ギルが窓の外をそっとのぞく。
どこからどう見ても特殊部隊にしか見えない服装の人間、4名。ヘルメットで顔は見えない。
積山も窓の外をのぞいてみる。
どこからどう見てもデジモンにしか見えない4体が銃を構える。
アグモンに近い形をしていた。
辻鷹がどうするの?と訊き、嶋川が答える。
「そっとズラかろうぜ。別にそっとじゃなくてもいいがな」
「とりあえずそっと逃げましょう。」
「じゃあ1階におりよう。裏口からほかの家に隠れながらにげればいいと思う」
とりあえず和西の案に従ってそーっと裏口から出る。
3組ばらばらに逃げたが・・・。
嶋川はすぐに見つかってしまった。
彼はつぶやく。
「なぜ見つかったんだ」
アグモンは
「・・・・・・・」
無言だ。
対峙するのは2名のテイマーらしき特殊部隊。
1人はヘルメットに銀のラインが入り、パートナーは虫の形をしていた。
ハチ型のデジモン。
「くっそ!」
炎撃刃を抜き放つ。
剣の内側に炎があがる。
「ほんとに、どうしてこんな早く見つかるんだよ?加勢する」
いつの間にか辻鷹が隣にいる。
嶋川はチラッと辻鷹を見ると言った。
「すまん。正面のやつ、頼むな」
嶋川にそう言われた瞬間辻鷹は右腰の銃を抜き、正面の銀ヘルメットに狙いを定める。
撃った。
氷の弾丸は狙い違わずライフル(みたいなもの)を撃抜き、こおりずけにする。
相手はというと辻鷹の狙いが自分だと気づいた瞬間手の銃を投げ捨て回りこむように辻鷹との間合いをつめる。
それをみた辻鷹はもう1丁を抜き、撃てなかった。
虫型のパートナーが腹部から撃ち出した巨大な針が銃を吹き飛ばす。
辻鷹に当たらなかったのはガブモンが体当たりで敵デジモンを吹き飛ばし、照準をそらしたおかげかもしれない。
相手テイマーは腰からなにか取り外すと右手で振った。
1,5メートルほどの両刃斧になる。
辻鷹はそれを狙い、少し下に向けて撃った。
嶋川は突如逃げ出した相手を見て一瞬驚いた。
しかしすぐに仲間を呼びに言ったのかもしれないと気づき後ろから追撃する。
しかし両側から銃弾が飛び、足元のコンクリートをはぜる。
罠だったか。
そのとき2メートルほどの氷の壁が嶋川とアグモンをレーザーサイトの光から隠す。
住宅地に沿ってL字型に。
向こうのほう、L字型の角のあたりに辻鷹がいて、手を振っていた。
嶋川とアグモンが走りより、家の庭を通って逃げてしまった。
コマンドドラモンに氷を溶かすよう支持した銀ヘルメットは斧をたたむため手袋をはずした。
その右手甲には、紋章があった。
和西が、辻鷹が新藤医院という病院に運び込まれたことを知ったのは辻鷹が倒れた半日後だった。
その日・・・
デビモンが積山を追いつめる。
距離をとって振り向いた積山は体勢を低くとり、断罪の槍を真横に振る。
デビモンが真っ二つになった。
すこし間隔があき、自分の状態を知ったデビモンは叫びながら消滅する。
断罪の槍の切っ先が小刻みに揺れていた。
炎撃刃を腰に下げた嶋川がかけよって肩に手を置いた。
「どうした?」
積山は槍を短くたたむとその状態で発動させた。
細身の剣状になったそれを見て積山はつぶやいた。
「なるべく考えないようにしてただけで、それでもどこかでずっと考えてたんだけど・・・ぼくたちがやっているのってなんだろうね」
積山は剣を一度振ると次のデビモンを追い始めた。
嶋川はため息をついて右手の紋様を見ながらつぶやいた。
「お前のほうが頭いいだろ?・・・おれはそんなこと考えられねぇよ」
「大変危険な状態です!新藤先生!」
新藤と呼ばれた初老の男はうなずくと全員を外に追い出した。
治療台の上で体を痙攣させる辻鷹とそばのコンピュータを大量のケーブルで接続した。
新藤はコードでパソコンと辻鷹のD-ギャザーとをつないだ。
キーボードを操作する。デスクトップから白い霧が現れ、辻鷹を包み、D-ギャザーに吸い込まれるように消えた。
新藤医師はしばらく辻鷹を見下ろした。
「やはり血なのかね・・・狙撃者君」
新藤はつぶやくと集中治療室を出て行った。辻鷹は静かに寝息を立てていた。右手の紋章はもと通りになっていた。
嶋川は3体のデビモンを一度に相手にしていた。その様子を上に隠れて見ているものがいた。ただ味方するでも敵に回るでもなく2つの影が見ていた。
嶋川もさすがに勝てないと認め、必死に逃げていた。
その様子を上から見ていたものがいた。
「まずい・・・」
アグモンはどこにいるのか見当もつかなかった。
「うわっなんだ?」
嶋川は後ろに飛びのいて隠れた。
誰かが言った。
「彼の息子が特殊能力を持っていた、と?」
「間違いない。連絡があった。我々にはなかった力だ」
「なぜ彼にそんな能力が・・・」
「まだあると確定したわけではない。しかし残り9人にも能力があるのだとすれば・・・・」
「即急に『鋼』の娘を調べろ。能力を確認したら身体検査だ。何故能力が開花したのか調べる必要がある。」
竜のような影が言った。
「早めに確認することが得策、か」
そして1人は出て行った。部下を目で見送った男は腕を組んで自分のD−ユニオンを眺めた。 竜のようなデジモンが、
「残り、闇と光の2人の消息を早めに調べなければな」
と言った。
一人が壁を背にして立っていた。その周りを囲むように6人の男が立っていた。そのうちの一人が言った。
「なぁ、金、貸してくんね?持ってるだけでいいからよ」
「そっそんな・・・」
「おいおいおいおいおいおいその辺にしといてやれょう」
「なぁーーーーーーーー!!!!!!」
「・・・いや、です」
1人が殴られ数人が体を押さえつけた。1人はただ何もせず立っていた。もう一人の立っていた1人はカバンを取ると・・・・
「あるじゃないか・・・毎月持ってこい5千!!わかったか・・・わかったか!!!」
何かつぶやく1人を蹴ると紙幣をポケットに入れ、もう1人に言った。
「なぁ、お前も殴れよ!俺の言うこと聞けねってんのか!?・・・・・・・なぁ、浩司!」
持ち上がる右手とその先にはうずくまる辻鷹が・・・・・・・・・・・
嶋川は額をアスファルトに叩きつけた。血をぬぐうと炎撃刃を引き抜いて鞘に収めた。
逃げるようにその場を後にした。
嶋川が座っていた場所はコンクリートの倉庫の壁の前、そしてそれを囲むように半円に白い砂の山が出来ていた。
嶋川は忘れようにも忘れられない光景が自分の置かれた状況と重なったことに動揺していた。
降流杖を持ったまま、和西は止まっていた。
体が動かない。
唯一、荒い呼吸によって肩が上下していた。
「・・嫌じゃ・・・・ない・・・・・」
数秒前に瞬殺したデビモンを一度も見ずに、和西は姿勢を崩した。
「怖くないぞ・・・」
彼にとって、この3日間は猛スピードで過ぎ去っていた。
戦いがまだ始まったばかりだということを彼は知らない。
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