これはある日曜日の話。
灼熱の日曜日の午後。コンクリートに覆われた窓の一切ない建物で銃声が響く。
的が現れた。その瞬間プラスチックの弾丸がそれを射抜く。
「たいした腕前だ。誰かに習ったんですか?」
ジャケット姿の20歳くらいの男が辻鷹に訪ねた。
辻鷹は、
「習ってませんよ。まぐれじゃないですか?」
そう答えながら次弾を装填し、撃った。
入れ替わったばかりの的は中心を打ち抜かれる。
対策組織の訓練所を出ると辻鷹とガブモンは直射日光の中を100メートルほど歩く必要があった。
「暑い・・・・」
「そういうことは言うなよ」
「暑い暑い暑い」
「・・・・・・・・・・・」
「寒い寒い・・・・」
「・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・」
「・・・・・暑い」
ガブモンはため息をつくと、
「そんなで“夏”とかいうのは乗り切れるのか?」
と言った。
「・・・・・・・・・・・・」
「なぁ」
「いいよ、部屋から出ない」
「そういうわけには行かないぞ?」
「あっ・・・そうか。・・・・じゃあ狙撃するから」
黙り込んだガブモンを見ると辻鷹は、
「冗談だよ」
「仁がそう言うと冗談に聞こえないよ」
「ホントに冗談だってのに。一応『氷の・・・・」
それっきり辻鷹は黙りこんだ。
「どうした・・・?」
「氷、アイスでも食べよう」
「・・・・・・・・・・・・」
食堂にたどり着いた辻鷹はまっすぐ自動販売機に向かった。
「・・・・・・150円・・・」
「高いな・・・」
辻鷹の右手が右腰のオートタイプの銃に伸びるのを見たガブモンはあわてた。
「何するつもりだ?」
「いや・・、氷を出そうと思ったんだけど、やめたほうがいい、よね。やっぱり」
「自販機壊すんじゃないのか」
「・・・・・・・・」
「わかったよ。で?どうする?」
「・・・財布忘れた」
「・・・・・・・・・・・・・」
「はぁ、暑いなぁ」
「そういうことはなるべく言わないように」
積山とギルは薄汚れた地下道に入っていった。
「はぁ、くさいなぁ」
「そういうことはなるべく言わないように」
デビモンを尾行していた。
嶋川、和西に連絡もした。そのうちここに来てくれるだろう。
蛍光灯のほとんどが壊れた地下道は10メートル先も怪しい。
その暗闇に白いものが見えた。
積山、ギルもさすがに凍りつく。
ほとんど足音を立てずにウィルドエンジェモンが姿を現した。
すかさずギルが火炎弾を打ち出す。が、ウィルドエンジェモンは腰の剣を抜くと同時にそれを打ち消し、間合いを詰めた。
あまり広くない地下道は槍や剣を振り回すのには向いてない。小柄で素早い敵のほうが有利だ。
積山はそこまで考えるのに2秒もかからなかった。
飛ぶように後ろに下がった積山の前髪が2,3本宙を舞う。
それを見届けると同時に視界を仮面を付けた天使が塞ぐ。
「やば」
思わずつぶやいた積山はがら空きのわき腹に膝蹴りを打ち込んだ。
すべるように飛んで間合いをとったウィルドエンジェモンの後ろからギルが太い尾を叩き込んだ。
地面への激突を避けた相手の首に狙いをつけたギルが言った。
「オレのテイマー甘く見たな?」
その瞬間ギルが吹き飛んだ。
天井に当たり、地面に落ちる。
両手両足と首についたリングが輝いていた。
「確かに甘く見ていたようですね。今のうちに倒しておきましょう」
「やってみろ」
ウィルドエンジェモンの後ろから炎撃刃が打ち下ろされる。
半身になってよけたウィルドエンジェモンは嶋川の頭上を越えて離れた位置に立った。
アグモンが直後に打ち込んだ火炎弾2発を打ち消すとすっと剣を構える。
嶋川は積山に振り返ると、
「大丈夫そうだな。とりあえず外に出ようぜ」
嶋川は鞘に戻した炎撃刃を指差す。
「火っていうのは酸素で燃えるんだ。知ってるだろ?」
言うが早いか走り出した。
「しかし案外めんどくさい剣だな、これは」
嶋川は炎撃刃の柄をたたきながら言った。
たしかに酸素を消費する剣は狭い密室ではむいてない。
あまり走らずに入り口にたどり着いた。
外に出たところで積山たちは追いつかれた。
「・・・・・・さ、て、と、・・・・・」
反転して嶋川は炎撃刃を鞘から抜いた。
「となりの路地が商店街ですからね・・・」
積山も断罪の槍を構え、嶋川の脇を固める。
「ここで決着をつければいい」
アグモンはそう言うのと同時にウィルドエンジェモンに向け[ベビーバーナー]を放った。
あっさりとよけられたアグモンの攻撃は地下道の入り口天井部分に直撃し、入り口を完全に破壊した。
「ありゃ・・・・、うわっ!」
崩れ落ちた入り口を見たアグモンはため息をついたが、自分にめがけて飛んできたウィルドエンジェモンをとっさにしゃがんでよけた。
「まずい」
積山は頭上から逃げた相手を追った。
嶋川、アグモンも示し合わせそれに続こうとした。
しかし背後でものすごい音がして振り返るとネオデビモンがコンクリートの道路を突き破って現れる。
そしてそのまま嶋川とアグモンに襲い掛かってきた。
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