デジタルモンスター
エターナル・ログ・ストーリー

第一章




 37    第37話 「普遍」
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2007.12.31 Mon.
和西はスターティングブロックをセッティングする。
今日は陸上部の対抗大会だ。
 
となりには背の高い黒人。たぶん、いや、ここにいるのだから中学生だろう。
そして右隣にはオレンジ色の髪を後ろで結い上げた女子が軽く体を動かしていた。
[二百メートル開始です。選手の方は位置についてください]
アナウンスが入る。
「位置について・・・・。よーい!」
 
空砲が鼓膜を揺さぶる。と同時に和西は一気に先頭に踊り出た。
『いけるな』
そう思った瞬間だった。後ろから風を感じて振り向いた彼を一人が追い抜いていった。
 
トップから0,5秒差でゴールに飛び込んだ和西の記録が伝えられる。
息を切らしていた彼にオレンジ髪の少女が話しかけてきた。
「えへへ、今度は勝ちましたよ!」
言われて気がついた。ハードルで最下位だった娘だ。
「あぁ、完璧に負けたよ。すごいや」
和西は笑ってかえした。そして聞いてみた。
「きみ、名前は?」
「わたし?わたしはね、黒畑。黒畑優美!よろしくね」
そういうと黒畑は手を振って戻っていった。
和西はタオルで汗をふき取ると逆の方向に歩いていった。
学校のテントの下に入るとバックの中からゴマモンが水筒を差し出した。
 
 
大きな市民公園の一角。ちょっとした遊園地で人々の歓声が響きわたる。
そしてその端、薄暗い建物の裏に嶋川と谷川がいた。2人の数メートル前にはアグモンとホークモンが2,3ほどの白い砂の山が出来ていた。
「やっぱりつけてやがったか」
嶋川は炎撃刃を鞘に収めそれが入っていたスポーツバックを拾い上げる。
「プライバシーの侵害だね」
谷川は戻ってきたホークモンを抱き上げて言った。
「なにかおかしい」
アグモンが目の前の砂山を睨みつけてつぶやいた。嶋川がとなりにひざをついて砂を手に取る。
「たしかにな。らしくない」
「そうだよね。尾行なんて真似せずにただ殺せばよかった」
谷川が言ったとおりだ。嶋川は手を払って立ち上がった。
その瞬間携帯電話が鳴り響く。ホークモンが通知を覗き込んだ。
「二ノ宮さんから電話ですよ」
「わかってるって」
 
 
「デビモンたちが動き始めたわ。人手が足りないの。援軍に来てくれたらうれしいんだけど・・・。無理しなくていいから」
 
 
「・・・・わかりました。いまからギルとそっちに向かいます」
積山は携帯電話をポケットに戻すとバツの悪そうな顔で振り向いた。
天羽が買ったばかりのハードカバーの本をひざに置いて座っていた。
「ごめんなさい、その・・・」
すこし首をかしげて見上げていた天羽は立ち上がって近づいた。
「行ってらっしゃい・・・―
 
天羽は1歩離れて目を細めて積山を見た。
「本当にごめんなさい。今度また・・・本屋さんに行こう・・」
積山は天羽にお金を渡すと休憩所を出た。右手で額を覆った。
「ごめんなさい・・・」
息をするどく吐くと積山は走り出した。
 
 
天羽はゆっくりと階段を上る。
薄く雲が張り始めた空の下眼下に街を走り抜けていく積山とその近くを追うギルが見える。
 
白い羽毛が舞い散った。
 
 
二ノ宮は全員に連絡を取り終え、ため息をついた。実際には息をつく間もなく神原に呼ばれた。
軍用ジャケット姿の神原は腰にシースナイフの塊を巻いている最中だった。
「お呼びですか?」
「あ?あ、そうだった。呼んだ呼んだ」
神原は乱雑な机から書類を拾い上げて渡した。
「とりあえず今回の作戦書。前線の総司令官はおれ。ま、よろしくな」
頭を下げ、部屋を出ようとした二ノ宮を神原は引き止めた。
「なんですか?」
神原は茶髪をかきむしると後ろを向いて言った。
「まかせろ。おれが総司令官だ。死人は0人だ!・・・約束する」
二ノ宮は微笑んで再び頭を下げた。
「頼りにしてます。今回は危険なミッションですから」
神原は本棚の写真を指で弾いた。黄色い帽子を後ろ向きに被った少年が笑顔で写っている。そして言った。
「神原の名にかけて、だ」
 
 
 
そして・・・
 
神原率いる部隊が、二ノ宮とワスプモンが現れた。
「デビモンとはここでケリをつける」
「セイゼイミヲキケンニサラサナイコトダナ」
 
辻鷹がガルルモンXに乗ってやってきた。
「かたっぱしから撃ち落す。こんな僕でも役に立つと思うよ?」
「前で戦えよ」
 
谷川、嶋川がアクィラモンに乗ってやってきた。グレイモンXが飛び降りる。
「面倒だな・・・ここで終わらせてやる」
「そうだな。後々やるのはもっと面倒だ」
「勝つよ?死なないんだから」
「死にませんよ。私がついている」
 
積山がデスグラウモンに乗って到着した。
「かならず帰る。約束したんだよ」
「へいへい。ま、がんばってくれ」
 
シュリモンが参上した。しがみついていた林未が着地する。
「天気が悪い・・・。さっさとはじめよう」
「左様。先手必勝」
 
そして・・・、最後に和西が現れた。イッカクモンの背から滑り降りると降流杖を抜いた。
「?、やるよ?ぼくだってやるときはやるんだ」
「なんとかなるんじゃないの?それともなんとかするのかな?」
 
 
7組のテイマーが集結した。その先には陥没した発電所が見えた。
すでに何体かデビモンの姿が見られる。
 
 
「作戦説明をするからよく聞いて」
 
前線総指揮官、神原拓斗
援軍として6名の民間人テイマー
内容は陥没した原子力発電所内部の生存者の救出及び敵性デジモンを倒すこと。
狙撃部隊、飛行部隊が援護する。
 
なお生存者が多数確認されているので無差別な爆破及び爆撃はできない。
 
「以上ね。・・・くれぐれも死なないでね。全力でバックアップするから」
コートを脱いだ二ノ宮に林未が机から飛び降りて言った。
「わかっている。一応テイマーなんだから覚悟はしてるつもりだ」
「そうだね。もう僕たちは普通の人間じゃない。・・・普通の人間の常識は当てはまらないと思う」
和西は静かにいい捨てるとジャケットを羽織ってテントの外に出て行った。
 
雷の重低音が響く。


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