デジタルモンスター
エターナル・ログ・ストーリー

第一章




 67    第67話 「言葉」
For:
2007.12.31 Mon.
ヴァルキリモンから退化した翌日、
谷川もホークモンも極度の緊張と疲労のせいで眠り続けていた。
彼女たちとは反対に報告書の手伝いなどで徹夜の二ノ宮は自分の部屋に谷川とホークモンを寝かせていた。
 
神原の部隊も大半が同じようにダウンしたことから、究極体への進化はある程度の体力と精神力、そして“慣れ”が必要である。
研究所はそう結論付けた。
 
有川にそんな内容の報告をしてきたばかりの式河自身、それはもっともなことだと思っていた。
常識から考えてそうとうな真似をしている。
彼は究極体進化をそう考える。
しかし戦力的には一気に敵を壊滅させるに十分すぎるものだ。
 
そんなもの思いに耽っていた彼は角をこちらに曲がってくる人の気配に気がつかなかった。
「うわっ!」
柳田は思わず声を上げた。すぐに相手が誰か分かり、落ち着きを取り戻した彼は、
「危ないやん」
と一言文句を言って式河の表情を覗った。
コクワモンが柳田のズボンを引っ張ってそれを制した。
「いや、悪かった。考え事をしていてな。・・・これからなにかしにいくのか?」
式河の問いに柳田が簡単に答える。
「まぁな、ムゲンドラモンの思考回路がまだ生きとったゆぅ話やでこれから見に行こ思うてな」
そういえばムゲンドラモンはバラバラになったが消滅はしなかった。
なにか情報が聞き出せるかもしれない。
そもそも二ノ宮はそれが原因で徹夜をしていた。
「高と優美ちゃんがメガドラモン倒しに行ったけど?あいつら究極体プログラム持ってるんか?」
一瞬驚き、携帯電話を取り出した式河を見てコクワモンの目が大きくなった。
「教えてないのか?」
「しゃーないやん?今朝分かったんやし」
柳田とコクワモンが言葉を交えるのをよそに式河の携帯電話が和西につながる。
「    ・・和西くんか?今朝渡した究極体プログラムのことなんだが・・・」
 
 
 
「後にしてくれます!?」
崩れ落ちる瓦礫を飛んでよけながら和西が叫んだ。
ロップモンから進化した“プレイリモン”にまたがった黒畑が和西にとっさの提案をした。
「別々に逃げてみない!?」
「っ!  了解!分かった。僕らは右に逃げる!」
目前に迫る分かれ道。和西とシャウジンモンは瓦礫の山を右へ飛び越え、黒畑とプレイリモンは割れた道路を左へと曲がる。
蒼い機械龍・ギガドラモンが和西とシャウジンモンを追った。
「  ―ハッ!」
シャウジンモンは和西の頭上を飛び越え、壁を蹴った。
「[月牙斬]!!」
鋭利な刃がギガドラモンの腕を弾く。
衝撃に驚いたギガドラモンが少し距離をとる。
『なにをしているんだ!?』
「いま取り込んでます!何のようですか!?」
『究極体プログラムはなるべく使うな。リバウンドがひどいんだ。退化した翌日は筋肉痛と疲労で動けなくなる!』
和西は黙った。
実際には走り回り、飛び、シャウジンモンに指示を与えていたが。
「使うなって・・・・、  ― !」
ギガドラモンが両腕をこちらに向ける。
つまり・・・、砲塔の照準がシャウジンモンと和西に合う。
彼らの目が見開かれ、光る砲塔がそれに映る。
「[オリンピア]!!」
背のたけにして2メートルもない、デジモンがビルから飛び降り、その手の大剣でギガドラモンの腕を一刀両断にした。
「まかせて。究極体、思ったより悪くない」
声は黒畑のものに近い。
和西は、そのデジモンがロップモンと黒畑が進化したミネルヴァモンであることに気づいた。
髪は黒畑と同じく赤毛、しかし背に盾、右手に2メートル半はありそうな剣を持つ。
腰の後ろには黒畑が持っていた短剣が吊られていた。
「明日・・・・・」
そこまで言いかけて和西はやはりやめた。
そのかわり、
「まかせていいのか?」
と訊いた。
ミネルヴァモンは当然とでも言わんばかりに頷いた。
「まかせちゃって。あと―」
ギガドラモンの体当たりを左手だけで受け止め、続ける。
「  ―下がってたほうがいいよ?」
和西がシャウジンモンと姿を消したのを確認し、ミネルヴァモンは自分の何倍もあるギガドラモンに話しかけた。
「さぁ・・・、いい?」
ゆっくりと手を離す。
慌てた様子で離れ、威嚇するギガドラモンにゆっくりと大剣・オリンピアの剣先を向ける。
吼え声をあげ自分を噛み砕こうと迫るギガドラモン。
ミネルヴァモンはそれを見据えながらオリンピアを中腰に構える。
ギガドラモンが一際大きく吼えたとき、
オリンピアを天に突き上げ、頭上で回転させる。
「[マッドネスメリーゴーランド]!!」
渾身の力を込め、オリンピアを大地に打ち込む。
彼女を中心に土と岩石の柱が円を描いてせり上がり地を離れギガドラモンに襲い掛かる。
体を貫かれたギガドラモンを中心にそれらは巨大な円盤となって数秒回転し、爆発した。
 
 
100メートルほど離れた和西の髪にもパラパラと砂が少しかかった。
「すごい・・・」
ミネルヴァモンの攻撃力は今まで見てきた他のデジモンの攻撃とは比べ物にならなかった。
「あれが究極体・・・・」
初めて実際に目にした究極体に和西はただ圧倒されていた。
 
 
 
 
 
組織・地下実験室
 
「よし・・・・電気を!」
所長が指示をした。
大きな音がして、膨大な電力がムゲンドラモンの頭部に注がれる。
 
その場の全員が注視するなか、ムゲンドラモンの砕けた視覚センサーが赤く灯った。
「・・・・・・・・・・・!」
二ノ宮、神原が見守る中、所長が手元に設置されたマイクに向かい、口を開いた。
「私の声が聞こえるか?自分がなにか分かるか?」
『聴覚センサーに異常なし。私はムゲンドラモン』
間髪をいれず、となりのパソコンから声が流れた。
「よし・・・・、成功だ・・・」
所長が後ろの2人に頷いてみせる。そして、
「君はどこから来た?」
『デジタルワールドから』
「君はなぜここに来た?」
立て続けに行なわれた質問の答えを全員が聞き逃すまいと耳を澄ます。
 
『リアルワールドでの実験を行なうため』
 
広い室内に無感情な声が響く。
突然扉が開く音が全員を振り向かせる。
柳田・コクワモン、式河が所長たちのところへと進み出た。
「どういうことや?実験ってなんや!?」
柳田の関西弁にも動じず、ムゲンドラモンの思考回路は告げた。
『その情報にはロックがかかっている』
柳田の表情が変わる。
「どういうことや?お前の情報にロックをかけた奴がおるんか?」
『その存在の有無は否定できない』
柳田はコクワモンを振り払い、ムゲンドラモンの視覚センサーをめがねの奥の眼で睨みつけながら訊いた。
「それは・・・、誰や?」
どこまでも感情の無い声が答える。
『彼らは11体。デジタルワールド最強にして孤高の善なる騎士団』
研究員たちがざわめく。
式河と神原が同時に呟いた。
「“ロイヤルナイツ”・・・!?」
深刻な空気に、二ノ宮は不安げな表情を見せる。
所長はムゲンドラモンの思考回路に呼びかけた。
「ロイヤルナイツがお前に指示をしたのか・・・!?」
『そうだ。ロイヤルナイツがお前達が“アンノウン”と呼ぶ擬似生命体のリアルワールドでのテストにおけるそれらの護衛を命じた』
所長が机を叩いた。
拳の下には発電機の稼働スイッチがあった。
ムゲンドラモンの視覚センサーからゆっくりと消えていく赤い光から目をそらし、所長が呟いた。
「まさか・・・・・・、ロイヤルナイツが・・・・!」
神原も深刻な表情で目を瞑った。
 


Back Index Next

ホームへ

| ホーム | エターナル・ログ・ストーリー | エターナル・ログ・ストーリー  第二章 | エターナルログストーリー  第三章 | 掲示板 | 登場人物・登場デジモン | 二章 キャラ紹介 | 3章 キャラ紹介 |
| 関連資料室 |