ギルがモノクロモンに向けて飛び掛った。
右手の3本の鉤爪が赤黒く鈍い光を放つ。
「[ブラッドネイル]!」
ギルの素早い動きに対応しきれず、モノクロモンは連続攻撃を受け続け、消滅した。
その向こうでは他の一体を追い詰めたゴマモン、和西が手堅く倒していく。
数時間前、
歩き出した積山を見て和西はあわてて後を追い、そしてすぐに追いついた。
急に立ち止まった積山の手元を覗き込むとD-ギャザーの画面に何事か表示され、彼はそれを見つめている。
和西は積山の隣に立ったと同時に右手が熱くなったような気がして袖をめくった。
ベルトで取り付けられたD-ギャザーの画面に青いマークが表示されている。
積山はD-ギャザーから目を離し、上を見上げた。
屋根の上からギルが下をのぞきこみ、頷いて見せた。
積山と和西はお互いに顔を見合わせ、ギルの後を追い始めた。
そして、町外れの廃工房にたどり着いた和西達は狂ったように破壊を始めるモノクロモン数体を見つけた。
「どうも様子がおかしい。正気を保っているようには見えないが」
積山は遠慮なく斬って捨てた。
ギルが答える
「たしかに、むちゃくちゃやってやがる」
そんなことをいいながらブラッドネイルで止めを刺した。
なんど呼んでも無視を続ける2人をおいて和西はゴマモンと逃走を始めた1体を追った。
「あのまま逃げられたらまずいよな」
「冗談じゃないよゴマモン!」
猛スピードで角を曲がるモノクロモン。
和西、ゴマモンが少し遅れて角を曲がった次の瞬間。
リュックの後ろ半分が地面に落ち、燃え始めた。
嫌な予感を抑えつつ和西はリュックを下ろす。
まるで当然、とでも言うように後ろ半分がなく、その切断面は黒くこげていた。
やっと状況を把握した和西はハッとして顔を上げた。
背が高く、しっかりした体格の人間が立っていた。
逆光で顔が見えない。
その人間は飛ぶように間合いを空けた。
右手に大振りの剣を持ち、それは炎を上げる。
彼の後ろにはデジモンが2体はいた。
1体は3メートルほどの巨体を横たわらせるモノクロモン。
もう1体は黄色い竜だ。
両手に紅いベルトを巻き、体には青い模様が入っている。
和西と目があい、それはギラリと光った。
突然和西の右側、先ほど曲がった角が吹き飛ぶ。
モノクロモンが吐き出した火炎弾が炸裂し、砕けたコンクリートが和西達に容赦なく降り注ぐ。
モノクロモンが4体飛び込み、すでに砂になっていた仲間を蹴散らした。
それを追ってきたギル、積山が乱入し、交戦を始める。
「すいません、ギルの炎に驚いたのか・・・」そばで茫然と突っ立っていた和西にそこまで言うと積山は息を呑んだ。
「嶋川・・・・」
積山は目を見開くとゆっくりと後ずさった。
「慎、どうした?アイツがどうかしたのか?」
ギルが積山に近づいて尋ねた。
ギルと積山の間が4,5歩に縮まったときだった。
足元のコンクリートに無数の弾丸が断続的に打ち込まれ、砕ける。
(着弾音とほとんど同時に発砲音がした・・!)
積山は発砲音から、とっさに、近くに銃を持った“何か”が潜んでいると推測した。
全員が物陰に隠れた。
「ここここここれっていわゆる銃声?」
和西がドラム缶の裏側から積山に言った。ギルと狭い思いをしていた積山は辺りを見回し、
「たぶん実弾、消音器をつけてる、と思うけど・・・」
突如ライトで照らし出され、和西達は目を細めた。ギルは向かいの倉庫のあちこちから人とデジモンが出てくるのを辛うじて確認した。
「まずいぞ慎、囲まれた・・・!」
ギルがそういったとき積山も自分の後ろのほうから大勢の靴音が響くのに気づいていた。
レーザーサイトの赤い点が和西達の体に灯る。
「このままじゃまずいんじゃ・・・・!」
和西がつぶやいたとき、立て続けに銃声が響き渡り、積山たちの周囲を囲った。
「なっ!?」
ギルが驚いて声を上げる。
倉庫の壁を中心に、氷の壁が半円を描いて和西達を包み込んだ。
銃声が立て続けに聞こえ、氷を穿つ音が聞こえた。
「上!ここのはしごを使って!早く逃げないと、長くはもたないよ!」
積山はその声に即座に反応するとはしごを上った。
ギルがそれに続く。
和西はゴマモンを小脇に抱えると積山の後を追った。
途中で振り返ると積山が嶋川と呼んだ男と目があった。
「はやくこっちに!ここに居たら本当に危ない!」
嶋川はじっと和西を見ていたが、やがて立ち上がるとパートナーと一緒にはしごに向けて走り出した。
倉庫の作業用通路に上がる積山に、ライフルのようなものを持った人が手を貸した。
「久しぶり、積山くん」
「ありがと、助かったよ。ほんとに」
積山はギルを引っ張りあげ、立ち上がって言った。
「久しぶり。仁」
7つの影が夜の街を走り抜ける。
そのうち3つは屋根の上を飛び越えて進んでいった。
通行人の間を縫うように走り抜けながら彼らは話した。
「ここなら少なくとも撃たれる危険性はないと思います」
積山が先頭を走りながら言った。
「このあとどうする?」
和西が聞いた。
「一番家が近い人は?」
「和西だよ」
積山の質問にゴマモンが答えた。
「わかった。僕についてきて」
そういうと和西は十字路を曲がり、住宅地に入った。
和西宅。
2階の和西の部屋に4人と4体がなだれこんだ。
積山はカーテンを閉め、少しあけて外をのぞいた。
「本当にもうだめかと思った・・・」
和西が本棚に寄りかかった。
本が数冊落ちる。
そして積山の知り合いらしい人を見た。
積山の合図でサイドボードの上の卓上ライトの電源だけを入れた彼は和西と目が合い、苦笑いをした。
「笑ってないで自己紹介する」
パートナーらしきデジモンに頭の角で背中をつつかれて彼は、
「いたっ・・・。えっ?あぁ、・・・はじめまして辻鷹仁です」
とだけ言った。
パートナーはため息をつくと
「オレはガブモン、仁のパートナー。よろしくな」
と言って声を立てずに笑った。
『・・・・た・・・・・確保・・・・・つ・・・・・・・・・・・』
積山はハッとして窓の外を見た。
さっきの団体だろうか。
だれかが和西の家の前を数人で歩いていった。
「まずいですねぇ。今出るとまずい・・・」
和西は積山の後ろに立ってのぞいた。
「・・・ほんとだ。これじゃ帰れない、よね。泊まってきなよ」
和西はため息をつくと1階に下りていった。
積山、辻鷹、嶋川は顔を見合わせた。
「まさかね」
声がそろった。
積山は目を細めると窓の外に視線を戻した。
辻鷹は喉の奥で小さく笑うと床にばらまかれた本を拾い出し、嶋川は背を向けてベッドに横になった。
「お待たせ、晩御飯の代わりになりそうなもの持ってきたよ」
和西が両手に食べ物を持って部屋に入った。
声を上げるわけにはいかず、光りもテーブルライトだけなのでそれぞれのテイマーになったときの話をすることになった。
ジャンケンで決めた結果、1番手は和西、2番手は積山という順になった。
和西はつい2日前の話をしたが、誰も驚かなかったので自分自身が驚いた。
そして・・・
積山は窓の外をのぞきながら話し出した。
|