嶋川とアグモン、谷川とホークモンは雨の中を倉庫に近づいていった。
少し前まで谷川がしゃくりあげる音が聞こえていたが今は布を引くような雨の音だけだ。
「・・・いた・・」
トラックの陰から辺りの様子を覗っていたアグモンは偵察から帰り、倉庫に入っていくネオデビモンがいたことを嶋川に伝える。
彼はうなずくとそっと振り返った。
視線を落として後をついてきた谷川とホークモンが顔をあげ、嶋川を見つめていた。
彼は自分の着ていた皮のジャンパーを脱ぎ、何度か振って水滴を落とすと谷川の頭から被せた。
頭2つ分下の目を覗き込んで嶋川は言った。
「ここで待っててくれ・・・。必ず帰るから。危なくなったり怖くなったら逃げていいから・・。このジャンパーもやるから・・・。な?」
すると谷川は2回首を振った。
「あたしは待たないし逃げたりもしない」
嶋川を再びしっかりと見上げた。
「・・・わかった」
4人は倉庫に入った。
辺りを見回すが姿も気配もない。
用心深くダンボールや機材の散乱する倉庫をパートナーデジモンを先頭に進んでいった。
唐突に谷川、嶋川が同時に気づいた。
谷川はかすかな物音、嶋川は谷川の背中に走る白く太い線。
2人の紋様が同時に輝いた。
谷川は凄まじい騒音に囚われ、バランスを失ってすぐ横に置かれたコンテナにすがってなんとか耐え切ろうと意識を振り戻す。
そしてその音に羽音とそれがやむのと同時に起きた風を切る音を聴いた。
嶋川の目に映る世界が急にゆっくりと進んだ。
全てがコマ送りのように進み、白い線は白い先のとがった棒になった。
これは・・・・、矢・・!?
嶋川はその後を一瞬で想像し、必死で手を動かした。
予想に反して嶋川の体はいつもどおりすぐ動き、やすやすとそれをつかまえた。
嶋川の手から取り落とされた矢が甲高い金属音を立てて落ちた。
嶋川と耳を押さえて座り込んだ谷川以外。
つまりアグモンとホークモンが驚いて目を向けた。
いや、驚いたのは矢を放った本人もかもしれない。
外の光を背景にネオデビモンが肩を落とした独特の立ち方で立っていた。
アグモンが火炎弾を吐き出そうとするとネオデビモンは羽を広げ、飛翔した。
胸から先ほどの白い矢を何本も撃ち出した。
その延長線上に谷川が座り込んでおり、嶋川が抱きかかえるようにしてその射線からそらした。
ネオデビモンは再び入り口の前に着地し、矢を撃ち出す。
嶋川は立ち上がると凄まじい動きでそれを捉え、地面に落とした。
数歩進む。
ネオデビモンは連射した。
そのたびに嶋川もそれを止めた。
矢を蹴落とし、叩き、弾く。
ネオデビモンのすぐ目の前に立った嶋川は、至近距離で放たれた矢を抜刀した炎撃刃で焼き切った。
炎が激しく灯る。
「なぁお前・・・」
嶋川はにらみつけた。
「オレはオレの仲間を傷つけようとする奴は絶対にゆるさない。あいつを何度を攻撃したような・・」
嶋川はネオデビモンを蹴り飛ばした。
「よーするに・・・」
嶋川は炎撃刃を構えた。
「お前みたいのはな!!」
そしてネオデビモンの顔面に突き刺しながら叫んだ。
「やんのか!!!!!オラァ!!!!!」
ネオデビモンは黒煙をあげて燃え上がり、白い砂になった。
嶋川は炎撃刃を鞘に戻すとアグモン、谷川、ホークモンに歩み寄った。
「お前ら大丈夫か?」
全員が頷いた。
谷川はヒザをついた嶋川に抱きついて泣き出した。
「・・さっきはごめんなさい・・・怖かった・・・」
嶋川は驚いて尻餅をついた。
谷川は微笑んで、
「・・・ありがとう・・」
そう言った。
嶋川は即座に背を向けた。
自然と目が合ったアグモンが
「・・・どうした?」
と訊いた。
嶋川は外に出た。
くしゃみを連発した谷川から逃げるように倉庫の外にアグモンを引っ張って出た。
しばらくして服を乾かした谷川がホークモンを連れてやってきた。
嶋川は革ジャンを被せると突然空気を震わせて届いた爆音に顔を上げた。
工場内で一番背の高い細長い建物の屋上で小さな煙が上がった。
「俺の仲間・・・か。行くぞ」
嶋川はやみ始めた雨の中を走り出した。
アグモン、谷川、ホークモンが続いた。
ネオデビモン戦。第1戦勝者『水の大賢人』第2戦勝者『炎の討伐者』『風の修験者』
積山とギルは山のように詰まれたドラム缶の裏にいた。
「さて、どうしようか」
積山は腕組みをして考え始めた。
敵は2体。
1体はネオデビモン、もう1体はこの前グルグル巻きになっていた天使。
ネオデビモンの態度からして天使はギルより少なくとも2つランクが上だろう。
ネオデビモンはデビモンより1つ上ぐらいか・・・。
ギルが言った。
「慎・・。俺達・・・忘れられてたのかもな」
積山はそれを無視して言った。
「とりあえず逃げよう。和西くんか嶋川くんに合流しよう。このままでは分が悪い」
辺りを窺っていた積山とギルに影がさした。
見上げたギルと積山の前で天使が腰の剣を抜いた。
凄まじい音がして嶋川たちは振り向いた。
倉庫の隙間から崩れるドラム缶と隙間から逃げる積山・ギルが一瞬見え、その上空をネオデビモンの影が追う。
「なにやってるんだあいつらは!」
アグモンが言うが早いか走り出す。
「[スピッドファイア]!」
爆音と共に炎の塊が3発放物線を描いてネオデビモンをかすめた。
ネオデビモンは自分に迫り来る火炎弾をすべてよけるとアグモンに向けて急降下した。
ように見えた。
つまり急降下の途中で消えていた。
「なっ!?出て来い!」
叫んだアグモンが背を向けていた倉庫の壁がぶち抜かれネオデビモンはアグモンを前に吹き飛ばした。
そのままネオデビモンは急上昇した。
また見失った。
と同時に凄まじい音がして白い矢が数本降り注いだ。
「やべっ!!」
嶋川は谷川とホークモンの首根をつかむと屋根の下に引きずりこんだ。
「こちらから見えないほど高い所から飛び道具で攻撃・・・ですかね」
いつの間にか腕組みをして横に立っていた積山を見て嶋川たちは飛び上がるほど驚いた。
「お前いつの間に・・・」
「ついさっきです。それよりどうします?あれに太刀打ちできそうなのは辻鷹くんぐらいですけどね」
ところで、と続け積山は谷川を見て言った。
「あなたは誰ですか?」
嶋川は答えた。
「盾を持ち鳥をつれたテイマーってやつだ。・・・和西の言うとおりのな」
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