「あっ、気がついた!」
カリストがうっすらと目を開けたのに気づき、積山彩華が声を上げた。
しばらく視線を宙に漂わせていたカリストは驚いて身を起こそうとする。
と同時に手かせに体を止められた。
「っ!」
力づくで引き剥がそうとし、痛みに顔をしかめた彼女は再びベッドに体を沈めた。
「やっぱりな。お前のことだ。手かせは必要だったな」
ベッドの端に腰掛けていたイオがぼそっと呟く。
「イオ・・・!?なんだこれ!」
「まず落ち着けカリスト。まずおとなしくしているよう誓えるか?」
イオは横目で和西、積山兄妹、辻鷹、柳田、二ノ宮を順に見る。
その視線を目で追っていたカリストはふっと体の力を抜いた。
「・・・お前がおとなしくしろというなら」
聞いた瞬間イオの顔の緊張が若干解けた。
「そうか、・・・もういい、はずしてやってくれ」
体の自由を取り戻したカリストはゆっくりと身を起こし、頭に巻かれた包帯を触る。
「どういうつもりだい?」
「まずオレの話を聞け、どうやらオレとお前はイグドラシルに見限られたようだ」
冗談と思いたかったらしく、カリストの顔に笑みが浮かんだ。
しかし一瞬で払拭される。
「そうか・・・、デュナスモンか・・!」
あっというまに深刻な空気を漂わせ始めたカリストは横目でテイマーを見て、口を開いた。
「なんであたし達を助けたんだい?」
「いくつか聞きたいことがあるんだ」
カリストの問いに辻鷹が答える。
彼が話を切り出すと思っていなかった他の4人のうち3人はすこし驚きを表にした。
「なんだ?オレ達はもう死んだに近い。物によっては答えてやる」
そう言ってイオは向き直る。
和西と柳田は顔を見合わせ、頷いた。
「デジタルワールドは今どうなっている?」
「バイスタンダーがかなり討伐されロイヤルナイツが残党狩りを行なっている」
「なるほど・・・、では貴方達はなぜこの世界に?」
積山の問いにカリストが答えた。
「あんた達を始末するためさ。イグドラシルに命令されて来た。ある計画とやらの邪魔になる可能性があるからだそうだ」
「ずいぶん素直ね」
二ノ宮が油断ない目で二人を見る。
「デュナスモンと名乗る騎士があらわれたはずだ。彼は他の騎士を監督する立場にある。彼がカリストを攻撃し、オレも消すといった以上、かならず彼は“自分の任務”を遂行するだろうからな」
イオもカリストもまったく視線を動かさない。
一度頷き、柳田が身を乗り出す。
「リアルワールドに来たムゲンドラモンを知ってるか?」
イオは黙って首を振った。
横に。
柳田は怪訝な顔をした。
「嘘や」
「知らない。ムゲンドラモンという種は知っているが」
丸イスの足を蹴り、柳田はくるりくるりと回転した後、数秒間天井を仰いだ。
「本当に知らんの?」
「全然」
イオが即答する。
そのまましばらく、沈黙が保たれた。
痺れを切らし、辻鷹が質問を替える。
「じゃあ、なんで僕たちは始末されなきゃならないんだい?」
「計画に支障がでるからだよ。あんたらは邪魔だそうだ」
カリストがさらっと答えを言い並べる。
「誰の?」
「イグドラシルの計画さ」
カメラを通して様子を見守っていた他の4人と5体はそれぞれに黙って成り行きを見ていた。
画面には淡々と質問に答えるイオとカリストの様子が映し出されている。
「ちょっと簡単に答えすぎじゃないか?」
アグモンが三袋目のお煎餅に手を伸ばしながら呟いた。
食べすぎだよ、とアグモンを耳で制しながらロップモンも首をかしげる。
「そうだよね、なんだか信用性にかけるというか・・・」
「いや、そうでもないかもしれないな」
なにかがあった場合すぐに出られるようにしていた林未が呟いた。
「どうやら他のロイヤルナイツに見切られるというのはよほどのことらしい。それに積山が戦ったデュナスモンの実力も考えればそれはまず間違いない」
ソファに体を沈み込ませ成り行きを見守っていた嶋川も心中で合点した。
積山、ギルに加え完全体のウィルドエンジェモンと融合して進化するカオスデュークモンの強さは他とは一線を隔したものだった。
そのカオスデュークモンと互角に戦ったデュナスモンの実力の高さは確かな驚きだった。
その時だった。
画面の中の和西が手で招いていた。
「どうした?」
嶋川、谷川と続き、部屋に控えていた残りのメンバーが室内に入った。
「なんや聞いてへんかったんか?」
柳田が背後の鞄を軽く叩く。中のカメラが音をたてて倒れた。
「もともとデジタルワールドとリアルワールドには結局、いくつかの勢力があっただろ?」
「ロイヤルナイツにバイスタンダー、魔王の軍団、それに十人のテイマー」
「ご名答」
和西の問いに谷川が指を折って答え、積山が頷いた。
「4つは結局互いに影響を与えて均整をとってたんでしょ?」
数日前の説明を思い浮かべながら辻鷹が首をひねる。
「なるほど」
それまで黙って聞いていた林未が口を開いた。
「ロイヤルナイツの主とやらが何かをたくらんでいると見て考えれば・・・、他の勢力を目障りに思ったんだろう。だから騎士をおれ達のところへよこした、というところか」
座りなおしたイオの眼が彼を見据える。
「・・そのとおりだ。オレ達4人はイグドラシルに言われるままにこの世界に来た」
「それがまさかこんなことになるなんて・・・」
カリストの視線は自分の膝の上をさまよっていたが、両手は腰布を握り締めていた。
「なんで!?どうしてだよ!・・・なんで・・?」
叫んだカリストをなだめるイオを横目に積山は和西に訊いた。
「どうされますか?」
身動きひとつせず、和西は答えた。
「ぼくはデジタルワールドに行く」
その言葉を聞いた瞬間その場の全員が顔を上げた。
一斉に注がれた視線にひるむことなく和西は続ける。
「知りたいだけだよ。なんで父さん達は戦ってきたのか、なんで僕たちは戦うことになったのか。そのイグドラシルってやつが何をする気なのか」
一息にそういい切った彼は深呼吸をして全員の顔を順に見回した。
積山、 ギル 、裁
辻鷹、ガブモン
嶋川、アグモン
谷川、ホークモン
二ノ宮、ファンビーモン
柳田、コクワモン
黒畑、ロップモン
積山、クダモン
林未、コテモン
それからイオ、カリスト。
最後にゴマモンと向かい合い、和西は再び言った。
「僕はデジタルワールドに行く」
|