その数時間後の朝、中学校崩壊のニュースは全国を駆け巡った。
デーモンとの戦いはなかなか得るものが多かったように思う。
1つは、テイマー同士が具体的にまとまることができるようになったことだ。
もう1つは、和西を押さえ込むことができたこと、積山がようやく他のテイマーと組むようになったこと。
そして、副産物として大破した中学校が少しの間休校になったこともあげられる。
「なんか疲れたね。この前の戦いは」
フローラモンは体を倒すとぼやいた。
広い公園には人けがあまりない。
昼下がりに公園に来る人など案外少ないものだ。
その端にある林は地面に芝生が引いてあり、二ノ宮、意藤・パタモン、神楽・フローラモンが半ば隠れるようにして集まっていた。
ちょうどその公園で占いをしていた和葉とフレイウィザーモンも途中から加わる。
「そりゃ疲れもするさ。相手は不完全な状態とはいえ究極体だったんだからな」
目深に被った山高帽の下のフレイウィザーモンの顔がそう言った。
「ふあ・・・・、心の準備がいりますよ」
木に寄りかかって座っていた神楽はため息をついた。
「それなんだがな」
あからさまにタイミングを見計らっていた二ノ宮が背中から下ろしたバックの中の作業に目を落とす。
「奴らは七体の魔王型デジモンで構成された究極体たちだ。とうぜんデータ量も大きい」
「ええ、だからこそそれを無視したデーモンは強烈な制約を受けることになったわね」
半分は真剣、半分はいいかげんに意藤が合いの手を入れる。
二ノ宮がいいたいことをある程度予測した和葉が言った。
「それだけのデータ量が移動すれば次にどこに魔王が現れるか分かるんじゃないですか?」
二ノ宮はほんの一瞬、これ以上ないほど憎しみのこもった表情を浮かべ、すぐに普段の表情に戻す。
「・・・その通りだ」
そして、それがいいたかったのに、と誰にも聞こえないように呟いた。
「へぇ、すごいです!」
神楽は素直な反応を見せたが、それと同時にフレイウィザーモンが脇を向く。
「じゃあ、それで先回りして罠をしかける、っていうのはどうですか?」
わたしは思い切って提案してみた。
「罠って?どんな?」
ルナモンの問いかけにすぐに二の句が告げなくなってしまう。
神楽、和葉経由で流れてきた情報を丹念に反芻しているうちに谷川さんの部屋は許容範囲を超え、圧倒的狭苦しさをかもし出していた。
「でもさ、なんで別々に集会やるんだ?」
「僕の提案です。デジモンが一度に集まるのはやはりやめておいた方がいい」
「そ、そゆこと」
積山の問いに谷川が答え、和葉が彼の背を軽く叩いた。
やりとりが終わるのを待っていた黒畑は一言ごとに指を折りながら話し始めた。
「今完全体に進化できるのはペンモン、ルナモン、フローラモン、フレイウィザーモン」
指を4本折る。
「あとファスコモンとハグルモン、カメモンか。ゴツモンとパタモンはまだだな」
「悪いね。これでもがんばってるんだけどな」
ゴツモンが後頭を掻いた。砂がすこし落ちる。
「協調性ねぇんじゃねーのー?」
ファスコモンがクッションを1つ、無残な姿に変えながら言った。
「失敬な。でもその通りかもしれんな」
黒畑は肩をすくめ、やれやれと首を振った。
和葉が口を開いた。
「でも、これだけ完全体がそろっていればリアライズが完了した魔王にもなんとか太刀打ちできると思うなぁ」
「今のうちに作戦でも考えておきましょうよ」
半ば楽しそうに神楽が提案した。
「そうと決まれば今から私が、魔王が来る事を事前に調べてやろう」
二ノ宮はノートパソコンを開くとネット回線の情報を開き、目を通しはじめた。
暗闇のなかで声がした。
「やっぱりデーモンは死んだわね」
楽しげな口調のリリスモンの声が響いた。
「だから止めたのだよ。まったく、貴重な力を無駄にしおって」
ルーチェモンは唇を噛む。
「リヴァイアモンが眠りについてしまった・・・。第七番目の魔王の席もいまや空席のまま・・・」
皺枯れ声がうなるような口調で言った。
「あら、バルバモン様が行かれるのですか?」
リリスモンが笑みを浮かべた。
「しかたなかろう。デクスの管理者はデーモンだった。いまや先兵を生み出す事すらままならん」
バルバモンは杖を突き、立ち上がった。
石と床が当たり、快い音が響く。
「貴女がいかれることもなかろう。儂が参る」
バルバモンが背を向けた時だった。
「まてよ」
ベルゼブモンが彼を呼び止めた。
「爺さんだけじゃ心配だ。オレも行くぜ。たまにはリアルワールドを駆るのも悪くねぇ」
向き直ったバルバモンの表情は硬い。
「若造、貴様立場をわきまえろ。そもそも貴様はロイヤルナイツを制する義務があるではないか」
それを聞いたとたんベルゼブモンは鼻で笑った。
「ロイヤルナイツ?さぁ?あいつら人間のガキを何十人も集めてなんかしてやがったな。ガキの御守なんざ姉貴の野朗で十分さ」
リリスモンの顔から微笑みが消えたことを気配で知りつつ、ベルゼブモンはそれまでよりかかっていた愛車、ベヒーモスにまたがった。
「先行って待ってるぜ。せいぜい速く追いつくんだな」
ベルゼブモンはバルバモンを残し、アクセルを吹かした。
バイクの走行音が急に途切れ、リアライズをはじめたのを確認してからリリスモンがあざ笑うような口調でバルバモンに言った。
「御爺様、間違っても仲たがいなどという愚かしい真似はやめてくださいね」
バルバモンは見えないリリスモンの顔を見て口を開いた。
「腹の底では仲たがいを期待しているのであろう?」
リリスモンは左手で口元を隠して笑った。
「あら、よい勘をしていらっしゃいますこと」
彼女の笑い声を背に、バルバモンはリアライズをはじめた。
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