車を降り、路地から順調に意藤のもとへ急ぐ、という積山の完璧な計画のもと、彼はファスコモンを追って走っていた。
「急がなきゃな・・・。他の奴らはまだか?」
妙な予感を胸に、彼は舌打ちした。
ゴミが散らばる細い道を曲がる。
正面にビルをはさんで火柱が消えた。
先ほどからなにか進展があるごとに多数の人間が一斉にざわめきを生んでいた。
あと数軒のビルを横切るだけで意藤のところに到着できる。
積山の背筋に緊張感がはしった。
一つめのビルを外周した時、
背の高い、痩せた人影が道を塞いでいた。
黒いコートに目深に被った帽子という組み合わせがその人影を覆い尽くす。
とっさにファスコモンを横に蹴り飛ばし、何食わぬ顔を完成させた積山にその人影は言った。
「目的のためには手段を選ばない。貴方の今の行動もそれの1つの姿といえるでしょう」
先を急ぐ積山がそんなことを黙って聞いているわけがなかった。
「じゃまだ!どけ!」
「その必要はありません。テイマーよ、そう急がずに私の話を聞きなさい」
「もういい!お前先に行け!」
自分の耳がテイマーという単語を認識した瞬間、積山はファスコモンに叫んだ。
ダンボールの山から這い出してきたファスコモンは何事か毒づきながら曲がり角へと姿を消した。
残った積山はコートの人物と正面から向き直った。
「テイマーを知っているあんたは何者だ?」
積山の問いに帽子をとったその顔は人間ではなかった。
「私はカオスモン。デジタルワールドとリアルワールドの未来のために仲間とともにやってきたのだ」
カオスモンはコートを脱ぎ捨てると口調を和らげて積山に話しかけた。
「あなた方テイマーに危害を加えるつもりはありません。むしろ逆なのです」
積山はただ立って話を聞いていた。
まちがいない。このカオスモン、かなり強いみたいだ。
やはり、さっきファスコモンを行かせたのは正解だった。
こいつにやられる気はないが・・、ファスコモンだけでも生き残ればそれでもいい。
積山は背中を流れる汗を感じながら口を開いた。
「あんたは何しに来たんだ?聞く所によればここに来るまで大変だっんじゃないのか?」
カオスモンは肩をすくめた。
「ええ、それはもう時間がかかりましたよ。それよりも、です」
こう前置きしてカオスモンは続けた。
「私はあなた方テイマーを手助けするためにやってきました」
「ご苦労な事だな。おれ達にそれだけの価値があるのか?」
カオスモンは頷いた。
「ありますとも」
積山は再度訊いた。
「あんたは何しに来たんだ?」
カオスモンは再度答えた。
「私はあなた方テイマーを手助けするためにやってきました」
「具体的には?強くでもしてくれるのか?」
半ば挑発的な積山の言葉に動じず、カオスモンはさらに突き詰めた内容の答えを返した。
「それもあります。しかし強くするだけならほっといても強くはなれます。魔王を倒す手助けをしたいのです」
積山は声を上げた。
「気にいらねぇな。なぜお前達で戦わない?」
「知るにはまだ早い」
カオスモンの冷静な声が響いた。
「話にならないな。どいてくれ。仲間が待っている」
そう言った積山はカオスモンの横を通り過ぎようとした。
心臓が高鳴ったが何も起こらず、彼は一度振り向き、カオスモンと目を合わせる。
「案外何も言わないんだな」
「ええ、話すだけのことは話しましたし。それに私の同志がすでになんとかしているでしょうから」
そう言ってカオスモンは視線を積山の向こうに向ける。
つられて振り向いた積山の視界に意藤が映った。
肩にはパタモンを乗せ、ランプを胸に抱いている。
「なんだ、大丈夫だったのか」
どちらかといえばファスコモンのほうを見ながら積山は呟いた。
「無事で何よりです。ランプモンは間に合ったようですね。よかった」
積山のとなりに立ったカオスモンは手を胸に当て意藤に向かって会釈をした。
意藤も会釈を返し、積山と向き合った。
「今バルバモンと戦っていた。・・・ランプモンとダルクモンが助けてくれなかったらとっくに死んでいたと思う・・・」
肩を落とした意藤に積山は訊いた。
「それか?ランプモンは。いったいこいつらは何だ?感覚的に逆らわないのが身のためのような気がするが・・・」
後半がすこし小声だった。
ランプの中から声が言った。
「だからお前達を手助けしに来たというのニ」
「その通りです。けして御邪魔はいたしませんよ?」
カオスモンは積山と意藤を順に見回し、言う。
「ともあれ、あなた方が魔王を倒していただければ私達も仕事が楽ですみます」
意藤もランプモンやカオスモンの大体の実力は察しがついていた。
バルバモンをいともたやすく退けたランプモンを敵にまわすのは賢い手段ではない。
「分かりました。他のテイマーにもあわせましょう」
意藤は積山に目配せした。
とりあえず様子を見ましょう。
そんな意味だった。
積山は小刻みに首を動かした。
そうするか。
大体そんな意味だった。
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