デジタルモンスター
エターナル・ログ・ストーリー

第一章




 55    第55話 「失踪」
For:
2007.12.31 Mon.
真っ暗だった。横も前も後ろも上も下も何も見えない。
それは闇の世界と言うのがふさわしい所だった。
急に、何の前触れもなく世界の中心に光がさした。
それはやがて少しずつ広がり、ぼんやりとした風景が見えた。
ベンチに人が一人座っていた。 すぐに誰かがやってきた。
『ごめんなさい。待たせましたか?』
謝った一人を見上げるともう一人はゆっくりと立ち上がって言った。
『・・・楽しみにしてたから・・早く来た』
2人の声は少し響いて聞こえた。
後から来た1人は、じゃあ出かけよう。そいってバスに乗り込んだ。
もう1人も後に続いた。
イスに並んで腰掛けた二人は何か話していた。
よく見えないが二人とも楽しそうだ。
やがてバスが止まり、降りた2人は本屋に入った。
1人は文庫本のコーナーに立ち、もう一人はその脇で分厚い本を手に取った。
しばらくして、2人は本屋から出てきた。
1人はしっかりと分厚い本の入った紙袋を抱きしめていた。
その後雑貨屋をのぞいたりゲームセンターで写真をとったりした後、2人は少し大きな雑貨屋に入った。
2人は宝石コーナーに行った。
一人は興味深げに石の御利益のかかれた紙を見ていた。
1人は、目の前で紙を見ているもう1人のとなりの壁にかかっている石の産地の書かれた世界地図を眺めていた。
紙を見ていた1人は石と革のポーチと鎖を二つずつ手に取るとレジへ向かった。
もう1人は『ぼくが払う』と言った。
結局首を横に振り続けた1人はポーチに石を入れると鎖を通して自分の首にかけた。
そして同じようにもう一人の首にかけた。
かけられた1人はお礼を言った。
もう1人は肩ぐらいまである髪の毛を後ろに流すと微笑んだ。 世界が急に暗くなり、今度は白と赤が見えた。
赤は白い体を貫き、もう一方は黒と金のグリップに吸い込まれていた。
 
そのグリップを握っているのは紛れもない。
積山慎の手だった。
目線があがり、細い息をする白い顔が一瞬見え、世界が溶けるようになくなった・・・。
 
再び黒い世界が広がり、その中に部屋が見えた。
それは少し前の事だった。嶋川が生き返ったその数日後・・・・・・・
 
 
『お前は・・・・・!』
『こんにちは。なかなか天気が優れませんね』
座っていた積山は部屋に侵入してきたもう一人の自分を睨みつけた。
『ぼくには君が考えている事が手に取るように分かる。人を生き返させる。素晴らしい力だ』
『なにがいいたい?』
『分かってるはずだ。君は嶋川浩司をもっとも大切な存在としている谷川計を羨ましく思ってる。違いますか?自分の一番大切な存在をもう一度自分の手に取り戻したい。そうだろう?』
『・・・違う・・・・』
『違わない。君は自分のしたことを後悔し、いま悩んでいる。なぜなら・・・・、君はもう気づいているはずだ』
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・』
『そう。和西高が水の力を使って驚異的な脚力を持つように、辻鷹仁が氷の力を使い尋常ならぬ視力を持つように、そして嶋川浩司が炎の力による熱から高い反射能力を発揮するように。そう。闇の力を利用した能力が君にもある。それもただ闇から鎌を生み出すなんて単純なものじゃない』
もう一人の積山はこう言い放った。
『そうだ。闇の能力とは[生命の再構築]だ。術者の思い1つで能力を変更することも記憶を継続させることも思いのまま。・・・・・これを使わない手はないじゃないか・・・!!!』
『違う・・・。違う・・・・!』
『違わないね。君は能力を確信し実行に移すか移さないか、そこで迷っている。でもその迷いになんの利点がある?天羽裁がよみがえってなんの損がある?』
『・・・・・・・・・・・・・・・・うぅぅ』
『君がどう動くか、そこまでぼくは干渉しない。ただ・・・・・・方法を教えてやろう・・・・・・』
 
 
荒い呼吸を繰り返す積山の額の汗をぬぐうと谷川は全てを知らなかった新しいテイマー、林未,柳田,黒畑に全てを話していた。
「これがすべて。今まであったこと、和西くんに聞いたことの全て。あたし達の戦いの全て」
 
 
世界は再び闇に戻った。透明であり不透明な世界で積山は思った。
そうか・・・・、ぼくはぼく自身の心と偽者に負けたのか・・・・・。
遠くのほうで声が聞こえた。
「いつも積山さんはやさしくていい人で。あたし達が危ない目にあわないように組織の作戦も一つ一つ確認してくれてたんだ。・・・優しすぎるんだよ。天羽さんのときも作戦考えるときも・・。必死で大切なものを守ろうとして・・・それで何かを失って。天羽さんの時は守りたいものと失ったものが同じだった。だからそれだけ辛かったと思う。そういうところが『闇の守護帝』なのかな・・・」
 
積山は微笑んだ。守護帝?それどころかぼくは破滅の帝王だ。大切なものをいくつもとり逃して自分で壊して・・・・。
『そうやってすぐにそんなこと言う』
和西の声だ。
『そうだ。お前そうやって自分の心まで壊すつもりか・・・?』
この面倒臭そうな言い方はギルか・・・。
なんかいろいろ迷惑かけたみたいだ。それこそ裁に笑われてしまう。彼女をそういう風に笑わせたくない。
そうだった。
 
ごめん。
 
 
 
急に起き上がった積山は谷川、ホークモン,林未、コテモン,柳田、コクワモン,そして知らない女の子と茶色いデジモンを順に眺めた。
そして急いでナースコールを押した谷川を無視しつつ隣の文机に目をやった彼はそこに置かれた卵に目が釘付けになった。
扉が勢いよく開かれ、嶋川、アグモン,辻鷹、ガブモン,医者が飛び込んできた。
口々に声をかける中、谷川はバスケットから卵を取り出し、積山に手渡した。
「・・・・・!!、ごめん、上手くいえない!」
谷川は顔を背けた。嶋川が代わりに言った。
「もう二度とこいつを泣かせないでくれ」
積山は卵をバスケットに戻して扉のほうを見た。人だかりに阻まれていたが積山にはよく分かっていた。
「ギル、謝りたい。私のところにきてくれないか。許して欲しい」
ギルは部屋に入ると首を振った。
「いや、めんどくさい。あれぐらいで怒ってたらお前のパートナーなんかやってらんねーよ。おれに謝る前に謝る相手がいるだろ?」
照れくさそうに言うとギルは部屋に入ってきて訊いた。
「それよりも、だ。お前に話しておく必要があるな」
 
和西たちが逮捕されたこと。そして・・・・、どうやら自分達がマークされていること。
 
話を聞いた積山はいつもの思案顔で呟いた。
「私の意見でもいいのか?」
全員が頷いた。
「和西くんは君に相談するようにいい残して自分が犠牲になって捕まったんだ」
辻鷹の顔を見て積山も頷いた。
「それなら・・・、しばらく身を隠そう。それでいて自衛隊の戦いを見物する。その上で彼らが太刀打ちできないということを自覚したころに参戦する。ともかくマークされているということはボロを出すのを狙っている可能性がある。その上で黒畑さんを中心に各地に散らばった組織の人間や他のテイマーをかき集めるんだ」
「つまり下手に動いてつかまったら連中の思う壺だからじっくりと様子見しながら戦力を集めよう、てことか」
ギルが頷いた。内心パートナーとの会話がこんなに大切なものだと初めて自覚していた。
 


Back Index Next

ホームへ

| ホーム | エターナル・ログ・ストーリー | エターナル・ログ・ストーリー  第二章 | エターナルログストーリー  第三章 | 掲示板 | 登場人物・登場デジモン | 二章 キャラ紹介 | 3章 キャラ紹介 |
| 関連資料室 |