ワスプモンの上で二ノ宮が双眼鏡を覗いていた。
メラモンが暴れ周り、出来た消し炭の道を数人の部隊とデスグラウモン、ガルルモンが見える。そしてその先は中央エリアに差し掛かった。
「計ちゃん、あれ、見える?」
アクィラモンの上から谷川は身を乗り出した。何か白いものが見える。
「ウィルドエンジェモン?」
二ノ宮は軽く頷き、
「たぶんね。とりあえずあれを倒しましょう」
そう言ってマイクに向かって後ろに続く部下に指示を始めた。すぐにイヤホンから了解、という言葉が返ってくる。
「行動開始!」
二ノ宮が宣言した瞬間数十体のワスプモンが前に出、散開した。
黒い煙が立ち昇る中を一応周囲を警戒しながら神原、積山たちが走り抜ける。部隊はすでに散開命令が下っていた。
「メラモンのヤロー無茶苦茶なマネしやがる」
神原が舌打ちを漏らす。その後を積山、デスグラウモン、辻鷹、ガルルモンがついていく。
やがて廃墟の向こうに紅々と輝くメラモンの後頭部が見えた。神原が怒鳴る。
「おい!いい加減にしろ!」
しかしメラモンがこのときまったく聞いていなかったことがすぐに分かった。
メラモンの向かい10メートルくらいの瓦礫の上にウィルドエンジェモンが膝を抱いて座っていた。
「ほー、お前強そうだな。わかるぜ」
しかしメラモンを少し見ただけで、また元の位置に視線を戻した。メラモンはそうとう神経を逆なでされたようだ。
「お前さえさえ倒しゃ終わりだ![マグマボム]!!」
いきなりの大技。爆風と熱風が波紋のように広がる。その場の全員が目を細め顔を背けた。一人を除いて。
その一人は火炎の塊をあっさりと、しかし猛然とかわし剣を抜いた。
そしてメラモンの背後で剣を逆手に持っている。
ウィルドエンジェモンを見失った瞬間メラモンの目は大きく見開かれた。
そのまま退化し、倒れる。
剣を鞘に戻したウィルドエンジェモンの蒼い瞳が仮面越しに積山たちを睨みつける。
次の瞬間は様々な事が同時に起こった。
まず辻鷹が動いた。銃を抜き、ほとんど狙わずに一発撃った。
その攻撃にひるんだウィルドエンジェモンにデスグラウモン、ガルルモンが襲い掛かる。
ウィルドエンジェモンは片手を上げ、振り下ろした。無数の羽音が鼓膜を揺さぶる。
そして最後にその羽音の主達を粒子ビームが貫く。
ワスプモン、シールズドラモンの部隊が現れ、乱闘に突入する。
積山はただ何も考えずにその中を進んでいった。途中何体かのデビモンをほとんど無意識に倒し、目の前のウィルドエンジェモンに斬りつけた。
逆手に構えた剣の向こう、積山の断罪の槍が金属質な音を発する。
「今日こそ倒す」
積山は感情の無い声で言い、脇腹にけりこんだ。
その瞬間積山の動きが止まる。しかし気の迷いを振り切りデスグラウモンを呼ぶ。
ネオデビモンを粉砕した足でウィルドエンジェモンに対峙する。
「この前の貸しがあったな・・・」
言うが早いか丸太のように太い右腕を振り上げ叩きつける。
羽毛が舞い、相手を見失ったデスグラウモンの首に剣がそえられた。そのままくるりと回転して勢いをつける。
「させるか・・・・・・!」
ある程度の予想を立てた積山は槍を投げ飛ばした。右肘に激痛が走った。
槍は翼を刺し貫きバランスを失ったウィルドエンジェモンは落下した。槍が弾けとび、積山との間に落ちる。
積山は2歩で槍に駆け寄り、強烈に踏みつけて空中でつかまえる。
その瞬間ウィルドエンジェモンが起き上がりデスグラウモンの追撃をよける。
積山は残りを全力疾走し槍を突きたてた。
ウィルドエンジェモンは転倒を避けようとし、壁に寄りかかった。その隙を突かれ槍を受ける。
ウィルドエンジェモンは力なくよろめき、積山にもたれかかる。2,3度体を震わすとウィルドエンジェモンは、
天羽になった。
積山の表情がゆがむ。
断罪の槍が地面に落ちた。
積山は天羽を抱きしめる。
「・・・」
「・・私は、言わなくてはならない。命を代償に。その前に・・・」
「・・・・・・・どういうこと・・・?・・・そんな・・・・」
「私と、仲良くしてくれて、いろんなところにつれていってくれて、・・・ありがとう」
天羽は再びウィルドエンジェモンに戻り、辺りを見回した。
積山がつぶやく。
「ぼくが・・いなければ・・・君は・・・こんな・・・」
すると胸に黒いヒビの入り始めたウィルドエンジェモンがいった。
「 ・・・闇に飲み込まれないでください・・・今のままの『闇の守護帝』が・・大好きです。・・・・・これから大切なことを言いますね」
ウィルドエンジェモンは細く息を吸い込むといった。
「デジタルワールドからの敵がきます。私たちはその先兵としてここに来た。奴らはデジモンではない。魂を操り肉体を着込むことで・・・!」
そこまで言うとウィルドエンジェモンは体内から貫かれ、砂になった。
その瞬間積山に笑いかけた。
ドサリと音がして、数時間前に積山が買った本が砂の上に落ちた。
静まり返ったのは一瞬だけだった。すぐにネオデビモンが倒されていく。
積山は何も言わずに砂の前に座っていた。
黒い霧が積山の右手から発生し、巨大な鎌が伸びた。
まがまがしい装飾の施されたそれは何もない空間に突き立った。
その時だった。
甲高い悲鳴が上がり奇妙な生命体が鎌の切っ先に刺し貫かれていた。
積山は断罪の槍を右手に握り締めその脇に立つ。
積山はその生命体を切り裂いた。
渾身の力を込めて叩き斬った。悲鳴はすぐに途絶え、あとには煙を上げる液体だけが残った。
かつてのかけがえの無い人の前に戻ると積山は手を突いた。
本をひろいあげ抱き締める。 「あぁぁ・・・・・・・」
彼は声を震わせて泣いていた。
そして・・・・
よく晴れた次の日、積山はビンを持って工場にやってきた。 ビンにウィルドエンジェモンの砂を詰める。
そこから少し取り出して胸元の小さな皮袋に入れた。
その口をギルの炎で熱した鉄で焼いて閉じる。 鎖を通すと首から提げた。
ちょうどその時。本部で会議が開かれていた。 積山、ギル以外は全員参加していた。
「ウィルドエンジェモンは正体不明のデジタル生命体、カテゴリー、アンノウンに寄生されたと思われます」
「デビモンについてはデ・リーパーによって破壊される寸前エンジェモンとよばれるデジモンだったと確認されました」
「ウィルドエンジェモンはデジタル生命体による侵攻の事実を伝えれば自分や仲間が即座に殺されることを承知の上で我々に情報を渡した・・・と考えられます」
報告を聞くと有川が立ち上がって言った。
「組織は全部隊を投入して生命体もしくはその侵攻の前触れを全力を持って発見する」
そして付け加えた。
「彼女たちの思いと犠牲を無駄にすることは許さない。いいな?」
この言葉を最後に会議は終了した。
|