「?」
目を開けたとき、和西は怪訝な顔をした。
「だいじょうぶか?」
「なんだ、生きてたのか」
「痛いトコない?」
積山、辻鷹、嶋川はじめ、見慣れた顔が視界を囲んでいた。
遠くからその様子を見ていた意藤は隣に立っていた壮年の医師に頭をさげた。
「ありがとうございました」
「いえ、仕事ですから」
胸に新藤とかかれたネームプレートを下げている。
「院長、検査結果でましたよ」
白衣の女医がカルテを手渡し、意藤と土井藤に軽く会釈して術部屋を出て行く。
それを見送ると新藤はそれを開いた。
「別に異常は見当たりませんね。どうして倒れたんですか?」
意藤は一瞬考え、それから答えた。
「“なにかにぶつけた”、と思います」
それを聞いた新藤はカルテにその旨を書きとめ、再度意藤に向き合った。
「ええ・・・・・、はい。よろしければ神経科とか整形で検査なさいますか?」
「別にどこも痛くないっての」
まとわりつく和葉を払いのけると和西は同じことを医師にも告げた。
「そうですか。ではなにかありましたらすぐに来てください」
おだいじに、といい残して新藤は術室を出て行った。
礼をして見送った意藤は振り向いて土井藤に会釈をした。
「お車、ありがとうございました。すぐ診てくれるよう取り計らってもくれたんでしたね」
「いえいえいえ、兄貴に言われたとおりに動いただけですから」
土井藤はそう言うと慌てて出て行った。
「本当に大丈夫なんですか?」
神楽は和西の顔をじろじろ見回し、再三にわたって訊いた。
「大丈夫だよ。大丈夫!大丈夫だから・・・」
何度もそう答え、和西は全員を見渡してすこし照れくさそうに言った。
「ありがとな」
意藤が診察代を立て替えてくれたので和西は一度は安心したが、すぐにトイレに向かった。
急ぎ足で個室に入り、鍵をかけるとシャツを脱いで愕然とした。
鋭い痛みが走り、なにかあったのかと思い確認したのだが、
彼の右胸から左脇にかけて赤黒いアザが出来ていた。
一文字に走るそれを見て和西は体を壁によりかけ、座り込んだ。
「・・・なんてことだよまったく・・・・」
和西はしばらくその場から動けなかった。
病院のそとで全員が待っていたことに気づき、和西は驚いた。
「遅かったな。本当に大丈夫か?」
二ノ宮が車によりかかって訊いた。
和西は一瞬ためらい、すぐに表情を切り替えて答えた。
「だからさ、大丈夫だって言ってるだろう?」
「はいはい。分かった、分かった」
しばらくその場で談笑をかわし、女性陣は車で、男性陣はそれぞれ、帰路についた。
とりあえず大学に寄ってから帰ることにした二ノ宮は途中でハグルモンと合流し、研究室に入った。
机の上のレポート(締め切りまでのこり数日)を脇に抱えた鞄にしまい、バルバモンと戦いに行く際脱ぎ捨てた白衣を拾い上げ、数回はたいてロッカーにしまった。
「さてと、帰るか・・・」
「ミオクル」
普段と変わりない会話が始まりかけた瞬間だった。
ハグルモンの目が機械的に動き、体が何度か回転した。
「・・・どうした?ついに壊れちまったのか?」
ハグルモンは何度か回転すると向き直り、それでも目だけを動かして二ノ宮に告げた。
「デジモンガデタ」
二ノ宮は、またか、という意味の怪訝な顔をし、すぐに鞄を机の上に放り投げた。
「どこだ?」
「ココダ」
その瞬間二ノ宮の表情が変わった。
「何・・?」
答えを待たず二ノ宮はロッカーに飛びついた。
冗談じゃない。おれの研究を邪魔されてたまるか・・・!
せっかく集めたデジタルワールドの研究資料が脳裏に浮かび、二ノ宮はロッカーから白衣を引き出した。
院生の証明書を胸ポケットに挟み込みながら詳細な位置を訊く。
「オクジョウダ」
二ノ宮は舌打ちをすると研究室を飛び出し、すぐ近くの階段を駆け上がった。すぐあとからハグルモンが追う。
とはいえ5階建ての屋上などすぐにはあがれない。
「ハグルモン!」
言うが速いか二ノ宮はハグルモンに飛び乗った。
「なんでもいい飛べ!」
「リョウカイ」
ハグルモンは要請どおりに階段の隙間を縫ってほぼ直線距離で屋上に向かう。
5階に到着した瞬間、二ノ宮はハグルモンから飛び降り、廊下を横切る。
一番端の非常階段のドアを引き剥がす勢いで開け、細い階段を駆け上り屋上にでた。
リアライズしたばかりなのだろう。付近のようすをさぐるデクスドルガモンが2体、二ノ宮とハグルモンに気づいた。
「瞬殺してやる!」
貴重な資料のことで頭がいっぱいになった二ノ宮は腰の後ろからデジヴァイスをとるとその手にもう片方の手をそえた。
「ハグルモン進化!」
二ノ宮の頭上を飛び越たハグルモンが光り輝き、金属が軋む音とともにその光が吸い込まれるように消えた。
「 プテラノモン 」
蒼い戦闘機の姿をしたデジモンが姿を現し、高速で飛び回って2体のデクスドルガモンを狙い打つ。
一体は狙い撃ちにされ、それと同時にもう一体がプテラノモンに飛び掛った。
「[サイドワインダー]!」
目の前に躍り出たデクスドルガモンに間髪をいれずプテラノモンの必殺技が直撃した。
体勢を立て直し、二ノ宮のとなりに着地したプテラノモンは誰に言うでも無くつぶやいた。
「あれぐらい朝飯前だ」
「やれやれ、一時はどうなるかと思った」
二ノ宮はプテラノモンの装甲を軽く叩き、肩をすくめた。
そのとき、
金属の階段を靴が叩く音がし、驚愕した二ノ宮とプテラノモンは振り向いた。
そこには屋上の物音を聞きつけて上がってきた壮年の男が立っていた。
「え、江原・・・、教授・・・」
二ノ宮のデジタルネットワーク研究室の担当教授がそこに立っていた。
彼の目はプテラノモンから二ノ宮の顔、そしてその右手に握られたデジヴァイスへと移り続けていった。
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