エターナル・ログ・ストーリー

第三章
無名のテイマー
 
クラヴィス



 18    Episode...18 [騎士=Chivalry]
更新日時:
2008.06.28 Sat.
街に着地した和西たちはすぐに多数のデジモンに取り囲まれた。
「肩の紋章、ブレイブナイツですか?」
「いかにも」
ヴァジラモンの問いかけに団長が答えた。
「敵、じゃないんだね?」
一応和西が小声で訊く。
「ええ。彼はソートシティの市長、ヴァジラモンです」
ヴァジラモンはブレイブナイツ一人一人に会釈をし、それから和西たちに握手を求めた。
「ご無事で何よりです。お疲れでしょう。今夜はわれらが街でゆっくりとお休みください」
「あ、えっと、ありがとうございます」
ヴァジラモンの体の大きさにすこし圧倒されながら和西は代表で礼を言った。
 
 
先頭に立って街を案内するヴァジラモンはガニメデを隣に歩調を合わせて歩いていた。
すぐ後ろに続いていた柳田とコクワモン、和西とゴマモンは2人の会話を聞くともなしに聞いていた。
「今日はどこが災害に襲われた?」
「ポート荒原だ。丸ごとひっくり返った」
「そうか・・。近いな」
ヴァジラモンは後ろから見ても明らかに肩を落とした。
「あいかわらずあんたは心配性だな」
ガニメデがぼそっと呟く。
そんな彼の反応にヴァジラモンは顔を上げた。
「しかたない。太刀打ちできるものが相手、というわけではない」
 
ヴァジラモンとガニメデはそれ以降一言も喋らず、宿まで案内したヴァジラモンは調査隊を見送ると言ってそこで別れた。
四つのベッドが等間隔に並び、大きな窓が扉と真逆にあり、それはベランダに続いている。
コンクリートのような材質の壁に木の一枚板のような床で作られたシンプルで飾り気のない部屋だ。
ブレイブナイツの騎士が5、7人ほどの人数で部屋に入っていくのを物珍しさと驚きの入り混じった表情で見送っていた和西は周囲を見回した。
扉があと2つ、開いている。
「じゃあ、おやすみ」
「おやすみ!」
二ノ宮と彩華がそのうちの一つに入る。
ほどなく扉が再び開き、二人がエウロパの手を掴んだ。
「・・・・・」
おやすみ、の一言とともに3人の姿が扉の奥に消える。
しばらく考えて和西がふと気がついた。
「あっ、そうか。そうだよね」
とっくに奥のベッドに上がり、壁に寄りかかっていた林未はつまらなさそうに窓の外に目をやった。
「いつの間にあいつらは仲良くなったんだ?」
イオが不思議そうな顔で手前のベットに倒れこみ、仰向けになって手足を投げ出した。
両腿に巻かれたホルダーから拳銃が見える。
それを横目で見ながら和西はイオのとなりのベットに腰を下ろす。
「いや、仲いいとかそういうんじゃなくてさ、・・・」
和西はそれに続く言葉を途中で飲み込み、黙ってイオの返答を待った。
「?・・ああ、オレたちは基本的には一塊で行動してたからな」
組んだ腕の上に頭をのせ、イオはガニメデを見た。
「お互いを知っておくのはいいことだと思うしな。とりあえず・・・、ガニメデの話でもしようか?」
それまでベランダで夜風にあたっていた柳田が即座に反応を示した。
「ええな、聞かせて!」
「まったく遠慮とかそういうのないわけ?」
ゴマモンが聞こえにくいよう調整した声で言った。
その間にガニメデ本人が柳田の脇を通り過ぎ、ベランダに出て行ってしまった。
ガニメデの動きを目で――、糸目なのでどう見ていたかは分からないが――、追っていたイオはベットの上にあぐらをかいて座った。
「気にしないでくれ。あまり話をしたがらない。怒ってるわけじゃないんだ」
そう付け足してイオは話をはじめた。
「オレがガニメデに会ったのはカリストと会って何日かたったころだった」
 
イオはそのときのことを鮮明に覚えていた。
彼はたいていのことは鮮明に覚えているが、仲間に会った日のことほど鮮明に覚えている事柄はなかった。
 
その日、イオはケガを負っていたカリストとともにブレイブナイツの騎士たちに紛れて移動していた。
デジタルワールドに来て最初に拾われて以来いっしょにいるそのナイトモンは騎士団の中でも一・二を争う実力者だ。
騎士団をまとめる団長はナイトモン。
他の団員とは違い、目の覚めるような赤いマントを羽織り、鎧はバラと盾の紋章が飾る。
イオは平気で仲間を見捨てるその団長が嫌いだった。
足を引きずるカリストを背負って移動することもあり、やっと街が見えたころにはイオの体力も限界に近づいていた。
ずっと泣きじゃくっていたカリストは目の前に広がる街を見てやっと泣くのを止めた。
「よし、“金色”。ソートシティだ。“紅髪”の手当てをしてもらおう」
イオを拾ってくれたナイトモンが歩きながら足元の二人に告げる。
それを聞いたとたんにイオの表情が明るくなった。
「本当ですか!?よかった!」
街に入ってからすこしの間、イオの表情は変わらなかったが、しだいに笑みが消えていった。
建物のあちこちが崩れ、焼けていた。
道路にはあちこちにクレーターが目立ち、大きな建物はほとんどが途中からなくなり、その境目が黒く焦げている。
カリストはイオの背中で不安と恐怖の入り混じった表情をうかべ、すぐに顔をうずめた。
大体同じような感想を持ったのだろう。 新入りだと紹介されたナイトモンがイオの隣を歩くナイトモンに話しかけた。
「どうしたんでしょうか・・・。なにかあったんでしょうか」
「それはそうだろうな」
質問を投げかけられたナイトモンはイオがはじめてあったときからいつも変わらない口調で答えた。
しばらく進むと街の中央に設けられた広場に何体かデジモンが集まっていた。
威勢のよい掛け声にあわせて手の武器を振るう。
なにか訓練をしているようだった。
それまで話を聞こうにもすぐに隠れてしまう住民ばかりだったため、その時の団長は一番前で剣に合わせて掛け声をかけるデジモンに声をかけた。
「この街の様子はいったいどうしたのかね?」
その場にいるデジモンのリーダー格らしい、体格のいいデジモンは驚いて手を止めた。
「これは・・、ブレイブナイツの騎士殿でしたか!私はヴァジラモン。ソートシティへよく来てくださいました!!」
「それで、なにがあったのかね?」
団長の再度になる質問にヴァジラモンが答える。
「実はつい・・10日ほど前のことでしょうか、“メタルエンパイア”が追放したデジモンがわが街を破壊しているのです」
「なるほど。市長はどうした?」
イオの隣で黙って話を聞いていたナイトモンが訊ねた。
「街でも腕の立つもの達を何人か連れてメタルエンパイアへ抗議しに行かれましたが・・。帰ってきません」
ヴァジラモンは剣を鞘に戻すとほぼ同時にカリストに気づいた。
「そちらの方は怪我をしているじゃないですか!?すぐに案内させます。   ガニメデ!!ガニメデはいるか!?」
『ガニメデ』と呼ばれたのは蒼い髪の少年だった。簡素な服に身を包む彼はイオやカリストより少しだけ年長に見える。
ガニメデはヴァジラモンの所までやってくると友好的とは言いがたい目つきでイオ、それからカリストを見た。
「ガニメデ。治療所へご案内しなさい」
「ああ、分かった」
頷いたガニメデはついてくるように言うとくるりと背を向け、歩き出した。
「私がついていきます、団長。  行くぞ」
背後に立っていた新入りのナイトモンを引きつれ、ナイトモンはイオ、カリスト、そしてガニメデに続いた。
一番最後尾を歩いていたナイトモンが口を開いた。
「先輩、ガニメデくんってもしかして・・・」
「恐らくはイオやカリストと同じ種族だろうな」
前を行く3人に聞こえる事がないよう気を使いながらナイトモンが答える。
そういい終えた瞬間だった。
なにか気配を感じたナイトモンは立ち止まり、少し遠くなりつつあった3人を呼び戻す。
「どうかしたんですか?」
自分の目の前で警戒しはじめた先輩を見てナイトモンが驚いた。
「地響きだ。なにか来る ―――走れッ!!」
背後の新入りの背中を突き飛ばし、開いたもう片方の手で腰の剣を抜く。
その剣は突如出現し、喰らいついてきたメタルティラノモンの強顎を目前で受け止める。
髪を逆立てるほどの咆哮をあげ、メタルティラノモンが全体重・全圧力を加えた。
圧倒され立ちすくむしかなかった他の4人にナイトモンが叫ぶ。
「なにをしている!行け!!」
「は、はい!!」
ナイトモンはガニメデとイオを肩に、カリストを両腕の中に乗せるともと来た道を走り出した。
それを見届けナイトモンは剣を突き上げる。
メタルティラノモンの顎を覆っていたアーマーが大きな音を立てて落ちた。
 
「この一撃で終わらせる」
 
強烈に地面を蹴り、ナイトモンの体がメタルティラノモンの頭上に躍り出た。
体を大きくひねり、威力を増した斬撃がメタルティラノモンの体を縦に切り結ぶ。
その数メートル背後に着地したナイトモンは背後をうかがい、危険がないかを確かめると剣を横に振った。
すぐにメタルティラノモンの脇を走り抜ける。
(あの新米だけでは不安だ)
その瞬間、ナイトモンの体が後ろから押さえ込まれた。
尋常ならない力に驚いたナイトモンは首だけをなんとか回して自分を潰しにかかっている相手を見た。
メタルティラノモンが再生していた。
しかも以前よりも機械で覆われている割合が多い。
 
そのときのナイトモンは知らなかった。しかしこのメタルティラノモンは現在、『メタルティラノモンX』と呼ばれている。
 
「何故再生する・・・!?」
ナイトモンの脳裏にさっき聞いたばかりのヴァジラモンの話が浮かび上がった。
『実はつい・・10日ほど前のことでしょうか、“メタルエンパイア”が追放したデジモンがわが街を破壊しているのです』
(メタルエンパイアは機械帝国として知られその科学力でデジモンの改造にも着手している。こいつはその一環としての実験体か)
ナイトモンは出来うる限り腕を伸ばし、背の大剣を抜く。
「お前のような奴もいるということを即急に報告しなければな」
そう言ってナイトモンはメタルティラノモンを真下から見据えた。
 
 
3人人間を抱えた状態でナイトモンは走り続けていた。
「大変だ・・!団長やみんなに早く知らせないと!」
口を開くとそればかりをうわごとのように呟く。
そのナイトモンに一瞬影が被さった。
「タマシイヲクワセロ」
「・・・!」
機械で出来た死神のような禍々しい姿のデジモンがナイトモンの背後に現れる。
ナイトモンはとっさにイオとガニメデを振り落とし、カリストを下ろすと同時に3人に覆いかぶさった。
「[ソウルプレデター]」
「ぐわぁあああああぁ!!!」
顔面を斬りつけられ、ナイトモンはその威力に十数メートルほど吹き飛ばされ倒れた。
動かないナイトモンから視線をイオたちに移し、“メタルファントモン”はエネルギーで形作られた大鎌を振り上げた。
表情は、無い。
横薙ぎに容赦なく振り捌かれた大鎌が次の瞬間にはエンクスの体を斬り裂くその刹那。
怯えきって声すら出ないカリストの目にメタルファントモンの前に立ちふさがるナイトモンが映る。
腰の剣を抜いたナイトモンがその鎌を剣の一振りで受け止める。
強烈な反動と衝突音が辺りを包み込んだ。
折れた刀身が宙を舞い、かなり離れた場所の廃墟に直撃して打ち砕いた。
背の大剣を抜き、横薙ぎに振ってメタルファントモンを後ろに退かせたナイトモンは兜の額を触った。
横長の切れ込みが入っている。
辛うじて鎧の斬りつけられた部分だけがウィルスに侵され、赤い傷のようなラインが生まれていた。
少なくとも先輩か団長達が来てくれるまで3人を守りきる事は出来そうだ。
自分の腕前がもっと良いものだったなら。
ナイトモンはそこまで考えてそれを振り払った。
「お前を倒して先輩に一人前として認めてもらう」
ナイトモンは剣を振り上げ、渾身の力をこめて振り下ろした。
「[ザ・デュエル]!!」
大地に撃ち込まれた衝撃がメタルファントモンを次々と襲う。
攻撃自体には反応を示さずメタルファントモンはナイトモンに襲い掛かった。
鎌を振り上げ、宙に浮いているからこそできるスピードで間合いを詰める。
死に物狂いでその下側に回りこんだナイトモンは剣を振り上げた。
メタルファントモンのマントをかすめ、その内部の何かに剣が受け止められる。
驚くナイトモンの目の前で剣を受け止めていたメタルファントモンの右腕が持ち上がった。
振り上げられたその右腕に剣を持っていかれ、ナイトモンは一瞬バランスを崩した。
その隙をついてメタルファントモンの鎌がナイトモンのがら空きの胴体を狙う。
ナイトモンはとっさに両腕を手首で組んで突き出した。
鎌を根元で受け止める。
 
騎士団での修行のなかで叩き込まれた技の一つだった。
 
腕を覆う鎧が鎌のウィルスに侵されていくのを感じ、ナイトモンはメタルファントモンを蹴飛ばして間合いを得る。
と同時に顔を上げた彼は自分の剣が空を切裂きながら落下してくるのに気づいた。
反射的に前に跳ぶ。
上手く剣を空中で掴み、振り上げメタルファントモンの頭上まで一気に迫る。
「[ベルセルクソード]!!!!!!!!」
強烈な斬撃を受け、メタルファントモンが斬り裂かれる。
次の瞬間エネルギーを放出しながら0と1に分解され消滅した。
 
初めての実戦でもある激戦を生き残り、ナイトモンはその場に倒れた。
戦いに勝って疲れきったナイトモンを追いついてきたナイトモンが起こす。
「・・・見事だったぞ」
 
イオ、カリスト、ガニメデは茫然と地面に座っていることしか出来なかった。
やがてイオは立ち上がり、おぼつかない足取りで2体のナイトモンの横に立った。
どう声をかけていいか分からなかったイオは自分を拾ってくれたナイトモンの腰袋が光っているのを見つけ、やっと口を開いた。
「それは・・?」
「・・、これか・・?」
ナイトモンは腰袋の留め金を外すとそれをイオの鼻先まで持ち上げてよく見せた。
「さっきのメタルティラノモンを倒したときに残っていた。恐らくはメタルエンパイアで開発されたものだろう」
全体的に赤を基調とした色に光り輝く球体が2筋の光の帯で十字に包まれている。
その中に寄り添うように7つの球体があった。
 
後にこのナイトモンやイオ自身、カリスト達が取り込むプログラム、X抗体。
これはそのプロトタイプだった。
 
ナイトモンはそれを布に包んで腰袋に戻した。
「時を見て団長に報告しよう」
イオは同感だった。
直感的だったが・・、あの団長にこれを渡すことがいい結末に繋がる気配がしなかった。
自分とほとんど同じくらいの体格を持ち上げ、ナイトモンはカリストを背負ってついてくるようイオに言いつけた。
それでも動こうとしないイオを見下ろしてナイトモンはもう一度カリストを背負うよう言う。
イオはナイトモンを見上げてようやく口を開いた。
「オレもあんたに習えばそのナイトモンくらい強くなれるか・・?」
ナイトモンはしばらく黙ってイオを見据えた。
そして答える。
「お前しだいだな」
イオははっきりと頷く。
「ならオレに教えてくれ。弟子になる」
ナイトモンは背を向けて歩き出すとガニメデを立ち上がらせ、歩かせながら振り向いた。
「考えておく」
それを聞いてイオは大きく頷き、返事をした。
すぐにカリストを背負ってナイトモンの後に続く。
 
 
 
その後4日ほどかけてメタルエンパイアの追放者を殲滅したブレイブナイツはソートシティを出て旅に戻ることになった。
残った住民をまとめていたヴァジラモンはソートシティの市長として彼らを見送った。
自分がじきじきにイグドラシルに呼ばれていた団長はガニメデがその細身の体で体術を使い生き残ってきたことを知らされ、ガニメデを連れて行きたいと考えていたらしい。
ヴァジラモンはすぐにそれに応じ、怪我の介抱をしているうちにイオ、カリストと仲がよくなっていたガニメデもすぐに受け入れた。
 
 
 
 
「じゃあさ、その赤いラインのナイトモンって・・」
和西の仮想をイオが肯定した。
「ああ、ムードゥリーのことだ。ちなみにそのときメタルティラノモンを倒したのが今の団長だ。あの時のX抗体を取り込んで今の姿になっている」
柳田は気分よさそうな顔で和西を見た。
「ええ話やったな」
「・・。そうだね」
林未が寝てしまったのであとで聞かせてやろうとコテモンは全身を動員して会話を記憶していった。
ガニメデはベランダから戻るとコンセントで充電していたコクワモンのコードをまたいでベットに横たわる。
「つまらない事は言ってないだろうな。イオ」
「全部聞いていただろう?別にそのまま言っただけさ」
ガニメデはふんと鼻を鳴らすと向こうを向いてしまった。
同時に、寝た、とゴマモンは思っていた。
イオはガニメデの背中を眺め、枕に横顔をうずめた。
「今日はもう遅い。疲れただろう。早く寝よう」
和西と柳田は顔を見合わせた。
たしかに全身疲れきって、イオの話に今まで押さえ込まれていた眠気が猛威を振るっている。
和西は手早くベットにもぐりこむと目を閉じた。
「おやすみ  」
 
そういい終わるか終わらないかのうちに彼は眠りに落ちていた。
 


PAST TOP NEXT


| ホーム | エターナル・ログ・ストーリー | エターナル・ログ・ストーリー  第二章 | エターナルログストーリー  第三章 | 掲示板 | 登場人物・登場デジモン | 二章 キャラ紹介 | 3章 キャラ紹介 |
| 関連資料室 |


メールはこちらまで。