デジタルモンスター
エターナル・ログ・ストーリー

第一章




 54    第54話 「取引」
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2008.07.26 Sat.
ボールペンのインク漏れによりダメになった書類を書き直していた和西の耳に複数の足音が聞こえてきた。
「?、なんだ?」
ゴマモンが机の下にもぐりこんだ瞬間、和西の向かいの扉が勢いよく開かれ、背広姿の男が数人入ってきた。
「なんですか?関係者以外は立ち入り禁止です」
二ノ宮がその一団を呼び止めた。
「あぁ、君が二ノ宮涼美だな。業務上過失致死の容疑で君と幹部の有川、神原、式河、秋山を逮捕する」
唖然とする二ノ宮の両手に手錠がかけられた瞬間、和西は思い出した。
「そういえばそうだったけどさ・・・」
徐々に混乱が波のように体を駆け巡るのを感じた。
「和西高くんだね。君や・・・、あー、君の友達も建造物等損壊罪と銃刀法違反だ」
「えっと、君の友達って?」
訊き返した和西を見下ろして刑事が答えた。
「リストに載ってるのは首謀者の君、参謀の積山慎、他、二ノ宮涼美、の3名だ。嶋川浩司はすでに死亡したからリストからは削除されてるな」
その瞬間和西は机の下に右腕を突っ込み、携帯電話でメールを打った。
「積山慎?あいつに建造物壊せると思うんですか?なにかの間違いでしょう」
一方、メールの文面はこうだった。
[コウジ、二ノ宮さんとぼくは逮捕されることになった。早く積山くんを見つけてください。組織は丸ごと潰されそうだからなにかいい手はないか考えてくれると思う。彼は逮捕予定者のリストにのってるからかくまってあげて欲しい。あと、君と谷川、林未くん、仁、柳田くんは逮捕されないらしい。でもできるだけとんでもない真似は控えてくれ]
送信、履歴の削除。
「まぁいいか。分かりました。応じますよ。応りゃいいんでしょ?」
携帯電話をゴマモンに持たせると和西は立ち上がった。両肩を掴まれて部屋から連れ出される。
一部始終を机の隙間からのぞき見ていたゴマモンとファンビーモンはその場にいた組織の隊員の背に隠されて窓から脱出した。
「なんかやばいな。どうする?」
「とりあえず嶋川の所へ行こう」
ファンビーモンはゴマモンを背に乗せると飛び立った。
 
 
そして、すでに2体ものメガドラモンを撃破した嶋川とメタルグレイモンは強行突破、発電所の展望台に向かった。
「よし、待ってろよ」
メタルグレイモンに言い残すと嶋川は展望台に侵入した。
そしてすぐに縛られたギルを見つけた。
「お前どうした!?何があった!?」
そう問いつつも彼はすでに察しがついていた。
「っそ!」
炎撃刃で鎖やベルトを焼ききると担ぎ上げた。
 
さっきのメールが本当なのは間違いない。だからこそ状況は楽観できない。
 
嶋川はそう考えていた。
「メタルグレイモン!アクィラモンと谷川と辻鷹に上からできるだけ早く積山を見つけるように言え!」
メタルグレイモンは頷き、急降下した。ほどなくアクィラモンが谷川と辻鷹を乗せて雲に入る直前で旋回した。
「いた!その下のすこし広くなってるとこ!」
風に乗って谷川の声が届き、嶋川のもとにやって来た林未とシュリモンが先立って降りていった。
「!?なんだあれは・・」
思わずつぶやいた林未の目に映ったのは血の海だった。
コンクリートの地面には細い焼け焦げが魔方陣のように広がり、そのうえを血が新たな模様を染めこんでいた。
薄明かりに目が慣れてきた林未ともとから目が慣れやすい辻鷹、ガルルモンは愕然とした。あとからやって来た嶋川たちもやがてそれに気づいた。
「お前・・・」
嶋川は無意識に口を開いていた。
全員の見つめる先には一際大きな血溜まりがあり、積山が倒れていた。
それに覆いかぶさるように倒れていた天羽がゆっくりと顔を上げた。
「あ・・・・、う・・・・・・・・・・・」
何か言おうと口を開いているのを谷川が支えた。
「なんで?どうして・・・?」
「・・・・私を、生き返らせようとした・・・みたいです」
辻鷹も林未も、それどころか天羽や嶋川の身に起こった事を知る者はうっすらと予感していたことだった。
天羽は苦しげに微笑むと言った。
「本当に賢い方ですが・・、心は弱いみたい・・・・。道を・・・・踏み外す事になる」
すでに半身は砕けて砂になっていきながらも彼女は呟いた。
「もっとついていてあげたかった・・・・・・・」
その体に一瞬力が入り、すぐに抜けた。同時に体が崩れ去り、谷川の膝の上に銀色をした大きな卵が転がり落ちた。
それを胸に抱きかかえると谷川は額をこすりつけて抱きしめた。
「おい・・・、積山、積山!」
嶋川は積山の胸に耳を押し付けて頷いた。
「よし・・・、まだ生きてる。いそいで運ぶぞ」
「ちょっとまて、どこにだ?」
ガルルモンが訊いた。嶋川はアクィラモンを指差し、
「まずアクィラモンに積山を乗せる。それから新藤、って医者がいたな。あのオッサンに見せる」
アクィラモンは頷くと限界まで姿勢を低くとった。
「そうと決まれば早くしたほうがいい」
積山の体に止血のため全員の上着を巻きつけ、その上からベルトで固定した。
メタルグレイモンに辻鷹、ガブモン、林未、コテモン、ギルを背負った嶋川が乗る。
「急いで!」
卵をしっかりと抱きしめて谷川がアクィラモンをせかした。
 
 
 
「それで積山くんの具合はどうなの?」
ガラス越しに二ノ宮が林未に訊いた。
「今のところは奇跡的に生きてる、といったところか・・・。出血多量で死に掛けてたらしい」
ガラス越しに答えた林未の返答に二ノ宮は何度か頷き、ため息をついた。
「そっか・・・。私達がちゃんと接してあげてれば良かったのかな・・・」
ガラス越しにその気持ちを察した林未は首を振った。
「いまさら言っても仕方ない。それはこれからの課題にするべきだ」
二ノ宮はガラス越しに微笑んだ。
刑務所の面会室。積山が血まみれで見つかってから2日後。
やっと許された面会は当然ながらガラスを挟んだものだった。
「いつになったら出られるんだ?」
「さぁ?」
今度は林未がため息をつく番だった。
「できるだけ早く戻って来いよ。もちろんリーダーも一緒に」
二ノ宮は出て行こうとする林未に言った。
「多分、・・・・出るのには時間がかかると思う。私達上層部を押さえれば戦う権利は自衛隊とかに移る。私が思うにはそれが狙いよ。私達テイマーに手を出させない気ね」
林未は一度だけ振り向き、頷くと出て行った。
入れ替わりに看守が入ってきて言った。
「二ノ宮涼美、面会終了だ」
「はいはい。分かってますよーだ」
 
 
谷川と嶋川、ホークモンとアグモンは病室の1つにいた。
「ずっとうなされてるね」
谷川はじっと椅子に腰掛けたまま言った。
「そうだな・・・」
嶋川は同意し、積山のベットの横の机に置かれたバスケットに目をやった。
毛布に包まれた卵を指差すと彼は誰ともなしに訊いた。
「あれは、なんだろうな」
谷川はあいまいな返事を返した。
「わかんない。でも・・・・・・・」
嶋川はそこまで聞くと遮った。
「もういい。・・・卵を見たらなんていうかな」
アグモンは訊いた。
「誰が?」
それを聞き、嶋川は苦笑して答えた。
「そうだな。いろんなヤツだな。強いて言えば」
 


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