普段のズボン、ベルトの上に白のワイシャツ姿で窓の外をただ眺めていた積山は開いた扉の方に気配を感じて振り返った。
そこに立っていた人物とデジモンを目にして彼は微笑んだ。
「お久しぶりですね」
和西は同じように笑いかけ、
「そうだな。久しぶり。元気だった?」
積山はギルと顔を見合わせ、頷いた。
「刑務所暮らしはいかがでしたか?」
「まぁ、悪くはなかったね。二ノ宮さんの昔の話も聞けたし」
和西は即答し、ベットの上に置かれたバスケットに目を止めた。
「・・・柳田くんがいろいろ教えてくれたよ。君のこと、天羽さんのこと、林未くんのこと、黒畑さんのこともね」
積山は卵をとりだすと布に包んでリュックに入れた。
和西とすれ違う寸前で立ち止まると口を開いた。
「これからしばらく再編された組織の施設で検査と監視を受けることになったよ。私もだいぶ疲れたしすこし休みたい・・・・。すぐに戻ってくるから・・・・・」
積山はデジヴァイスと断罪の槍を差し出した。
どちらもピカピカに磨かれている。
和西は自分のものとは違う形に変化したデジヴァイスを見つめた。
「浩司のものと同じ形か・・・」
彼はそれらを受け取りながら呟いた。
積山は言った。
「戻ってくるからそれまで預かっててください。・・・とくに槍はだいぶ汚れてしまった」
静かに立ち去っていく2つの後姿を見送ると和西は2つとも背中のリュックに仕舞った。
「あいつだいぶ強くなるんじゃないか?」
ゴマモンが和西を見上げて言った。
「そうかもね。かんじはすごく強くなってる気がする」
和西は感慨深げに言った。
研究所の廊下を数人が歩いていった。
「やれやれ、まさか刑務所に入れられるとは思わなかった」
所長が頭を掻いて言った。
「そうだね。でも私はうれしかった。すこしだけ・・」
二ノ宮は目を細めて見せた。
「和西くんにいろいろ話を聞いてもらって少し肩の荷が下りた気がする」
先頭を行く有川は無言で振り向いた。
神原は最後尾で首を鳴らして言う。
「あいつもなかなかリーダーの器ってワケか」
突き当たりの自動ドアをくぐり、ざっと見て100名ほどの隊員たちに迎え入れられた一行は顔を見合わせた。
有川は大声で指揮を始める。
「ただちに完全体進化プログラムを完成させろ!続けてそれの量産と―――究極体進化プログラムの研究だ。戦闘班は現場に急行して十闘神を援護だ!」
自らが信じてきた‘‘リーダー’’の復活にその場の全員が沸いた。
ビルの上から、組織の建物からシールズドラモンやワスプモンが連なって出て行くのを林未、シュリモン,時、ラブラモンが進化したドーベルモンが見ていた。
「やっと動き出したか」
口元だけだがかすかに笑みを浮かべて林未が言った。
「組織が動き出した。これからは本気で戦える。サポートも期待できるな」
時は訊いた。
「本気で戦うんですか?もし、今分かってる敵よりもさらに強い敵の存在があって、今の敵に自分の本気の力が通用しなかったら?恐怖を覚えませんか?」
林未は訊きかえした。
「要するに本気で戦うのは嫌なのか?・・・いいたいことはよく分かるんだが・・・」
不安そうな顔で頷いた時に林未は言った。
「名月のいうことはもっともかもしれないがおれは違うぞ?今本気で戦わなくて、もしそれが原因で死んだりしたら?そしたらいつ本気を出すんだ?」
滅多に見せない明るい表情で林未はシュリモンに飛び乗った。
「シュリモン、あそこ行こう。おれ達も本気で戦う。おれ達にできることがいまあるからな」
積山はギルと組織の建物の門をくぐった。
すぐにコマンドドラモンが出てきて彼の周りをガードした。
「有川さんの所へ連れて行ってくれるかい?」
「はっ」
すぐに廊下を案内され、積山は有川、二ノ宮と対面した。
積山は軽くお辞儀をした。
「どうも。お久しぶりです」
顔を上げさせた有川は渋い顔をして
「さすがに・・・、その・・・すまないね。一応体は休めた方がいいからなぁ」
口ごもった有川に一言断りを入れると二ノ宮は積山とギルの肩を叩いた。
「おつかれさま。あなたは本当はすこし休んだ方がちょうどいいのよ」
積山は表情を和らげ、頷いた。
そして口を開いた。
「和西くんに僕のデジヴァイスを預けてあります。自由に研究していただいてかまいません。あと、わからない事もいくつかあります」
・積山に蘇生術のメールを送ったのは誰か、
・なぜデジヴァイスが嶋川と積山のものだけ変化したのか
・そもそもアンノウンとはなにか
「あと・・・、卵はどうやれば孵るのか、ですね」
積山は肩をすくめて見せた。
会話をしながら歩いてきた一行は1つの扉の前で止まった。
「ここだよ」
有川はドアを開けて積山とギルを入れた。
そこはかつて柳田が軟禁されていた場所だった。
二ノ宮は積山とソファに腰掛けると言った。
「なにか欲しいものとか、とにかくなにかあったら呼んでね?わたしすぐ来るから」
その瞬間彼女の携帯電話が鳴った。前のような味気ない電子音ではなく、趣味のいい音楽だった。
「はい、二ノ宮、うん。うんわかった。それで・・・?・・・・・はい?」
表情を曇らせた。
「どうした?」
有川が訊いた。二ノ宮は難しい顔をして、積山の方を向いた。
「いま門に積山彩華、って名乗る女の子のテイマーが来てるらしいんだけど」
積山は落ち着き払って応じた。
「よく知ってますよ。通してください」
「ひさしぶりね。彩華ちゃん」
防護ヘルメットから血を流しながら倒れた隊員をよけるように歩くと彩華の正面に立った。
「二ノ宮のおねぇさんじゃないね?」
刺すような視線で二ノ宮を見上げる彩華はちらりと後ろを見た。
|