張り詰めた空気が立ちこめていた。
全員が周囲を見渡し、リリスモンの攻撃にそなえる。
緊張の連続に辟易した積山が呻くように呟いた。
「ったく・・・、なんなんだよ・・!瞬間移動なんて反則だろ・・・」
それを押し黙らせ、和葉が険しい表情で
「このまま無駄に時間を過ごすわけにはいきませんね」
谷川もその言葉に同意した。
「あぁ、でも作戦たてようにもどこで聞いてるか分かったものじゃないだろう?」
これらのやり取りを聞いていた二ノ宮のうんざりした声がやり取りそのものを打ち切った。
「じゃあ、こうしよう。2、3人で分かれて逃げ隠れしながらメールで作戦会議をする。どうだ?」
全員が黙り、顔を見合わせた。
「・・よし、そうしよう。だがメールだと遅い。チャットを使った方がいいかもしれないな」
「分かったわ。賛成。いい考えね」
用心深く周囲を確認し、二ノ宮、積山、神楽達が離れていった。
じっと様子を伺い、続いて谷川、黒畑、式河達が駆けていく。
残されたわたしと意藤、和葉、エンジェウーモン、クレシェモン、フレイウィザーモンはカオスモンを伴い走り出した。
手近な倉庫に身を寄せたとき、意藤の携帯電話にメールの着信があった。
〔異常はありませんか? 神楽〕
〔なし 谷川〕
〔ありません 意藤〕
〔適度に移動しながら作戦をたてましょう 谷〕
〔了解 瞬間移動はどう対処しますか 意〕
クレシェモンと目が合い、わたしは出来るだけ安心させるような笑みを浮かべたつもりだった。
〔気になるのはシンドゥーラモンの電撃をかわしたことです 谷〕
〔正面きっての攻撃はほぼ無効ですね 意〕
〔やはりさっきみたいにだまし討ちその他で攻める、でしょうか? 神〕
〔そうですね。なかなか難しいかもしれませんが 意〕
〔なんだか2年前に戻ったみたいですね。不謹慎かもしれませんが少し楽しいです 神〕
このとき、和葉はほっとした表情を浮かべた。
今思い直してみればその表情は安堵とも戦闘に直面する高揚とも違うものだったのかもしれない。
〔そうですね。では・・・、具体的な案を考えましょう 谷〕
長大な煙突の根本にリリスモンは横たわっていた。
ときたま呻き、そのたびに右手を押さえる。
やがて立ち上がった彼女の右腕は完全に修復されていた。
その表面に映りこんだ彼女の唇が動く。
「おのれ・・・」
「そこまでだ」
金属光沢を放つガトリングガンを構えたアスタモンと、黒塗りの闇の槍を持った積山とがリリスモンを睨みつける。
それを視界に捉えた瞬間、リリスモンは冷笑を浮かべた。
「まずは1つめ・・・!」
彼女の体が動いた刹那、その空間を散弾銃が撃ち抜く。
「[サプライズアタック]おおぅ、惜しい」
撃ち殻を投げ捨て、アサルトモンが、さらに鋼鉄の手斧を背負った二ノ宮が立ちあがった。
〔はじめるぜ! 積〕
〔了解だ!ミスるなよ! ニ〕
アスタモンのガトリング砲が無数の弾丸を撒き散らし、その一瞬のすきをついてアサルトモンが高威力の鉄鋼弾を撃ち込んだ。
受け流しきれず、リリスモンの体が飛ばされる。
〔1・アスタモン、アサルトモンが奇襲をかけ、リリスモンを誘導する 意〕
つぎつぎと銃声が響いては消えを繰り返し、それらをかわしまくるリリスモンは自然とインセキモン・ワイズモンの待ち受ける倉庫に方向を変えた。
「あとすこしッ!!!」
アサルトモンは渾身の力でバズーカライフルの引き金を引く。
腕が砲ごとはねあがり、硝煙につつまれる。
その反動が仇となり、弾丸は右にそれた。
リリスモンが予定移動位置を外れた瞬間、
「[フラウ・カノン]!!」
必殺のエネルギー波がアスファルトに覆われた大地に炸裂し、爆発、誘爆を起こす。
「さて・・・、どうかな?」
テイマーのもとへ舞い戻ったリリモンはエンジェウーモンの上の意藤に訊いた。
「ええ、完璧ね」
「よかった!」
意藤の言葉を聞いた瞬間、リリモンと神楽が手を打ち合う。
〔アスタモン・アサルトモンの援護、バックアップをリリモン、エンジェウーモンが行なう 谷〕
「[フォーリンスター]!!」
「[パンドーラ・ダイアログ]!!」
リリスモンの思考を無意味な情報が襲い、動きが鈍る。
それを巨大な岩石が衝突した。
〔2 インセキモンとワイズモンがリリスモンをシンドゥーラモン、デスメラモンのもとへ送る 神〕
「よし・・・きたぞ・・!」
右手に盾を装着した谷川は剣を背負った和葉を抱きしめ、出来うる限りの低い体勢をとった。
それを十分に確認し、シンドゥーラモンは翼を広げる。
「今戦わずして何時戦う・・!」
全身全霊の電撃が足元の大きな貯水槽を襲った。
異常な電撃がシンドゥーラモンとリリスモンを包み込み、水泡が舞う。
猛スピードでシンドゥーラモンが離脱した瞬間、デスメラモンの火炎弾が直撃した。
大爆発が起こり、高熱の水蒸気が上がる。
〔3 シンドゥーラモンが貯水槽の水を分散させ、さらに化学変化をおこさせる。そこにリリスモンのみを残した状態でデスメラモンが高温の火炎で攻撃、水蒸気爆発と化学爆発を同時におこさせる。それにより雲隠れをはかる。 嶋川〕
爆炎から離脱し、リリスモンは必死に敵を探した。
しかし一体も見当たらない。
リリスモンが歯がゆさを感じたときだった。
クレシェモンがその視界に姿を現したのは。
同時にその背後にエンジェウーモンが。
リリスモンは両方を見つめ、やがてクレシェモンに目をとめた。
その時。
「ずいぶん息が上がってるわね。さっきは倒されかけたけど・・・。こんどはあたしが勝ちそうだね」
クレシェモンの挑発が広い敷地に響いた。
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