夜風が髪を撫でる。
わたしは自転車を全力で漕いでいた。
「そこ右!」
ルナモンが誘導するのはデジモンが暴れている場所だ。
「こっち!こっちですー!」
和葉とフレイウィザーモンが手を振って背後の空き地を指で示す。
「おそらくはドリモゲモンだ。夜行性だから昼間、地面がむき出しのここで寝ていたんだろう」
「谷川さんは?」
「谷川さんはピーコックモンと上です。ヒットアンドアウェイがどうとか言ってました」
和葉はそう伝え上を見上げた。
その間、わたしはデジヴァイスを押さえ、ルナモンをレキスモンに進化させた。
進化するときの光が誰かの目に止まらないか、ドリモゲモンを呼び起こすきっかけになりはしないか。
しょうがないんだけどさ。
「近いね・・・。これは」
レキスモンは顎を引き、目を細めた。
全神経を集中させて相手がどうでるかを見極めるつもりだろう。
不意にそのレキスモンが顔をあげた。
おそらくは同じことを感じたピーコックモンが見当をつけたポイントに急降下してくるのが見えた。
その時、
突如地面が裂け、黒いデジモンが飛び出してきた。
「ドリモゲモンじゃないな・・!?あいつは・・・!」
フレイウィザーモンの言葉は彼が飛び掛ったせいで最後のほうがうまく聞き取れなかった。
飛び出したデジモンは黒い翼を広げて急停止したピーコックモンに襲い掛かろうとしていた。
しかしスピードで上回ったレキスモンがその頭を蹴り、地面に叩きつける。
ゆっくりとした動きで姿を現したのは・・・
「デクスドルガモンだ!」
ピーコックモンに正体を告げ、フレイウィザーモンの杖から吹き出た炎がデクスドルガモンを包み込む。
高熱の炎をものともせずにデクスドルガモンが一歩、二歩とフレイウィザーモンににじり寄った。
「ばっ!ばかな・・・!」
目の前の光景に目を見開いたフレイウィザーモンの背後から、もう一体のデジモンが迫り、飛び越えた。
「[マッドネスブローチ]」
ポキュパモンのナイフが炎を割り、デクスドルガモンの頭を砕いた。
大きく開かれた口からはなんの音もでず、デクスドルガモンが消滅する。
レキスモンはその砂の上に着地を決めるとポキュパモンを見上げた。
「あんた、積山のパートナーだったね。何しに来たのさ」
ポキュパモンは比較的落ち着いた呼吸で黙っていたが、やがて
「ミテイラレナクテナ」
と答えた。
「なんにせよお前のおかげで助かった」
フレイウィザーモンが礼を言ったがポキュパモンは見えない目で見つめ返した。
「あれくらいの状況、お前達ならどうとでもできた、違うか?」
積山がやって来て言った。
「どういう意味です?」
谷川が不審な目を向けた。
「そのままの意味だ。完全体に進化できるんだろ。フレイウィザーモン」
「和葉の手をわずらわせるつもりはない」
積山の言葉にフレイウィザーモンは真正面から返事を返した。
「はいはい、それくらいにしときなよ」
嶋川が両手を叩いて皆を黙らせ、積山とポキュパモンを見上げた。
「何でもいいや。助けてくれてありがと」
積山はずっと黙っていたが、やがて退化したファスコモンを伴って道路に出た。
「またやられそうになったら助けてやる」
神楽とは正反対な態度がわたしにとっては可笑しかった。
「そうね。その時はまたお願いします」
自然に笑顔になれた。
積山はそのままやって来た車に乗り込み、去っていった。
残された私達のうち、谷川さんとピーコックモンが地面を慣らしたのは・・・、別に言う必要はなかったか・・・。
パタモンが進化したダルクモンの剣が閃き、デクスドルガモンの体をビルの壁に縫い付けた。
剣を抜き、残り2体のうち一体を体を回転させ、その勢いを利用し横薙ぎに斬りつける。
ダルクモンのいるフロアの上に位置する歩道の手すりにもたれかかり、意藤はずっとその様子を見ていた。
長い黒髪を払うと一度背後をうかがい、視線を戻す。
黒畑がとなりに立った。下では現れたゴーレモンが残った一体を叩き潰す。
黒畑はコートの懐から折りたたまれた紙を差し出した。
行方不明の広告を一通り眺め、意藤はそれをつき返した。
「まちがいないわね。他には知らせたの?」
「いや、まだだ。ゴツモンがデジモンの気配を感じてな。来てみたらダルクモンとお前がいた、というわけだ」
「そう、」
意藤は再度視線を下に戻す。
ちょうど剣を鞘に戻したダルクモンが目だけで見上げてきた。
「帰るよ」
パートナーに聞こえるくらいの声でそう宣言し、彼女は5メートルほど歩いて振り向いた。
「あなたにも忠告しといてあげるわ。」
「なんだ?」
意藤はダルクモンと階段を下りながら言った。
「死にたくなかったらさっさと下りた方がいいわよ」
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