか」
「ははぁ、さいで」
車が発進した。
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