エターナル・ログ・ストーリー

第三章
無名のテイマー
 
クラヴィス



 13    Episode...13 [哀傷=Wound]
更新日時:
2008.05.24 Sat.
一本の桜がまさに咲き乱れていた。
鮮やかな緑のなかにあるその桜は遠くからでもよく見える。
すでに10メートルの距離まで近づいていた林未はその下にいた人物に手を振り返した。
「早いな」
「普通すこし前に待ち合わせ場所に来ると思いますけど」
名月とラブラモンがほぼ同時に立ち上がった。
「さて・・」
林未はその場に座るとコテモンもその隣に腰を下ろす。
名月、ラブラモンもそれにならった。
しばらくの間、沈黙が流れた。
時折吹き抜ける風の音がやけに大きく聞こえていた名月はおずおずと口を開く。
「どうでした・・・?」
同じ事を考えていたらしい林未は即答した。
「おれたちはデジタルワールドに行く」
林未の言葉を聞いてなにか言おうと口を動かしたはいいが、名月は結局なにも言えず押し黙った。
自分のとなりでうつむいてしまった名月を見遣り、林未は付け足す。
「おれは・・・、行ってくる。必ず帰る。・・・・約束するから――」
身を乗り出した彼は爆音につられその方向へと顔を向けた。
ついさっきまで自分がいた病院の上空でなにかが撃ち落される様がはっきりと見えた。
「あ・・・」
それがなにか一瞬で理解したコテモンが気の抜けた声を出す。
林未は嫌な予感を抱いたが口にはしなかった。
「健助・・・さん、行くんでしょう?」
すがるような目で自分を見上げる名月から再び目をそらし、林未は首を横に振った。
同時にコテモンが目を伏せる。
健助は・・・、あそこに行く気だ・・・。
しかし、名月も彼の癖については知っていたらしかった。
「行ってらっしゃい」
そう言われても林未は動こうとはしなかった。
「・・・おれは・・、お前との約束を破り続けだな・・」
ようやく体を動かした林未は名月の肩に手をやり、彼女の目を見据えた。
「すぐに帰ってくるから待っていてくれ。・・・すまない」
名月が頷いたのを見ると林未はすこし笑顔を見せ、身を反して丘を駆け下りていった。
残された名月は何気なく視線を落とし、ラブラモンと目が合って微笑んだ。
「大丈夫。すぐ帰ってくるよね!」
 
 
 
「うぉおおおおおりゃああああああああ!!!」
嶋川・アグモンの進化したウォーグレイモンが声を張り上げ、デクスドルグレモンの群れに飛び込む。
幾度と重ねた戦闘での経験と数え切れないほどの鍛錬の末、ウォーグレイモンの能力は飛躍的に“進化”していた。
凄まじい速さで斬りつけ、一度に6体ものデクスドルグレモンを倒すとその次の瞬間には次の相手に斬りかかる。
「キリがねぇ・・!」
苦々しい表情で言葉を吐き出したウォーグレイモンは目の前の2体を斬り捨て、空を仰いだ。
まるで星の出た空を白黒反転させたような世界が彼の目に映る。
空にまばらに散らばるそれらすべてが完全体のデジモンかと思うと嫌気がさした。
舌打ちを漏らすとウォーグレイモンは次の相手に飛び掛った。
デクスドルグレモンが2体、異様なまでに巨大、長大な体を振り回して応戦する。
横薙ぎに2体を倒した瞬間、その間際に振り下ろされた尾がウォーグレイモンの体に叩きつけられた。
想定外の打撃によろめいたウォーグレイモンの背後に三体のデクスドルグレモンが一斉に襲い掛かる。
一瞬遅れて反応したウォーグレイモンは身をよじるようにして炎撃刃を振りかぶった。
しかし間に合わない。
「っくそ・・・!」
声を絞り出した瞬間だった。
「動くな!!!!」
ヴァルキリモンとメルクリモンが同時に2体のデクスドルグレモンを倒す。
その周囲にいた数体のデクスドルグレモンを立て続けに消滅させるとヴァルキリモンはウォーグレイモンの背後に立ってボウガンを連射しながら怒鳴った。
「バカ!また死ぬ気か!」
「すまん」
素直にそう言ったウォーグレイモンを横目で見てヴァルキリモンは一言、言った。
「謝るヒマがあったら自分の身くらい自分で守りな」
苦笑しながらウォーグレイモンは両腕を地面に突き立てた。
太い火柱が幾本もウォーグレイモンの周囲に立ち並び、巨大な火球を形作る。
「[ガイア・フォース]!!!!」
叫び声を上げ、ウォーグレイモンは天に掲げた腕を振り下ろした。
灼熱の一撃が空を覆う群れの中心に激突し、跡形も無く焼き尽くした。
「なめんなよ?もう大丈夫だ。自分の身くらい自分で守れる」
そう言って次の相手を見据えるウォーグレイモンの瞳には強い気が渦巻いているように見えた。
「そう、だね」
ヴァルキリモンはやや軽く頷いた。
「大丈夫だ。こいつはもう心配ない」
メルクリモンはそう言って短剣“アステカ”を投げた。
まっすぐに飛んでいったそれは3体のデクスドルグレモンを貫いてアスファルトに刺さる。
それを引き抜きながらメルクリモンはふと顔を上げた。
視線のさきに丘が見えた。
緑色の塊のなかに一つだけ、鮮やかなピンクが目をひく。
「・・・すまない」
そう呟いてメルクリモンは振り向きざまにデクスドルグレモンを斬り裂いた。
 
 
 
和西は戦場と化した街を見て呆然と立っていることしか出来なかった。
とても他の仲間のように戦う気にはなれなかった。
めちゃくちゃに壊れ、足元に無造作に転がった看板を見つめ、和西は呟いた。
「なんだか・・・、急に怖くなってきた・・・」
大剣を軽々と振るい敵を討つウォーグレイモンや俊足で確実に敵を仕留めるメルクリモン。
圧倒的な攻撃力を見せるカオスデュークモンや精密な攻撃を繰り出すメタルガルルモン。
ついにはタイガーヴェスパモンが自分の部隊を率いて参戦した。
その様子を目にした和西は動けなかった。
「なにをしているんだ?」
不意に声がかかった。
振り返った和西をイオが見ていた。
イオは和西の横に立つと“戦場”を見渡した。
「仲間が戦っているのになぜお前は戦わない?」
訊きながらイオはジャケットの右胸にかけられたプロトコルを握った。
それは鈍い光を放ち、その光もろともイオをまばゆい光が包み込む。
「オレは行く。仲間だけを戦わせはしない」
アルファモンは和西をその場に残し、見る間に戦場に飛び込んでデクスドルグレモンをまとめて倒した。
「リーダーってのはな。頭だけ使ってりゃいいってもんじゃない」
アルファモンは離れた所から和西に向かい合った。
背中を見せたアルファモンに数十体のデクスドルグレモンが襲い掛かる。
それには目もくれず、アルファモンは右手を水平に上げた。
次の瞬間周囲のデクスドルグレモンが消滅し、白銀の粉が舞い散った。
光の剣を右手に携えたアルファモンは目だけで和西を見据える。
「分かったな?」
 
「ああ」
和西は穏やかな表情で頷き、デジヴァイスをポケットから取り出した。
慣れた手つきで右腕にはめるとデジヴァイスには金のラインが浮き上がり、手の甲には蒼い光が走り紋様が浮き上がった。
「よし・・・、ゴマモン、行くぞ!」
「久しぶりだな!」
デジヴァイスにプログラムカードを入れる。
和西はゆっくりと目を閉じた。
足元から水が湧き上がり、激流が立ち上がった。
髪があおられ、冷たい水が全身を駆け上がるような感覚が彼を包み込む。
「ゴマモン進化!!!!」
 
 
「      ネプトゥーンモン        」
 


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