雨が降り出した。
シュリモンに飛び掛ったムシャモンの刀は何も無い空間を横切る。
背後に回っていたシュリモンは手裏剣でムシャモンの右手を切り落とした。
地面に落ちる直前に消滅したはずの右手でシュリモンが殴り飛ばされる。
「再生?バカな・・・」
林未は顔を曇らせ刀を鞘に戻した。
体勢を整えたシュリモンはムシャモンの刀を手裏剣ではさんで受け止めた。そのままひねる。
バキンッ、と金属質な音が響き刀が折れた。以前の半分ほどの長さのそれを投げ捨てるとムシャモンは腰から巨大な刀を抜いた。
「死ねェ!」
再び気合とともに金属がぶつかり合う音が響く。
林未は振り向いて驚いた。放心状態で座り込んでいたのは昨日の葬式で泣いていた娘だった。
「健助殿!」
シュリモンの声がして林未は再び振り向き驚いた。シュリモンが弾き飛ばした巨大な刀が空を斬りこちらに飛んでくる。
「!」
林未はとっさに後ろにいた人間を突き飛ばした。
「[草薙]ィ!!」
隙をみたシュリモンが飛ばした手裏剣は刀を追っていたムシャモンを真っ二つにしアスファルトの道路に深々と突き刺さった。
「おのれェエェェェ・・・・!!!!」
ムシャモンは叫びながら消滅していった。
データのチリが雨に反射する。砂は見るうちに溶け始めた。
手裏剣が消滅しコテモンが林未の隣に立った。
林未はひざをついたままだった。口を手で覆い後ずさる少女は走っていってしまった。
「は―・・・・・・・・・」
林未がそのまま両手を地面につけたとたんあたりが真っ暗になった。
「は?」
驚いたコテモンはあたりを見回した。
どうやら演出の類ではないらしい。ビル街が真っ暗に染まっていた。
周りの家から驚いた様子の声も聞こえる。
「停電・・・?」
林未は立ち上がり部分的に明かりのついたビルを眺めて呟いた。
和西は携帯電話を握っていた。
停電に陥った暗い室内を落雷が一瞬照らす。
「・・・どうする?」
ゴマモンが机の上から聞いた。携帯電話から、
『繰り返します。・・・原子力発電所が占拠・・・・第・・・・隊。内部との連絡はとれない』
事務的な口調で繰り返されてる。
小さな液晶画面に真っ暗な世界が映し出されていた。
積山とギルは額を寄せ合ってそれを見ていた。テレビ内部のアナウンスは、何者かに発電所がジャックされた、といい続けている。
「お兄ちゃん・・・ギル・・・・」
彩華がギルのしっぽにしがみついていた。
「・・・ちょっと出かけてくる」
「やだ」
「・・・・・ギル、行こう」
「やだ!」
黒いジャンパーを羽織った積山は泣きべそをかきはじめた妹に向き直った。
「二ノ宮、っていうお姉ちゃん知ってるだろう?その人が来て欲しいって言ってるんだ。だから行かなきゃ」
「・・・・やだ」
積山はギルに目配せした。
しかしギルはわけが分からない、という顔をしてそのまま立っている。積山はため息をついて、先に行って、と耳うちした。しがみついている妹を引き剥がすと、
「本当は一緒にここにいてあげるべきだと思う。彩華を一人にして出かけるのはよくないって分かってるよ」
積山はそう言って彩華の頭をなでた。
それでもしがみついているので積山はとうとうそのまま背負って部屋を出た。
階段付近をうろうろしていたギルは顔をしかめた。
「連れて行く気かよ」
「一人にしとくわけにはいかないだろう?」
しゃべりながら玄関でコートを着せフードを被せた彩華の手を引いて外に出ると黒塗りのトラックが一台止まっていた。
原子力発電所はかなりの規模がある。しかし一番の注目点はやはり事故を起こした時の危険性だった。
しかしそれは人的な危険性よりも復旧の困難さや責任問題における危険性の高さだ。平たく言えば面倒を起こしたくないという警視庁初めとする諸組織が組織の行動を制限している、ということだ。
「それでこんなところで作戦会議・・・・ですか?」
二ノ宮はケータイでのため息まじりな会話を終えると振り向いた。
狭いトラックの荷台は限界以上の人数が詰め込まれていた。
「さて・・・、と」
作戦説明の書類をコートのポケットにねじ込むと二ノ宮は代わりに斬鉄の手斧と呼ばれる専用の武器を出した。
「場所が場所だけに爆破による殲滅はできないって」
これが少数精鋭で挑む理由。・・・だそうだ。
林未は細身の刀をベルトに直接さした。
頭に巻いていたバンドをはずし、ヘルメットをかぶったる。はずしたバンドを刀に巻きつけて止めた。
和西がとなりで使用して意味があるのか怪しい防弾ジャケットを着ながらその様子を眺めていたからだ。
「・・・なに?」
じろじろ見られているのに気づいた林未は和西の顔を覗き込んだ。
「いや、その・・ごめん」
和西はあわててジャケットの前を止めると降流杖を持ってトラックから降りた。林未も後に続く。
開かれた門から20名ほどのテイマーとそのパートナー、計40の影が入っていく。
作戦にそってまずは2手にわかれ、さらに2手に分かれる。
侵入から10分ほど、和西は折りたたまれた背中の降流杖のグリップを握っていつでも攻撃ようにしていた。
その手は汗で湿ってる。ゴマモンも首をいろいろな方向に回して辺りの様子を確かめていた。3人の隊員、コマンドドラモン、そのむこうにひざをつき、肩の位置で刀を構えた林未が見える。コテモンは竹刀を背負っていた。
和西たちは角に差し掛かるたびに様子を見てから進む、という行動を繰り返していた。
「ひゃっひゃっひゃっ!ようこそ“もうすぐ死体”さんたちィ!」
気味の悪い声が後ろから響いた。
全員が注視したのは背後の天井に走る太いパイプの上、赤黒い骨を剥き出しにしたデジモンが残忍を録音したような笑い声を上げていた。和西は素早くデータを調べる。
スカルサタモン ウィルス種、堕天使型
「・・・完全、体・・?」
最初にスカルサタモンに狙われたのはちょうど真下にいた林未とコテモンだった。
「死ねェ!」
スカルサタモンは特異な形状の杖を振りかざし林未の頭を狙う。林未はヘルメットを脱ぎ捨てるとそれが落ちる前に刀を音もなく抜刀した。
「遠慮しとくよ」
「ほざけ![ネイルボーン]!」
刀を構えた林未にスカルサタモンが迫る。
『常に相手を意識すること。常に勝つことに執着すること。常に生きようと考えること』
姉ちゃんと積山はまったく同じことをおれに教えた。
スカルサタモンの振り下ろした杖は、いや、正確に言えば振り下ろした杖の先は重い音を立てて転がり落ちた。
驚愕の表情を浮かべたスカルサタモンの背後に影が現れた。
「なめてもらっては・・こまりますなぁ・・。 [草薙]ィ!!」
コテモンが進化したシュリモンが背中の巨大な手裏剣でスカルサタモンの首を薙いだ。
すでに胸部に銃弾の嵐を受けていたスカルサタモンは呻きながら落下し、頭が地面に当たる前には消滅していた。
林未とシュリモンはそれぞれ武器をふって砂を落とした。慣れた手つきで刀を鞘に戻した林未はスーッ・・・と息を吐いた。
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