腹の底まで響くような低音の爆発音が校舎を揺らした。
廊下を回りこんでいたわたしと神楽、クレシェモンが立っていられなくなるほどの揺れが襲い、ガラスが砕け散った。
「あっ・・・!」
『鍛え方が違うのかもしれない。』神楽は転倒せずに立ち続け、そのおかげで砕けたガラス窓の向こうの様子がよく見えた。
薄い灰色のキノコ雲がすぐ目の前に立ち上り、そこからデーモンが吐き出される。
駆け寄ってきた神楽に脇を支えてもらい、立ち上がったわたしは思わず口を開いた。
「作戦通り・・・!」
神楽、クレシェモンが頷く。
その時だった。
デーモンの背の翼が大きく開かれ、風を生む。
それを見た二ノ宮は愕然とした。
「しまった・・・!間に合わなかったか!」
黒畑と意藤はその様子を黙って見つめていた。
先に沈黙をやぶったのは黒畑だった。
「この作戦はデーモンが地面に墜落した瞬間に全方向から同時に攻撃する事で逃げ道を封じる」
意藤は目線だけ黒畑に向け、すぐに前に視線を戻しつぶやいた。
「・・・作戦の成功にはデーモンが飛行能力を失っている事が大前提・・・」
ズドモンを無力化しアサルトモンは舌打ちを漏らした。
「デーモンめ・・・。ギリギリのところで翼のリアライズを完成させたか・・・・!」
すでに腰の後ろに伸ばしていた手は狙撃用ライフルを掴みホルダーから引き抜いた。
ゴーグルの暗視装置を機動させ、ライフルのスコープを覗く。
「・・・!?」
アサルトモンはデーモンに寄り添うように飛ぶ1つの影に気がついた。
デーモンは現状に満足していた。
翼がリアライズすればこちらのものだ。
スピードさえ勝れば奴らを皆殺しに出来る。
肩を揺らせて笑っていたデーモンは次の瞬間その笑いを失う事になる。
「こんばんは」
漆黒のコートを羽織ったデジモンが右手に持ったガトリングガンの銃口を向けた。
「よい夜ですね」
引き金が引かれる。
至近距離で放たれた無数の弾丸がデーモンの翼を撃ち抜いた。
「貴様ァ・・・!何者だ!」
自分の翼を使い物にならなくしたそのデジモンを睨み殺さんとデーモンは咆えた。
アスファルトとレンガを組み合わされ表現された綺麗な、そして頑強な中庭に墜落するとデーモンは即座に火炎弾を撃ち出す。
高熱の攻撃をあっさりと見切り、よけたそのデジモンは名乗った。
「私アスタモンと申します。倒されてからも含めて以後、お見知りおきを」
恭しく下げた頭を上げると同時に右手に持っていたガトリングガンを両腕でしっかりとかまえる。
「何か分かんないけどチャンスだ」
二ノ宮が放送で校内中の仲間に告げる。
放電していたシンドゥーラモンが電撃を集中させ、そのとなりでリリモンが両腕を天に掲げた。
次に下ろしたとき、それは巨大な銃口をもつ大砲に変化していた。
一方、それまで様子を影から覗っていたアサルトモンもそこを抜け出し、ライフルとバズーカを腰の位置で固定し、グリップを掴む。
軽い引き金を引くだけだデーモンに命中するだろう。
真上から急降下してきたダルクモンが腰の剣を抜いた。
「どう?使えそう?」
わたしが手渡した武器を掴むとクレシェモンは何度か武器同士をぶつけて状態を確かめていた。
「うん、思ってたより悪くない。てっきり折れたと思ってたのにな」
両手にそれぞれを持って、何度か振り回した後2つを一体化させる。
それは弓のような形になった。
「間に合ってよかったですね」
神楽の言うとおりだ。
わざわざ探しに戻ってきたかいがあった。
ただ、嫌でもいちいち足元が安全か確かめる必要があることは面倒極まりなかったが。
クレシェモンはその場で背中に手を回し、飾り物を1つ引き抜いた。
それを弓に合わせ、引き絞る。
「よし・・、いつでもいいよ」
全員の体に緊張が走る。
張り詰めた空気を二ノ宮の号令が振るわせた。
先手を撃ったのはアスタモンだった。
至近距離から容赦ない銃弾の雨を浴びせる。
デーモンはそれを避け、右に飛んでよけた。
そこを落雷が襲う。しかしそれすらも遅かった。
連続攻撃を避け続け、限界に近づいていったデーモンの腕と地面を氷の矢が貫いた。
それを破壊しようとした瞬間、
デーモンの目前に躍り出たダルクモンが両腕に握った剣で斬りつける。
胸部を斬られたデーモンの怒りは頂点に達していた。
「おのれ!!!殺す!」
完全に冷静な視界を失ったデーモンは力ずくで矢から腕を引き抜き、両腕の腕力だけで飛び上がった。
自分を攻撃してきたデジモン全てがよく見えた。
「・・・地獄の業火を受けて逝け・・!」
デーモンが笑みを浮かべた瞬間だった。
大口径の鉄鋼弾とエネルギー弾がそれぞれまったく違う方向からデーモンの体を襲う。
眼を怒らせ、鉄鋼弾を撃った敵を認識しようとしたときだった。
体に蒼く燃え上がる鎖を高速回転させるデスメラモンが飛び掛る。
その数十メートル彼方の教室からパートナーを見守っていた和葉は頬杖をついて微笑んだ。
「ゴメンねー。全部予想通り」
「[ヒート・チェーン]!!」
豪腕が軋み、巨大な鎖がうなりを上げデーモンを叩き落とした。
すぐに体を起こしたデーモンは一瞬で全てのデジモンの攻撃を受けた。
胸に刺さった矢を炎で溶かす。
が、もはや勝ち目が無い事を悟らざるを得なかった。
しかし、彼は認めなかった。
「我輩が・・・!究極体であり七大魔王であるこの我輩がたかだか完全体ごときに・・・!!」
デジタルワールドとリアルワールドを中継する歪みが消えていく。
同時にデーモンの体は下半身から徐々に白く、脆くなっていった。
勝てなかった自分への怒りを叫び、絶叫しながらデーモンはついに消滅した。
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