「全員参加じゃないか・・・!」
メタルガルルモンは一瞬できた時間に周囲を見渡した。
十人のテイマーと4人のロイヤルナイツ、究極体14体を中心に組織の部隊が入り乱れ、乱闘を繰り広げていた。
今まで彼が戦った中で、敵味方が入り乱れてよい結果が生まれたことは無かった。
・・・少なくとも命があっただけ良かったとは思うが。
背中に装備されたミサイルポッドから誘導ミサイルをばら撒きながらメタルガルルモンはカオスデュークモンににじり寄った。
「ねえ、まずいんじゃないかな!?」
カオスデュークモンはしばらく無言で攻撃を続け、数体のデクスドルグレモンを倒した。
「大丈夫だと思いますよ」
カオスデュークモンに意外な返事を聞かされ、メタルガルルモンは押し黙った。
「心配ない」
そう呟いてカオスデュークモンは盾を持ち上げて軽くうつむき、眼を閉じた。
その様子を見逃さなかったヴァルキリモンはウォーグレイモンとメルクリモンに合図を送り、メルクリモンはタイガーヴェスパモンのもとへ急いだ。
カオスデュークモンは顔を上げ、黒い翼に覆われた空を見据えた。
「[ジュディッカ・プリズン]」
猛烈な衝撃波がデクスドルグレモンの群れを襲った。
全身全霊の攻撃が一定時間闇の柱を形作り、カオスデュークモンの周囲を砂の山が囲んだ。
「これで・・・、少しは落ち着くでしょう・・・」
膝をついて顔を上げたカオスデュークモンの肩をメタルガルルモンが支えた。
「君は本当に・・・、よくやるよ。自分のことを考えないのかい?」
「少しでも早く終わらせたいですからね」
再び眼を閉じ、カオスデュークモンが言った。
その時、一瞬二体を大きな影が覆った。
「な・・・・?」
巨大な翼を持った騎士が一台の軍用車両を抱えて飛び去る。
その組織の車両には“本部車両”とペイントされていた。
「しまった・・・!式河参謀!」
タイガーヴェスパモンが慌てて後を追い、それを追い抜いてライジンモンが騎士を追った。
「デュナスモンだ・・・!」
クレニアムモンが呻くように言う。
比較的素早く動くことが出来るアルファモン、デュークモンが他の者に続き、残った2体のうち、ドゥフトモンがカオスデュークモンとネプトゥーンモンを交互に見て説明した。
「ロイヤルナイツの一角、デュナスモンです。でもなにを考えているのか・・・」
ネプトゥーンモンはしばらく思案をしていたが、やがて近くを通りがかったダークドラモンを呼び止めた。
「あの車両に誰か乗っている・・、ということですか?」
「ええ!式河さんが乗っている可能性があるんです!ただ・・・はっきりした情報が・・・、ない」
一応そうは言ったものの、彼は確信している様子だった。
目で示し合わせ、ネプトゥーンモン達も後に続く。
前回の戦闘で大破した学校の門を通過した瞬間、ライジンモンとタイガーヴェスパモンは奇妙な感覚に襲われ動きを止めた。
「何・・・?」
「気をつけろ・・!来た!!」
注意を促していたライジンモンは急降下攻撃を仕掛けるデュナスモンの一撃を受け流し、即座に殴りつけた。
「・・・!?」
一撃を見舞ったはずのライジンモンは右腕に力が加わるのを感じ眼を見開いた。
「甘いな、ライジンモン」
自分と相手の腕の下からデュナスモンが言った。
苛立ちの声を上げてデュナスモンを蹴り飛ばしたライジンモンは呻くように言う。
「話が違う・・![ボルティック・サンダー]!!」
「フ・・」
追撃を嘲笑し、デュナスモンは校舎の屋上まで飛び上がった。
「世界が変わる様をその目に・・・、待っていたまえ」
その時、ネプトゥーンモンたちが追いつき、十闘神と4人のロイヤルナイツがデュナスモンを見上げた。
「どういうことだ!?」
アルファモンが大声で訊いた。
デュナスモンは足元に倒れていた人間を脇に抱えるとかつての仲間を見下ろす。
「もはや貴様の知ったことではない。クレニアムモン!ドゥフトモン!お前達は粛清の対象から外れている」
「だからどうしたというんだ?」
「お断りします。私達はイオに従います!」
デュナスモンはやや間をおいて呟いた。
「残念だな。お前達は・・・、倒してしまうには惜しかったのだが。お前達もだ。テイマー」
一瞬でデュナスモンの眼前まで距離を詰めたメルクリモンは刀を構え、言った。
「奇遇だな。俺もさ」
目にも止まらぬ抜刀一閃がデュナスモンの鎧をかすめ、装飾を抉り取る。
メルクリモンに続いて迫り来る敵を見渡し、首を横に振った。
屋上への出口の真上で静止するとデュナスモンは空いていた右腕を胸に当てた。
次の瞬間デュナスモンの周囲がデジタル粒子に覆われ、崩れ去った。
「!?ゲートか!」
ウォーグレイモンはデュナスモンを逃すまいと右腕の“ドラモンキラー”を投げつけた。
「まずい・・!式河が!」
ウォーグレイモンの追撃とほぼ同時にライジンモンが呻くように言い、突進した。
「柳田くん!」
「将!」
タイガーヴェスパモンやネプトゥーンモンが同時に呼び止めようとした瞬間、
開いたゲートにデュナスモン、ドラモンキラー、そしてライジンモンが吸い込まれていった。
「おい!柳田!!」
メルクリモンはゲートに駆け寄ると中を覗き込んだ。
一瞬、ライジンモンが“穴”の奥に見える空に向かって落ちていく様子が見えた。
メルクリモンの脇を次々とイオ、カリスト、ガニメデ、エウロパが飛び込んでいく。
「くっ・・・・」
メルクリモンの視界に桜が浮かび、消えた。
「すぐに戻る・・!」
そう呟くとメルクリモンは自らゲートに飛び込んだ。
「林未!」
ウォーグレイモンが叫んだ瞬間、彼の真上からデクスドルグレモンが襲い掛かった。
「邪魔だ!」
デクスドルグレモンを叩き斬ったウォーグレイモンの目の前でゲートから無数のデクスドルグレモンが飛び出す。
「ここから来ていたようですね・・!!」
次から次へとデクスドルグレモンを倒しながらカオスデュークモンは呟いた。
「このままではキリがありません!デジタルワールドへ行って出所を潰さないと!」
手際よく敵を葬りながらカオスデュークモンの背後に立ったウォーグレイモンは言った。
「お前はもう少し慎重派だと思っていたが」
一瞬で無数のデクスドルグレモンを倒したカオスデュークモンは背を向けたまま答えた。
「そうですか?私はいつも考えたとおりのことを口にしているだけですが」
「ああ、そうだったな。それに・・、一理ある」
ウォーグレイモンは一閃、大剣を横に薙ぎ、ゲート周囲のデクスドルグレモンを壊滅させてヴァルキリモンに怒鳴った。
「谷川!来るか!?」
「どこへだってついてくよ!」
ヴァルキリモンは“ファンリルソード”で目の前に群がったデクスドルグレモンを薙ぎ払うとウォーグレイモンの後を追ってゲートに飛び込んだ。
「よし、やってやろうじゃないか!」
メタルガルルモンはタイガーヴェスパモン、スレイプモンと頷きあい、ヴァルキリモンに続く。
残ってデクスドルグレモンを倒し続けていたネプトゥーンモンは目立った敵がいなくなったときを見計らってミネルヴァモンの隣を通り過ぎ際に言った。
「無理に戦うことはない」
「え・・?」
驚きを露わにしてミネルヴァモンは振り向いた。
ゲートを見据えたネプトゥーンモンを見つめ、ミネルヴァモンはその背中を叩く。
「私は自分の意思で戦ってるよ?ロップモンだってそう。でも和西くんは?」
ネプトゥーンモンから答えは返ってこなかった。
ミネルヴァモンは少し困ったようなそぶりをして見せ、ゆっくりとゲートに歩み寄り、身を投じた。
その後姿が見えなくなっても目をそらす事の無かったネプトゥーンモンの隣に着地したカオスデュークモンは並んでゲートの前に立って訊いた。
「どうかされましたか?」
ネプトゥーンモンはしばらく沈黙を続け、ようやく口を開いた。
「一つ・・・頼んでもいいかな」
「なんでしょうか」
ネプトゥーンモンとカオスデュークモンは二言、三言言葉を交わすと同時にゲートに飛び込んだ。
大量の白い砂の山には見向きもせずにゲートまで走りよった組織の一団はすぐに持ってきた装置を広げ、戦闘要員はデクスドルグレモンの迎撃を始めた。
指示を下す所長は戦闘部隊を率いてきた神原と顔を見合わせ、ゲートを見つめた。
「まだ我々にできることは山のようにある・・・!」
「ああ、そうだな」
険しい表情で見下ろす二人をあざ笑うようにゲートがゆっくりと閉じていった。
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