「じじい、手加減してやがるな・・・」
ベルゼブモンは愛車、『ベヒーモス』の上からクレシェモンを炎で翻弄するバルバモンを見ていた。
本気、いや、いつものバルバモンの炎はこんなものではない。
しかし炎ならデーモンの炎のほうが威力的には格段に上だ。
知略をめぐらせたバルバモンの戦略的攻撃の恐ろしさをベルゼブモンは知っていた。
「頭しか能のねぇじじいはもう見飽きたぜ?」
そう呟き、ベルゼブモンはベヒーモスから降りた。
背中のショットガン、『べレンヘーナ』の片割れを抜き、弾倉を確認する。
「悪いが俺にはやることがあるのさ[ハートブレイク・ショット]!!」
異常な威力をもつ魔弾が撃ち出され、それは一瞬で長大な距離を移動しバルバモンの羽を一枚射抜いた。
弾丸の波動にクレシェモンは一瞬バランスを崩し、リリモンのそばまで退く。
「何よ今の!」
「分かりません・・。一体・・・?」
「あれは弾丸でしょう。間違いありません」
アスタモンはあごに手をやると思案顔になった。
「誰が撃ったのやら・・・」
撃たれた当人のバルバモンの口から歯軋りの音が鳴る。
「ベルゼブモン、あの小僧め・・・」
忌々しげに呻いた刹那、もう一発が口髭を直撃し、何本も風に流された。
「図に乗りおって・・・!!!」
続けざまに襲い掛かる弾丸を素早い動きでよけ、バルバモンは降下し、街に姿を消した。
和西はその様子を横目で見ながら、通常の頭で考えていた。
街に入ったとすればそこらの普通の人があぶない。
となれば一秒でも早く他の仲間と合流してバルバモンを見つけるのが先決だ。
ショットガンの銃声が聞こえる。
「あの銃・・・、相当な威力みたいだな・・・」
かすってもいないクレシェモンが飛ばされるほどの弾丸。
アスタモンやアサルトモンの弾丸のそれとは比べ物にならない威力だろう。
それにしても
「あいつらどこまで行ったんだ?」
和西はバルバモンが降りてから裕に5分は走り回っていた。
しかし誰一人見当たらない。
「どうなってるんだ・・・?」
足元の空き缶に目をやる。
“薄切りフレーク・にゃんこよろこびまくりフード”
こんなふざけた名前のキャットフードの空き缶を2度も3度も見つけるなんておかしいだろ
和西は立ち止まり、最悪の事態を予想した。
「ウェルカム。勇敢なテイマー」
和西の背後に降り立ったバルバモンは目の前のテイマーを見下ろして言った。
「気づくのが遅かったな」
背中や首筋をはじめ、体のいたるところに冷たいものを感じながら和西は言い返した。
威圧に足の感覚が奪われていく。
「あんた何者だ?」
そう訊いた和西を見下ろすバルバモンの表情が少しぶれた。
「ほう・・・。儂が怖くないのか?小僧」
「いや、怖いけどさ。どの道助かりそうも無いんで冥土の土産、ってやつだよ」
そういっておきながら和西の頭は状況打開を目指してフル回転していた。もとがもとではあるが。
「儂は七大魔王が一人、強欲のバルバモンである」
和西は挑発にならないよう気をつけながら言った。
「自分で“強欲”か。聞く所によると意藤の姉貴もお持ち帰りしようとしたんだってな」
それを聞いたバルバモンは高笑いをした。
「本当に面白いのぅ・・・。そうだ。あのテイマーは欲しい」
「本人は嫌がるぜ」
「本人?そんなもの知らぬ」
バルバモンは和西の肩に細長い指を乗せた。
「物の都合など知らぬ。儂はあれを欲しい」
和西はつばを飲み込んだ。
こいつ・・・、やべぇ・・・。
Tシャツが濡れてきたのを感じながら和西はさらに訊いた。
「七大魔王ってことは七人いるのか?」
「おぉ、まぁ今では一人、バイスタンダーに倒され、デーモンはお前達が倒した。もう一体、リヴァイアモンは眠りについてしまってな。困ったものじゃよ」
「まだあんたみたいのが4人もいるのか」
バルバモンの指を払いのけると和西はバルバモンに向き直った。
和西と視線を合わせるとバルバモンは残忍な笑みを浮かべる。
「いや、“3人”。儂を撃った小僧を倒す」
「仲わりぃな・・・」
和西はほとんど動けなくなっていた。
そんな彼を見下ろし、バルバモンはうなるように言った。
「さて、・・・大した魂じゃ・・・。欲しいのぉ・・・!」
バルバモンはそう言うやいなや、右手の指輪を和西の胸に突きつけた。
強烈な威力で和西は紙のように後ろに飛ばされ仰向けに倒れた。
その真上にバルバモンが立つ。
「お前の命は儂が貰う。背に13の刻印が現れたとき、お前は死ぬだろう。すなわち、」
バルバモンはそこまで言うと姿を消した。
残された和西の耳に、バルバモンの声が響いて届いた。
「お前は儂の手の上で生き、生涯を閉じさせられる」
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