神楽と和葉が連れて来たサクヤモンの第一声はこうだった。
「ランプモン、まじめにしなさい」
「いや、もう少し」
ランプモンは体をすこしだけだし、新聞を読んでいた。
「おもしろいものダネこれは」
神楽はサクヤモンに言った。
「デジタルワールドに変な影響がなければいいんですけど」
サクヤモンは首を振った。
「その可能性はありません。大丈夫と言い切れます」
和葉はどういうことか訊こうと口を開いたがすぐにつぐんだ。
谷川と辻鷹が入ってきたからだ。
「なんかややこしいことになっているみたいですね」
谷川はサクヤモンに向けて会釈し、ランプモンをしばらく見つめ、カオスモンに目を止めた。
異様なほどピタリと目が合ったからだ。
動けなくなった谷川を無視し、ランプモンは辻鷹を指で呼んだ。
「なんですか・・?」
積山と意藤は顔を見合わせ、意藤は辻鷹の背を押した。
「デジヴァイス貸してミナ」
「はぁ・・、」
ランプモンは差し出されたデジヴァイスを受け取り、逆の手で撫でた。
「はい終わり」
「なにしたの?」
ルナモンは不審げな顔でランプモンを見上げる。
「ちょっとしたアップグレードダヨ」
ランプモンは答えた。
「まずは・・・、テイマーとしての心構えを教えてあげましょう」
「ちょっと待てよ。何様のつもりだ?」
さっそく和西がカオスモンに噛み付いた。
「特に何かになって言うわけではないが・・・。先人に話は黙って聞く心構えも必要なのです」
「あなた達はまだ仲間を失った事がないのですね。そうならないためにもお聞きなさい」
カオスモンが返し、サクヤモンが付け加える。
「テイマーとは戦うためのものではなく、サポート役として存在するものです」
カオスモンは9組のテイマーに言った。
「しかし、その関係も崩れる傾向にあります。その引き金は魔王ですが・・・、彼らとの戦いを皮切りにテイマーの定義は変わります。“テイマーとはサポートをし、さらに自ら戦うもの”だと」
「そのように定義を変える手助けをするためにワタシたちはここへ来タ。デジヴァイスを胸に当てなサイ」
それぞれが応じ、デジヴァイスを胸に当てた。
デジヴァイスが体に触れたとき、光に包まれた。
画面からデータが実体化し、それを覆うように白い霧が集まる。
その霧が消えたとき、9人の手に見たことの無いような武器が落ちた。
「無理に使う事は無い。必要なときに使いなさい」
カオスモンはそれを1つ1つ見つめ、口を開いた。
「それをつかうとき、あなたがたはこれまでのあなたがたとは変わってしまいます。・・・よく考えて使いなさい」
「どういうことだよ」
積山はたったいま出現したばかりの漆黒の武器を右手に持ってカオスモンに訊いた。
「つまりナ、自ら戦うことがどういう意味を持っているか、ということダヨ。生き物の持つ感情がむき出しにナル。それをよく考えろ、ということダ」
新聞をたたみ、ランプモンはアゴを撫でながら諭す。
「・・・・・、いまさらこんなこと言うのもなんだが・・・お前達は?何者だ?」
二ノ宮は左手の斧で肩を叩きながらカオスモン、ランプモン、サクヤモンを順に眺めた。
「ええ、いい質問ですね」
サクヤモンはすぐ近くにあったイスに腰掛けた。
「私達は、いえ、そもそもデジタルワールドには三つの勢力があるわ。ロイヤルナイツ、七大魔王、バイスタンダーの3つよ」
サクヤモンの説明の続きをカオスモンが引き継ぐ。
「我々はバイスタンダーに所属する。ロイヤルナイツと魔王の間に位置する立場でそれらの均衡を保つ役割を担っていた」
再び新聞を広げ、ランプモンが続ける。
「ところがダ、ロイヤルナイツはリアルワールドから人間を連れ込んで騎士を募り、魔王は“伝説の魔物”とやらの復活を目論んでイル。このままではデジタルワールドは崩壊すル。そこでロイヤルナイツと七大魔王を倒ス」
「そして魔王の“伝説の魔物”、及びロイヤルナイツのボス、イグドラシルを倒す。イグドラシルを倒した者は次の『世界を統べる者』として世界を治める。我々はそれを辞退し、デジタルワールドをデジモン一体一体に自治させたい」
カオスモンが言い終わるのを待ち、和葉が訊いた。
「1つ訊いてもいいですか?ロイヤルナイツが人間を連れ込んでいるとはどういうことですか?」
サクヤモンは肩をすくめて答えた。
「バイスタンダーは以前からロイヤルナイツと七大魔王を倒して来たわ。魔王は欠員なんて気にもしなかったけどロイヤルナイツは違った」
カオスモンが頷いた。
「彼らは人間の若い固体を集め、騎士団に加えた。4人全員ともまだかなり幼いが・・・、バイスタンダーのほぼ半数を仕留めている」
「そうですか・・・」
和葉はそう呟くと自分の膝の上の大剣を持ち直した。
「つまり・・・、あなたがた『バイスタンダー』と私達で手を組みたいのですか?」
意藤は品定めをするような目つきでランプモンを見た。
「簡単に言えばそういうことにナル。魔王を倒せばリアルワールドは救われ、我々は魔王に向けている要員をロイヤルナイツにまわすことが出来ル」
ランプモンは落ち着いた口調で答えた。
「ロイヤルナイツの4人は・・・、強い。でも、できる限りのことをしてこの世界に連れ戻せるよう努力するわ」
サクヤモンは立ち上がった。杖の飾りが静かな音を響かせる。
その音が止み、それからしばらく場に沈黙が流れた。
「すこし、考える時間をください」
辻鷹や神楽、谷川や二ノ宮に目配せをし、意藤はおずおずと口を開いた。
「かまいませんよ。急にこんなお話をしてしまい申し訳ありませんでした」
カオスモンは意藤の申し出に応じた。
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