デジタルモンスター
エターナル・ログ・ストーリー

第一章




 57    第57話 「剣士」
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2007.12.31 Mon.
その女の子は一応警戒しているらしく、何度も首を動かしている。
「おっ、ラッキ。  おーい!!ちょっと待ってくれー!!」
出し抜けに大声で呼び止められ、振り向いた彼女は連れの犬のような影とともにビルの向こうに姿を消した。
「あれ?」
柳田は一瞬あっけにとられ、すぐに追いかけた。
「待ってってゆーてるやろ!」
「・・・まて。お前がそうやって大声で呼び止めるからだろう。おれが変わりに行ってくる」
コクワモンと不服そうな柳田を後に残し、林未とコテモンは急いで後を追った。
以外にもビルの影でうずくまっていたので彼はできるだけ意識した口調で話しかけた。
「驚かせてすいません。この辺りにはあまりいないほうが・・・・、?」
ひざをついて顔を覗き込んだ林未は驚いた。
「前にあったことあるな?」
顔を上げたその娘は同じような表情を見せた。
 
「確かムシャモンというデジモンと戦ったときに助けた。時、という名前だ」
柳田への説明をそこそこに林未は首の後ろをかいた。
「はぁ・・・、どうしようか・・・」
いごこちが悪そうな顔で肩をせまくしている時を見て、コテモンはつぶやいた。
「よりにもよってこの娘までテイマーになるなんてね」
その頭の真上でラブラモンが口を開いた。
「よろしくね」
コテモンはため息をついた。
「こちらこそ・・・・」
見かねた柳田が口を挟んむ。
「まぁええやん。自分でどうこうできるもんでもないやろうし」
林未は若干睨みつけて言った。
「自分の意思でテイマーになることもあるだろう」
それを聞いたコクワモンは無い眉をひそめた。
「どういうことだい?」
「少なくともおれは自分からテイマーになる道を選んだ」
遠くのほうで悲鳴が聞こえる。たまに退却、とか逃げろ、という言葉が聞き取れる。
柳田はその場に腰を下ろすと林未を見上げた。
「どういうことや。話してくれへんか」
林未は柳田を睨みつけると言った。
「いいだろう。話してやる」
 
 
 
――数年前。林未家の借りるアパートの一室。
制服姿の少女が玄関から歩いて数歩の位置にある二段ベットまで歩いてきた。
「健助!起きなさい!遅刻するわよ!」
布団から顔をのぞかせた林未健助は目をこすってなにかもごもごと口を動かした。
「もう・・・。ほーら、寝ぼけないの!」
「はいはい・・・・。おはよ」
さっさと着替えた健助は朝食をとった。
 
林未がまだ小学生の頃。彼には姉がいた。そして・・・、テイマーだった。
 
「コテモンもご飯食べちゃってよ」
「はいはい・・・・」
 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・その夜・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「・・・!」
オーガモンの強烈な撲殺目的の攻撃を機敏な動きでかわし、その腕を『草薙丸』で断ち切る。
「[紅葉卸]!!!」
背後からプログラムなしで進化したシュリモンがオーガモンに連続攻撃を叩き込んだ。
彼女は一瞬で砂にされたオーガモンに背を向けると刀を鞘に戻し、切れた頬の血をぬぐった。
 
林未キョウ。中学3年生。『木の魔術師』、パートナーは・・・・、コテモン。
 
彼女は部活から帰るとすぐにシャワーで汗を流す。
ある日、健助はテーブルに置かれたD-ギャザーを興味本位で触っているうちに姉を真似て右腕にはめた。
 
ドクン・・・!
 
心臓が跳ね上がり、血液が荒れ狂い、全身に深緑のアザが広がり、一瞬で消えた。
健助は急に怖くなり、D-ギャザーをもとのところに戻した。
 
 
確か・・・・・。この後コテモンがデジモンが現れたことを告げ、ねぇさんはすぐに服を着て、草薙丸を掴んで、
・・・・D-ギャザーをはめて部屋を出て行った・・・・。
 
おれは今夜も疲れ果てて帰ってくるに違いないねぇさんとコテモンのために救急箱を用意し、夕食をつくろうとニンジンと包丁を手にした・・・。
 
 
ねぇさんが死んだのはその夜だった。
シュリモンがガーゴモンというデジモンを追っていったときだろう。
 
 
おれが覚えてるのはそのまま置かれた救急箱、作りかけのチャーハン。ねぇさんが脱ぎ散らかし、片付けるのはおれの仕事だった。
シュリモンはその上に座って泣いていた。ねぇさんがいつも髪をとめるのに使っていたバンダナの前で泣いていた。
「ケンスケ殿。申し訳ない。力不足だったばっかりに・・・」
おれはシュリモンに前から訊いてみたかったことを聞いてみた。
「なぁ、ねぇさんはなんで戦ってたんだ?」
 
シュリモンがなんて答えたか。実はあまりよく覚えてない。でもこれだけは覚えている。
ねぇさんが何故戦っていたかは関係ない。ねぇさんの敵を討つため、そしてねぇさんが戦い続けたその意思を継ぐ。
 
「シュリモン。今日からおれがお前のテイマーだ。おれがねぇさんの代わりになるか分からない、けど・・・・」
林未健助は急に視線をそらして言った。
「戦いたい。自信あるんだ・・」
 
 
 
林未は口を閉じた。
「わかったか?・・・・気は済んだだろう・・・」
コテモンが代弁し、林未の肩を叩いた。
難しい顔をして考えをめぐらせ始めた柳田に一言謝ると林未はコテモンを連れて数歩歩く。
やがて止まり、ため息をついた。
「時さん、だったな。お母さん、いるだろ?帰ったほうがいい」
柳田も深いため息をついて言った。
「悪かった。・・・おれが悪かった・・」
それまで黙って話を聞いていた時が口を開く。
「私は父がどういう世界で死んだのか知りたかった。そしてテイマーになった・・・。私は健助さんと同じ立場に私もいると思ってます。気持ちなら・・・・だれよりも分かります」
肩をおろすと林未は振り向いて微笑んだ。
「・・・・ありがとう」
「ええ。こちらこそ。私もラブラモンのテイマーです。しばらくお手伝いしたいんです。前ムシャモンから守ってくれた恩返しもしたいですしね」
林未はあらためて手を差し出すと訊いた。
「あんた、名前なんていうんだ?」
時は差し出された手をにぎって答えた。
「時 。トキ ナツキです」
そう名乗り、彼女は笑顔を見せた。


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