二ノ宮は・・・・もう2日、寝ていない。
「えっと、エリア34地区、ドームに動きはありません。サーモグラフィも問題ありません」
ワスプモンに取り付けられたアンテナを中継して二ノ宮の報告が本部へ飛ぶ。
「二ノ宮さん、ノルマ達成です。任務完了を上官に報告します」
そう耳に届いた瞬間。
二ノ宮は自分の部屋のベットから飛び起きた。
「え?、え?」
たっぷり5分かかって自分の状況を把握した二ノ宮は時計を見て愕然とした。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
任務完了は嶋川くんの復活した日の次の日、午前7時。
現在時刻。午前9時。
「えっと・・・・」
まる一日+2時間。さすが。寝ると頭もよく働く。
しかしその瞬間彼女はベットから降りる羽目になる。
「゛各員へ、各地のドームが開き、内部から数体のアンノウンが出現したもよう。ただちに迎撃せよ″」
二ノ宮は何度か首を振ると頭から布団を被った。聞かなかった事にしよう。
2秒後・・・。
「できるわけないじゃない!」
寝間着を脱ぎ捨てるとジャケットに体を包む。
ブーツを履いて部屋を飛び出した瞬間所長が立っていた。
「これ持って行きなさい」
彼が手渡したのは紅く塗られたプログラム・プレートだった。2枚ある。
「なにこれ」
「新しい進化プログラムだ。データの圧縮に時間がかかった。まだ上層部には報告して無いが・・・・、持って行け。必ず役に立つ」
二ノ宮は絶交を続けている父親を見つめた。
「上層部に見せないといけないんじゃないの?」
所長は事も無げに娘がよく真似していた口癖を口にした。
「そんな法律はない」
二ノ宮は顔を背けると、行って来る、と言い残して走り去っていった。
途中でファンビーモンと合流した二ノ宮はまっすぐ自分の部隊の集合場所、中庭兼グランドに向かった。
すでにデジモンを進化させた30名ほどの部隊は整列して彼女の命令を待っていた。
二ノ宮は袖で目をぬぐうと一枚のプレートをD-ギャザーに読み込ませた。
まるで成長を早送りで見ているようだった。
ファンビーモンが輝き、膨張し、ワスプモンの形になり、さらに巨大化を続け、光の中から装甲板がせり上がる。
「 キャノンビーモン 」
ついに完全にまで到達したキャノンビーモンを前に何人かがざわめいた。
「いまから行きます。・・・よろしくお願いします」
二ノ宮は頭を下げた。隊員は全員自分より年上だ。
顔を上げると二ノ宮はキャノンビーモンに乗り、しっかりとつかまった。
「第2部隊、出動します」
合図と共にワスプモンの群れが空に飛び立った。
「やれやれ・・・・」
所長は首をさすりながら黒い空に吸い込まれていく部隊を見上げた。
向かいの扉から出てきた式川も見上げる。
「あの娘も成長、いや、進化したな。・・・空が暗い。降らなければいいが・・・・」
彼はそう呟くと廊下の角に姿を消した。
すでにドームの1つからは2メートルはある巨大な機械が蠢いていた。
それは例の公園に出現したものと同じだ。
辻鷹はコートを羽織るとビルの屋上、ガルルモンの上からリヴォルバタイプで狙った。
「・・・・無理かな」
逃げ惑う人に流れ弾、いや、流れ氷が当たるのは・・・・・、ダメだろう。
「オレが直接戦う。それじゃ不満か?」
ガルルモンが背中のブースターをガチャガチャ音をさせて提案した。
「やっぱりそうしようかなぁ」
銃をウエストバックに戻すとガルルモンから降りた。
意外そうな顔をしたガルルモンのわき腹を突くと辻鷹は上空を指差した。
「あれ、なんだろう・・・」
一筋の銀色の雲が流れていた。
よく見るとそれは無数の羽虫の様な機械で構成されていた。
ガルルモンも思わず呟いた。
「なんだあれは・・・・・!」
金属を蹴る音が何度も響き、非常階段から嶋川と谷川が飛び出した。
嶋川を見た辻鷹は反射的に口を開いた。
「あ!、本当に生きてるんだね。久しぶり」
2人は微笑むと、すぐに表情を切り替えた。
「仁、あれ、撃ち落せるか?」
嶋川が空の機械虫を示して言った。
「当てる自信はあるけど、ね。全部落とせずに仕返しされたらやだなぁ」
辻鷹は肩をすくめて見せた。
何度か頷き、納得した様子の谷川は言った。
「今、グレイモンとアクィラモンが下で様子を見てる。いつでも攻撃できるよ」
嶋川も頷いた。
「そうだ。積山も和西も二ノ宮も、あとあの変な関西弁野朗も林未もあてにならねぇからな。俺たちが戦うしかねぇだろ」
三人が強く頷いたときだった。
「誰が関西弁野朗や」
非常階段から柳田が顔を覗かせた。
「悪かったって」
嶋川は少しも悪びれずに答えた。
谷川が割って入った。
「まぁいいじゃない。私たちであいつらを全部壊そうよっ!」
柳田は手を叩いた。
「っしゃ!ブレイドクワガーモンがグレイモンと合流してる!全員で総攻撃や!」
辻鷹は頷くとガルルモンに下で待機するように言った。
そしてそのまま手すりから下の一体を狙い、撃った。
早くも凍り漬けになった一体をアクィラモンが頭部のツノで粉砕した。
「よーしっ!!」
谷川もすでにロッドの上がったボウガンを乱射、柳田は電撃の矢を立て続けに撃ちこみ、嶋川は剣を振って炎の塊を大量に降らせた。
柳田以外の3人が初めて見るデジモンが横切り、
「あれ!あれがブレイドクワガーモンや!」
柳田が指をさして言った。
コクワモンの進化したデジモン、ブレイ度クワガーモンは先端についた刃で立て続けに2機を葬り去る。
「やるじねーか!」
グレイモンはそう声をかけ、同時に背後にいた機械を尾で叩き潰した。
その真上、ビルの屋上で辻鷹の携帯電話が鳴る。
体を一通り探った末、足元に置かれていたそれを拾い上げると電話の相手は知らない人だった。
「チーム十闘神の方ですね?組織のオペレーターです。あなた方の防衛ラインを含む半径400メートルの避難が完了しました。引き続き防衛を続けてください。すぐに最高航空攻撃部隊が援護に参ります」
会話を終えると辻鷹は横に並ぶ全員に避難の完了、援軍が向かっているということを伝えた。
「最高航空攻撃部隊?なんやその舌噛みそうな部隊」
柳田が実際に一度舌を噛みながら言った。
谷川がクスクスと笑い、右のビルを指差した。
「さすがに仁の眼じゃ分かんないよね。ビルの向こうにいるよっ!」
彼女がそう言った時だった。
ビルの影から無数のワスプモンの群れが現れた。
「攻撃開始!」
二ノ宮の声と同時にキャノンビーモンの腹部、レールガンが火を噴き、ワスプモンの両腕で閃光が煌いた。
つぎつぎと打ち抜かれ消滅する機械は無言だった。
そして・・・・、
「任務完了・・・!」
稼働音を響かせホバリングする組織・最高航空攻撃部隊の目前には一機のアンノウンも残っていなかった。
「いいところだね」
積山は両手をジャケットのポケットに入れて辺りを見回した。
かつてデビモンたちと戦った原子力発電所。
その最上階の司令塔に積山はいた。
「組織の関係者、ってだけでこんな所にまで入れるなんてな」
ギルは2、3度首を振って目を細めた。
すこし小さく見える街で何度か光が点滅した。
「戦ってるね。・・・・嶋川も」
ギルは即座に理解した。
戦おうともせず、逃げようともせず、指示しようともしなかった。
そして嶋川浩司。
ギルはついに口を開いた。
「お前・・・!何をする気だ・・・!?」
積山は微笑んだ。
「何って?ギル。君は賢い。僕よりも。・・・・・ごめんね――」
彼がそう言った瞬間だった。ポケットから出された積山の手に握られていた粉がギルの視力と集中力を乱し、そのすきを突いた積山の蹴り込みがギルの腹部にめりこんだ。
「・・・・ごめん。でも・・・、もう後戻りできない・・・」
迷いと涙を振り払うと積山は司令塔展望台から出て行った。

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