彼女は腰まである長い髪を後ろで１本に束ねていた。

嶋川とアグモンを見下ろす顔は整っており、少し子供っぽい表情を浮かべている。

そして、左手に盾のようなものを持っていた。

隣には赤い羽の鳥のようなデジモンが立っていたが、アグモンには目もくれず、テイマーを何事かたしなめているようだった。

それをやんわりと流し、彼女はパートナーの足につかまって嶋川とアグモンのとなりに降り立った。

「あ〜ぁ、服びしょびしょだ・・」

まったく気にしてなさそうな声色で言った。

それを聞いたとたん、嶋川はがっくりと肩をおとした。

「・・・・・どういうつもりだ・・・・」

「？」

「なんで俺達を攻撃した・・・？」

「・・・びっくりするかな、って思って・・・」

予想外の答えに嶋川の目が見開かれた。

嶋川は自分と比較にならないほど小柄な体の胸倉をつかみ壁にたたきつけた。

「・・・ふざけるな・・・！少しぐらい空気読めよ・・・！」

目をつぶり震える体から手を離した。

座り込んで泣き出した少女を見下ろし、嶋川の表情が変わった。

「・・あたしこそごめん・・・。あんなこと、冗談にならないって・・ちょっと考えれば分かったことなのにね」

作り笑いで顔を上げると少女は名乗った。

「あたしは」

言いかけて一度、言葉をつまらせた。

「あたしは谷川、谷川計。パートナーはホークモン。銘は・・『風の修験者』・・・」

 

 

 

その頃和西はうつぶせに倒れていた。

上着はところどころ破れ、コンクリートの地面には血溜まりがよく目立つ。

そのすぐ横でネオデビモンがボロ布のようになったゴマモンを無造作に放り捨てた。

和西の目には右手・降流杖・まったく動かないゴマモンの順に見えていた。

続けてごろりと仰向けになると管理塔の上にネオデビモンが上がるのがうっすらと見える。

 

 

 

「・・　　　　　　　　　　　　　　　　死　　　ぬ　　　の　　　か　　　？　　　　　　　　　　　　・・」

 

 

 

頭の中で声が響いた。

ハードルを次々パスし、ゴールへ向かう人。

和西、ゴマモンはゆっくりと体を起こした。

「・・・・ゴマモン・・・・」

「・・・・なんだい？・・」

「あそこまで一気にいけたら何とかなるかな・・・・」

「なにそれ・・・無理だろ・・」

弱々しく笑うと和西が聞いた。

「どっちが？」

 

ゴマモンは即答した。

「あそこまで一気に行くことに決まってるだろ」

 

和西とゴマモンは立ち上がった。　

「じゃあ何とかしようか・・・。どっちにせよ・・・・・・」

和西とゴマモンは同時に言った。

 

 

和西の紋様に青い光が走り、輝いた。

１歩踏み出した彼の体は前よりもむしろ上に進む。

ふらりと浮いた身体が着地したとき、和西はつぶやいた。

「・・・！まさか・・・・」

ゴマモンと顔を合わせ、お互いに頷いて見せた。

和西は右手に降流杖、左手にゴマモンをつかむ。

ネオデビモンを見上げた。

大きく長く声を張り上げ和西は強く地面を蹴った。

声を上げ続けながら和西は１５メートルほどの管理塔を飛んだ。

ネオデビモンが応戦する。

反応が遅れた。

 

遅い。

 

 

和西の降流杖がネオデビモンの顔面に触れる。

鋭利な刃はそのまま反対側に抜けた。

それと同時にゴマモンがすれ違いざまに左胸を切り裂く。

２人は勢いあまり、狭い屋上の端まで吹き飛んだ。

同時に和西は自分の手から武器を放していたことに気づいた。

慌てて周囲を見回し、見つけた降流杖はネオデビモンの背に刺さっていた。

ネオデビモンはおぼつかない足取りで振り向き、

「・・・ひ・・・ベッ！！・・・ボ・・・たドッ・・・む・・・ガッっつつ」

なにか吐き出すように言うと青い光りのヒビが胸の１点から始まった。

「あ・・・・リッ・・・がと・・・・う・・・」

ネオデビモンは爆発して砂になる瞬間そう言ったが爆音で和西とゴマモンに聞こえることはなかった。

 

爆風に弾かれ、回転しながら墜落した降流杖は大きな音を立てて屋上を形成する鉄板にささった。

そのかなり向こうで落ちる寸前の位置に投げ出されたままの状態で２人が転がったままでいる。

和西とゴマモンは投げ出されたときのままの体勢でそこからの景色を眺めていた。

雨雲のはるか向こうに光が差しているのがうっすらとぼやけた視界の向こうに見える。

「・・・いい眺めだね・・・・」

「・・・同感・・・」

和西は小さく笑うとゴマモンと右手を当て合った。

「勝った」

「ああ、勝ったな」

そのまま２人は雨に打たれながら気絶した。

２人から流れた血がほんの少しだけ広がり、屋上に新しい模様を作る。