デジタルモンスター
エターナル・ログ・ストーリー

第二章



 25    No−25「I wish you every happiness」
更新日時:
2008.01.29 Tue.
江原教授は二ノ宮とハグルモンを研究所に招きいれた。
以外にもなにもいわずにハグルモンを受け入れたように見える教授の表情を覗いながら二ノ宮は言われるままにすすめられたイスに腰掛ける。
「おどろいたよ。君がネットの中の電子生命体について書かれた論文を提出したときには・・・、まさかと思って気にもかけなかったが・・・・」
江原教授は壁際の机に備え付けられたコーヒーメーカーからカップにコーヒーを入れた。
「先生」
江原の、砂糖はいるかね、という声に被さって二ノ宮は口を開いた。
「ハグルモンのことは・・・、誰にも言わないでもらえますか・・・。今こいつと離れ離れになるわけにはいかないんです」
教授は黙ってカップを差し出した。
二ノ宮は動かず、ハグルモンが代わりにそれを受け取る。
江原教授は膝をおるとハグルモンを軽く手の甲で叩いてみた。
「ふむ・・・、なかなか硬い・・・。しかし・・・、驚いたな」
立ち上がり、二ノ宮とハグルモンの向かいにイスを引き寄せ、彼もそこへ腰掛けた。
「もちろん君の心中は察する。もはや凡人が手出しの効かない世界だろう?私がそれを邪魔することはない。安心しなさい」
普段と変わらない様子でコーヒーを飲む江原教授を見上げ、二ノ宮は礼を言って自分も一口飲んだ。
「この前だったかな・・・、君が私に“知り合いのコンピュータエンジニアを紹介してくれないか”、と頼んだことがあったかな」
「はい」
江原は身を乗り出し、訊いた。
「それもデジモンと何か関係しているのかね?」
二ノ宮はまたも、普段どおりの好奇心に身を任せる教授から目を離し、どこまで教えたものか迷った。
「えぇ、まぁ、そうです。データの解析やプログラムの作成を頼みました」
「そうかい。うん、そうか。よし、じゃあがんばりたまえよ!」
江原教授は二ノ宮の肩を叩き、ハグルモンの頭頂部を叩き、研究室を後にした。
残された二ノ宮はとたんに姿勢を崩し、コーヒーを机に置く。
「どうなるかと思った・・・」
ずっと黙っていたハグルモンが口内のスピーカーを起動した。
「・・・マダ、ドウナルカ・・・」
二ノ宮は怪訝な顔で振り向き、すぐに同意した。
立ち上がり、白衣を脱ぐ。
「・・・帰るか」
ロッカーに向かう途中、彼はつかれきった声でそう呟いた。
 
 
ソファに寄りかかって寝ていた和西は目を開いた。
体を起こすとすぐにカメモンが水を差し出し、訊く。
「気分はどうだい?」
「別にこれといって悪いところはどこもないんだが・・・」
そう言うと彼は無意識に胸を見下ろした。
シャツの隙間からアザが見える。
ペンで印をつけておいたがそれに変化はない。
「いや、目覚しい悪化はしてないみたいだけど・・・、これを見ると少なからず気分が悪くなるよ」
和西は水を受け取り、一息に飲み干した。
「寝ててもしかたない、ってことか。どの道長くないんだ。出かけよう、カメモン」
そう言って部屋を出た瞬間、和西とカメモンは後退した。
それに続いてカオスモンが室内に入る。
「具合はいかがですか?」
「・・・悪くはないな。なんの用だ?カオスモン」
和西は若干睨みつけの混じった視線を注ぐカメモンをカオスモンの視界から追いやり、ソファに戻って腰掛けた。
「で?いい加減聞かせてくれよ。バイスタンダーとやらが何をしたいのか」
「それは以前お話したでしょう」
和西は手を組むとカオスモンを見上げる。
「助けてくれても良かったんじゃないのか?」
カオスモンはまったく動じずに彼を見返す。
「以前お話したとおりです。我々はあなた方を強くするためのお手伝いをしにきたのです。単なるサポート役をするために来たのではありません」
和西はため息をつくと背をソファに沈み込ませた。
「つれねぇなぁ・・・。なら何故あんたらはこの世界にいる?」
カオスモンはやはり微動だしない。しかし視線だけがすこし宙をさまよい、彼は口を開いた。
「正直な所・・・、私のリアライズは完全とはいえません。それはもちろんランプモンやサクヤモンにもいえることです。とても七大魔王など手に負えないでしょう。しかしそんな我々でもあなた方の盾になることくらいなら出来ます」
和西の表情がすこしぶれた。
「どうしておれたちにそこまで賭けられる?」
「それだけの価値があるからに他なりません。あなた方は騎士団の対として存在する“テイマー”の集団です。だから我々はあなた方に加担します」
カオスモンの口調はいっさい変わらなかったがその眼はまっすぐに和西を見ていた。
「・・・デジタルワールドは我々の世界です。自分の世界を守りたい。それだけではだめでしょうか」
「おれたちだって自分の世界を守りたくて戦ってる。それだけで行動して悪いとは思わない」
和西は立ち上がると右手を差し出した。
「あらためて。よろしく」
カオスモンも右手を差し出した。和西の手がそれにそえられる。
「よろしくおねがいします」
「協力協定成立だな」
カメモンがイスを持ってきて2人の手に自分の手をそえ、言った。
「ええ。バイスタンダーとテイマーが一部、完全に協力した決定的瞬間だ」
照れながら和西が言った。
 
 
 
順調にテイマーとの仲を取り持つことに成功したカオスモンは隠れ家の廃ビルに戻ってきた。
彼はまず最初に何者かが入った形跡がないかを入念に確認し、すぐに誰かが侵入したことを把握した。
しかも出て行った形跡が見当たらない。
カオスモンは両腕の武器がすぐに使えるよう準備し、全感覚神経を動員して気配を探った。
「サクヤモンか・・?」
壁にもたれかかる細い体躯を目にし、カオスモンはそっと声をかける。
「・・・カオスモン?」
よく聞き取れない小声でサクヤモンが訊いた。
そのとなりにひざまずいたカオスモンは聞きなれないうれしそうな声に驚きながら彼女に訊いた。
「ベルゼブモンを探しに行ったきり帰ってこないと思って心配したが・・・、よかった。ありがとう」
バイスタンダーの中では生きて帰った者に対してありがとう、という暗黙の了解があった。カオスモンは今でもいいことだ、と思っていたが。
サクヤモンは細い息だったが、カオスモンを見上げて言った。
「ごめんなさい、ベルゼブモンは見つけたけどとても歯が立たなくて・・・。取り逃がしたわ・・・」
「いや、だいぶやつが出てくるのを遅らせる事が出来ていた。結果的にバルバモンも倒せた」
バルバモンが倒れたことを聞いた瞬間、サクヤモンは安堵の表情を浮かべた。
「よかった。ランプモンは?」
「あぁ、彼なら意藤さんのところにいる。“ベルゼブモンがいつ出てきてもいいように”らしいのだが・・・」
サクヤモンはそう、とだけ言うとうつむいた。
すでに半身が消滅し、残骸が砕けていた。
カオスモンは最初からそれを見ても何も言わなかったが、サクヤモンのとなりに座った。
「だいぶ無理をしたみたいだな」
「私はあなたやランプモンほど無茶苦茶なデジモンじゃないわ」
サクヤモンはそう言うと同時に別のことを考えていた。
 
 
数日前、
サクヤモンは神楽の家にいた。
神楽の部屋は広かったが、それでも彼女とサクヤモン、フローラモン、それに“占った結果偶然道であった”という和葉とフレイウィザーモンが入ると若干、狭く感じるのはしかたなかった。
「素敵な床ね。似たようなものがデジタルワールドにもあるわ」
サクヤモンは畳を触るとはずんだ声で言った。
「なんといっても“日本の心”ですからね」
和葉はそう言うとお茶を一口飲む。
そのとなりでフレイウィザーモンはそれにならい、目を白黒させた。
「乾燥させた植物みたいな味だな・・・」
「慣れれば大好きになるって」
フローラモンは笑顔でそう言い、神楽はサクヤモンにも湯呑を差し出した。
「そういえばこれも“日本の心”かもしれませんね」
それを受け取り、サクヤモンは不思議そうな顔を見せた。
「いくつ心があるの?」
神楽は自分のお茶をいれながら、そうですねぇ、と思案顔になった。
「思いつきなんですけど・・・、多分数え切れないくらい心はあると思いますよ」
「そうなの?」
「いえ、本当に数え切れなかったんです。いくつか思い浮かべてみてもどれもそのひとの心になりそうだなぁ、と思って」
お茶を一息に飲み干し、身震いをするとフレイウィザーモンはとなりの和葉の顔を覗き込んだ。
「お前で言う・・・占いにつかうカードか?」
「フレイウィザーモンは火かな?」
そのやりとりを聞いていた神楽は笑顔でサクヤモンに言った。
「なんか・・、心ってステキですね」
 
 
「おねがいがあるの・・、神楽達には、『私はデジタルワールドに帰った』って伝えて」
カオスモンはそれを聞き、目を伏せた。
サクヤモンは続ける。
「私がいなくなることがあの子達にとって重荷になるのはある意味私にとってうれしいこと・・・。だけどこれからあの子達は“能力”の開花が始まる・・・。余計なことはしたくない・・・」
こんなにも弱気な声でしゃべるサクヤモンを見たのは初めてだった。
カオスモンはサクヤモンの肩に手を置いた。
「必ず伝える。“帰った”と」
サクヤモンはカオスモンを見上げ、言った。
「“彼らに幸福な未来がありますように”」
カオスモンはそのまま動かなかった。
 
彼の手は宙に浮いたまま小刻みに揺れていた。
 
 


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