デジタルモンスター
エターナル・ログ・ストーリー

第一章




 40    第40話 「布告」
For:
2007.12.31 Mon.
和西はかなり久しぶりに校門を通った。
彼はかなり久しぶりに体操服の袖に手を通す。
彼はかなり久しぶりに運動場に出て行った。
なにもかもが久しぶりに思えたが実際は2、3日学校を休んだだけに過ぎない。
彼の通う中学と私立中学は近い所にある。
そのせいか部活の交流が盛んだ。
ほぼ毎週行なわれるこの交流の様子を見るとも無しに眺めていた和西は自分を呼ばれているのに気がつき我に帰る。
「どうしたの?最近学校も来ないし、なんだか心ここにあらず、って感じだよね」
黒畑がスポーツドリンクを1本飲み干した後話しかけてきたようだ。
「本当に、そうかもしれないね」
和西は日陰に座る。黒畑もならう。
そういえば谷川さんは私立だっけ、
彼は急に思い出し、訊ねてみた。
「あのさ、1年に谷川計、って娘、いるよね」
とたんに黒畑は眉をひそめた。
「谷川?聞いた事あるけど・・・、いじめられっ子だよ?最近なにかと授業さぼるし・・・。彼氏もいるとか噂があったりしてね。両親もいないらしいし、浮いてる娘ね」
彼女のストレートな意見に和西はたじろいだ。
「そ、そうなんだ・・」
「そ。そうなんです。・・・で?なんでそんなこと訊くの?」
黒畑が追求を始めた。ゴマモンに会ってから和西はこういうときの受け流し方には慣れていた。
「それはね。昨日街で見かけたからなんでかな、とか気になったからだよ。名札まであったし」
彼の説明に黒畑は生返事をし、ペットボトルをぺしゃんこにすると追求の対象を変えた。
「じゃぁ、君はなんで街にいたの?」
和西は困惑した。そう切り返されるなんて・・・。
「なにかあったの?嫌な目にあったの?大変なことになってたりするの?」
全部正解。和西は心の中で答えた。
「わたしにできる事とかある?相談してくれてもいいよ?」
気持ちは痛いほどうれしいんだけどね。またも心の中で返事を返すと和西はやっと口を開いた。
「だいじょうぶだよ。たいした問題じゃない」
彼は言い切ると木の下から抜け出し、練習に加わった。運動場を外周する。
たいした問題、だけど・・・・。
この瞬間和西は戦うことへの迷いを振り切ったつもりだった。
 
 
組織の地下会議場。
広々とした空間が電子キーでロックされた閉鎖空間のなかで大人たちが怒鳴りあいとも取れる会議を行なっていた。
奥に程近い場所に神原、積山、二ノ宮が座って様子を見守っていた。とはいっても見守っていたのは二ノ宮だけだが。
「たまによ、思うんだけどよ。オッサンってガキみてぇだな」
神原が感慨深げに呟いた。その後ろでメラモンが喉を鳴らして笑う。
議題はデジタル生命体侵略に対してどのような姿勢をとるか、ということだ。
「だから!攻撃が始まってからじゃおそいんだと言っているんだ!!」
「ふざけるな!だからといって都民全員を非難だと?東京に現れると思っているのか?だいたい侵略などと・・・ガセネタではないのかね?」
発言が発言を呼び、それはまたたく間に暴言へと変化していく。
「さっさと避難させればいいのによぉ」
「リスクが怖いんでしょうね」
神原がうなり、積山が呟いた。
「どういうことだ?」
「ようするにもし避難させたとして侵略がなかったときの保証や賠償、その他もろもろの責任、つまりリスクを負うのがいやなんでしょうね」
積山があっさりと答えた。二ノ宮はすこし驚いた表情を見せ、やがて目を細めた。
「世の中ってそんなものよ」
二ノ宮はクスクスと笑うと手元の資料を読みふけり始めた。
「伊達に苦労してねぇな、お前ら」
神原は2人を見比べるとイスにもたれかかって目を閉じた。どうやら論議も体力切れに差し掛かったらしい。
 
会議場を出た積山とギルに白衣の男が数人声をかけた。
「なんですか?」
チラリと横目でギルを見た彼は向き合った。
「ウィルドエンジェモンの死骸がなくなっていました。君だね?」
「はい。そうです」
積山はあっさりと、冷静そのもののいつもの口調で白状した。
しかしギルには大事な人を死骸と呼び捨てられた彼の怒りが目に見えていた。
「では死骸を引き渡しなさい」
「遠慮します」
「引き渡しなさい。研究し、侵略に備える」
「拒否します」
「君の意見は聞かない。渡せ。もはや君には何の価値もないだろう」
積山は無言だった。
しかし散々愚弄した男は一撃で気を失っていた。
「・・・・なんの価値も・・・・ない・・・?」
積山は背を向けるとエレベータに乗り込んだ。
ゆれのまったく無いなかで積山は壁に額をついた。
「価値ならある。絶対に・・・・誰にも・・・・渡さない・・・」
ギルはただ立っているのさえ辛かった。なんと声をかけていいか分からない。
積山はもう戦う気になれなかった。断罪の槍を見るのも嫌になっていた。激しい自己嫌悪の毎日・・・。
「だいじょうぶか?」
扉が閉まる寸前乗り込んだ嶋川が訊いた。
谷川、ホークモン、アグモンが続いて乗り込む。
「だいじょうぶ?別にどこも悪くないですよ」
積山は相手に見向きもせずに言った。
その様子を見て肩をすくめた嶋川は口を開いた。
「独り言言ってるな、とでも思ってくれればいいんだが・・・。おれはな。今まで一度も自分が戦う事を肯定した覚えは無い。ましてや正当化なんかする気もない。・・・・お前をなぐさめてやりたい。・・・・・・・・・、独り言終わり」
嶋川はすぐに階層のボタンを押した。
開いた扉から谷川たちを押し出すと一度だけ振り向き、出て行った。 
 
 
「悪いな。こんな微妙な所で降りちまって。オレンジでいいか?」
嶋川は3人に脇の自販機で飲み物を買いながら言った。
出てきた缶を渡しながら呟いた。
「どうもあーいう空気は苦手なんだよ」
取り繕った苦笑を浮かべ、嶋川は窓の外を眺めた。
谷川は自分の手の中のブラックコーヒーに目を落とした。
 
積山はフードを深く被り、建物を出た。少し、早足だった。
 
 
小高い丘。林未はとくになにも用事が無い日は都会には珍しいこの場所に来る事にしている。今日は・・・丸腰だ。
「めずらしいね。草薙丸を置いてくるなんて」
林未はほとんど上の空で返事を返した。
「・・・まぁ、ね」
すっかり碧の葉が茂る桜の木の木陰で林未とレインコートで変装したコテモンが空を見上げる。
「おやおや・・・」
不意に話しかけられ、コテモンはさり気無く林未の後ろに身を隠した。
老人が一人、立っていた。簡単な作業着に身を包んで頭には薄く汚れた帽子が乗っていた。
「君みたいな娘が昔、そこに同じように座って空を見とった・・・」
「・・・・・・・・」
「その娘も君みたいに小さな連れがいてな。髪の長い娘だったが・・・」
「・・・・・・・・」
林未は老人の説明を黙って聞いていた。
「ま、年寄りの話はそこまでだ。のんびりしてればいいよ」
「そう、ですか。ありがとうございます」
林未は横になりながら呟いた。
老人が去って、コテモンが訊いた。
「どうしたんだ?」
「いや・・・、まぁ。ちょっとね」
お茶を濁した彼に何を聞いても無駄だ、ということをコテモンはよく知っていた。
林未は少し前のことを思い出していた。
大事な人がいなくなって、急に自分が強くなったこと。そして血と桜。
 
 
信念、決意。
復讐、憎悪。
破壊、破滅。
 
 
7人と7体。それぞれが宣戦、布告。


Back Index Next

ホームへ

| ホーム | エターナル・ログ・ストーリー | エターナル・ログ・ストーリー  第二章 | エターナルログストーリー  第三章 | 掲示板 | 登場人物・登場デジモン | 二章 キャラ紹介 | 3章 キャラ紹介 |
| 関連資料室 |