デジタルモンスター
エターナル・ログ・ストーリー

第一章




 58    第58話 「鏡面」
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2007.12.31 Mon.
何度も進撃と撤退を繰り返し、そのたびに数台の戦闘兵器を破壊された連合軍は度重なる体力と戦力の浪費に苦しんでいた。
負傷者も多く、死亡した者も数名いるはずだった。
しかし決まって巨大な機械龍が現れ、メガドラモンを倒して消える、という事を繰り返した。
その結果、殉職者はゼロ。
結論として、戦車等の戦力やミサイルによる迎撃は無意味であり、即急に刑務所の組織の重要人物の釈放及び組織の再建を行なうべきである。
 
避難所にほど近い自衛隊の本部で一人の男がノートパソコンに向かってレポートを作成していた。
実際に戦車隊を指揮していた彼はメガドラモンには何の兵器も通じないことを身にしみて知っていた。しかし・・・、
「いや、まだだ」
デリートキーを叩いた。文章が消える。
 
 
 
男が再度報告書の作成に乗り出したとき、ほとんど仮設の集落状態で人が入り乱れる避難所で積山の妹、彩華は人の波に飲み込まれていた。
「あぁん、もう!」
脱出に成功した彼女は外から人ごみを見回した。
「土井藤さんどこ行ったの!?」
半泣きの顔で首を動かす彩華の肩を誰かが叩いた。
「どうしたんですか?」
車椅子に乗った若い男だった。年齢は・・・、18才くらいに見える。
彼は表情を緩めて彩華の髪をなでた。
「お願いがあるんだけど・・・、聞いてくれるかい?」
「いいですけど」
「じゃあ、車イスを動かしてくれないかな。バッテリーが無くなって僕一人では動けないんだよ」
だいぶ重い車イスを押しながら彩華は行き先を訊いた。
「救護室に連れて行って欲しいんだ」
「うん。分かった。お兄さん名前は?」
「僕?意藤歩。君は?」
「あたしは積山彩華」
とりとめのない話をしながらしばらく歩きまわり、救護室の場所を訊いた二人は途方にくれた。
場所を訊かれた女性は、
「あぁ、救護室なら昨日なくなったんだよ。お薬とかが無くなったり大変だったみたいだからねぇ」
と教えてくれたからだ。
 
 
「はい」
彩華はお茶の缶を差し出した。
礼を言ってそれを受け取り、一口飲んだ意藤はため息をついた。
「まいったな・・・」
2人は小高い場所にあるひとけのない国道の道路わきにいた。
一度正面、はるか遠くのほうで爆煙が上がった。
車椅子のとなりにペタンと腰を下ろした彩華はふと思い出したように口を開いた。
「誰にも秘密なんだけどね、あたしのお兄ちゃんあそこにいるんだよ」
意藤はしばらく考え、
「お兄さんは自衛隊かなにかに入ってるのかい?」
彩華は首を横に振り、
「お兄ちゃんはね、デジモンテイマー」
と、答えた。意藤は微笑み、そうか、と言った。
「なら僕も誰にもないしょの秘密を教えてあげよう」
彼はコートのポケットに手を入れ、D-ギャザーを取り出し、きょとんとした目で見上げる彩華に差し出した。
「これ、デジヴァイスだよね・・。なんで?」
意藤は背もたれにもたれかかると口を開いた。
「僕の目が見えなかったころの話なんだが・・・・
 
 
病室、それもすこし広い個室にベットがあった。
意藤はそれに横たわり、酸素マスクをつけていた。
なにも見えないが外で遊ぶ子供の声や廊下の看護婦の声がよく聞こえた。
不意にドアが開き、ブーツ特有の足音が迫ってきた。
「誰ですか?」
「・・・・・・・・・・・・・・」
その人物は意藤の右腕になにか冷たいものを乗せた。
「だれですか?これはなんですか?」
意藤の再度の問いかけを無視し、その人物は口を開いた。
「意藤・・・、歩くんだね?」
「あなただれですか?看護婦を呼びますよ!?」
「君にデジヴァイスを渡すために私はここに来た。それを腕にはめれば君はテイマーとして戦うことになるだろう」
意藤は体温になじんできたデジヴァイスを投げ捨てた。
「変な冗談ですね。そもそもここは面会謝絶のはずです。出て行ってもらえますか?」
声からして中年手前くらい、その男はおもむろにこう言った。
「君が戦い続けることで君の病気が治るとしたら・・・?」
「なに・・・!?」
男は続けた。
 
 
「デジヴァイスを受け取る代償に君の目を治してやろう」
 
 
「・・・・・・それで・・?」
意藤はほとんど残っている缶を見つめながら、うながされるままに続けた。
「次の瞬間には僕は上半身を起こして辺りを見回した。・・・そう。見回したんだ。男は姿を消していたしそのデジヴァイスは文机の上にあった。・・・僕は目が見えるようになっていた」
彩華は自分の手の中のデジヴァイス   ―銀色の上に白とグレーのラインの入ったD-ギャザー   を見つめ、訊いた。
「意藤さんはデジヴァイス、つけなかったんですか?」
「まぁね。戦って誰か、何かを傷つけた結果病気が治ってもそんなもの何の価値もない、って思ったからね。・・・・・というか病気なのに戦えるわけ無いだろ?」
「そっか・・・・・、じゃあもう1つ訊いてもいい?・・・病気ってなに?」
意藤はお茶を飲み干すと笑顔になって言った。
「トップシークレットかな。・・・そろそろ帰ろうか」
 
 
その頃、
病室に残ったままの積山はギルに訊いた。
「まだ動いてはいけないのか?」
「当たり前だ。20箇所以上の切り傷と10箇所以上の骨折・・・。動こうと考えるほうがおかしいだろ」
当然そうに答えたギルに積山は携帯電話を差し出した。
「あの夜、届いたものだ」
受け取ったギルは画面に映ったメールの題名を目にした瞬間凍りついた。
『闇の能力に関する考察
生命蘇生術の発現・実行・発動条件』
「・・・それを見たとき・・・、私はそれにすがるしかなかった」
ギルは携帯電話を押し返すと訊いた。
「差出人は?誰だ・・・・。何故こんな内容のメールを送れる・・・!?」
「分からない」
積山は口を閉じ、卵をなでた。
しばらく考えていたギルは表情を険しくした。
「そのメールには『血の代償』のことが書かれてなかったな」
生命蘇生のあとに起こる体の異変を積山とギルは血の代償と呼んでいた。
積山は全身の傷がうずくのを感じながら言った。
「ああ。そのとおりだ。・・・私ははめられた、ということになるな」
積山とギルの脳裏に何人もの知り合いの顔が浮かんでは消えた。
 
「裏切り者か・・・、敵か、あきらかに敵意をもった『だれか』がいるはずだ」
 


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